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19話 竜車の旅

 翌日の朝、1階の食堂に顔を出すと、パーラが『で……どうだった?』って聞いてくるので、何の事か問い詰めたら宿はガラガラで空き部屋がいっぱいあったそうだった。


「もう…… お膳立てまでしてあげたのに…… 何も無かったの?」


「う…… パーラぁ」


(ボクって魅力ないのかな…… やっぱり男の人はオッパイが大きい人がいいのかな……)


「リリムも大変ね……」


 え? 何もないですよ? でも興奮して誘惑に負けそうになってリリムの可愛い寝顔にドキっとした事は秘密だ。


 食堂で軽く食事を済ませ、部屋で出立の準備をしていると、パーラが完全装備でやって来た。


 何故か露出の高い服の上にこれまた露出の多い鎧を着込んでいる。狩りにでも行くのだろうか?


 鎧を着ている理由を聞くと、『あんた達じゃ不安だから護衛として付いて行くわ』だそうだ。


 パーラは剣士でもあり、前衛は任せてと言って左脇に差した細剣レイピアの柄を軽く握りしめていた。


 確かに旅に出るにしても俺達の装備といったら市民の服って感じなので、とても旅人には見えない。

 竜車は一人分追加になりそうだ。


「でも、店の方はいいのか?」

「店の方は店長に任せてあるから大丈夫よ」


 なるほど猫の爪亭はチェーン店らしい。

「それならいいけど……」


「店長には、珍しい食材を仕入れに行って来ると言ってあるから問題無いわ」


 パーラ……お前は伝説の食材ハンターか?


「それに……私がいると何かと便利よ?」


 パーラはそう言うと、リリムが持って来た大きな荷物を魔法で消し去った。

 いや……消したんじゃ無いな。仕舞った?


「パーラの空間魔法『食糧庫』はいつ見ても凄いね」


「空間魔法?」


「魔神にはそれぞれ特殊な能力があるんだ」

「私の能力は空間魔法『食糧庫』食糧や荷物を亜空間に仕舞う事が出来るのよ」

「ボクの能力は『精霊使い』精霊と会話したり、使役出来るんだ」


「あ……精霊の道?」

「そう、それもボクの能力『精霊使い』の力だよ」


「そうだったのか……という事は俺にはその特殊魔法は使えないという事になるのか」


「特殊能力ですからね」

「アリマには無理だよ」


「そっか……」


 俺も使えると便利なんだがな……特に『食糧庫』とかいうパーラの特殊能力は、ゲームとかにあるアイテムボックスみたいじゃないか?



 それから、旅の支度を終えた俺達一行は猫の爪亭を出る時には1人増え、俺、リリム、パーラの3人パーティとなったのだった。



 聖都は広いので余り奥に行くと出るのが大変だ。

 魔法学院がある学業区や市民が住む一般区は都市の中心部に近く、用事が無い限りは行く事は無いだろう。


 俺達のような旅の者は南部区画だけで用事が済むようになっていた。竜車の店の他、冒険者組合も南大門近くに事務所を構えているそうだ。


 俺達は、昨日予約した竜車を追加料金を払い、次の街である鉱山の街ユグドラへ向けて出発した。


 ユグドラは聖都エルスハイムの南にある街で、竜車を使うと3日で到着する距離にある。高山地帯にある街という話だ。


 エルスハイムを出発して間も無く、俺は竜車酔いで吐きそうになっていた。


「結構揺れるんだな……うっ……」


 竜車には御者台があり、運転手が一人同乗している。やっぱりタクシーのような感じだな。


「大丈夫か? アリマ」


 御者台の方が酔いにくいと聞いたので、御者台に乗せてもらったが、竜車の車輪は木で出来ているのでクッション性など無く、サスペンションも付いていないので車輪の衝撃が椅子に直に伝わってくる為、非常に乗り心地が悪い。


「う……リバースしたらごめん」


 これは……想像以上の揺れだ。これに3日も乗るとなると俺の体力は持つだろうか?


 御者台でも無理だったので、結局竜車の中に戻り、横にならせてもらった。


 昼になり、そろそろ休憩する時間ということで竜車が停止した。地竜も走りっ放しでは疲れるという事だろう。

 俺は地獄から解放され木陰で休ませてもらっている。


「う……酔い止めに効く薬は無いのか?」


「アリマがこんなに竜車に弱いとは思わなかったよ」

「大丈夫ですか?アリマさん」

「自慢じゃ無いが、俺は昔から乗り物には弱いんだ」


「そのうち慣れると思うよ?」

「それはそれで嫌だな」


「これなら聖都で薬を買っておけば良かったですね?」


 え? パーラさん今なんて?


「売ってたんですか?」


「えぇ……聖都の中心街に行けば、そういった類いの薬を扱っている店もありますから」


「今からじゃ戻れないし、頑張ろうよ」


 そんなやり取りをしていると、竜車の運転手が話しかけてきた。


「兄ちゃん大丈夫かい」


 竜使いの運転手は無精髭を生やしてバンダナを巻いた30半ば位の痩せぎすの親父だ。

 バンダナの親父は竜使い特有の竜の皮で出来た服を着ている。


「あ……どうもご心配おかけします」


「兄ちゃん竜車は初めてか? 酔い止めなら持ってるぜ」


 竜使いの運転手はニヤリと笑みを浮かべて言った。


「あるんですか? 助かります!」


「あーっ 無料って訳にはいかないんだ。これも仕事なんでな」


「ですよねー…… で、いくらだ?」

「金貨1枚だ」

「高!」

「それは高いぞ」

「高いわね 薬屋ならその十分の一の値段よ」


 ぼったくりか…… 人の足元見やがって……


「で、買わないのか?」


 俺はスポンサーのリリムの顔を見てお願いすると、リリムは仕方ないなという仕草で答えてくれた。


「買います!」


 ――――――


 酔い止めのおかげで、午後の移動は随分と楽になった。景色を見る余裕も出来ている。景色といっても遠くに見える山に草原地帯を走っている程度なのだが、俺達はその遠くに見える白い山に向かっているようだった。


 日が暮れる前に野営となった。また前のように土魔法で野営用のカマクラを作り、準備をする。竜車の運転手は自分の分は自分で用意するといって皮で出来たテントのようなものを作っている。


 今回作ったカマクラはパーラも入れて三人分という事で、少し大きめに作ってみた。

 それに、この辺りは盗賊や魔物も出るという事なので、交代で番をする事になった。


 俺、リリム、パーラの順番だ。


 食事を終え、焚火を用意して火の番をする。これって野生の動物に対しては有効かもしれないけど、魔物に対してはどうなんだ? こちらの居場所を教えているような物じゃないのかな。


 リリムとパーラはカマクラの中で寝ている。俺は外で見張りをしている……。暇だ。

 良くアニメとか漫画で、こんな風に見張りをしているのを見た事があるが、良く間が持つものだ。何もする事が無いと本当に眠くなる。

 

 ふと、何か聞こえたような気がした。木が揺れて葉っぱが擦れる音が聞こえたのだ。

 俺は眠い目を擦りながら、音のした方角を目を凝らして見てみると……。


 木々の間から身長1mくらいの人に似た姿をした異形の魔物が現れた。





いつもお読み頂きありがとうございます。


ついに魔物が登場します。

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