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結ばれたもの

 ・・・ま、あの2人なら、あたしがいなくても大丈夫かな?


 神酒はポリポリと頭を掻きながら、とりあえず詩織と真夢のことは頭の隅に置いておくことにして、香楽と共に脱出の方法を考えることにした。

「ねえ、カグラ。これからどうしようか?」

 2人は窓の下にしゃがみ込んで出来るだけ外から姿が見えないように注意しながら、屋外の様子を詳しく観察した。

 外は相変わらず吸血人間たちが跋扈していて、およそ正常と判断できるような者は誰も見えない。

 吸血人間たちが外を埋め尽くしているというワケでは無いが、それでもその姿は絶える事無くポツポツと確認できるため、神酒も香楽も行動を起こすには時期早々と判断した。

「ねえミキ。私今日携帯は持ってきて無いんだけど、この家の電話なんか使えないかな?」

「カグラ。それナイスアイデア!」


 2人は早速居間で備え付けの電話を探し出すと、とりあえず警察へ電話をかけた。

 しかし電話の機能は生きているらしいというのは確認できたのだが、混線して通話が非常に込み合っているらしく、何度電話をかけ直しても何処にも通じる気配が無い。

「ダメか〜」

「外はどうなっているのかな?」

「・・・そうだ!テレビがあるじゃん!」


 今度は香楽がテレビを付けたのだが、そこで2人は驚くべき光景を目撃することになってしまった。


               ☆


 テレビを点けて一番最初に映し出された画面。それはまるで天まで焦がそうかと猛り狂う、巨大な火球柱の姿だった。

 おそらくどこかのテレビ局が飛ばしたヘリコプターからの映像なのだろう。火球柱は驚くほどに間近に鮮明に映し出され、あたかも画面から炎が飛び出してくるかのようにその威力を見せ付けている。

 音声ではヘリのリポーターが緊張した声で状況を伝え、そこからも状況の異常さが伝わってくる。

 炎は時折爆音と共に姿を変え、その度にリポーターの悲鳴のような生々しい叫びが伝えられる。

 それはまるで具現化された火炎地獄の様相で、神酒と香楽はしばらくの間、声も出せずにその映像に釘付けになっていた。


 続いて画面が移り変わり、ワイドショーの司会者やコメンテーターの姿が映し出された。

 テレビには危機管理の専門家や地質学者など、今回の事件に深く造詣のある有識者たちがゲストとして迎えられていて、それぞれの知識からの専門的な解説が加えられていく。

 それによると今回の爆発事件は、どうやら地中からのメタンガスの噴出が原因らしいということだった。

 大気濃度検査から検出された成分によると、メタン濃度が美鷹市付近で急激に上昇していて、それに引火したために爆発が起きたのだろうということで、有識者の話では開発現場付近に『メタンハイドレード』の存在の可能性も示唆されていた。


「メタンガス?でもメタンガスの臭いなんか、全然しなかったよね」

「あれ、カグラ知らないの?メタンガスって無臭なんだよ」

「ふ〜ん。ミキ、あんた結構頭い〜ね」

「あ!もしかして誉められちゃった?」

「うん、えらいえらい。それじゃあもう一つ聞くけど、【メタンハイドレード】って何?」

「それは・・・・・全然知らない」

「・・・・やっぱりね」

「ふい☆」


 ちなみに【メタンハイドレード】というのは、本来気体であるメタンガスが結晶化したものを指す。

 メタンガスは低温高圧の状況になると水分子と結合して固体となり、外見が氷のように変化するのである。

 メタンハイドレードは燃焼力が強い上に、燃焼の際の二酸化炭素の排出量が石油の半分程度で、次世代燃料としても大きく注目されている。

 世界でも稀に見る量が日本近海の海底に埋蔵されていることが最近判ってきていて、その調査は今でも進められているということだった。


 メタンハイドレードは前述の通り、低温高圧でなければ結晶体を維持することができない。

 番組ではそのことからメタンハイドレードの存在の可能性は低いということだったが、それでもゼロでは無いというのが有識者の見解だった。


 そして番組の後半では、この事故における犠牲者についての現状が報告された。

 番組によると現在の被害者数については把握はされていないが、住宅地開発地域では数多くの作業員が行方不明になっていて、また当時見学に訪れていた美鷹中学の生徒たちの安否も確認されておらず、現在警察が被害者の把握にやっきになっているということだったが、現場の状況が未だ改善されておらず、二次災害の可能性もあるため、思うように調査は進んでいないという内容だった。


 ちなみにこの爆発事故には付近の一般人も巻き込まれているとの報告もあったが、神酒たちが見た吸血人間については一切触れられていない。

 また二次災害の防止の名目で、神酒たちが今居る付近一帯が立ち入り禁止区域に指定されたことも判り、事態が異常な方向に向いていることがなんとなく神酒には理解できた。


「え〜?なんで吸血人間のこと言わないのかな。隠してるのかな?」

 神酒は番組を見ながら小さく文句を言って香楽に振ったが、何故か彼女からの返答が無い。

 不思議に思った神酒が香楽の顔を見ると、彼女は思い詰めたような表情をしていて、何かしら大きな不安を抱いているということが見て取れた。


「どうしたの?カグラ」

「・・・・・・・助けに行かないと・・・」

 香楽は心配そうな表情で神酒を見ると、彼女の手を取って応えた。

「あそこにはまだネオンもヒロもいるの。まだ帰ってきていないんだ!ネオンもヒロもまだあんな危険な所にいるの!!」


 少し泣きそうになりながら訴える香楽に、神酒は優しく彼女の手を取り直した。

「・・・それって、カグラの大事な友だち?」

「・・・・・うん。だから私、助けに行くよ」


 そして香楽は立ち上がると、一度拳を握り締めてから奥歯を噛み締め、何かを決心したように神酒を振り向いた。


「ありがとう、ミキ。お陰で調子が戻ったよ!

 これから私、あのゲートの向こうまでネオンたちのこと、捜しに行ってみる。

 ミキは無事にここから逃げ出してね。お互い無事だったら、またどこかで逢おうよ!」


 もちろん神酒は、子音や緋色には全く認識は無い。

 だから香楽は2人を捜しに行くことは彼女の責任で、神酒が一緒に行くなどということは微塵も思っていなかった。

 実際このような場合は身の保全を図るのが最優先のことだろうし、捜しに行くこと自体が香楽のワガママといえないことも無いからだ。

 ところがだ。神酒はここで香楽が思いも寄らない言葉を発したのである。


「何言ってるの。あたしも一緒に行くよ」


「・・・え?」


 香楽は神酒の言葉に、自分の耳を疑った。

「ちょ、ちょっと待ってよミキ!なんでアンタが行く必要があるの!?」

「カグラが行くんでしょ?ホントは止めたいところだけど、でもカグラが大事な人を助けに行きたいっていうなら、止められるはず無いじゃん。こんな危ない場所だし、1人より2人の方がいいでしょ?」

「ミキ!あんた頭大丈夫!?」

「失礼ね。頭大丈夫ってどういう意味?」

「だって・・・危険だって判ってるんだろ!?」

「危険だから2人で行くんじゃん」


「そういうことじゃ無くて!

 アンタと縁もゆかりも全然無い人を助けに行くのに、なんでアンタが付いてくる必要があるのさ!!」


 香楽同様に、最初意味が判らないといった具合で彼女の話を聞いていた神酒だったが、そのうち香楽の言いたかった内容を理解したらしく、神酒はヤレヤレといった具合に首を横に振った。

「あのさ。判ってないのはカグラの方だよ」

「え?」


「大事な友だちが危険な所に行こうとしてるのに、1人で行かせられるはず無いでしょ。あたしカグラの事ほっとけるほど薄情な人間じゃ無いからね」


 香楽は神酒の言葉を聞いて、自分の心臓の鼓動が速くなったような錯覚を憶えた。

 香楽が実際に神酒に出逢って、まだ時間は1時間も過ぎてはいない。

しかしそれにも関わらず神酒は彼女のことを、一切の躊躇も無く【大事な友だち】と言ってのけた。

 香楽は神酒のこの言葉に心地の良い重さと、不思議な感動を感じていた。


「でも・・・だからって・・・」

「うるさいウルサイ!それともカグラって、あたしを置いていっちゃう薄情者?」

「そんなこと・・・でも・・。」

「はい、それじゃ決まり!

 さ、カグラ。とりあえず作戦考えよ。

 あたしこの辺りの地理に疎いし、吸血人間に見つからない方法も考えなきゃいけないしね☆」


 そして神酒はウィンクをして香楽の手を取ると、お互いにニッコリと微笑み合いながら、次のやるべきことについての話を始めていた。


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