叡智の結晶※
その日は朝から聖団の使者の一団が尋ねていた。
若い娘の司祭が大きな包みを抱えている。
「今日はこちらの品をお納めして頂きたく思い、お伺いしました」
そう言って品を広げる。
中身を見て、僕は思わず、目を開いた。
品は大きな宝玉の付いた荘厳な意匠の杖だ。
見るからに高価な品である。
「でかっ。これ、神唱結晶だろ?」
僕は宝玉を指さし、そう尋ねた。
「はい、これほど大きな結晶の現存はそうありません」
そりゃ凄い。しかし、これほどの品を聖団が譲ってくれるのか?
何故だ?
「これはどういう神遺物なんだ?」
「効力は使い手の知力を倍加させるとか」
それはますます凄いな。
僕みたいな知力タイプ垂涎の品だ。
「ええ、ただ。確かに強力な宝具ですが、癖がありまして」
「癖?」
「ええ、どうも、神唱石にまだ神の残留思念が遺っているらしく、気難しいと言いますか、使いにくいと言いますか」
「へー、どんな」
「まず、処女の美少女にしか力を貸しません」
「・・・おい」
あり得ないだろ、そんなアイテム。
ユニコーンホーンだってもう少し自重する。
「ただ、時々、イケメンでも可だとか」
「へー」
「あと、美少女が持つと微妙に微細動します」
「怖いわ」
なんで震えるんだよ。
必要ないだろ、その機能。
「時々、おっぱい、パンツ、裸と言った雑念が脳に響きます」
「最悪すぎる。どんな呪いのアイテムだよ!!」
頭おかしいだろ!この杖!!
何を要求してるんだ!!
「ええ、それで怒った先代のアンネリーゼ様が封印領域送りにした次第でして」
「うわぁ」
出る振るンガーのセクハラ強化バージョンか。
そりゃ、倉庫逝きだな。
うん。
「これと引き替えに、是非、神滅剣を一本譲って、頂けませんか?」
その言葉に僕は唸った。
「う、うーん」
「要りませんよね?」
何だよ、エヴァン。その念押しは。
また変な物を拾おうとしてみたいな顔は。
いくら、僕だってセクハラ杖なんていらんよ。
「駄目でしょうか?」
ダメダメだろ。
交渉になってない。
まぁ、セールストークをしに来た訳では無いようだが。
神滅剣はついでっぽいな。
「神滅剣を渡すことは構わない」
でも、この呪いのアイテムはちょっと・・・。
そう言おうと思った僕に対して使者がにっこりと笑った。
「その神唱石、元は創世神クラスだったそうです」
「交換して頂こう!」
新たなるチートの予感!!
これを見逃す手はないよ!!!
「・・・」
「何だよ、エヴァン」
こうして、僕はセクハラ杖をゲットした。
◇◇◇◇◇
全ての準備が整い、僕は魔法陣を前に笑った。
「と言うわけで神様復活だ!!わははは」
「何が出ても知りませんよ」
大丈夫だって!
なんとかなるなる!
今回は材料の無唱結晶を一杯用意したからな。
かなりの高レベル神に期待だ。
僕は魔法を唱えた。
「いでよー」
魔法陣から光が溢れ出し、周囲に満ちた。
蒸気が濃霧のように沸き立つ。
「どうだ?」
煙が晴れると一人の少女が澄まし顔で座っていた。
「今度は少女か」
身長は140センチぐらい。
さすがにあれだけ巨大な神唱結晶だけのことはある。
さすがに宝珠がデカいだけに大きいな。
ロリ幼女では無くロリ美少女になったようだ。
でも、女体化は確定なんだ。
そういえば、この神さま復活で毎回、神様は服を着て出てくるんだが何故なんだ?
まぁ、裸で出て来られても色々、気まずいだけだから良いけど。
やがて。
少女が目を開いた。
「ふふふ、永きに渡る雌伏の刻を経て、ついに、この儂様が復活なのじゃー!!」
おい。
「なんだ、量産型のじゃーが出たぞ」
はいはい、フェイフェイなかちゃんなかちゃん。
ちっ、はずれカードかよ。
「ふっ、儂様を知らんとはのう!主人様、さてはモグリの魔法遣いじゃな。そう、儂様こそが全ての魔法の始祖にして、開祖、魔法言語を世に生み出せし、魔法の大神、神々の主君たる神の王!!オーディン様なのじゃー!!!」
「お、これSレアかな?」
実はラッキー?
よく見ると桜舞ってるかもしれん。
「なんの話ですか?」
「ちょ、今のは儂様の発言に畏れおののくところじゃろ!!」
「まぁー、でも、美少女だし、怖くはないわな」
「そうですね。威厳がありません」
「誰が美少女じゃ!儂様は渋い髭ダンディじゃぞ!!」
そうは言うが美少女だし、凄んでも美少女だし。
威張っても美少女だし。
「エヴァン、鏡」
「かしこまりました」
自称オーディンは鏡を見ると困惑した声を上げた。
「なななんじゃと!?儂様が超絶可愛い美少女になっておる!!」
自分で超絶美少女とか言ってるよ。
頭おかしい。
大丈夫か。こいつ。
「バカな!究極完璧な知性生命体である儂様が完璧である上に美少女の愛らしさまで手に入れたと言うのか!!これは新たなる次元、更なる高みへと儂様が辿り着いたと言うても、何ら過言ではないのじゃ!!」
長い長い。
自分誉めが長すぎだって。
「テンション上げすぎだろ。何でそんなに喜んでるんだよ!」
普通、もう少し困るだろ。
「ふふふ、若人よ、汝には分かるまい。求道とは終わり無き旅路。時として迷い道、回り道と色々あるものじゃ。しかし、歩み続ける事にこそ意味はあり、探求こそ道の極意。つまり、儂様は新たなる道筋、美少女道を極めるのじゃ!!」
「いや、極めるなよ、そんな道」
そもそも論理飛躍しすぎだろ。道に迷いすぎて目的地を見失ってるだろ。
だまって、魔法でも極めてろ。
「儂様は凝り性なのじゃ!!」
威張るな、そんなもん!
凝らずに少しは懲りろ。
呪いのアイテム扱いで倉庫行きの憂き目にあってくる癖に。
「さーて、まずは裸になるのじゃ!うふふふふ」
「自分の裸に興味津々だな!このTSロリジジイ!!」
「ここで脱ぐのは衆目がありますので止めてください!!」
「ふ、汝らも、生真面目な雄よのう。儂様という美の結晶を崇められるチャンスだというのにぃ!」
どうして、そこまで自惚れられるのか。
そして、脱ぐな。
「いい加減にしろ!封印して倉庫に送るぞ!!」
僕の言葉に半裸状態の美少女が動きを止めた。
「む!?ふ、主人様に止められては仕方あるまい。脱ぐのは後じゃ」
「後で脱ぐのは確定なんですね」
「当然じゃ!」
当然なんだ。
いや、もう良いけど。
「まさか、オデンとはなー」
「お、おでん??なんじゃ、それは?」
お前の哀称だ。オデン。
「どうします?」
そうだなー。どうしよう。
「ひとまず、祝福、寄越せ」
「嫌じゃ」
「よし、封印しよう」
ほうしん が決まった。
「待つのじゃ!冗談なのじゃ!封印は嫌なのじゃー!」
「僕に死ぬほどこき使われて死ぬか、倉庫で丸くなって人生という字を書き続けて生きるか。どっちかにしろ」
「鬼じゃ!鬼がおる!!」
あー、のじゃーのじゃーうるさいなー。
「主人様よ、儂様はかつてこの世界をひゃはーした主神じゃぞ!?こう、厚遇しておけば、特典が・・・」
「口塞いで埋めるか」
「聞くのじゃー!!儂様は偉いんじゃぞ!!」
「かつての栄光ですね」
「そうだな。お前、聖団じゃ倉庫に眠らされてたもんな」
可哀想に。埋めよう。
「くっ、良いじゃろう!そこまで言うなら儂様の神級魔法を見せるのじゃ!!見るが良い!!神唱結晶!!」
オデンが魔法を唱えた。
確かに神唱結晶ができた。すごい、すごいが・・・。
あれ、グングニールじゃないの?
てか。
「あ、それ、もう使える」
「なんじゃと!??ばかな!うそじゃ!!」
そんなに驚かれても。
こっちは使えるし、しょうがないじゃん。
「どういうことでしょう?」
「さぁ?」
マテリアは神級魔法じゃないだろ。
既存の魔法文字を全部使うけど。
けど……。
ん?
「試しに使ってみるのじゃ!!ほれほれ!」
面倒だな。まぁ、仕方ないか。
「ほい、神唱結晶」
「む!そんなにあっさり・・・ほほう!」
むー、むー、と暫く人の魔法を眺めていたオデンが頷いた。
「ふむ。どうやら儂様の神級魔法に間違いないようじゃな!」
「え、そうなの?」
「そうじゃ!何せ、儂様は魔法を使いたいと願う人の祈りが結晶化した神じゃからのう」
「へー」
魔法を願う魔法の神。
それで神級魔法が魔法の具現化か。
なるほどね。
「儂様の加護は人がスーパーエゴに接続出来るようにすることなのじゃ。つまり、魔法とは全て儂様の神唱結晶を通して、使用できるようになるのじゃ。もっとも、そのままでは儂様が破壊されると世界から魔法がなくなってしまうことになると危惧してのう。神級魔法を遣い、儂様の奇跡の一部を用いた神唱結晶にルーンを封じ込めて、遺したのじゃ」
「それはすごいな!」
つまり、そのオーディンの一部であるルーンの力を引き出すことで、僕も神唱結晶魔法が使えるのか。
何にせよ、人の役に立ってるよ、このオデンちゃん。
良かったな。
「良し。じゃ、もう用済みなんだな!」
さらば、オデン。
「???はっ!?ふういんはだめじゃー!!」
「大丈夫。ちょっと、ちくっとするだけだからー」
「やめるのじゃ!!やめるのじゃ!!」
僕が手を伸ばすとオデンが必死に逃げる。
ははは、無駄無駄。
「で、どうするんですか?」
暫く、追いかけごっこをしていたところ、エヴァンからそう問われた。
僕はちょっと考えると呟いた。
「え?あー。どうしよう」
本気で役に立たなくないか?魔法神。
やっぱ物置かな?
「儂様の評価低すぎじゃろ!今の儂様でもLV2000はあるぞい!」
「へー」
そうなんだ。さすがにあの大きさの結晶だったことはある。
「しゅ、祝福もあげるから!頼むのじゃ!」
「んー祝福の効果は?」
「知力二倍じゃ!」
おお、結構便利だな。
これは色々捗りますわー。
「分かったよ。契約しよう」
「そうか!分かってくれたかのう!!」
オデンは緊張した面もちで言った。
「そ、それではせ、接吻をじゃのう・・・」
「え、お前もキスなの?」
神の祝福、キスが多過ぎだろ。
そういえば、とーるたんもほっぺにちゅーだったな。
「そうなのじゃ!そうなのじゃ!恥ずかしいのう・・・」
は、恥ずかしがるなよ!じじい!!
「仕方ないのじゃ、今の儂様は乙女なのじゃ!」
「おかしい、このじじいおかしい」
「待つのじゃ、そもそも神は性別なぞないのじゃ!信仰でキャラが決まってしまう場合もあるが基本的に無性なのじゃ、しかし、今の儂様は何故かおんにゃのこの気持ちなのじゃ!!」
「ほほう、それで?」
「どきどき」
「埋めよう!こいつを埋めよう!エヴァン!」
こいつやばい。たぶん色々アウトだ。
あかん奴だった。
「じょ、冗談じゃ」
「ほんとうだな?」
「ほんとに、ほんとなのじゃ!」
「よし」
オデンは僕に近づくと頬にキスをした。
これで祝福が獲られたはずだ。
「ますたー(ぽっ)」
「埋める!」
「冗談じゃ!やめー」
そう言って、震えるオデン。
「…ところで主人様、どうして儂様を復活させたんじゃ?」
「それを今頃、疑問に思うのかよ」
こいつ、疲れるわ。
「ふふ、答える必要は無いぞ、儂様のこのメモリースキャンで」
「させるか、呆け」
「頼むぅ、知識がほしいのじゃ!知識!知識!!」
「僕の記憶だぞ!?やらんたらやらん!!」
「儂様の知識と交換でどうじゃ?ほれほれ魔法神の知識じゃぞ?世界最高の賢者じゃぞ??」
「むー、それじゃあ、仕方ないな」
「仕方ないんですか!」
いままで、おとなしく聞いていたエヴァンが思わずつっこみを入れた。
いや、だって、お前、魔法神の知識だぞ?
ちょっと期待しない?
「交換成立なのじゃ」
僕とオデンが知識を交換する。
おお、これは…。
…なるほど。つまり…。
「萌え道じゃと!?まさか、こんな道があったとはのう!!」
「・・・」
あれ?
これ拙いことした系?
すると、したり顔のオデンが僕の方を向くと言った。
「きゅぴぃ☆、オーでぃん、マイマスターのためにマジガチる感じでー、てへっペロ♪」
・・・。
「どうじゃろ!!」
「埋める!!」
「や、やめるのじゃ!その太くて堅くて黒くてゴツゴツしたものをしまうのじゃ!!そんなもので貫かれたら、儂様、昇天してしまうのじゃ!!」
「てめぇ、神滅剣をそんな風にいうんじゃねぇ!!」
「だめ!ラグナらめぇなのじゃ!」
「ほほう!ずいぶんと余裕だな!!」
すると、エヴァンがにっこりと笑いながら言った。
「もう私は帰りますね」
「「見捨てるのいくない!!」」
こうして、僕はTSロリジジイを手に入れたのだった。