白い薔薇の在り処1
しばらく、かなりエロいシーンが多くなりそう。こういう話です。
※※の後は若干エロいです。
《過去》
幼い頃の事を今でも思い出す。
当時、私は5才の子供だった。
真っ黒な服を着て、母の葬式に参列した。
私の母はただ眠っているだけの様な安らかな顔で大きな棺に納まっていた。
周りのみんなが泣きながら花を添えていくのを見て、幼い私は不思議そうに首を傾げた。
当時の私には母親が死んだという意味が良く分からなかった。
涙は出ず、眠った母親が何でこんな棺に入っているのか、良く分からずにいた。
ただ、母の穏やかな顔を眺めていた。
母は、
暖かい日溜まりのような人だった。
幼子の私はいつになったら母が目を覚ますのか、そわそわしながら待っていた。
母が起きたら、たくさん頭を撫でて貰うのだ。
そう考えていると母の棺が閉じられた。
あ、と思った次の時には、その棺に火が放たれた。
「ままがなくなっちゃう」
私は慌てた。騒ぎ出した私を周りが抱き止める。
ああ、みんな、どうして、ママを燃やしちゃうんだろう。
そう私は思った。
あんなに気持ち良さそうに眠っているだけなのに。
次に会ったとき、ママは小さな壷に詰まっていた。
燃えて小さくなったそれを見た時。
漸く、それが何なのか分かった気がした。
死という物が何なのか、私は子供ながらに理解した気がした。
そして、今思えば、あの瞬間、私は最初の居場所を失ったのだった。
◇◇◇◇◇
母が死んだことで、すぐに私の王宮での立場は危うくなった。
うら若く、王の寵愛が強かった母が周りの妻たちにどう思われていたのかなんて、当時の私には分からないことだった。
幼い私は良く分からないままに住んでいた屋敷を追われた。
「どうして、おうちかわるの?」
「アリシスさま、強く生きましょう」
母の同郷の友人のフィロというメイドが私の元には残った。
この世でたった一人の私の味方だった。
私は彼女と一緒に新しい生活を始めた。
フィロは私の新しい母親だった。
そして、新しい居場所は馬小屋のように小さな、小さな平たい小屋だった。
新しい家は夏は暑くて、冬は寒くて、雨になると少しだけ濡れる。
そんな家だった。
あの頃、私は毎日、蒸かしたジャガイモと具の無い塩スープと堅いパンで過ごした。
ご飯が終わるとフィロに抱かれて、子守歌を聴きながら私は眠りについた。
フィロは暖かくて、お母さんと同じにおいがした。
私は毎日彼女と一緒に眠りに付いた。
ママは居なくなったけど、フィロは一緒に居てくれるもの。
私はそれだけで幸せだった。
◇◇◇◇◇
《現在》
「あのね、先生。にぃにぃが変なの」
その日、私が担当をしているクラスの女子生徒の一人であるミミが相談をしてきた。
生徒からそういう相談を受けることは実はあまり無い。
学校がそういう相談を受けることもほとんどない。
ここは教育機関と言っても、お金をもらって勉強を教える場所でしかないのだ。
要するに寺子屋、塾と呼ばれる場所と大差はないのだ。
特典として、べオルグ領の学校の卒業生には卒業証と在学中の成績表が与えられる。
これが一種の身分証明証になるのだ。
一般生には公的な学習塾、特待生にはユノウス商会の為の人材育成所という意味合いが強く、特待生は何かしらのスクールミッションに参加している。
「何があったの?」
「にぃにぃ。最近、夜遅くまで帰ってこないの」
ミミの兄の名前は確か、フリオ。
年齢は15才だったかな。
私とは歳が一つ下。クラスは一般3年目の第一期生。
彼女はフィリア教団のシスターが経営する孤児院の出身者だ。
ミルカとは同じ院だけど、あんまりつながりは無いはずだ。
ミルカが丁度、この学校に来る頃あたりにべオルグ軍に保護されて、べオルグ軍経由で孤児院に入ったはずである。
彼女たち、兄妹は元々、ウォルド国の奴隷孤児だ。
そういった孤児も何人かはフィリア教への寄付から費用を捻出され、学校に通っている。
「学校には通っているでしょ?」
「うん。でも、放課後になると毎日どこかに行っちゃうの」
「そうなんだ」
フリオ君に何があったのかな?
「先生は大人だから、夜の町に詳しいよね」
よ、夜のまち?
「い、いや、その、夜の町はあんまり・・・」
「そうなんだ。にぃにぃは夜の町で遊んでるんだって。あのね、クラスで見かけた人がいたの」
な、何をしているのフリオくん。
私が困惑しているとミミはさらに質問を重ねた。
「先生、夜の町に詳しい人知らない?」
知らない。いや、何人か知ってそうな人も居るけど。
「調べてどうするの?」
「にぃにぃを止めるの。シスターも心配してるし」
そっか。
ミミちゃんはお兄ちゃん想いなんだな。
よしよし。
幼いミミちゃんじゃ心配だし、ここはお姉さんで先生の私が一肌脱ぐますか。
私は決めるとミミに言った。
「ミミちゃん、私が代わりに調べてきてあげるね」
「ほんと?良いの?」
「うん、任せてね!」
「ありがとう、先生」
こうして、私はミミちゃんのお兄ちゃんの奇行調査を開始することにした。
◇◇◇◇◇
まずは、本丸から攻めて見ることにした。
丁度良い事に、今日はフリオくんの授業がある。
私は彼が授業に参加していることを確認した。
うん、話が聞けそうだよ。
授業終了後に彼を呼び止める。
二人で話をしたいと言うとフリオくんの周りの男子が何故かフリオくんをからかい始めた。
彼はちょっと不機嫌そうな顔になったけど、素直に私の言葉に応じる。
「先生、人気者だから呼ばれるの恥ずい」
う。いきなり文句を言われてしまった。
「ご、ごめんね」
「何か用?」
「夜の町で遊んでるそうだけど」
「別に先生に迷惑かけてないだろ」
それはそうだけど。
「ミミちゃんが心配してるのよ」
「ミミが?」
彼はそれを聞いて顔をしかめた。
それから、嫌そうな顔で呟いた。
「別に夜の町で遊んでいるわけじゃない。金なんか無いし。ダチを探してるだけだから」
ダチ?
知り合いを捜しているの?
「友達に何かあったの?」
「何でもない」
うー、完全に拒否られてる。
「夜の町なんて心配じゃない。教えてくれたら、力になれるかもしれないよ?」
「なんで、赤の他人のアンタが心配するんだよ。ミミに言っておけよ。他人を巻き込むなって」
ああ、頑なだなぁ。
「他人じゃないわ。教師よ」
「教師って何だよ。勉強教えて金貰うだけだろ」
う。
それはそうだけど・・・。
でも、私はみんなの力になりたい。そう思う。
「じゃーな」
「あ、ちょっと・・・」
彼は去ってしまった。
いやー、まいったなぁ・・・。
フリオくんって、もうちょっと素直な子だと思ってたんだけどなぁ・・・。
初年度からの生徒である私は入校当初からの彼を知っているんだけど。
今まで教えてきてここまで頑なな印象は無かったんだけどなぁ。
逆に言えば、これはちょっと人に言えない事情があるのかもしれないな。
でも、ちょっとだけ前進かな。
彼の話を全部信じれば、だけど。
フリオ君は人探しで夜の町をうろついてるだけで遊んでる訳では無い。
原因がある以上そこが解決すれば、フリオ君の夜遊びは終わるかも。
その原因の人については不明。っと。
このぐらいは分かった。うん、前進前進。
これ以上、フリオ君からあれこれ聞き出すのは難しいかな。
仕方ない。別の方法を考えよう。
◇◇◇◇◇
私が次に尋ねたのは学校長だった。
直接の上司だし、学校を統括しているし、何か知ってるかもしれない。
正直、あんまり期待は出来ないけれど。
校長室の入ると学校長が笑顔で抱きついて来た。
「わーい、アリシスなのじゃー、お茶を出すのじゃー」
甲斐甲斐しくお茶の準備を始める学校長。
「学校長、相談したいことがあるんですが」
「な、なんじゃと!?儂様に相談したいとな!!ふふふ、何でも言うのじゃ!儂様は世界中の叡智の結晶なのじゃ!何でも答えるのじゃ!」
「実はフリオが夜に出歩いて居るそうなんです。原因をご存じですか?」
「えっ・・・??・・・初耳なんじゃが?」
駄目だった。
やっぱり、駄目だった。
「よし、ここは小粋なアドバイスをするのじゃ!ミルカに聞くのじゃ!」
まさかの他人投げである。
「そ、それがアドバイスですか・・・」
「一番てっとり早いのじゃー」
情報戦略室のミルカに聞く。
なるほど。それが一番速いのだろう。
ただ、ミルカはあんまりそういう話を私たちとはしたがらないし、正直、ミルカに聞くのは私もちょっと腰が引けるのだけど。
仕方ないか。
私はお茶を一杯だけ戴くと礼を言って退出した。
よし、ミルカに会いに行こう。
◇◇◇◇◇
べオルグ軍情報戦略室の場所は秘密になっている。
行くには手続きを取った上で暗号の掛かった専用の転移門を使用する必要があるのだ。
当然、私には行くことが出来ないので待合室でミルカを待っていた。
しばらく、待っていると扉が開いた。
一人の少女が入ってくる。
「やほー、アリシス!」
「ミルカ」
ミルカは私の座ったソファの向かいに腰を落とした。
「んーとね、アリシスが聞きたいって言った内容なんだけど、一応、室長の許可が下りたよ」
ミルカには聞きたい内容を事前に通信機で伝えてあった。
戦略室には守秘義務付きの機密情報が多い。
許可が出たことに私は喜んだ。
「本当?良かった」
「でも聞くのあんまりお勧めしないよ?あんまり気持ちの良い話じゃないから・・・」
「え、そうなの?」
ミルカが躊躇するような内容の事態に私の生徒が巻き込まれているということなら、是が非でも聞きたい。
「本当に聞くの?」
私は即答した。
「うん。教えて」
それでもミルカは悩んでいるような様子だった。
話すことを躊躇っている。
「あのね。たぶん、アリシスが気にしなくてもパパがそのうち解決しちゃうと思うの。だけどパパは忙しいから上手く手が回ってない部分もあるだろうし、でも、その、あの、なんというか・・・」
パパ。ユノウスが動いてるの?
だとしたら、相当な大事なんだな。
「ミルカ、何が起こっているの?」
「・・・アリシスはこの都市の暗部に首を突っ込もうとしてるよ。この一件の相手はたぶん邪教徒絡みだけど、本当に良いの?」
邪教徒?魔団が関わってるの?
「ねぇ、本当に聞くの?」
「教えて、ミルカ」
彼女は目を伏せながら呟いた。
「・・・これから話す事は他言無用だよ?・・・あのね、白薔薇会って聞いたことある?」
しろばらかい?
何それ?
「聞いたことない」
「最近、べオルググラードに巣を張っている女郎蜘蛛。・・・売春組織だよ」
犯罪組織?
白薔薇会?売春組織??え、フリオ君は男だよ?
「え?それとフリオにどんな関係が?」
ミルカは淡々と呟く。
「エスリルって子知らない?」
「フリオと同級生の女の子でしょ。・・・最近学校を休んでる・・・」
かなりの美少女だ。
たぶん、フリオのクラスじゃ突出した美少女さん。
私のイメージだと随分と物静かな印象の女の子。
え、ちょっと待って。
まさか。
「その子が売ってるの」
・・・。
「・・・なにを?」
「身体を」
・・・。
え、嘘・・・。
私は顔を真っ赤にしながら呟いた。
「そ、そんなことを分かるんだ」
「私たちはそう言うこともね。見ているんだ。ずっとね。何があったか、誰が何をしているか全ての情報を監視している」
そんなこと無理だよ。
どんだけ人数を掛けたら出来るの?
「そんなことはさすがに無理でしょ」
「うん、私たち読み手の思考線上に上がって来ない情報なんて、ほとんど相手にしないから。ダストシュート。全部を見れるけど、全部を見ている訳じゃないの。でもね。その気になればその人について何でもいくらでも調べていられるの。それこそ排泄中の様子だろうが、入浴中の様子だろうが、ナニをしている様子だろうが。そして、神の瞳には過去の瞳もあるから」
過去の瞳?
「簡単にいうと映像を取っておける機能かな。録画機能っていうんだけどね。映像を情報化して自動的に個別ストレージ内に保存する魔法式。保存は10日間だけど、重要情報は個別に長期保存が可能なの」
こわい。
彼女の言葉が怖いかも。
全部見てるって本当に怖い。
神の瞳は例えば、天気を教えてくれたり、私たちにとっても便利な物だと思っていた。
でも、そこまで深く考えなかったなぁ。
全てを見ているということの意味。
べオルグ軍はもちろん誰の許可も取らずに勝手にやっているのだろうけど。
これはちょっと恐ろしいことだと思う。
しかし、こんな仕事。
ミルカは。
よく耐えられるなぁ・・・。
「情報局には男性職員がいないのも情報管理上の資質の問題からだけど」
「そ、そう」
女性だから良いって訳でも無いと思うけど・・・。
「パパもね、神の瞳の情報の直接閲覧しないの。それぐらい私たちは知りすぎている」
「・・・ミルカ」
私は正直、フリオよりミルカが心配になってきた。
こんな部署で働くのつらすぎるでしょ・・・。
「白薔薇会の活動が私たちのところに上がって来たのがおよそ3ヶ月前。最初は噂レベルの情報だったけど。怪しい動きが見えて調べるうちに構成員と見られる男や男の仲介で売りをしている少女たちが見つかったの。白薔薇会の商品は年齢12才から18才まで全部で23人。エスリルは15才だったね。彼女が入会したのは一ヶ月前。いまのところ毎日、相手を替えて、そういうことをしているみたい。で、本題。フリオ君がエスリルがどうもそういうことをしていることを知って辞めさせようとしているみたいなの。つまり、これがフリオくんの事情だね」
フリオくんの行動は分かった。
彼は良い人だし、悪いことをしている訳ではないし、言えない事情も分かった。
でも。
エスリルのしているそういうことって、つまり。
そういうことなのかな・・・。
私は顔を真っ赤にして下を向いた。
「・・・ミルカはその、そういう行為を全部、みたの・・・」
「エスリルの監視は私の担当だから全部みたよ。あの子がどんな男性に抱かれているかも全部知っていてリストアップしている」
顔がさらに熱くなる。
駄目だ。完全に苦手分野。
なんでミルカがそんなに平然としてられるのか分からない・・・。
「べオルグ領府で止めれない?少女売春は禁止されているでしょ?」
「それが問題なの。ないの」
え?
「だから無いの。証拠が。ちょっと法律の話をしようか。アリシス、べオルグ領府令には未成年者との淫行罪は無いの。どうしてだか分かる?」
「え?分からない」
「あり得ないかららしいの。私も今回の件で室長に言われるまで知らなかったけどね・・・。その法律は民衆風土に適しないから見送られた経緯があるんだって。だって、今のところ、この世界の常識では12才で結婚するぐらいだと割と当たり前のことでしょ?」
あ、当たり前じゃないよ!ぜんぜん当たり前じゃない!
「ちょっと、まって、でも」
「性交渉もね。初潮を迎えると始めちゃうところもあるから。こういうのって犯罪じゃなくて、割と常識なの。あんまり気持ちの良い話じゃないよね。例えば、昨年の統計で最年少出産が行われた場所と頻度は・・・」
データを持ち出して来るミルカ。
そ、それは聞きたくない!
「そこまでは言わなくて良いよ!」
「・・・つまり、未成年の性交渉自体を罰則する方が社会常識的に非常識ってことだよ。少なくとも、一般の人たちと異世界の常識を当然の事の様に学んだ私たちとはかなり常識に差異があると思う。私たちの価値観はパパ流だから。でもね。それでも金品目的での未成年者の売春行為は犯罪だよ。それはべオルグ領府条例がばっちりあるの」
あれ?
それならやっぱり犯罪なんじゃ?
「つまり、金品の遣り取りがあれば止められるんだね!それなら・・・」
「ないの」
え?
「見つからないの。今のところ、神の瞳にも写らないの。つまり、金品の遣り取りがまったく見えて来ないの」
「そうなの?」
「どこかでお金の遣り取りが必ず在るはずなのに未だ掴めないの。変な話だけど、今のままでは彼女は特に目的も無いままに毎晩別のおっさんと性行為を行っているという状況になるのかな」
つまり。
「それだと犯罪にならないんだね・・・」
べオルグ軍側が摘発に踏み出せない理由が在るわけか。
「うん、そういう事だね。それでも侵入捜査が始まったし、この状況が長くは続かないとは思うんだ。いつかは解決するよ」
そっか。そうなんだ。
しかし、まだ犯罪と言う証拠がないとなると確かに止めるのは難しい。
歯がゆいなぁ。
「ねぇ、エスリルをフリオ君が追っている理由ってなんだか分かる?」
「それはきっと好きだからだと思うよ」
・・・え。
意外な言葉に眼が点になる。
「そ、そうなの?」
「うん、私はそう思うかな。ただの勘だけど。きっとフリオはエスリルが好きなんだよ」
ミルカの勘は当たる。
というか、彼女はそういう能力持ちだし。
でも、そうなら・・・。
私は困惑しながらミルカに尋ねた。
「フリオ君はこの事を知っていてエスリルを止めようとしているの?」
自分の好きな子が夜な夜な別の異性と・・・。
想像しただけで嫌だと思う。
私で言えば、ユノウスが毎晩、別の女性と・・・。
・・・あれ?なんだか想像がつくような・・・。
彼はモテるしなぁ・・・。
うぅ、ちょっと泣きたい気分になったよ
それは置いといて。
ミルカが私の言葉に頷きながら言った。
「きっと知ってると思う。エスリルはね。フリオ君と同じウォルドの出身で同じ階級の出身なんだよ」
つまり、ウォルドの奴隷階級出身と言うわけか。
「フリオ君は彼のクラスの奴隷階級の人たちの兄貴分なんだよ。あのクラスにはウォルドの貴族市民階級からの奴隷階級に対するいじめがあったから」
「まって、初聞き・・・そんな問題が学校にあったの?」
「そうだよ。一応は解決してるけど、時々はそう言うことになってるのかもしれない」
うわ・・・。
そんなことになっていたなんて知らなかったよ。
「そんなこと止めないと!」
「その気持ちは分かるけど、でもね、アリシス。それを貴方たちが教師の立場から止めれるかは別問題だと思うよ」
「私が止めたら駄目なの?」
「駄目じゃ無いけど。それはアリシス個人の行動になっちゃうよ。私たちはそれとなく勧告を行うけど、あくまで解決するのが自分たちというスタンスはたぶん崩せない。このレベルの対立に私たちが逐一武力介入なんてしてられないし。それをしてくる組織がどれほど疎まれるかも分かるでしょ?」
「それは・・・」
そうかもしれないけど。
でも、見過ごせないよ!
「旧ウォルド圏の人たちの対立は学校だけじゃないから。難しい問題だよ」
「だけど・・・」
「エスリルの両親は共働きで両方ともユノウス商会の系列店に勤めているよ。父親は元労働奴隷、母親は元性奴隷だったみたい。エスリルもね。9才までの幼少期に性奴隷としての調教を受けていた時期があるの」
・・・重すぎる。
そういう子供も居ることは分かっていたけど重すぎるよ。
私は頭がくらくらするのを押さえながら話を続けた。
「待って、それなら、両親は結構お金持ってるんでしょ?どうして、エスリルは身体を売っているの?」
理由が分からない。
私が尋ねるとミルカも首を振った。
「両親とうまく行っていないのかもしれないね。理由は私も把握出来てないよ」
そうか。
でも、いずれにせよ。
「彼女を止めないと!」
「私もそう思う。ただ、彼女が自分で抜け出す意思を持たないと解決しないと思う」
「彼女に会ってみる」
「うん。分かった、協力するよ。フリオは私の大事な孤児院の子供だし」
「ありがとう、ミルカ」
すると彼女は申し訳なさそうな顔で小さく呟いた。
「ごめんね。アリシス」
「え?」
「私はこの仕事に就いてるから動けないの。この仕事を続けて行くことが私の役割だから・・・。アリシス。私たちの大切な家族をよろしくお願いします」
「任せて!ミルカのサポートが在れば、大丈夫だって!」
※※※※※※※※
40代をいくらか過ぎた小太りの男は随分と荒々しい息遣いで事を終えた。
「うっはぁ・・・エスリルちゃんは最高だなぁ」
「ん・・・、そう?ありがとう」
私は躯をゆっくりと起こす。
行為の証が太股を伝うのを見て、少しだけ不機嫌になる。
ここはラブホテルというそういう事向けのホテルだ。
もちろん、今、私がしていること向け、と言う意味ではない。
こういう用途のホテルもユノウス商会の関連会社らしい。
彼処は何でも商売にしちゃうんだね。
「エスリルちゃんはこのあとどうするの?」
おじさんが笑顔でそうつぶやく。
私は淡々と言った。
「今日はこのまま泊まっていくわ」
部屋は一泊で取ってある。シャワーを浴びて朝まで寝るだけ。
「じゃ、もう一回どうかな?」
「ごめんね。ビジネス以外のさーびすはしないから」
そう言ってから、おじさんに軽くキスをしてあげる。
さっきやっている何度も交わした行為だ。
帰るまではお仕事のうちだ。
早く帰ってほしい。
キスをしたら、おじさんのモノが急に猛り勃った。
私はそれに気づかない振りをしながら、呟いた。
「おじさん、ばいばい」
「そ、そっか、またよろしくね!」
男は服を着るとそそくさと帰っていく。
良かった。
襲われたら非力な私は応じなければならなかっただろう。
最後のキスは失敗だった。次からはやめよう。
男の帰っていく様子を眺めながら、私は布団の上に倒れ込んだ。
疲労感が全身を覆う。
寝たいけど、シャワー浴びないと気持ち悪い。
あの男は私をキャンディーか何かと勘違いしたみたいに舐め回してきたから、全身がべとべとだ。
気持ち悪い。本当に気持ち悪い。
最後は中だったけど、大丈夫。妊娠の心配はない。
私の中に入ったモノは彼らに会えば、消去魔法で処理してくれる。
お金を貰う際に魔法で処置をしてくれるのだ。
嗚呼、気持ち悪い。
こんなこと、気持ち悪いなら辞めれば良い。
でも、私は辞めない。お金を稼いで一人で生きていくんだ。
そして、私に出来る仕事なんてこれぐらいだ。
私の居場所はもうここにしかないのだ。
私は重い身体を起こすとシャワー室に向かった。
本当に身体が重い。心も重い・・・。
ただ、重たさだけが日々積み重なっていく。
嗚呼、どんどん息苦しくなっていく。
こんな生活を私はいつまで続けるつもりだろう・・・。
シャワーを終えた私は髪を乾かす事もせずに布団にくるまった。
もうげんかいだ。
私は静かに眠りについた。