3
「わっ!翠!見て!同じクラスだ!」
「本当だ!ふふっ、これで卒業まで同じクラスだね、みゅー。」
私の失恋の痛手も癒えつつある四月、新学期。
私と翠はクラス発表の掲示板の前ではしゃいでいた。
私達の通う高校は、高二のクラスがそのまま三年まで持ち上がる。
そこそこの進学校だから、もう二年生には本格的な受験体制になるからだと思う。
これで卒業までずっと翠と同じクラスだ!
翠と私の家はご近所さん、というか、隣だ。
私の家は父さんが私が産まれる前に事故で死んでしまって母子家庭だけど、翠の両親とは学生の頃からの友達だったらしい。
元々、翠のパパさんとママさんが結婚して、翠のパパさんのご両親が他界してから空き家になっていた実家に住み始めて、その実家の離れ、と言っても敷地は別々、を私の父さんと母さんが借りて、そのまま現在に至っている。
カップルで大親友だったらしい。
だから、私の母さんは父さんが死んじゃった後、女で一つで私を育てるために、夜のお仕事、スナックで働き始めたのだけれど、働いてる間の私の面倒は翠の両親、特に翠のママさんが見てくれていた。
だから、私達は本当にずっと一緒に育ってきて、ずっと一緒に居たのだけど、いかんせん、クラスばかりはいつも一緒とは限らなかったのだ。
「みゅー、顔が緩みっぱなし。」
新学年の教室に行き、翠は私の席の隣の誰かの席の椅子を引っ張って来て横に居てくれる。
居てくれるのは、いいのだけれど・・・。
「いひゃいよ、ふい。なんれすれるの。」(注:痛いよ、翠。何でつねるの。)
「ふふっ、緩みっぱなしのみゅーが可愛いからだよ。」
「らからって、いひゃい。」(注:だからって、痛い。)
いよいよ涙目になってきた目で恨みがましく翠を睨むと、やっと離してくれた。
そして今度はクスクス笑いながら私の頬っぺたを撫でている。
「もう、何してくれるのよ。」
頬っぺたは少し痛いけど、やっぱり嬉しくて顔が緩む。
そんな風に、翠と同じクラスになれた喜びを噛み締めていると、
「へー、やっぱ二股だったのか?」
翠の柔らかい、優しい声じゃない、低くて無駄に良い声、これが所謂バリトンボイスか?という声が聞こえた。
声は良いけど、意味はいまいちわからない。
?
と頭に思い浮かべながら後ろを向くと、
「あれ?小塚?」
翠がその声の主に声をかけた?
「よお、新井。」
どうやら翠の顔見知りらしいその人は、声だけじゃなくて、外見も男前だった。
翠は今時な感じでちょっと中性的なところが魅力だから、そんな翠には今風にイケメンって表現がぴったり、だけどその人は、男前、って表現が似合う気がする。
黒い短髪に、ちょっと鋭い感じの一重の目はだけど綺麗な黒目がちな瞳で、鼻筋はすうって通っていて、薄いくちびる。
そんな男前を振り替えって見上げながら、私はカレが発した言葉の意味を聞いてみる。
「二股って、貴方が?」
こてん、と首を傾けながらそう問いかけると、男前の鋭い目が一瞬見開いたかと思うと、次の瞬間に何かを面白がるような、・・・挑発するような光を宿した。
「まさか、自覚なし?天然?いや、そう見せかけた計画犯?」
??
ますます訳がわからない、っていう風に私がそのままその男前を見上げていると、
「それ、まさかみゅーのことじゃないよな、小塚。」
と、翠の私でさえあんまり聞いたことがない低い声が聞こえてきた。
何時も聞いてる優しい翠の声との余りの違いに、私は慌てて翠の方を向いた。
「す、翠?」
翠は大きな目をすうっと細くして、男前を睨んでいる。
「渡辺 徹也、俺同中なんだわ。」
「え?徹也君と・・・?」
まさか、ここでその名前が出てくるとは思わず、びっくりして、再び男前を見上げる。
「みゅー、誰それ?」
そんな私の後頭部にまたもや翠の低い声。
「え?す、翠?あ、えっと・・・」
翠、男前、翠、男前・・・首が疲れるなぁ、なんて考えながら、翠の質問に答えたら、
「「元カレだよ。」」
男前と声が被っていた。