15話 旅の準備とトレーニング
南の国、スタール王国は、エリス神聖国の南にある大国だ。たしか勇者がいるっていうのもスタール王国だと聞いたような気がする。
そしてリリアス教国は、エリス神聖国とスタール王国に挟まれた巨大な湖に浮かぶ島国らしい。距離的にはリリアス教国の方が近いので、先ずはそこに向かう事になるだろう。
リリアス教国に向かう途中にはエリス神聖国の聖都エルスハイムがあるので、街道沿いに行くと先ずは聖都エルスハイムにぶつかる事になる。
ここから聖都エルスハイムまでは精霊の道を通れば5時間もあれば着くのだが、聖都はエリス聖教の本拠地だ。飛んでいる所を狂信派に見つかりでもしたら大事なので、少し回り道をしてでも一度街道に出てから歩いて行こうという事になった。
「聖都までは精霊の道と街道を使うと休憩無しで行けば1日で着くんだけど、途中休憩を入れるから、野営の準備をしておくよ」
と言ってリリムは昼になる前に、もう旅の準備を始めている。
さっきからサラサラの緑色の髪の毛が部屋の中で行ったり来たりを繰り返している。
「何か手伝える事は無いか?」
「アリマは基礎トレと魔力制御の復習だ。基礎は大事だからね」
リリムはいつものように基礎は大事だと教えてくれる。すでに口癖になっているんじゃないか?
「んじゃ 行ってくるから、準備は任せたよ」
「うん 任せてくれ」
準備と言っても俺には持って行くような荷物は無いんでリリムにお任せになってしまうのだ。
最近の俺のトレーニング方法は、森の中を走りながら魔力制御も同時に行うようにしている。
体力と魔力制御を同時に鍛えられるので一石二鳥だ。もし、戦闘になった時でも走りながらの魔力制御の練習は役に立つだろう。
旅に出るか……よし、今日の魔力制御は、ちょっと実験をしてみようかな。
魔神核から魔力を少しずつ引き出し、脚に纏わせる。この世界にはゴムが無いのか靴底が木で出来ていて走ると痛いのだ。
安物の靴だからかもしれないが、痛い物は痛い。
魔力を靴に集中する。イメージするのはゴムだ。ゴムの木からゴムを作るようにイメージして、木魔法で靴底を木からゴムに変化させる。
すると……走っていた足から痛みが消え去った。
呪いによる影響も無いようだ。
――成功だ。
うん、やっぱり靴底はゴムがいいな。中敷きに合成スポンジとかも作れるだろうか……材質が石油とかなんで難しいかもしれないな。
ゴム底靴のお陰でいつもよりは早くジョギングを終わらせることが出来て、時間も余ったので、次は自分で考えた魔法のトレーニング方法を実践してみる事にした。
木魔法で的になる木を生成し、火魔法で攻撃、風魔法で炎を渦状に強化、水魔法で消火、土魔法で穴を開け、燃えかすを埋める。
これを10回ワンセットで繰り返す。
我ながらハードなトレーニング方法だと思う。
ただ、埋めた地面がぬかるみにならないように調節するのが結構難しい。
これだけ練習しておけば魔物に遭遇しても慌てる事も無い……と思いたいが……。
そういえば、魔物ってこの辺では見たこと無いな。精霊の森って魔物はいないのだろうか?
俺にとっては安全に訓練出来るから、魔物はいない方がいいんだが……。
後でリリムに聞いてみたらリリムが結界を張っているから低級な魔物は森に入って来ないんだそうだ。
トレーニングを終え大木の家に戻ると、南へと出発する準備は終わっていて、あとは俺待ちなんだって顔でリリムが荷物を背に待っていた。
「お疲れ様。支度は出来てるけど少し休憩しようか?」
「うん、大丈夫と言いたい所だけど……水が欲しいな」
「ちょっと待っててくれ」
リリムはそう言うと荷物の中から木のコップを出すと魔法で水を入れてくれた。
「少し休憩したら出発するよ」
「分かった……あ……その前に」
俺がリリムに靴を見せてくれと頼むと、リリムは少し怪訝な顔をしたが、履いている靴を見せてくれた。
やっぱり……リリムの靴も靴底は木で出来ていた。さっき俺が作った魔法を披露して靴底をゴム製に変化させてあげる事にする。
「よし、リリム これを履いてみてくれるか?」
リリムに魔法でゴム底に変化させた靴を渡すと、靴底を押したりして確認している。
「な……この靴底、これなんか弾力があって柔らかいよ?」
「それで、歩いたり走ったりしてみて違和感は無いかな?」
リリムはピョンピョン跳ねたり、歩いたり、走ったりして靴の状態を確認すると笑顔で俺に食い付いてきた。
「ちょっと……これすごいよ? この材質は何使ってるの?」
「俺の世界ではゴムっていう材質で、ゴムの木から取れる樹液を固めたものだよ」
「へぇ……ゴムっていうのか」
「木魔法を使えば作れるかなって、さっき実験してみたら作れたんだ」
「とても歩きやすいよ……ありがとう。 アリマ」
さて、旅の準備は出来たのでそろそろ出発と行こうか。
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