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プロローグ

 有数の大都市・美鷹市の中枢部から少し離れた住宅街を、一人家路に就く女子中学生の姿があった。

 季節は秋。時は夕暮れ。

 彼女の髪は見事なプラチナがかった金髪で、夕闇が迫っているにも関わらずきれいな淡い輝きを放っている。

 それは決して髪を染めているというワケでは無く、単に彼女の父親がイギリス系のアメリカ人ということなのだが、彼女は気落ちした心を身に絡めながら、人通りの少なくなった住宅街の一路を進んでいた。


 彼女が今落ち込んでいる理由は、今日行われたバスケットの大会の結果にある。

 少女は大規模校である美鷹中学校に在籍していて、今日行われた新人大会でキャプテンを務めているのだが、その1回戦でノーマークだった無名の中学校に敗れてしまい、傷心のまま日暮れを迎えていたのだった。


 美鷹中学のバスケ部は昔から強豪として知られていて、前評判は高く今回も優勝候補の筆頭に名が上げられていた。

 だからこそこの敗退のダメージは大きく、彼女は周囲から哀れに見られる雰囲気に嫌気を感じながらの帰途となっていたのである。


 まだ冬はもう少し先のことなのだが、それでも夕刻の空気は突き射すように冷たい。

 彼女は自分のベンチコートを肩から羽織ると、少し立ち止まって秋の夜空を見上げた。


『今日はママが遅くまで仕事だから、急いで帰る必要も無いか・・・』


 彼女が見上げた北の空には、夏の名残りを思わせる煌びやかな天の川が広がっている。

 美鷹は大きな街で、夜の空に鮮やかな星空が見えることは稀なのだが、ここは空気の濁った都心部から離れた住宅街である上に、今日は思いの外空気が澄んでいる。

 だからその輝きはいっそう彼女の目に美しく写ったが、それがなんだか今の自分にはそぐわないような気がして、彼女は目を伏せ振り返った。


 南の空は北のそれとは違い、星らしき姿はほとんど確認できない。

 しかし彼女はその暗い空の中に、一つだけ強く輝く星の姿を確認した。


 いわゆる【みなみのうお座の一つ星】


 ギリシャ神話において、怪物の脅威に驚いた神々が、魚に姿を変えて逃げ出したと言われるこの星座の逸話は、部活の反省会から逃げるように帰ってきた自分の姿に重なっていく。

 秋の南の夜空に輝くたった一つの一等星の姿は、北の空に群れる星々よりも自分に近いような気がして、彼女は『あの星、ちょうど今の私みたい・・・』と小さく呟いていた。


 そして彼女は一度冷たい空気を大きく吸い込むと、落ち込んだ気持ちを励ますように無理に笑顔を作り、再び自分のアパートへ向けて歩き出した。

 これからの彼女の行く末を見守るように、【みなみのうお座の一つ星】は静かに、そして強く輝き続ける・・・。


挿絵(By みてみん)


☆シンディ香楽(かぐら)

この物語の主人公。

アメリカ人の父と日本人の母を持つハーフ。

バスケが得意で、美鷹中学の新人チームのキャプテンを務める。


吉崎子音(ねおん)

香楽の同級生で、気の強い女子生徒。

香楽とケンカをすることもしばしばで、彼女と同じくバスケ部に所属している。


新門緋色(ひいろ)

香楽の幼なじみの男子生徒。

美鷹中の空手部のホープで、ズケズケと物を言うタイプ。


陽野魅影(みかげ)

美鷹中バスケ部の主将で、現在中学3年生。

香楽と子音の試合での噛み合いの悪さに、現在頭を痛めている。


桑原寛治(かんじ)

美鷹市の住宅地開発現場で工事を進める作業員。

土木建築会社・阿坂組の期間契約の職員で、しばしば違法作業を頼まれることがある。


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