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2話 勇者召喚

 鬱蒼とした森の木々がサークル状に伐採されて土の露出した広場の中心に魔法陣と呼ばれるであろう円形の文字盤があった。そのさらに中心部分の黄色や緑に光る場所に俺は座り込んでいた。さっきまで座っていたはずの椅子が突如無くなったので尻が痛い。どうやら尻を打ったようだ。


「痛っつぁぁあーーーー!!尻がぁああ」


「おお……これは成功ですぞ姫様」


「じぃ……いや、さすがは枢機卿様ですね」


「ん? なんだ?」


 辺りを見回すと、俺のいる文字盤の周りは黒と白の縦ストライプのローブに身を包んだ者達に囲まれていて、丁度目の前に赤と白に彩られた祭壇のようなものが見えた。


 その祭壇の前に腰まで伸ばした眩しいくらいの明るい金髪ブロンドに小ぶりのティアラを乗せた碧眼の姫様と呼ばれた人物と枢機卿と呼ばれた大柄の漆黒のローブに身を包んだ白い顎髭の人物が並んで立っている。


 金髪碧眼の姫と呼ばれた美女は、艶のある腰までの金髪をさらさらと靡かせ、ヒラヒラしたゴシック調の赤いドレスのようなアーマーを着こんでいる。

 漆黒のローブの男は黒目黒髪、荘厳なイメージを沸かせる厳つい顔付きで『じぃ』と呼ばれるだけあって、結構な年輪を重ねているようだ。


 そして俺の左手には先ほどMAGで買った砂だらけのハンバーガーが、右手にはスマホが握り締められている。


「な……なんだぁああああああ???」


「初めまして、勇者様。私はエリス神聖国第2王女ミルラルネと申します」

「儂はレオボルト・ヴォル・シュテフラムだレオボルト枢機卿と呼んでくれ」


 祭壇の近くの二人が名乗りを上げた。


「えぇぇ!? 王女? 枢機卿? なんだって?」


「むぅ……どうやら混乱しておるようだな……」

「申し訳ございません勇者様。驚かせるつもりは無かったのですが……」

「ゴホンッ よろしいですかな?まずは勇者殿よ、此処は貴殿から見ると異世界と呼ばれる世界である」


 レオボルト枢機卿を遮るように姫様が謝ってきたが、その後の枢機卿の言葉に俺は聞き覚えがあった。


「異世界……だって?」


 左手のハンバーガーが潰れるくらい拳を握りしめていた俺は、おもむろに右手の携帯のロックを解除してアンテナを確認してみた。


「圏外……」


 いや……まだ電波の届かない山奥の森の中って可能性もあるか?樹海とか……


 ――分かっているはずだ。


「この森は、富士の樹海か?」

「いいえ、此処はエリス神聖国内にある、精霊の森と呼ばれる森ですが……」


 エリスって名前に妙に既視感を覚えるが、聞いたことも無い地名だ。


 ――本当に聞いたことが無いか?


「異世界っていう証拠は?」


 俺は、なにか心に引っかかるものを感じていた。


「証拠になるか分かりませんが……」


 姫様がそう言うと、さっきから感じていた違和感が増し、背筋がゾッとするような嫌な感じがした。


 詠唱……呪文のような感じで姫様がなにやら呟いている……


「……全てはエリスロード神の名の下に、束縛せし物よその力を以て捕縛せよ!紐束縛セイルファング

 

 姫様の詠唱が終了すると、突如俺の周囲の空中にロープのような物が出現し、俺はあっという間にグルグル巻きにされてしまった。


「なっ!何しやがる!?」


「これは、捕縛魔法です。信じて頂けましたか?」


 信じるも何も、こいつらヤバイんだけど?


「あぁ……確かに魔法のようだし、信じるよ。だから、このロープ外してくれないかな?」


「それでは、話の続きをそのままお聞きください」


「おい!そのままかよ?」


「では、話の続きだが……此処はエリス神聖国である。貴殿はこの世界を救う為に、古の盟約に従い、異世界より我等が召喚した勇者殿である」


 枢機卿が改めて俺を勇者殿と呼んだ。


「世界を救うって言ったって、一般人の俺に言われてもなぁ……」


「そうですね……ではこの世界の成り立ちからご説明いたしましょうか。

 私たちの住むこの世界は、創造神様によって作られた世界です。

 そして、創造神様のお力で世界は守られています。

 ですが、その創造神様のお力も常に万全ではありません。

 創造神様のお力の衰えはこの世界の崩壊を招くと言われており、近年その衰えはますます顕著になってきました。

 そこで、古より伝えられる対処方法が異世界より勇者様を召喚する事なのです」


「ですが、実際に召喚されたという最近の記録は残っていなくて、古文書を解読するのに苦労しました」


 はぁ……? なんか怪しさ満開なんだが……


「それで、その神様の力が弱くなると実際にはどうなるんだ?」


「神の力が使えなくなります。それと神獣など神に属する者の生命力が弱くなります」


「……神の力?」


「神聖術と呼ばれる力の事です」


「先ほど使った捕縛術は実は魔法ではなく、神聖術という神法の一つです」


「違うのかよ!」


「似たようなものですが、力の源が異なります。魔法は魔素を魔力に変換して行使しますが、神聖術は神気を纏い神聖力として行使します」


「似てるっちゃ似てるか?」

「この世界では神気よりも魔素が濃いので魔法の方が強力で一般的なのですが……」


 まぁ そんな事はどうでもいいんだが……


「さて、レオボルト枢機卿よ 神気の濃度はどうなっていますか?」


「勇者召喚前と召喚後の濃度変化はありませんな」


「古文書では召喚すると改善するのではありませんでしたか?」


「そのはずなのだがな……」


「やはり……作戦『に』しかないのでしょうか?」


「仕方あるまい……古文書には従わなければならぬ」


 なんか勝手に話が進んでいるんだが……


「では勇者様、この腕輪をお付けになって下さい」


 ミルラルネが俺の左手首に黒い腕輪を持ってくると、鈍い赤い光を放ち俺の手首に定着した。なんか知らない文字が彫られて文字が浮かび上がっている。


「これは?」


「この腕輪は念の為ですわ」


 次の瞬間、俺の服が四散し、俺はパンツ一丁となった。


「キャァァァァア!! 俺の服があぁぁぁぁぁ」


「あららっ かわいい声ですね……」


「あのー つかぬ事をお聞きしますが…… 作戦『に』って何ですか?」


 なーんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか?


「古文書によると勇者様を召喚し、生贄に捧げろとあります」


 ぞくっ ミルラルネの背筋が凍るような瞳に俺は戦慄した。



作戦『にえ』です。

あ 主人公名乗ってませんね

生贄なんで聞くまでもないという事で……

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