神打鑼祭
「ふふふ、ついにこの日が来たのじゃ!長き雌伏の時を経て、遂に新たなる時代の勝ち鬨を挙げるこの時がのう!」
儂の言葉に周囲の男衆が熱気を帯びる。
儂はそれを確認すると吠えた。
「いくのじゃ!!者共!!」
儂の声に呼応し、大地が割れんばかりの歓声が上がった。
「「「うぉおおおおおお」」」
◇◇◇◇◇
初秋。
秋の実りの多き頃。
この時期は各地で秋の収穫を祝って、ちょっとしたお祭りが行われる事が多い。
べオルググラードもその例外では無い。
元となる地域は相当に古くからあるとは言え、ここ数年で本格的に開発が始まって、世界有数の大都市と変貌したべオルググラードはどちらかと言えば、若い都市だ。
この新興の都市であるべオルググラードにはユノウスの統治下に入ってからいくつか新しい祭りが生まれた。
そんな祭りの一つがもうすぐ開幕する。
主催はユノウス商会。
共催はべオルググラード領府。
まぁ、つまり、ユノウス商会社長にして、べオルググラード領主たるユノウスが三年前ぐらいから音頭を取って始めた祭りだった。
今では世界有数の名物となっている、この祭りの名は カンダラ。
神打鑼祭という名が付いている。
◇◇◇◇◇
「これを、こうして、こうなのじゃ!」
例の物の設計図を広げて儂は説明した。
作業員たちは感心した様子で儂の案を見て頷いた。
「なるほど、こういう意図ですか」
「うむ!」
作業員は大人がほとんどだが、中には学生も混じっている。
儂らが作っているものは御輿だ。
儂は入念に今年の祭り用の御輿を準備していた。
かんだら祭。
かんだら負けみたいな名前のこのお祭りで何をするのか。
それは喧嘩である。
町の衆が神様を御輿で担いで喧嘩をする。
神様の乗った喧嘩御輿をぶつけ合って、神様を落とし合うと言う趣旨の祭りだ。
最後まで御輿に残った神様は来年の神打鑼祭まで一番神と呼ばれる。
買った町も一番町と呼ばれて、副賞で税金が一部免除されたり
また町会総長も一番町から選出される決まりなど特典がいっぱいあるのだ。
京都の祇園祭りや勝山喧嘩だんじりなどを参考にしたお祭り行事だ。
レギュレーションはかなり厳格に決まっている。
四方の大きさに留まらず、たとえば御輿を担げる人間は50人。
町に住民登録があること。存在強度20まで。
加護者は可。祝福者は不可。
男女は問わず。年齢問わず。
御輿は毎年町会が用意する。
可能な限り見栄え良く豪勢にすること。
などなど。
細かいルールも結構あるがそれはさて置こう。
儂を含めた12柱の旧神。
十二神将はこういう祭りには積極的に関わっている。
このべオルググラードには町神制度という物がある。
十二神将はそれぞれ12の町を担当として受け持っている。
たとえば、儂は学生町と文化通りの区画を受け持ってるし、もっとも古参のトールは中央市街、病院街を持っているのがヘルなど、12神将は皆が担当の町神である。
町会は町神を敬い奉じ、町神は町は守護する任を持つ。
というのが、この地方できた新しい制度である。
聖団の世俗から離れた神様たちと比べると12神将は地域密着型の風変わりな神様であると言えた。
神とは本来、人の祈りの総体である。
願い願われ叶える存在でなければ、その存在力を維持できないのが本来の神様である。
だからこそ各教団は信者の確保に躍起になるのである。
信仰を喪った神は少しずつ風化して弱体化していくのがこの世の定めである。
儂達は少し違う。
存在の維持としてユノウスと開発した
信仰ではなく信頼を得て、人の守神として生きていく道を選んだ訳だ。
神とは奉り、奉られる存在であり、祭りとは奉りである。
とにかく、祭りの主役は祭る町民であり、一方、奉られる儂らでもあった。
「ふふ、完璧なのじゃ」
儂らの町会はこと、御輿に関しては毎年最優秀なのだ。
儂が用意した神唱素材を利用して強度・重量ともに破格である。
突き出た突き棒をぶつけ合って相手の神様を落とす。
単純だが奥が深い。
ちなみに当日、十二神将は全員、力を人並みにセーブする処置をされる。
また、御輿に固定具などはつける事は禁止で掴むものも用意してはならない。
その為に神と言えど、御輿から落ちる時はあっさり落ちる。
「今年こそ絶対勝つのじゃ!」
儂が強く宣言すると周りで作業していた皆も頷いた。
「はい、勝ちましょう」
儂らは万年2位に甘んじている。
2位はもうたくさん。
そろそろ、儂らが一番町になる番なのだ。
◇◇◇◇◇
儂らが最終確認を入念にしているとユフィやアリシス達が作業所を訪れた。
「精が出るね」
「おー、みんなどうしたのじゃ?」
儂が駆け寄るとミーナが袋を差し出した。
「寮で差し入れ作って来たよ」
中身を確認するとサンドイッチのようだ。
儂が皆に休憩を指示すると我先にと集まって来てサンドイッチを頬張り始めた。
「助かるのじゃ♪」
「良いよ。こんな事しか出来ないし」
「そんな事ないのじゃ」
「ううん、本当は私たちも参加できれば、良いんだろうけど・・・今年の学生参加はミルカに、エリカさん、リリカさん、アカネさん、アデルさんだっけ?」
「がんばるよ!」
と、言いながら力拳を作るミルカだがその姿はあまり強そうには見えない。
ユフィやアリシス辺りになるとLVが高すぎてルール違反になるのだ。
これが中々に良くできたルールで、軍部地域、最強の軍人部隊を要するスルトなど、通常訓練で兵士のレベルが上がりすぎる為に、逆にLV内に収まる新兵50人を揃えるのも大変で、結果的に練度も低くなってしまい、毎年大して強くはないのだ。
現在の神打鑼最強衆はもっとも古くからべオルググラードに居る中央市街チームだと言われている。
レギュレーション限界LVを保つ事に加えて、各種筋トレや御輿担ぎの練習を日頃から欠かすことなく鍛錬を積み重ねている。
中には祭りの3ヶ月前からお店そっちのけで調整に入る強者までいる最強最巧の(暇人)集団だ。
唯一の弱点が彼らを率いるトールが脳筋おバカだという事ぐらいだろう。
「今年は優勝できると良いね!」
「そうじゃのう!そろそろ、儂様の番なのじゃ!」
元主神としてのプライドもある。
儂も十二神将のリーダーとして、中心として、いつまでもあの脳筋幼女に遅れを取っている訳には行かないのだ。
「ふふ、そう簡単に勝たせる訳がないケロ!」
「ってなんじゃ?お前は!!」
いつから居たのか物置きの片隅の黄色い物体が動き出した。
文化通り町会の共有の物置だけあって、何かしらの祭りや町会行事で使われた(用途不明な)様々なオブジェがここには転がっている。
てっきり、そのひとつだと思っていた黄色い物体が突如として声を発したのだ。
「みんなのアイドル!ロキちゃんだケロ!」
くるりと回ると女の子の顔が見えた。
黄色いカエルの着ぐるみを着た少女がそう言った。
なんというか、我が宿敵(?)のロキだった。
どうやら今週はカエルキャラ強化週間の様だ。
また珍妙で、微妙なキャラ付けを始めたものである。
「カエルならゲコじゃろ」
「ロキちゃんはゲコなんて語尾は付けないケロリン☆」
うわぁ、うざい・・・。
とにかく。
ここに居たと言うことは、このロキにこの仕掛けを見られたということになる。
「スパイなのじゃ!者共、生きて帰すな!なのじゃ!」
「ふふ、神様に楯突く愚かな愚民はどこケロ☆」
どこって。
こやつめ、それこそどこからそんな自信が湧いて来るのだろうか。
「え、本気でやって良いです?」
「あら、面白そうですね」
「ぎゃぁああ!ユフィとアンネリーゼ、ケロぉ!?」
ついでにこの場にはアリシスやミーナも居るがのう。
実際の処、神様としてはそう強い方ではないロキはかなりビビった様子で殺気満々の二人の学生の姿を見て軽く後ずさった。
しかし、ロキとて腐っても鯛、もとい神様だ。
単体で見れば、やはりユフィやアンネが勝てる相手ではないはずなのだが・・・。
ただ、際どい処だが、ユフィ・アンネリーゼのぶっとびコンビに加えて、それこそ儂がいれば、最恐のロキといえど、確実に無力できるだろう。
「せ、先生に手を出すと内申で酷い事いっぱい書くケロ!」
酷い職権乱用だ。
もっとも、二人の超問題児は気にした様子もなくこう言い切った。
「あら、まぁ。ですが、死人に口無しと言いますし・・・」
「内申なんて心底どうでも良いです」
まったく効果が無いことに気づいたロキは慌てた。
「え、冤罪ケロ!ロキちゃんはスパイなんてしてないケロ☆」
「じゃ、いつから居たのですか?」
「それは最初からケロ!」
「だめじゃん」
「結果的に見てしまったモノや聞いてしまったモノに罪はないケロ!」
いやいや、罪は主にあるじゃろ。
モノに罪が無かろうと主に主に罪があるじゃろ。
「いっぺん締め上げるのじゃ!!」
儂の号令で周囲の人間がロキを捕まえに掛かる。
「ケロロ~」
まったく抵抗する気はないのかロキはあっさりと簀巻きになった。
黄色いカエルの姿で巻かれていると本当にシュールである。
「これが本当の河童巻きケロ☆」
「いや、お前はカエルなんじゃろ」
疲れる奴なのじゃ・・・。
「で、なんの用なのじゃ?」
「実は神様☆フォーリぃズの件でオデンを待ってたケロ☆」
神様☆フォーリぃズとは儂とヘルとロキとトールの4人組アイドルユニットだ。
信仰を集めるならアイドルだろ。と儂らはユノウス商会の恥部として知られるオレエンタランドと協力して、2年前からアイドル活動を始めたのだ。
歌って、踊れて、歳を取らない、ついでにう○こもしないスーパーアイドルだ。
プロデュースの結果は大成功。
多くの狂信者を出し、全国ツアーも連日満員御礼。
ただ、あまりに成功しすぎた為に危機感を覚えた聖団が「神様の品性を著しく欠く行為です。いい加減にしなさい」と圧力を掛けてきて、現在はべオルググラード以外での活動を自粛中である。
今はロキの管轄する趣味街で地下アイドルとして粛々とアンダーグランドに活動している。
「お祭りに合わせてゲリラライブをするケロ♪」
「ゲリラはみんなの迷惑なのじゃ」
「ちゃんと申請書は出したケロ☆」
「それはもはやゲリラでも何でもないじゃろ」
「一般への事前告知は無しケロ。聖団に止められるケロ。でもこれで新規のお客様大量獲得だケロリン☆」
そんなにうまく行くものなのか?
聖団と十二神将の信者争奪戦は派手にやりすぎると色々と国際問題になる。
聖団とべオルグ領が不仲なんて事態になったら周辺国は右往左往することになるだろう。
ロキは本性的に状況をひっかき回すのが大好きだから狙っている危険性もあるが・・・・・・。
いや、考えすぎか。
最近のロキといえば、ちょっと間抜けな自演策士キャラという感じだ。
「まぁ、仲間と言えど、秘密を知られた以上、生きて帰す訳には行かぬかのー」
「さらっと怖いケロ☆」
ロキは簀巻きのままで足先のみでその場ぴょんぴょんしだした。
それを見ても、こころぴょんぴょんするどころか、うざいというか、うざかった。
「やめい!」
「例え簀巻きにしようともロキちゃんを止めることは不可能ケロ☆」
まさか、目の前で黄色い物体にカエル跳び(蓑虫跳び?)ぴょんぴょんされるだけでここまでうざいとは・・・。
ロキ・・・恐ろしい娘。
「うざいんで足先まで括って口も結びましょう」
「賛成です」
「やめてぇケロ☆」
カエルは芋虫に変化した。
ロキのぴょんぴょんはもぞもぞに変化し、よりうざくなった。
「む~♪、むぅむぐぅ♪~」
ついでに調子外れなハミングが聞こえる。
まったくメゲない芋虫が際限無くもぞもぞしている。
もぞもぞもぞもぞもぞ・・・・・・。
儂らの心がバットステータスだった。
「ロキ、なんと恐ろしい奴なのじゃ!」
儂は色々な物を諦めてロキを解放した。
「ようやくロキちゃんの恐ろしさが分かったケロ♪」
「出来れば、理解したく無かったのじゃ」
同僚がこんなんで儂、悲しい。
かなりブルーな気分になったがなんとか気を持ち直した。
「とにかく、ここで見知ったことは他言無用じゃ」
「許してくれるケロ?」
ロキが顔色をぱぁと明るくした。
儂は頷く。
「許してやるのじゃ」
「ありがとケロ~♪お礼にみんなの情報をあげるケロ♪」
そう言ってこのロキ助は聞いてもいないのにぺらぺらと情報をしゃべり出した。
やれやれ。
始末に負えないとはこのロキの為にあるような言葉だ。
わざと他者の強み、弱みをこうやって皆に情報を開示して回り、ゲームをコントロールする。
最終的には自分だけが大きな得をする魂胆なのだろう。
策士。
話が一段落付いたところで儂は尋ねた。
「それでお前さんは何をするのじゃ?」
「ひ・み・つ」
よし。儂の腹は決まった。
儂は即座に魔法を起動した。
その魔法式にロキがぎょっとした顔をする。
「ま!待つケロ!!許すと言ったケロ!?」
「許すと言ったが即座に放すとは言ってのじゃ!!」
「酷いケロぉ」
うるさいのじゃ!
―――封因結界
発動した魔法によってロキの動きが停止した。
「よし!」
「あのー、オデンちゃん。こんなでも私たちの上司なんですけど・・・」
ミルカが困惑気味にそう呟いた。
「大丈夫じゃ。本番前には解放するのじゃ!」
「業務に支障が出るよぉ・・・」
「気にしないのじゃ!」
とにかく、ロキの無駄にうざい動きを止めれた。
しかし、ばれてしまった以上、現状の策だけでは駄目だ。
本番まであと三日。
この三日間でさらに新たな細工をしなければ。
◇◇◇◇◇
3日後。
ついにべオルググラードはカンダラ祭の日を迎えた。
各地で人だかりが出来ている。
祭りに合わせて、様々なセールや出店があるのだ。
街の喧噪の一方で儂らのキャンプには張りつめた雰囲気が漂っていた。
「今年こそはよう。学生通りに一番街の幟を飾りてぇなぁ」
「ああ」
時計が午後4時を告げる。
皆、その時を待っていた。
儂は目を見開いた。
「ついにこの日、この時が来たのじゃ」
「出陣じゃぁああ!!」
カンダラ祭に参加する12の御輿はまず、自分の街を御輿を担いで歩き、各地の休憩所や施設の前で歌い、踊り、鼓舞を済ませた後に一番街を目指して動き出す。
「がんばってオデンちゃーん」
「オーディンなのじゃぁ」
声援に答えながら街を進む。
ここまでなかなか息のあった御輿運びだった。
これは期待できるのじゃ。
カンダラ祭では一番最後まで神様を落とさずに御輿を担いでいた街が一番街に決まる。
時間制限は3時間。
時間が経った後で複数が残っているとポイントが高い方が勝ちになる。
ポイントは、一番街を除く各街が1ポイントを持っていて、喧嘩御輿で相手の神様を落とすと1ポイントを得る。
落とされた側は1ポイントを失い、以後は街に戻って最終結果を待つ。
一番街以外の御輿は一番街に入ると1ポイントの加点を得る。
その為、全員が一番街を目指すことになる。
一方、前回王者の一番街は最初から3ポイントを持っている。
ただ、街に入る加点は無く、落ちると2ポイントを失う。
もちろん作戦は自由だが、最終的には皆が一番街に集い、御輿をぶつけあう。
そして、この時間はこの見物をみようと一番街には人がどっと集まるのだ。
「今年こそはトールを破るのじゃ!!」
儂の街がいちばんなのじゃ!!
◇◇◇◇◇
「ふぁああ。それじゃ、みなさん、おやすみなさい・・・」
そういってヘルは御輿の上にかわいいピンクの花柄布団を敷いて眠りだした。
ヘルの担当する医療街は街を一通り歩くとこうして自分の街でのんびりするのが常である。
医療従事者が担ぐ御輿らしく喧嘩は面倒(怪我人が出る=仕事が増える=面倒)だし、一番街になっても集客が増えるわけでもない(仕事はいつもいっぱい=むしろ客は減ってほしい)。
やらずの医療街は乳飲み子を乗せた乳母車のように街をのんびり終了時間まで巡回するのだ。
「今年は何人、けが人が出るかねぇ」
死者こそ出たことは無いが怪我人の一人や二人。
十人や二十人は当たり前である。
後始末は医療街の役目である。
「祭りの後には死屍累々」
それが全部自分たちの負担となるだけに医療街の町衆は一様に溜息を吐いた。
「まったく、本当に後の祭りだよ」
◇◇◇◇◇
辺境に位置する儂ら学生街の御輿がトールの居る中央街まで向かうにはどうしてもロキの率いる趣味街を通る必要がある。
趣味街。
玩具に地下アイドルに人形などなど。
雑多なサブカルチャー街である。
気づいたらこんな街に魔改造されていた。
ロキにせがまれて、あちらの記憶をあげてしまったのは失敗だった。
(そのことで散々、主様に怒られもしたが)しかし、この街の現状やロキの最近の酷いキャラ付けぶりを見ていると今更ながら、早計であったと反省することしきりである。
街に入るとロキとフレイヤが対峙していた。
「ふふん、貴方みたいな下品で汚い塵がいつまでも高いところに居ると目障りですわ。引き摺り降ろしてあげる」
「怖いケロー。BBAがなぜか僻んでるケロー。年増は怖いけろー」
「だれがBBAよ!?」
胸を張る戦女神さまは外見年齢25、6と言ったところか。
見た目はより若いロキが散々に煽っている。
フレイヤは勘弁がならないのか顔を真っ赤にさせている。
「BBAがむさいのつれてるケロ~。ビジュアル的にげろげろケロ~」
「お黙り!このちんちくりん!」
ロキはにこにこと笑いながら、フレイヤの御輿を指さして尋ねた。
「BBAの御輿を担いでいるのは誰ケロ?街衆には見えないケロ?」
戦乙女であるはずの彼女の担当街はファッション街。
去年はファッションリーダーのガールズメンバー中心でトールに挑んで一番の怪我人を出した街だったはず。
女子率が高く、戦力に欠ける欠点があったはずだが。
「あら?エレガントに勝つために傭兵を金で集めましたのよ?」
「卑怯者ケロ~」
「お黙り!あんたの飼ってる豚どもよりマシよ!」
豚呼ばわりされた重量級タンクな人々。
所謂、オタクなファッションに「ロキたん命」の法被を来た異常に濃い男たちである。
そんな、ロキを心から信仰するロキちゃん親衛隊の面子は激怒した。
「BBAめ!小生たちを豚ですと!?」
「許しませんぞ!!BBAめ!」
「誰がBBAよ!?」
「誰が見てもBBAですぞ!!」
彼らのBBA連呼にフレイヤが切れた。
「無礼な!この人間!!」
「「「だまれBBA!帰れ更年☆期!!」」」
「ちょ!」
「「「怒るなBBA!しわが増えるぞ♪BBA!!」」」
「てめぇら!!」
「「「寄るなBA・BA☆BA・BBAA・B☆A・BBA!!寄るぞシワ・シワ☆B・BA・BA!!」」」
彼女は猛烈なBBA連呼にまるで茹で蛸の様に顔を赤くする。
すると、ここでようやく審判が現れた。
「それでは試合を始めます」
既に壮絶な舌戦が行われているが。
ついに審判が開始の銅鑼を鳴らした。
「はじめぇええ!!」
「突撃ぃいい!!」
怒声のような号令でフレイヤの御輿がロキの御輿に突っ込んだ。
凄まじい勢いと統率だ。
さすが、金で集めただけのことはある。
すると。
ぬるり。
と異様な音とともに御輿を担いだ傭兵たちが突如、崩れた。
「きゃ!?」
「きゃは☆引っかかったケロ♪」
前のめりになって崩れたフレイヤの御輿にロキが襲いかかった。
こちらの御輿もかなりの練度だ。
一度強く叩き付けられるとあっさりとフレイヤは落ちた。
「わ、罠を!?反則よ!!」
フレイヤが抗議の声をあげる。
ロキは落ちたフレイヤを見下しながら高笑いをした。
「ケロロ~。お前がコケた地面を見るケロ☆」
そう言われてフレイヤは御輿が突然に転けた辺りを手で触って調べた。
儂も遠目に見つめる。
うむ、石面がなんだか少しだけ緑色かかっている様な・・・。
「石路に濡れたこ、苔??」
苔??
苔に滑ったのか?
「カエルがコケるだけに苔ケロ♪自然物は罠にならないケロ☆」
・・・・・・。
うわ、なんというしょぼい。
こやつ、相手をはめるためだけにわざわざ自分の街の至るところに苔を生やしたのか??
「虚仮にして、転けさせて、苔だけに、ロキちゃんはコケティッシュけろりん☆」
「意味不明ですわ!!」
本当に意味不明だ。
おそらく、配下の親衛隊を使って事前にヒール(促成培養)を使用し、戦場で使いそうな場所に苔を生やして置いたのだろう。
「オデンさま、どうしますか」
「ふむ。あのバカは無視して次に向かうのじゃ!」
勝ったあやつは三度舞いをする必要があるからどうせ動けない。
罠が満載のあやつの街で戦うのはリスクが大きすぎるだろう。
儂はそう判断してさっさとトールの町を目指すことにした。
ちなみに三度舞いとは勝ち御輿が勝利を宣言した後い行う儀式のことだ。
相手の御輿を地面に置かせてその前で御輿ごと神様を三度宙に舞わせる儀式のことである。
これが結構疲れる。
相手と観衆に神と町衆の心意気を見せる儀式とあるが面倒なことだ。
離れる儂等のもとに喧噪が聞こえてきた。
周りの観衆が「もっと高く!」「もう一回!」と煽っている。
すると、ロキの町衆は大きな声で合唱し始めた。
「BBAは消えろ♪BBAは落ち目♪」
「そのかけ声は余計ですわぁあああああああああ!!」
やれやれ。
フレイヤは負けた相手が悪かったとしか言い様が無い。
可哀想に。
フレイヤの怒りの絶叫を聞きながら、儂らは趣味町を後にした。
◇◇◇◇◇
トールの居る中央街に向かう途中。
儂らは別の御輿と出会った。
正規軍、軍街を統率する炎神スルトの御輿だ。
「オーディンか」
「スルト・・・」
この祭りはお互いに相手がいない状態で出会った場合はルール上、戦うしか無いのだ。
何より敵前逃亡というのは神様的にもルール違反なのだ。
「私の狙いはトールだが、出会った以上はお前とも戦うしかないな」
そう言いながらもスルトの声には若干喜色が見える。
戦いとなれば、喜びを見せる戦闘狂。
彼女はこちらを王者の前に良い小手調べとでも思っているのだろうか。
「そうじゃのう」
儂は目を細めた。
こっちにとっても悪くない相手だ。
なぜなら、スルトの町衆は弱い。
軍街の性質上、大半の兵士がレギュレーションのレベル規定にかかり、ベテランの御輿衆が居ないのだ。
ダンジョン育成もしている軍人がレベルアップするの仕方がないし、国防上、止めようが無い。
故に御輿を担いでいるのは毎年新兵だ。
若く練度も低い。
御輿衆の力の差はそのまま戦力の差である。
つまり、ここは儂等にとっても1ポイントゲットのチャンスと言うわけだ。
「よし!気合いを入れていくのじゃ!!」
「うぉおおお!!」
両者が向かい合う。
今度は直ぐに審判がやってきて、試合の準備が始まる。
「はじめぇええ!!」
開始の号令が響いた。
「いくのじゃぁあ!!」
「おっしゃああああ!!」
気合い全開。
儂の御輿衆が気迫のこもった突進を見せる。
うむ。この調子なら問題なく勝てるだろう。
ふと、ここで儂はスルトを見た。
その何気ない姿にしかし妙な違和感を感じた。
去年までのスルトは御輿の上に胡座をかいていただけだったが。
今年は仁王立ち?
その姿に違和感を覚える。
御輿がぶつかり合った。
儂の御輿もわずかに乱れたがスルトの御輿ほど大きくは乱れなかった。
「よしよし!」
儂は必死に御輿の上で落ちないようにバランスをとる。
御輿の上に神様がしがみつける様な形の棒などは付けれないと言うルールだ。
かんだらは神が落ちるか御輿自体が地に着くと負けになる。
「お、オデンさま」
「なんじゃ?ん??」
ここで漸く儂は気づいた。
「スルト、お主・・・」
「おい、新兵共!今年は落ちないでおいてやるから、御輿を死んでも土に付けるなよ!」
スルトは仁王立ちのままで身動き一つしなかった。
まるで足裏が接着剤でくっついているようにぴたりとくっついている。
「???」
神打羅の御輿に乗る神にはその能力をすべて制限し、並の人レベルにまで落とす効果のあるユノウス謹製の御札が張られている。
それを破っていないのであれば、スルトはせいぜい少女の体力しかないはずなのだが。
だが…。
「どうした、オーディン?」
「いやーそのー、うむ。さすがはユノウス軍最強じゃのう…」
儂は畏怖を込めてそう呟いた。
天地に刺さったスルトの見事な仁王立ちはまったく崩れない。
どういうことか見当も付かないがそういう技術なのだろう。
ちょっと卑怯臭いがこうなると、つまり、このスルトはまず落ちないと見た方が良い。
ならば、御輿の方を落とすより他ないだろう。
厄介なことだ。
「御輿を完全に崩すのじゃ!!」
「気合いを入れろ!新兵共!!」
再び御輿がぶつかる。
練度の差がますます出たのか、今度はもっとこっちが優位になった。
「一気に落とすのじゃ!!」
「うぉおおおおおおおおおおお!!」
一気に攻める儂らの御輿にスルトが笑った。
「出るぞ」
その一言でスルトが跳んだ。
え、跳ぶ??
儂は思いがけない出来事に一瞬、頭の中が白くなる。
「じゃ?!?」
それでも儂はとっさに手元にあった巨大団扇を構えた。
御輿には武器を乗せることは出来ない。
この団扇は御輿の上から相手に届く長さは無いもので、三度舞いの演出で扇ぐ為に用意したものだった。
武器ではないので許可されたものだが仕方がない。
「蠅叩きじゃぁああ」
武器として使ってはいけないと言うことだが、相手が向かって来るなら、防御の為に構えるぐらい良いだろう。
規定では御輿に乗った相手の体ないし、御輿に直接当てる行為を禁じている。
この場合、相手の体は相手自身の御輿に乗っていないし、相手自らが扇に向かってぶつかって来るのだから攻撃には当たらないはずだ。
そもそも、相手が御輿から御輿へ八艘跳びしてくるなんて想定は規定上には無いのだ。
ともかく、儂はスルトに向かって団扇を突き出した。
すると、彼女は空中で団扇を蹴ると、その勢いを利用して自らの御輿に戻った。
重ね重ね信じ難い身のこなしである。
「はぁ、はぁ」
「やるなぁ、オーディン」
おもいっきり肝を冷やした。
儂はスルトを見据えると吠えた。
「スルト!お主が優れた武人であることは分かった!」
「うん。それは最初から分かっていて欲しいものだ」
「しかし!この祭りは儂ら神が主役では無いのじゃぞ!」
「ほぅ」
「スルトよ!御輿衆に信が置けぬなら御輿に乗る資格も無しじゃ!儂らは御輿に黙って座って町衆の意気を見守る。御輿に身を置き、信を置き、心を置くが故に、臣は神の臣たるのじゃ。神たるものが、上に立つものが、ただ勝ちに拘るでない!粋を見せぬか!?」
「ほほぅ、なかなか良く回る口だな。しかし、なるほど。一理ある」
儂の説教にスルトは御輿に仁王立ちすると高らかに笑って言った。
「御身は最強だがそれで勝っては興が冷めるな」
祭りの主役は町衆である、儂の唱えたその主張を認めたようだ。
スルトは笑うと言い放った。
「神が立つなら、真の臣なら意気を見せるべきだな。良いだろう。勝ちは御前たちに任せるぞ!!気合いを入れろ!新兵!!」
「う、うぉおおおおおおおおお!!」
儂の御輿衆に押されてたじたじだったスルトの御輿衆が大きな声を揚げた。
むむ、御輿衆の勢いが甦ったか!?
「スルト」
「オーディン、御前の饒舌に免じて攻撃は止めてやろう!」
厄介なあの攻撃は止めたが仁王立ちは止めない上にスルトの御輿衆の勢いが増した。
スルトに方便とはいえ、ああ言った手前、こちらも策を弄することは出来ない。
策を封じた一方で封じられた。
なかなかに厄介な状況だ。
「オデンさま」
「頼んだのじゃ」
儂はそう呟いた。
御輿衆は応えて気合いを入れた
「オデン様の頼みだぞ!野郎共気合いだぁあああああ!!」
「うぉおおおおおおおお!!!」
実力なら儂の御輿衆だろうが、スルトは落ちない。
御輿自体を叩き落とすということになれば、攻略の難易度は跳ね上がる。
そもそも、儂はうっかりすると落ちるし。
御輿が激しくぶつかった。
儂は揺られてふらふらする。
「あわわわ」
我慢なのじゃ!
必死に掴むところの無い平面に伏せて揺れを耐える。
相手の御輿を潰す為にぶつかりが激しさを増している。
こちらも揺れたが相手も相当に乱れた。
「それ!もう一丁!!」
いち早く体勢を整えた儂の御輿が再度、突いた。
「絶対に土につけるなぁああ」
「もういっちょう!!」
ゆれるのじゃぁあ。
少女レベルまで落ちた体力ではそう持たない。
「オーディンが崩れたぞ!かかれ!!」
「うおぉおお!!」
力を溜めていた!?
儂が限界なところで一気にスルトの御輿が動いた。
やばい!!
「右まわりいっぱぁあいいっ!!つきだしぃい」
「おぉいさぁ!!!」
儂の御輿衆の衆長が叫ぶと儂の旋回した。
スルトの御輿とは右だけで強く当たる。
正面から当たると思われていたスルトの御輿が半分の肩すかしにあって勢い良く回転した。
「じゃっ?!」
おもいっきりブン回された。
儂はこらえが効かず御輿の上を転がる。
お、おち。
「しりあげぇ!!」
る!
「はいおぉ!!」
「のじゃぁあ???」
転げ落ちると思われたその瞬間。
わしは天高く舞った。
儂の御輿衆が儂の転がる方の御輿を持ち上げると同時に一回ぽーんと大きく御輿を弾ませたのだ。
儂は玉の様に転がった勢いを殺されたあげくに上空へと弾き跳ばされた。
「じゃあああ??ぎゃああ」
儂はべちぃと音を立てて、顔面着地で御輿の上に落ちた。
留まった。
いちおう、おちなかった。
いたいの…。
「うぅ、酷いのじゃぁ・・・」
文字通り儂を手玉に取った見事な動きを見せた儂の御輿。
その一方で姿勢を完全に崩されたスルトの御輿は斜めになってその一部が地面に触れていた。
勝った。勝った様だが。
「スルト、お主・・・」
儂を少々呆れた声でスルトを呼んだ。
「最強の名に土がついてはユノウス軍の傷となるのでな」
そう言ったスルトは苦笑いを浮かべて、斜めになった自分の御輿の突き上がった方に一本足でバランスを取り、立っていた。
呆れる奴だ。
この期に及んでも自身が落ちる気はまったく無いらしい。
「ふふ、見事な粋だったぞ。御前たちの勝ちだ」
スルトは勝者を祝う言葉を儂たちに掛けた。
な、なんにせよ勝ったのじゃ!
やったぁああああ。
「す、スルトさま」
「さて、御前たちは我が配下。新兵と言えど。この最強の身の内よ」
そう言って彼女は目を細めた。
新兵たちの間に緊張が走る。
「最強の弱さは正すべしだな。私を乗せた御輿を担いで外周5周だ」
「ひぃいいい」
べオルググラード外観を5周。
尋常じゃないコースだ。
全員が青ざめた。
すると、御輿を担いで居た内の一人がスルトに懇願した。
「ま、まってくれ。それじゃ、夜店を回れなくなる・・・」
「ほぅ、どういうことだ?」
「実は彼女と大事な約束が・・・」
どうやら、あの新兵は彼女とデートの様だ。
新兵の周りの別の兵は微妙に嫌な顔をしている。
このリア充が・・・という感じである。
というか、あやつ。
この間、儂の学校を辞めて軍に入隊したフリオじゃないか?
これはもう色々とご愁傷様なのじゃ。
話を聞いたスルトは良い笑顔で言った。
「そうか。では、10周だ」
「へ?」
「10周」
「ふりお!!??てめぇええええ」
「まってくれ!俺のせいかよ!??」
「さっさと行かんと20周にするぞ?」
「ひぃいいいいい」
フリオ。
ありゃ、あとで同僚から、相当にいじられるじゃろうな。
南無。
生粋の武人であるスルトは泣き言の類が一番嫌いだからのう。
「さーて、三度舞いをするのじゃ!」
それが終われば、すぐに本陣入りだ。
◇◇◇◇◇
一番街。
トールが町神をしているべオルググラードの中枢地区だ。
教育機関であり、場所を広く取ると言う学生街の特質上、郊外で一番遠かった儂は漸くそこにたどり着いた。
遅れてやってきた儂らはそこで目撃した。
ぐるぐる巻きにされた神様たち。
仁王立ちしたトールがそれを御輿の上から見下ろしている。
「おーでぃん、よくきたの」
「トール。これは何じゃ」
「さらしくびなの」
いやいや、晒すな。
神様を晒すな。
負けた勝ったと言っても神を崇め奉るのが目的のお祭りなのに他の町の象徴たる神を縛って転がすのはやりすぎである。
それはあまりに横柄で、あまりに横暴すぎる所行である。
「みぎから、はんばーぐみんちいちごー、にごー、さんごー、よんごーなの!」
得意げにそう呟くトール。
しかし、ハンバーグミンチじゃと?
「食べるか?」
「はんばーぐはこうぶつなの!」
それは知っているが・・・。
「おーでぃんもみんちにするの!」
「負けた相手も同じ神さまなんだから、ちゃんと名前で呼ぶのじゃ。トールよ」
「え。・・・なまえ?」
トールは困惑した様子で並んでいる神たちを見る。
「なまえ・・・」
まさか。
「お、覚えておらんのか?」
同僚のことぐらいは覚えておけよ!
「ささいなことなの!」
些細なことではないだろ!トール!
すると、並んでいた神の内の一人が笑いながらトールに話しかけた。
「ちなみに私の名前は分かる?トール?」
「おまえははんばーぐみんちいちごーなの!」
「あらら、そのなんとかミンチさんでも私は二号のはずなんだけど」
「え?」
トールは驚いた顔で神の立っている位置を確認する。
指さし確認で順番を数える。
「いちばんめなの!」
「場所を入れ替わったんですよ」
トールはぷるぷる震えると悔しそうに呟いた。
「はかられたの・・・」
いやいや。
色々とおかしい。
「ちなみに私の名前は・・・」
「はんばーぐみんちはだまるの!!」
「一号はどうしたのじゃ?!」
「はいしゃはひとしく、はんばーぐみんちなの!かんがえてみたら、じゅんばんとかはいらなかったの!」
考えてみたらと言いつつ、むしろ、まったく考えてない回答が出た。
思考放棄のトールに向かって儂は言った。
「そこがいる・いらないの問題じゃないのじゃ!」
「おーでぃんにはかんけーないの!」
「思いっきり関係者なのじゃ!」
「とーるはきゅうにふえたからわからなくなっただけだもん!ぎせいしゃなの!」
凄い自己弁護だ。
そして、今の発言は一体、誰に向かって石を投げているのだ。
誰に対して糾弾する言葉なのだ。
とにかく、ここはトールの蛮行を止めさせるしかない。
「こうなったら儂らが勝って止めさせるのじゃ!」
「ざこがよくほえるの!」
ここで漸く、試合開始の銅鑼が鳴る。
「みんちにするの!!」
「おでん種にされるのはごめんなのじゃ!」
儂の言葉にトールは首を捻った。
「ふぇ?おでんだね??」
「トール様、練り物にございます」
律儀に応えるトールの御輿衆。
「ねりもの?」
結局、トールは分かっていないようだ。
「トールの頭の心配は無用じゃ!突撃!!」
「むかえうつの!!」
お互いの突き棒が激しくぶつかる。
明らかに初速で勝ったはずの儂らの御輿が崩れた。
「たたみかけるの!」
凄まじいぶちかましが来た。
今まで一番激しく揺らされた。
儂は慌てて指示を出した。
「まわすのじゃ!」
儂の号令に御輿が回頭する。
「とまるの!」
その動きにトールの御輿は合わせなかった。
むぅ。
無理に追撃をしてくれば、旋回戦による機動力勝負に持ち込めたかもしれぬのに。
「止め!!」
突き棒の頭が合わなくなって審判が試合を止める。
事故防止をかねて突き棒が合わない状態では審判の「止め」が入るし、この「合っていない」の時は突撃、攻撃してはいけないルールなのだ。
トールは有利な体勢での追撃を止めてまで、こちらの機動についてくることを拒否したのだ。
「あいてはあしがはやいの!あわてずにじりじりいくの!」
「はっ!」
トールめ。
勝ち方が分かっている。
こやつのやり方は横綱相撲だ。
どしっと構えて、力でじっくり押しつぶす。
全町衆で最強と言われる御輿衆、人呼んで雷電衆の実力があればこそ出来る戦術でもある。
雷電衆は年中、御輿の事ばかり考えて、日々を過ごしている御輿ホリックなおっさんたちだ。
その後もトールとぶつかっては儂らが回ってそれを避ける繰り返しとなった。
拙いのう。
このまま、続いては儂らの消耗が激しすぎる。
一糸乱れぬトールの黒御輿がこちらを向いた。
「にげてばかりでなさけないの!」
一丁前にはっぱをかけて来るトール。
儂は御輿衆にこっそりと呟いた。
「次でアレを仕掛けるのじゃ」
「分かりました」
さて、上手くいくか。
「ぶちかますの!」
トールの御輿が動いた。
機動力なら儂らが上だと思うが、この突進の速度だけなら、雷電衆が勝るかもしれない。
電光石火。
その一撃を儂らは向かえうった。
「もらったの!」
「なんの!」
確かに何もせず正面から、トールたちのぶちかましを受ければ、跳ばされてしまうだろう。
しかし。
雷電衆の攻撃の衝撃を儂らの御輿の突き棒が大きく押し潰れ吸収した。
「?!」
「いまじゃ!!ひっかけるのじゃぁあああ!!」」
ギミック。
儂の御輿には神唱を使って作った部品を使用した仕掛けが施されていた。
その一つが作動させると内蔵したスプリングで衝撃を吸収するというギミックだ。
さらに。
「ひけぇええ!!!」
「??」
儂らは御輿を引っ張った。
猛烈な勢いで相手の御輿を引き回したのだ。
そんな真似が出来るのも内蔵したのギミックのおかげだ。
突き棒が割れて上部と下部の間に円弧の隙間を作るのだ。
その部分をフックにして相手の突き棒の頭にひっかける。
こうする事で本来は有り得ない引くという行動をとれるのだ。
綱引きの様に儂らはトールの御輿を引っ張った。
一瞬の攻防でまさか全く逆方向への想定外の力の作用にさすがの雷電衆も雪崩の様に崩れた。
押す力と引く力が重なって、ものすごい勢いで前のめりになる。
前線が瓦解し、一気に崩れた。
「あわわ、ふえぇぇ・・・」
「よっしゃあああああ」
引っ張り倒された御輿からトールが転がり落ちた。
勝った!勝ったのじゃ!!
「ず、ずるなの!!」
「ふふ、突き棒を使っての攻撃は許可されているのじゃ!!」
突き棒の機能に関する禁則事項は無い。
突き棒以外で攻撃をするのは禁止だが、なら、突き棒に工夫すれば良い。
攻撃に突き棒を用いている以上はルール違反はないのだ!
断言する儂にトールが顔を下に向けた。
「ふぇ、」
「ふぇ?」
「ふえぇええええええええ、うわぁあああああああああああ」
トールはわんわんと泣き出した。
号泣するトールを困惑した様子で雷電衆があやしている。
「トールよ。いくらお主が雷神様でもそのような駄々をこねたところで天地も勝利も返らぬのじゃ」
「うぇえええええええええん」
「これ、さっさとやめんか。お前の町の衆が困るばかりじゃろう」
「だぁでぇえ、うええぇええぇぇびぇええええええ」
トールはまったく泣きやまない。
どうしたものか。
見かねたミルカが儂の御輿から離れてトールに近づいた。
「トールちゃん、ハンバーグつくってあげるね!」
「はんばーぐ・・・?」
「あとでハンバーグつくろうよ」
トールはうつむきながらぼそぼそと呟いた。
「はんばーぐ。はんばーぐ・・・」
おお、食い気が勝りおった!
漸く、泣きやんだトールはこっちを向いた。
「はんばーぐにめんじてまけてやるの」
「ふふ、それでいいのじゃ」
「でも、はんばーぐはいちぐらむもまけないの!」
「それでもいいのじゃ」
はんばーぐ、はんばーぐとトールはぶつぶつ呟いている。
あやつ、本当に脳は大丈夫だろうか?
「と、ともかく、王者を倒したのじゃ!」
「やりましたね!」
「うむ」
王者が持っていた2ポイントゲットで持ち点を合わせて5ポイント。
トールに負けた者にも数度勝っている居た者が様だし、おそらく生き残りの中では儂等が一位だろう。
儂等は早速三度舞いを行い、周囲から勝利を祝われた。
これでおそらくこのまま順当に行けば、儂らが一番町・・・。
「どうやら同一首位みたいケロリン☆」
勝利の余韻も冷めぬ内にそんな言葉が聞こえて来た。
「ロキ」
「ふふ、ロキちゃんも3勝したケロ☆」
「なんと!?」
決して実力が優れているとは言えないロキの御輿が残ってしまったらしい。
どんな卑怯な手を使ったのだろうか。
「残るは私たちだけケロ♪」
「良いじゃろう。決着をつけるのじゃ」
「ついでに神様☆フォーリぃーズのリーダーも一番街で決めるケロ♪」
そんな提案に私は眉を歪めた。
「なんじゃ、お主はアレのリーダーになりたかったのか・・・」
「当然ケロ!」
現リーダーの儂は正直なところ、嫌々しているのじゃが・・・。
しかし、最終決戦がロキとはのう。
なんとも因縁深い。
「良いじゃろう」
「ふふ、決まりケロ♪」
お互いが見合う。
こうなってはここが神々黄昏なのじゃ。
既に最終戦ということもあり、ギャラリーがすべて集まって来た。
審判が漸くやってきて構えた。
「時間的にもこれが最終戦となります。お互いに見合って・・・はじめ!!」
銅鑼が鳴る。
「行くのじゃ!突撃!!」
「うぉおおおおおおおおおお」
儂の御輿が駆けた。
本日、最高の突進だった。
お互いに加速し、ぶつかる。
はずだったのだが、しかし、ロキたちはわずかに前に出たところで急に動きを止めた。
「ふふ、オデンのそういう爪の甘さは嫌いじゃないケロ☆」
「な?!」
しまった!まさかぁ!
「苔るが良いケロ☆」
お主、トールの町にまで苔を生やしておったのか!??
節操無さ過ぎじゃろぉおおお。
「のじゃぁあああ」「うわぁああああ」
部隊が前のめりになって滑り転ける。
儂は転がった。
落ちる。おちぃ。
「ロキちゃんの勝ちケロぉ!!」
ロキのその勝ち誇った顔にわしはぶち切れた。
故に叫ぶ。
「ええい!!なげぇええ!!」
儂の叫びに決死の御輿衆が応えた。
儂の御輿はオール神唱製だ。
すばらしく軽くて、恐ろしく堅い。
だからこそ投げる事も可能なのだ。
このまま落とすぐらいならと町衆は御輿を儂ごとブン投げたのだ。
御輿自体が突っ込んで来る。
迫り来る儂の御輿にロキは焦った。
「やめるケロ!!オデン!!」
「一人で死ねるかぁじゃあぁあ」
上手い具合に突き棒同士が当たって儂の乗った御輿が跳ねた。
その瞬間に儂は跳んだ。
自らの御輿からロキに向かって。
スルトの様に華麗には行かぬが、これが儂の。
「入魂キぃックぅうううううううう」
「ゲロォ!??」
「のじゃぁああああああ」
どごっ。
儂のジャンピングキックが見事にロキに突き刺さり、二人は同時に落ちた。
同着。
いや、わずかだが儂の方が後に落ちたように見えた。
最後まで残ったものが神打羅祭の勝者となる。
つまり。
「は、はんていは?」
「けろろ~」
そして、儂らは見た。
今年の勝者は・・・。
◇◇◇◇◇
オーディンとロキのダブルノックアウト。
結果として最後まで御輿の上に残ったのは何もしていないヘルの御輿だった。
点数では1点だが、この祭りは時間の最後まで残った中で最高点数の者が一番街となる決まりである。
残念ながらそういうルールである。
落ちたオーディンは点数1位の結果、2位に終わったのだった。
ヘル率いる医療街は自分たちが一番街になったと言う知らせを聞いて呆然とした。
「う、うちが一番街!?」
何もしていないのに。
「これは大変な事になってしまった・・・」
望んでいない結果になってしまったのだ。
特にそう言った店があるわけでもない医療街に集客なんて別にうれしくともなんともない。
街を壊してほしくないし、とにかく色々と面倒でよろしくないのだ。
「すやすや」
「う、うわぁああ」
のんきに眠るヘルを見上げて、来年の事を考えて医療従事者全員が悲鳴を上げたのだった。
◇◇◇◇◇
遠く、医療街から花火が見える。
新たな一番街を祝って祭りの締めである。
そんな花火をバックに儂らはステージに立った。
「むにゃ、かみさま、ふぁーりぃずの新リーダーになります。ヘルと申します。モットーは定時退職、有給消化、早寝遅起、怠惰本願。と言うわけで本日を持ってかみさま、ふぉーりぃずは解さ」
「のじゃー!!」「けろー!!」「ぎゃぁ」
突然、阿呆なことを言いだしたヘルを儂らは蹴り飛ばした。
「やっぱこいつがリーダーはダメケロ」
「まったく使えないヘルなのじゃ」
ヘルの頭をげしげしと踏みつけながら儂たちは呟いた。
「酷いです。横暴です。訴えます」
「はんばーぐ、はんばーぐ」
アイドルモードなのじゃ!
儂は前に出ると笑顔でマイクに向かい言った。
「きゃぴ☆、信者のみんなぁ元気ぃ~♪」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「やっほー、久々のライブだね♪一緒に楽しもぅ♪」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお」
「みんな、テンションあげ↑あげ↑でいっちゃうぞ♪」
「いぇえええええええええええええええええぃい!!」
強烈なスポットライトの光が儂らを照らす。
と、言うわけで今年は負けたけど、まぁ大丈夫。
また来年があるのだから。
こうして、祭りの夜が更けていく。
儂はステージで泣きながら叫んだ。
「来年こそはリベンジするのじゃぁああああ!!!」
楽しきこともまた善き哉。
打ち合い、突き合いながら。
人と神のおかしな付き合いとなる。
べオルググラードに奇祭あり。
神と人とが笑って歌って踊り暮れる。
此もまた是なり。