幕間1 リリム・シャリアン
今回はリリム視点になります。
あの日、ボクが何時もの様に山草狩りをしていると、精霊の森の奥に戦闘の痕跡があって魔神の子が追われているって精霊が教えてくれた。
狂信派がまた幼気な子供を狙っているのか?
間に合うといいけど……
ボクは、痕跡があるという場所に急行した。
痕跡の現場に近づくと、遠くの方から微かに声が聞こえてきた。
「ん~誰かくる?」
「チッ……ずらかるぞ」
ボクが現場に到着すると、狂信派の刺客と見られる賊は逃げ去った後だった。
くっ……間に合わなかったか……
そこには黒髪の少年がお腹から血を流して倒れていた。
その子は全身傷だらけで、追い剥ぎにでも会ったかのように下腹部に薄い布をつけただけの状態で、内臓を晒して息絶えていた。
ボクがもっと早く気付いていれば……
早く気付いていれば本当にこの子を助けられただろうか?
ボクは元は魔神と呼ばれて恐れられていた。でもそれは過去の話だ。
過去ボクは、魔神リリム様と呼ばれて調子に乗っていた。
しかし、魔神プリステラが生み出してしまった魔王の謀略に嵌り、人々はボク達魔神を戦火の渦に巻き込んでいった。
それを見かねた魔神王は四人の配下と共に戦乱を収める為に出兵を決意し、魔神大戦争へと発展してしまった。
ボクは当時のエリス聖教騎士団総帥テシウス・ヴィルヘルムと契約し、その戦争を終わらせる為に動いた。
美しかった世界は破壊され国は焼かれ、海は割れ、山は姿を変えた。
エリス聖教騎士団とボクは、この世界を見守っていると言われる創造神に祈りを捧げ続け、その祈りが通じたのか、遂に神様は顕現なされた。
悲しみに身を染めた神様は怒り、争いの原因は魔神が強すぎるからだと、神の力を殆ど費やして世界を分割し、弱まった魔神王とその配下を封印していった。
ボク達、力の弱い魔神は封印せずとも良かろうと言うことで見逃された。
魔王に唆された人間に巻き込まれたとはいえ、世界を壊滅させてしまったのはボク達魔神の力だ。
力を失ったボクは、この森に逃げ込んだ。魔神を恐れる人間にいつ糾弾されるか分からないからだ。
そして、ボクと契約していた聖教騎士団総帥テシウス・ヴィルヘルムはその功績もあり、壊滅した都市にエリス神聖国を興し、初代エリス神聖国王となった。
魔神であるボクがテシウスの元にいる訳にはいかない。ボクが魔神だから、魔神であるボクは恐怖の象徴だ。国王と魔神が一緒にいては国民が納得しないだろう。
僕の故郷、エルフの森は手の届かない場所に行ってしまった。
ボクには、もう帰る場所も無い。ボクは、弱い。だからこの精霊の森に隠れて住む事に決めた。
エリス神聖国に程近い森なのはボクの心のどこかにまだ未練があるから。あの人が作ったこの国を見守っていこう……
魔神には人間のような寿命は無い。だから寿命尽きるまでなんて言わない。
永遠に……ボクが封印されるまで。
……物思いにふけっていたボクを精霊が呼んでいる。
なんだい? あ、目の前の亡くなったかわいそうな少年の事。忘れていたよ。
丁重に弔ってやるか……と思ったら、重症だった少年から微かに生気が感じられた。
生きてる!? えっと回復魔法、回復魔法!
ボクが回復魔法をかけると、その少年は奇跡的に息を吹き返した。さすが魔神の子だけはある。すごい生命力だよ。
少年の左腕には腕輪がついている。この…腕輪、パチェッタの家で見たことあるような気がするけど……
魔神パチェッタ……懐かしいな……今はどこにいるんだろう? 今でもリリアスで魔法具作ってるのかな。
ボクは裸の少年を魔法で優しく浮かべてやると、そのまま自分の家に運びこんだ。
そっか、服用意しなくちゃね 裸じゃ寒いよね。
ボクは少年をボクのベッドに寝かせると優しく布団をかけてやった。
いつもお読み下さりありがとうございます。
本日はもう一話投稿します。




