12話 堕勇者と魔神
―――堕勇者とは、勇者として為すべき事を拒んで逃げた者、闇に堕ち国に害をなす者の総称である。
冒険者組合を後にした俺とリリムは、ジルベールからリリムの家に帰って来ていた。
冒険者組合を出てからリリムはあまり話しかけてこないので、俺とリリムの間には微妙に居心地の悪い空気が流れていた。
「アリマ、少し話があるんだけどいいかな」
微妙な空気を遮るように、リリムが目を伏せ目がちにしながら話しかけて来た。
「なんだ?」
「その……堕勇者の件……だけど」
「あー 隠す気は無かったんだよ?会ったばかりの状態で敵か味方か分からなかったんで、自分が召喚された勇者だとは……言えなかった。すまん」
「だっ……だよね? 死にかけた状態で、助けられたとしても、すぐに信用出来るかって聞かれるとボクも同じ事をしたと思うよ」
「それに、俺は逃げたわけじゃ無い。彼奴らが俺を殺そうとしたんだ。いや…… 殺したんだ」
「アリマ……」
俺は彼奴らを許さないし、堕勇者と呼ぶなら呼ぶといい。堕勇者になってやる。
「ボクも……狂信派の連中は許せないよ」
幸いにも俺は名前を名乗って無かったんで指名手配しても無駄だと思うけどな。
「よし、これでお互い隠し事は無しだな?」
「う……ん……」
リリムはまだ俯いたままだ。
「え?……まだ隠し事あったりする?」
「ゴメン……あるにはあるんだ……隠し事」
「……リリムに言えない事があるなら無理に言わなくても……」
「いや……聞いてくれ……アリマには言えそうな気がする……」
「うん」
「実は……ボクは……」
「うん」
「魔神なんだ……」
「そっか」
「えっ?驚かないの?」
「今更でしょ?魔神核持ってる時点でフラグ立ってるし」
「アリマにも魔神核があるのも分かってたから、もしかしたらボクと同じなのかなって期待しちゃってたし」
「でも……魔神は封印されたって言ってなかったっけ?」
「封印されたよ。ボクは封印されているんだこの世界に」
世界に封印されたって……
「世界が分割されたって事は教えたよね?」
「元は一つの世界だったっていう?」
「そう……ボク達魔神は神気と魔素の両方があって本来の力を発揮出来るんだ」
「神気の世界と魔素の世界に分断されたと……」
「そう、そうなってしまってはボクら魔神の力は本来の半分にも満たない」
「それが封印されたという事なのか」
「強すぎる魔神で物理的に封印された者もいるけどね」
「強すぎる魔神?」
「地水火風の四大魔神と呼ばれる魔神と魔神王だよ。この封印された魔神を崇める宗教もあってそれぞれ、四大聖教は四大魔神、魔神教は魔神王を崇拝しているんだ」
――――――
リリムが魔神だということは分かった。でも、何故魔神は封印されてしまったのかってとこだよな?リリムは悪い奴には見えないし、封印するなら強すぎる奴だけで良かったんじゃないか?
「アリマ、冒険者組合で貰った羊皮紙をもう一度見せてくれないか?」
「いいけど、何か分かったとか?」
「アリマが勇者だって事は、創造神エリスロードに会っている可能性があるんだ」
「え?記憶に無いんだが……」
「アリマのステータスのここを見てくれ……」
「拡張ステータスって所?」
「本来ここには拡張ステータスは存在しない」
「存在しない?」
「拡張ステータスが表示されるのは世界中でもただ一人、アリマだけって事」
「な……そんな事ってあるのか?」
「んーそうだね……そもそもこの世界には、元々ステータスなんて物は無かったんだ」
「20年前に召喚された勇者がステータス魔法を作り、広めたと世間一般では見られているけど、そんな事が可能なのは創造神しかあり得ないし、今回も勇者に関与しているとボクは見ている。
それにアリマの持つ魔神核は最初から容量が中級魔術師並みに多い。そんなレアな魔神核、創造神以外には作れないだろう。
あと、拡張ステータスのここだ。『女神の祝福』と『加護の絶対防御不能(呪)』だけど、女神の祝福は効果が不明だけど女神と言ったら創造神エリスロードの事だろうと推測される。随分と女神に気に入られたようだね、アリマは」
「全く記憶に無いんだよ、それが」
「あと、加護だけど、加護自体が呪われて本来の力を捻じ曲げている。加護という位だから本来の加護は『絶対防御』じゃないかな?」
「全く逆じゃないか?」
「それが呪いって事さ…… んー!? だとすると……困ったことになるな」
「?」
「生半可な呪いじゃ無いから、教会や通常の呪術師では、呪いが解けないかもしれない……」
えぇえええーーーーー!?
いつもお読み下さりありがとうございます。
明日は2話連続投稿します。