幼児と はな のお話
※7月12日改訂
私、メーリンにはひとつ悩みがあります。
そう我が娘ユフィリアのことです。
娘は酷いアレルギー持ちで慢性的な喘息に悩まされてました。
高名な医者を呼んでは高級なクスリを与えましたが効果も今一つです。
そのこと自体も問題ですが、外に出ると体調を崩す事もあって結果的にユフィは家に閉じこもりがちなのです。
お陰で発育も悪いし、何より同世代の子供と遊んだ経験が全くないのです。
しかし、腹を痛めた我が子。幸せに育ってほしいとそう願うのです。
もはや、健康的にとは高望みいたしませんから。
私は一計を講じて、2つ年上のレオに妹の面倒を見せることにしました。
ちょっとわがままに育っているレオも妹の面倒を見ることで良いお兄ちゃんになるかも知れない。
そう思ったのです。
しかし。
「ちょっと、レオ。ユフィと一緒に遊びなさい!」
私はレオを呼び止め、そう話しました。
「えー、やだよ。だってユフィ、鼻水ばっかでばちぃじゃん」
ああ、何という物言いでしょう。
部屋の隅でユフィリアがむっとした顔をしています。
「こらレオ!」
「わ、やべぇ」
私に怒られると思ったのかそそくさと走り去っていきます。
やはり、合いませんか。
ユフィがする遊びというのもお人形遊びとおままごとぐらいで体を動かす遊びが大好きなレオにはまったく合わない様です。
一方のユフィもぬいぐるみを抱いて塞ぎこんでいます。
ああ、もう。
私が困惑しているとメイドの一人が私に言いました。
「ミリアさまの息子のユノさまと遊ばせてはどうでしょうか?」
「ユノと?」
ミリアが良いと言うかしら?
私はあの気ままで暢気なエルフの少女が別に嫌いでは無いのです。
夫の浮気に関しては、公爵に嫁いだときからそう言うこともあるだろうと思っていましたし気にはしていません。
ただ、ミリアさんの方の心中はいろいろ複雑なのだろうと思います。
仲良く出来ているとは言い難いのが実情なのです。
◇◇◇◇◇
三歳半になった。
そんな、ある日の事だ。
ミリアから妹のユフィリアと遊ぶように頼まれた。
妹と言っても歳は同じ、生まれは僕が数日早いらしい。
おいおい、同じ時期に生まれるって。
つまり、どういうことだよ、ルーフェスめ!
「ユフィちゃんはいつも体調が悪いのよ。あんまり無理させられないからね。一緒に家で遊べる?」
母親であるミリアの言葉に僕は内心、首を傾げた。
うーん、普通子供に頼まないよね。
まぁ、良いけど。
母の頼みなら引き受けよう。僕は頷いた。
「はい、御本をかしてください。よみます」
「そうよかった。さすがユノちゃん」
そう言ってむぎゅーと抱きしめてくる。
最近、スキンシップが増えたなぁ。
なんかの本の影響かな?
まぁ、もうなれました。
◇◇◇◇◇
本邸の屋敷に上がるのは初めてだ。
自分のいる家が別邸だと分かったのは庭を自由に捜索し出してからだ。
正直、本邸にはレオもいるし、あんまり近づきたくないんだよね。
子供と遊んでもしょうがないしー。
本邸に入ると一人の女性に声をかけられた。
なかなかの美人だ。
「あら、君がユノくん?」
「はい」
見たことないおねぇさんだ。
「あらまぁ、ミリアにそっくり」
誰だろう。サーチかけたい。
しかし、相手は大人だぞ。
むー、サーチしたい。でも危険だなぁ。
禁断症状がぁー。サーチぃ。
という冗談はさておいてほんと誰だろ?
母であるミリアに尊称が付かなかったということは。
「メーリンさまでしょうか」
「え?あら、そうだけど」
ビンゴ、なるほどこれが正妻か。めちゃ美人じゃん!
こんな美人嫁がいるのに浮気かよ。
くそルーフェスめ。爆発しろ。
いや、むしろ爆発させてやるから覚悟しろよ。ふふふ。
「・・・ねぇ、頭撫でて良い?」
「?いいですよ?」
突然の提案に困惑しながら頷く。
「きゃーかわいい」
なでなで。
な、なんだこの状況??
なぜかメーリンは僕の頭を撫でて悦に入っている。
意味分からない。
うーん、小動物的な扱いかな。
ひとしきり頭を撫でて満足したメーリンが言った。
「ユノくん、私の娘のユフィと遊んでくれるのよね」
「はい」
するとメーリンが僕の持ってきた本を見て呟く。
「あらその本、どうするの?」
「僕がユフィによみます」
「読めるの?」
「だいたい」
もちろん本当は超余裕です。もう文字も書けるし。
超難しい魔法書だって一人で読めちゃうんですよ、えっへん。
「凄い、しっかりしてるのね」
「はい」
そう元気に挨拶するとまた頭を撫でられた。
どういうことだよ。本当に。
◇◇◇◇◇
ユフィのいる部屋に入る。
僕の部屋に比べると大きいな。
そもそも僕の部屋はもともと物置き部屋だったらしいし。
「ユフィ」
名前を呼んでみる。妹はどこだ?
「だれー?」
おお、この子がユフィか。
わぁお、くそちんまいな。
「ぼくはおにいちゃんのユノだ」
「ユノ?おにーたん?」
おにーたんだと!?なんて幼女だ!
「いや、おにいさまだ」
そう試しに言ってみる。
「おにーたま?」
おお、これは。可愛い。
僕はユフィに近づくと頭を撫で撫でした。
「なーに?」
「え?いやー」
なるほど、これは撫でたくなるな。良いものだ。うんうん。
僕は手に持った動物絵本を掲げた。
「ごほんよんであげるね」
「ほん、よんで」
おお、良い子だ。レオとは正反対じゃんか。
僕はしばらく本を読んだり、ユフィのおままごとにつきあったりして過ごした。
◇◇◇◇◇
すでに一週間が過ぎた。
ユフィと遊ぶのは一日に3時間ぐらいだ。
まぁ、そのぐらいなら別に拘束されても良いかな。
「くしゅん」
ユフィリアといっしょに遊ぶ様になってこの様にくしゃみをする場面をよく見る。
これはアレルギー性のものなのかな。
こういうものは大抵成長すると治るのだけれど。
「ユフィリア、大丈夫」
「うー、うー」
うーん、つらそうだな。
そうだな。ちょっと調べてみるか。
「サーチ」
僕は空気にむかってサーチを唱える。
こういう認識で空気に向かってこの魔法を唱えるのは初めてだ。
空気の成分が僕の前に羅列される。
微生物・・・。
うーん、君らが居るのは知ってるけどさぁ、こういうのはあんまり見たくないなぁ。
項目を確認していく。
意識を変えて花粉を表示させるようにする。
よし、上手く行ったぞ。
あんまり微量なのはたぶん関係ないな。
これかな?量的には多いし。
「サーチ」
一つの物体に狙いを定めてサーチを唱える。
スミナの花粉 スミナ科スミナの花の花粉。稀にアレルギーを引き起こす
ビンゴ?かな?
ひとまず試して見ないと。
「リフレッシュ」
周囲の空気が光り出す。成功。
これでとりあえず周りの空気からスミナの花粉を取り除かれたはずだ。
さてどうだろうか?
「ユフィ。何か変わった?」
「うー。なぁにぃ?」
変わりなし。違うかな。
僕はひとまずユフィに向けてもリフレッシュを唱えた。
すると。
「あれ?あれれ」
おお、変化有りか。
「ユフィ。変わった?」
「おはな、むずむずしない」
そうか。
周りの空気も大事だが抗体反応起こしてる体内の花粉を直接消去した方が効果は良いのか。
原因物質を取り除いたのでユフィは嬉しそうにはしゃいでいる。
うーん。
この魔法、アレルギーには効果覿面だな。
しばらく、そのまま遊んでいたが途中でメイドが入ってきた。
部屋の外の空気が大量に入ってくる
ああ、駄目かな。
すると、ユフィが言った。
「おはなむずむずするー」
よく言えました。ではないよねー。
ああ、やっぱり。
「ぴかーやって」
ぴかー?ああ、リフレッシュか。
確かに光るもんなぁ。
「今は無理」
「えー、やって」
メイドさんがいるので無理です。
「やってぇー」
「むり」
「けちぃ」
「どうしたの?」
メイドさんが僕らのやり取りを不思議そうに眺めていた。
◇◇◇◇◇
すでに一ヶ月が過ぎた。
ユフィのアレルギー物質は大きく3種類のようだ。
こういうのは大人になれば和らぐだろうけど。
あの一件以来、ユフィは僕と常に遊びたがる様になった。
まぁ、お友達というより、空気清浄機の代わりだろう。
僕も人が居なくなればリフレッシュをかけて上げるし、まぁ、しょうがない。
僕も大概便利だね。
「おにいたま、ぴかー?」
「ぴかーまだ」
「ぶーぶー」
ちょっと我が儘になってきたかな?
甘やかすのはいかんですよね。
「さて、そろそろ帰るね」
「やだー!おにいたま、ずっといっしょにいる!」
「えーやだー」
「やー」
「だめー」
ぷぅと頬を膨らませるユフィ。ハムスターみたいだ。
「明日もくるから」
「ほんと?」
「本当、ほんと」
さて、帰ろう。
まったく空気清浄機も辛いよ。
「あら、帰るのね。いつも遊んで貰ってありがとうね」
「いえいえ」
これもお仕事ですので。
僕はメーリンやお付きのメイドに挨拶をして別邸に帰る。
しかし、ユフィもだいぶ文字を覚えて来たなぁ。
絵本の読み聞かせも割と効果がある。
案外、頭は良いのかもなぁ。
ふと道端に花が咲いているのが見えた。
随分ときれいな花なんだな。
サーチをかけてみる。ん?これは?
「これがスミナの花かぁ」
へー、こんなのがアレルギーを起こすのか。意外だ。
これに直接リフレッシュをかければ効果的かもなぁ。
でも、そうなると次の花が咲かなくなる。
ただ咲く花に罪もあるまい。
「さて帰るか」
僕は花をそのままにして僕は家路を急いだ。