20話 初めての魔物
初めて見る異形の魔物。 これが魔物ってやつなのか?
遠くから見ると人に見えなくもないが、近くで見ると目が人のそれじゃない。
緑の混じった茶色い肌に大きな目、身長は子供くらいだ。
そいつらが棍棒や、ナイフを持って俺の前に姿を現した。
……グルルルルッ
3体 ……いや5体か。
「おい! 魔物だ!」
俺は、そう叫ぶと初級火魔法の火球を、近くに接近してきた魔物に放った。 俺は防御力が無いので、接近されると厄介だ。
魔物は火球を盾で防ぐと、さらに俺に迫ってくる。 ……初級魔法は効かないか!?
魔物が盾を前面に俺の懐に飛び込み、昆棒を振りかざす。咄嗟に俺は中級火魔法 炎弾丸を魔物の頭部にお見舞いした。
倒したか? これであと、4体だ!
俺が2匹目の魔物と対峙していると、カマクラの中からパーラが飛び出してきた。
「ゴブリン!? ごめん 遅れた! 後は任せて!」
パーラはそう言うと、腰の細剣を抜き、残りの4体のゴブリンを、熟練された剣捌きで華麗に葬っていった。
「ハァ! そこ!! 弱すぎる!」
パーラの細剣捌きは、見事という他なかった。ほんの数秒で4体のゴブリンは絶命し、地面に横たわっていた。
「助かったよ パーラ! 今襲ってきた魔物はゴブリンっていうのか?」
「そうよ」
5体の魔物の撃退が完了すると、パーラは魔物から何かを取り出しているような動きをしているので聞いてみる事にした。
「魔物の心臓部には魔結晶という魔素の結晶があるのよ。これを冒険者組合に持っていけばお金に換えてくれるわ」
「おぉ……これがお金になるのか?」
「あと、ゴブリンだと牙ね これを持って行くとゴブリン討伐の証拠になるから持って行った方がいいわね」
これって、ゲームだと剥ぎ取りってやつだよな?
「でも、俺……武器もナイフも持ってないぞ」
「ここは、私に任せて。 次の街、鉱山の街ユグドラは鍛冶屋とか武器屋が多いから見ていくといいわ」
「武器か、最低でもナイフは必要だよな」
リリムはというと……熟睡しているようだ。結局起きてこなかった。パーラがいて良かったよ。
ついに魔物との初遭遇。 俺の戦績はゴブリン一体という事になり、それ以降は、魔物が現れる事も無く、無事朝を迎える事が出来たのだった。
翌朝になり、食事を済ませた俺達一行を乗せた竜車は、ユグドラへと向けて出発した。
竜車に乗って2日目、酔い止めのおかげで順調にユグドラに近づいている。この辺からの道は山へ向かって上り坂になっている。ユグドラは高山地帯にあるので、山を登って行かなければならない。ユグドラまではエルスハイムから竜車で3日と聞いているので、明日にはユグドラに到着する予定だ。
俺達は竜車の後部にある客席に座り、外を眺めたり談笑したりして過ごしている。
――――――
竜車が発車して2時間程経った頃、昼にはまだちょっと早い時間にそれは起こった。
地竜の『グルォォゥ……!!』という声の直後、乗っていた竜車が横転し、俺達は竜車の外へと投げ出されてしまったのだ。
「何!? うぁあああああああああああああああ!!」
「「きゃあああああああああああああああああああ!!」」
投げ出された俺が周囲を確認してみると、リリムは気を失っている……。パーラは膝をついて立ち上がろうとしている。パーラは大丈夫だろう。
そして俺はというと……。
竜車に下半身を挟まれ動けない状態だった!!
ヤバイ……このままでは体力が削られて行く!
俺の体力は30程度しかないのだ。
急いでステータスを確認する。
俺は練習の成果で羊皮紙が無くても、頭の中にステータスを出力出来るようになっていた。
名前 アリマ・ミノル
推奨階層レベル 0
攻撃力 15
防御力 0
体力 10
敏捷 15
魔力 1370/5000
神力 679/5000
拡張ステータス
耐性 無し
特殊能力 無し
祝福 女神の祝福
加護 絶対防御不能(呪)
やはり下がってる。もう体力が10しか残っていない。
しかし、投げ出された原因は何なのだろう?
そう思い、竜車の前方を覗き見ると、身長2メートルはありそうな巨大な黒色のゴブリンがブロードソードを片手に仁王立ちになっていた。
「何で……こんな所にゴブリンロードがいるのよ!?」
パーラが信じられない物を見たという顔で叫んだ。
「ゴブ?……魔神の匂いがプンプンすると思ったら、3匹も見つけたゴブよ」
「ゴブリンロード?」
「ゴブリン最強の王、魔王の眷属よ!」
「強いのか?」
「相手が悪いわ……」
「ゴブゥ……お前ら、この辺りで魔神プリステラを見なかったかゴブ?」
「……いや見ていない」
「困ったゴブ……捕まえて来いと言われているゴブが、お前らのせいで見失ったゴブな」
「何を言っている?」
「そうだゴブゥ、代わりにお前達が連れて来るゴブよ。 名案ゴブな。 それまで、この魔神は預かっておくゴブブ」
ゴブリンロードは倒れているリリムに手を伸ばした。
「くっ……待て!リリムを離せ!」
「魔王の手下め!喰らいなさい!」
パーラがゴブリンロードに斬りかかるが、歯が立たないようで攻撃は跳ね返されてしまった。
「目障りゴブ……」
次の瞬間、ゴブリンロードのブロードソードの攻撃が一閃、俺とパーラを襲った。
「ぐぁあああ!!」
「キャアアア!!」
「白竜峠で待っているゴブブ……」
ゴブリンロードはそう言うと、気絶したリリムを脇に抱え、この場から去って行った。
「……リ…リム……」
俺は今のゴブリンロードの一撃が致命傷となり、大量出血大サービスで死にかけていた……。
いつもお読み下さりありがとうございます。
明日は連続2話投稿します。