表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/54

18話 聖都エルスハイム3

 聖都エルスハイムの南西の商業区の一角にある食堂『猫の爪亭』は獣人相手の料理屋で2階3階は宿泊出来るようになっている。


 その一階の奥の結界に張られた個室では、猫獣人の女主人と昔馴染みの客が呪いの腕輪について重要な話を始めていた。


「あら…… これは…… パチェッタの腕輪ね」

「そう、パチェッタの…… え?」

「やっぱりそうか!どっかで見た事あると思ったんだ」


 リリムは、やっぱりといった顔で天井を仰ぎ、遠くを見るような目をしている。


「立ち話も何だし座って? 落ち着いて話しましょう」 


 パーラはそう言うと、俺達に椅子に座るように促すと、黒い木で出来たテーブルの向かい側に腰を下ろした。リリムはパーラの正面に座り、俺はリリムの隣に座る。


「その…… パチェッタって?」

「大魔呪術師よ? 呪術に関して彼女の右に出る者はいないわ」


 大魔呪術師…… なんか凄そうな人出てきたよ?


「ってことはこの腕輪は……」

「彼女の作品の呪いの腕輪に間違い無いでしょうね」


 マジですか? ここに来て凄い手掛かりが見つかったけど、大魔呪術師とは……かなり不安だな。


「という事は、腕輪を作った作った本人、そのパチェッタって人に頼めば、呪いの解除も出来るって事でいいんだよな?」


「可能性はあるわね」


「もしかして、リリムの言う腕の良い呪術師って」

「そう、パチェッタの事だよ」


「でも、何で呪われちゃったのかしら?」


「それは……」


 俺はリリムに目で合図を送ると、頷いたので、召喚されてからこれまでの事を女主人のパーラに説明した。



 ――――――



「へぇ…… 最近巷を騒がせている『堕勇者』ってあなたの事だったのね?」


「実は、エリス聖教に殺されかけた被害者なんだけどね」

「この事は内密にお願いします」


「心配しなくていいわ、貴方魔神の子なんでしょ?」


「魔神の子って意味が分からないけど魔神核ならあるみたいですが」


「その魔神核を持つ子供をこの辺だと魔神の子っていうのよ」


「はぁ…… なるほど」


「魔神の子なら大歓迎よ? ねぇリリム?」


「パーラの言う通り!この店は魔神の子の保護も行なっているんだ。この国では唯一信頼出来る場所だよ」


「あの…… どうして魔神の子の保護をしているのか聞いても?」


「リリムが魔神なのは…… 知ってるようね。実は…… 私も魔神なのよ」


「はぁ…… そうですか…… もう大抵の事は驚かなくなっている自分が怖いです」




 それから暫くリリムとパーラの思い出話が続き、入店してから2時間位経った頃……。


「長話になっちゃったわね。食べて行くんでしょ?」


「食事と…… あと二部屋頼めるかな?」

「いいわ…… あら困ったわ今日は一部屋しか空いて無いの」


「うそ……」


「それでいいかしら?」

「俺は構わないよ?」


 勿論、俺は即答だ。


「……うん ……他に空いてないなら仕方ないよね……」


 野営でも一緒に寝ているし、問題は無いだろう。

 

 食事はそのまま個室で食べる事になり、パーラは「ごゆっくり」と言うと店の奥へと戻っていった。

 程なくして個室に料理を持って入って来たのは、先ほど受付してくれたドジっ子猫耳ウエイトレスだった。


「お料理お持ちしたにゃ、お待たせにゃ」


 猫の爪亭の料理は、流石聖都に店を構えているだけあって、リリムが言うにはどの料理も美味しいらしかった。しかし、日本の料理には比べるもないが、味はリリムのよりはまともに食えた程度ではあった。やっぱりこの世界の料理は、俺の味覚には合わないらしい。


 食事が終わると次は風呂と言いたい所なのだが、この宿には風呂が無いという。

 リリムの家でも風呂が無かったので川で済ましていたのだが、野営でも風呂には入ってないので汗は流しておきたい。


 受付の猫耳ウエイトレスに聞いたら、昔使っていた店員用のシャワールームがあるというので借りる事にした。


 案内されたシャワールームは現在は物置のようになっていて、どうしようかと思案していたのだが、パーラがちょっと待っててねとシャワールームに入っていくと、ほんの一瞬で片付けて出てきてしまった。


 魔法だろうか? パーラは魔神なので何か魔法のような能力があるのかもしれない。


 そのシャワールームは簡易的な物で、上に設置されている桶にお湯を入れるとシャワーが出て来るという仕掛けだった。


「先ずはここを掃除しないとな」


 長年物置変わりに使われていたようなので、随分とホコリが溜まっているのだ。

 これではシャワーを使っても逆に身体が汚れてしまうだろう。


 シャワールームの扉を閉め、水魔法と風魔法で小さい水竜巻を生成する。これを樽の中で作れば洗濯魔法になるが、今はシャワールームなので慎重に汚れを落として行く。あとは上の桶を外して洗い流せば……。


「うん、我ながら綺麗になった」


 あとは、桶に魔法でお湯を入れれば完成となる。お湯の入れ方はというと、先ず水魔法で水をイメージし、その水を振動させ沸騰させるイメージを追加すると…… 熱湯の完成だ。


「あちちちっ」


 お湯が熱過ぎたので水魔法で冷水を入れ、丁度良い温度に調整して桶を設置すれば完成……だ。


「重い……」


 桶を上に設置してから入れれば良かった……

 気を取り直して勿体ないがお湯を捨て、桶を上に設置してやり直しだ。重いものを持てる魔法でもあれば便利なのだが。リリム師匠なら知っているかもしれないので後で聞いてみることにしよう。


 さて、シャワーが使えるようになったので使い心地を確認してみるとするか。


 どうせならリリムを呼んできて一緒に入れば効率が良さそうだ。という事でリリムを呼びに行く事にする。


 俺とリリムが借りた部屋は2階の突き当りの一室だ。冒険者向けの質素な作りなので、ベッドが一つで寝られるっていうだけの部屋だ。ただ部屋の大きさに対してベッドが大きいような気がする。見た感じダブルベッドのような大きさだ。


「リリム 汗かいたろ? シャワーの準備出来たから一緒にどうだ?」


 ノック無しで扉を開け、部屋に入るとリリムが慌てたようにシーツで体を隠している。


「なっ…… アリマ! ノックぐらいしても良いんじゃないかな?」


 何故かリリムの顔が引きつっているように見えるが気のせいだろう。


「あー悪い 今度から気を付けるよ ……でどうだ? シャワー入ろうぜ?」


「いや、ボクは後で良いから…… アリマ先に入って来ていいよ?」


「男同士なんだし、仲良く裸の付き合いでもと思ったんだが……」


「はぇ?」

(そっか…… アリマはボクの事、男だと思ってるんだ…… はぁ……)


「シャワールームもそんなに広くもないしな、うーん そうか……じゃ、先入ってくるよ」


「どうぞ……」


 リリムが元気がないのは気にはなったが、結局俺は一人でシャワーを浴びに行くのだった。




 シャワーを浴びて部屋に戻るとリリムと交代だ、お湯はリリムが直ぐに使えるようにセットしておいた。


「ただいま シャワーサッパリするよ」

「うん 行ってくる」

 そう言うとリリムは、大き目のタオルを手に部屋を出ていった。


 部屋はベッドがフカフカでよく眠れそうだ。

 俺の髪の毛はそんなに長くないので直ぐに乾く。

 先にベッドに横になってリリムを待つ。なんか興奮してきたのは気のせいだろう。

 こういう時にテレビが無いのが不便だ。日本ではホテルとか民宿に泊まると必ずと言っていいほどテレビが常備されていた。何もしないで手持ち無沙汰っていうのは本当暇すぎる。


 そうこう考えている間にリリムがシャワールームから帰って来た。緑色の髪の毛はまだ濡れたままだ。


「乾かそうか?」


 俺がそう提案すると……。


「髪は大事なんだから丁寧に頼むよ?」


 リリムは珍しく了解してくれた。いつもは髪は触らせてくれないのだが……。


 小さ目の風魔法を優しく濡れたリリムの髪の毛に当てる。手櫛で髪の毛を梳いていく。

 と……リリムの長目の綺麗な耳に手が触れる。


「んっ…… そこは弱いから触らないでくれ……」


 リリムは耳が弱いようだ。記憶に留めておこう。


 今度は木櫛で優しく髪を梳くと。


「あっ……んっ……耳は……ダメだよ」


 少し耳に触れてしまったようだが、ちょっと興奮してきたのでここでやめておこう。


「よし、乾いたぞ」


「うん…… ありがとうアリマ」


 リリムは顔が紅潮して湯気が上っている。のぼせたかな? シャワーで?


「早いけど寝ようか」

「……うん」


 俺が大き目のダブルベッドに横になると、リリムが後から緊張しながら布団に入ってくる。


「あの……」

「ん?」


「ボクは…… 初めてなんだ。優しく…… してほしい」

「俺も初めてだから気にするな」


 美少年と同じベッドで寝るのは初めての事だ。


 結局、リリムが隣りに寝ていると興奮してしまってなかなか寝付けなかったが、リリムも少し寝不足のようだった。








 期待した方すみません…… 何もありませんでした。


 次回から目的地へ向け、聖都エルスハイムを発ちます。

 アリマはまだ弱いままですが…… 強くなる予定? ですので見守ってやってください。


 いつもお読み下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ