16話 聖都エルスハイム1
精霊の森の中を精霊の道を通って街道まで移動する。街道に出るとそれまでとは打って変わって整備された道が見えてくる。整備されたといっても日本の様にアスファルトの道では無く、幅3メートル程度の踏み固められた土の道だ。ここからは徒歩で移動する。馬車のようなものがあると便利なのだが、無いので仕方がない。
暫く街道を歩いていると馬車のような乗り物が近づいてくる音がしたので、道端の岩影に隠れてやり過ごす事にした。
面倒事には巻き込まれたくないからな。ここは未だエリス神聖国内なので、こんな所で警備隊やエリス聖教の狂信派に見つかりでもしたら大変だ。
ついでにこの間のジルベールに行った時の様に変身しておく事にした。リリムはダークエルフに、俺は髭の魔道具を付けて冒険者風のオッサンに変装しておく事にする。
馬車が通り過ぎるのを息を潜めて待っていると、街道をものすごい速度でトカゲのような生物が走り去って行くのが見えた。
「な……トカゲ!? 馬車じゃないのか?」
「あれは竜車だよ、地竜に荷車を引かせているんだ」
馬じゃないんだな…… それにしても地竜とはファンタジーな世界だ。
「エルスハイムに着いたら竜車に乗る手配をしないといけないな。その先は山道になるし、徒歩じゃ遠すぎるからね」
「あれに…… 乗るのか?」
竜車か……ちょっと心配だ。俺は乗り物にはめっぽう弱い。
車に乗るには酔い止めが必須だし、バスなんかはもっと駄目だ。
修学旅行でバスの中で吐いて、『ゲロル』というあだ名が付いたのは痛い思い出だ。
「ん なんだ? アリマは竜車は苦手なのか?」
「いや……乗った事は無いけど苦手だな」
「?」
街道を歩き始めて2時間くらいで辺りが暗くなってきたので、野営出来る場所を探して野営する事にした。
街道から少し離れた所に開けた場所があったので、そこで野営の準備をする事にする。
「野営ってテントでも張るのか?」
「いや? 土魔法で寝られるだけの簡易的なものを作るんだ」
「なるほど土魔法で作ると」
「ボクは木魔法でも作れるけど、片付けが大変だからね」
土なら崩せばいいだけだが、木だと燃やすかしないとならない訳か……
見ててくれと言ってリリムは野営用のカマクラのようなものを土魔法で作って見せてくれた。なるほどこれがテント替わりになるという事か。
俺も真似して作ってみる。リリムより大き目のイメージ的にはレンガで出来た小屋だ。屋根は落ちないようにアーチ状に組み上げていく。
よし、完成だ。イメージ的には寒い国にあるレンガを積み上げたアーチ状の大きなカマクラのような家だ。
あれ? 少し大きすぎたかな?
「うわ…… アリマの大きいよ。 ボクのが玩具みたいじゃないか」
やばい……リリムが涙目になっている。
「すまん 野営にはちょっと大きすぎたみたいで……」
「いいよ、ボクはこっちの小さい方で寝るからアリマはそっちの大きい方で休むといい」
拗ねたリリムを宥めるのには苦労したが、結局二人で俺の作った大きい方で寝る事にした。
野盗や魔物の心配はないのか聞いたら、まだエリス神聖国内なので神気に余裕がある為、周囲に結界を張っておくので安心して寝てくれとの事だった。
そして翌朝、簡単な朝食を食べた後、土魔法で作ったカマクラを元に戻して、野営の片づけを終えると、俺たちは聖都エルスハイムへ向けて出発した。
それからは特に問題も無く、聖都エルスハイムの入口である城門前に到着した。この国の首都という事で城門は高さ5メートル以上もあり、圧巻される。都市を取り囲む都市壁もジルベールより高く、簡単には登れないようになっているようだ。
城門の横にはレンガ造りの小屋が立っており、そこが門番の詰所になっている。
俺たちが門番の詰所に並んでいる列の最後尾に並ぶと、後ろからブロードソードを背中に装備した茶髪でツンツン頭の柄の悪い冒険者風のチンピラが声をかけてきた。
「おいおい、ダークエルフ様が聖都に何の用だ? 魔の森の民、ダークエルフは森にでも籠って葉っぱでも食ってたらどうだ? ははっ」
なんだ此奴らは?
「悪いが、野暮用があってね。ボクらは急ぎじゃないんで先に行くといい」
「ケッ……んじゃ退けよ。あー張り合いがねーな。ダークエルフも落ちたもんだ」
「ベンマック……あんまり騒ぎを起こすような事は控えろよ?」
「あ~あたい お腹すいちゃったよ~ 早く入ろうよ~」
「っかったよ……ベルサージ。 おいライナ!いくぞ!」
「ほーい」
俺は成り行きを見ている事しか出来なかった。
彼奴らだ……精霊の森で俺を殺しに来た暗殺者達。
ライナ・レクエル……褐色の肌にあの目、俺を刺した殺し屋。
その顔と名前は忘れる事も出来ない。
顔は見えなかったが、一緒にいたあのフードの男はベンマックと呼ばれていた。
あのチンピラと同じ名前だ。多分彼奴がフードの男だろう。
チンピラ3人組が城門に消えるのを見送ると、リリムが安堵した表情で話しかけて来た。
「ふぅ…… あーいった輩は関わらない方がいい」
俺の表情は引きつったまま固まっていた。
「ん? アリマどうした?」
「彼奴らだ…… あいつが俺を殺しに来た殺し屋なんだ」
「そうだったのか……。だとすると、あの3人には用心しておくにこしたことはないね」
俺達は、門番の受け付けを済ませると都市の内部へと足を踏み入れた。
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