ユノウス、学校辞めるってよ
※7月12日改訂
野外に設けられた秘密の修練場。
そこで金に輝く剣士と青く輝く剣士が剣をぶつけ合っていた。
単純な力では、ほぼ互角。
しかし。
きん、と甲高い金属音とともに一方の剣が天高く舞った。
勝ったのは金の騎士だ。
「くっ、勝てぬか」
「ぎぃ、ワタシがここまで苦戦するとはな、見事ダ。竜王ガーヴィ」
「お前こそ、恐るべき剣の冴えだな。愚王」
お互いがお互いを賞賛しあう。
(もっとも。本気を出させたとは言い難いな)
ガーヴィは内心で不満に思った。
魔獣としては、目の前のゴブリンより自分の方が格上のはずなのだが。
彼は竜の肉体の一部を移植された改造リザードマン。
ドラゴニュートである。
人外軍への編入こそ遅かったが、急速に成長し、今ではその中核を担っている。
我らが最強。のはずだった。
「どうダ。ラグナは使えるカ?」
「残念ながら、無理だな。ハジャやハロであれば使える」
「そうカ」
(それでも邪神様の役に十分立つ)
愚王はそう思った。
個体のすべてがハジャが使えるというだけでも破格だ。
ゴブリン軍にはハジャ使いは数人しかいない。
その内の一人である愚王は笑った。
ドラゴニュートはラグナに関する技術研究の一環として生まれたものたち。
彼は別の剣を抜いた
「ぎぃ、ラグナについてはこの剣があればヨイ」
愚王が邪神様より下賜された新たな剣。
神滅剣ダークブリンガー。
それはこの愚王が神すらも殺せることを意味している。
(むぅ、神殺しの獣であることを期待させた我らがそれを得られず、只のゴブリンである彼がそれを得る)
皮肉だな。
竜王が自嘲していると愚王が通信機を出して何かを聞き始めた。
「どうした?」
「ぎぃ、邪神様から新たな任務ダ」
「どんな任務だ?」
「ぎぃ、我らはこれより盗賊となる」
◇◇◇◇◇
2ヶ月が経って、夏休みが終わり、学校が始まった。
それなのに。
「来ない」
どこにもあいつがいない。
どういうことなの?
学校をいままで休んだ事、無かったのに。
に、二ヶ月間も必死に我慢したのに。あいたいのに。
どこ?
ユノウス。どこなの?
◇◇◇◇◇
夏休みが開けて、一週間が経ってもあいつは来なかった。
酷いよ。どこにいるの?
「だ、大丈夫?姫」
「・・・」
シエラが心配そうに私を見ている。
私はなにが大丈夫なのかよくわかんなくて、首を傾げた。
「この反応そうとうヤバいな」
やばいってなにが?
「ユノウスくん、何をやっているの!姫が!姫が!!」
いない。
そっか。
ああ、あいつ、今日もこないんだ。
がっこう、どうでもいいなぁ・・・。
「た、大変っす!!」
「どうした?シェイド」
「し、し師匠!やっぱり、学校辞めるそうです!」
「馬鹿!!今、そういう話を!」
がっ。
私は思わず立ち上がっていた。
周囲の人間がぎょっとした顔で私を見ている。
「 ・・・・・・ねぇ、それ、どういうこと? 」
「「「え、いやっっ・・・」」」
シェイドの話によると。
ユノウスは王立学院を辞めるらしい。
そりゃ、もうあいつがここで学ぶことなんてないだろう。
あいつはただ、つきあってただけだ。
そのつきあいの必要がなくなって。
だから、捨てたのだ。
わたしを。
わたしたちを。
「ユノウス、来てるの?」
私の言葉に応えたのは扉の外だ。
「ああ、来てるぞ。姫」
その声を聞いて、その姿を見て、私は瞬間的に泣いた。
涙が溢れてくる。
わかんない。
わかんないよ、もう。
「うぅ」
「え?なんだ?」
「ばかぁああ!!」
私は教室を走り出した。
あんなに逢いたかったのに。
いま、逢うのは辛すぎる。
やだよ。
おわかれは嫌。
もう嫌。
いやなの!!
「うわぁあああぁぁぁああああぁぁ」
私はあたまぐるぐるで駆けだした。
わけわかんない!!もおぉやだぁあ!!
◇◇◇◇◇
「わけわからん」
何だ、あいつ。恋愛脳でも拗らせたか。
まだ、9歳だろ。おい。
「ユノウス」
「ししょう」
「お、追いかけてあげて!」
学友の必死そうな顔に僕はため息を吐いた。
「ああ、分かったよ。が、その前に」
僕は懐から白い封筒を人数分取り出した。
「実はお前たちに渡すものがある」
◇◇◇◇◇
学校の隅の森に私は隠れていた。
こんなことしても意味ないのに。
どうしてかくれてるのかな。
ユノウスがこのままいなくなって。
わたしはどうしたらいいのかな。
わかんない。
「あのさ、僕相手にかくれんぼは意味ないだろ」
彼だ。
そう言われて、私は震えた。
「こないで!!」
「行かなきゃ話もできないだろ」
「やだ!!」
「アリシス。何を怖がってるんだ?」
「だって」
「だって?」
「ユノウスがどっかいっちゃう!!やだ!!」
どっかいっちゃたら。
もう追いつけないよ。
遠すぎて、私じゃぜったい届かないよ。
むりなの。
「どうしてなの!わたしだって、わたしだって!」
「アリシス」
彼が私の横に立つと頭に手を置いた。
ぽんぽんと軽く叩く。
それから、わたしの横に座った。
「ユノウス」
「ここからこうやって見える世界がおまえの世界だよな」
彼は笑った。
「うん、嫌いじゃなかったぜ。悪くなかったよ」
「え」
だって。
「おまえの大切な場所、大事にしてたもの、悪く無かった。別に嫌いじゃないし、ぜんぜん良かったよ」
「ゆの」
「でも、僕は変わるんだ。人は変わる。今の僕はやっぱり、この学校には居れない。ごめんな」
私は涙を流した。
大粒の涙が頬を溢れる。
「そんな、そんなのって、やだよ、ずっと、いっしょにいたいよ。いっしょにいてよ」
「ああ、わかるよ。でも応えられない」
そんなのざんこくすぎる。
そんなのさいていだ。
わたしがわるいの?
わがままだったから。
みすてるの?
「わたしは」
「だから、これを君に託す」
え?
彼が白い封筒を差し出した。
「決めるのは君だ。僕は進み続ける。変わり続ける。君がついて来たいなら、僕は止めない。君が変わりたくないならそれも止めない」
「わたし」
「変わるか決めるのは君だ。アリシス」
その言葉に。
私は白い封筒の中身を開いた。
べオルグ領立学校、特待生招待状。
これって。
そうか。
そうなんだ。
まだみすてられてない。
わたしのこと、まだみすててないよね。
ユノウスは、すこしでも、ほんのちょっとでも、
わたしのこと、考えてくれてるよね。
だから。
わたしは、まだユノウスとつながっていられる。
彼の背中をまた追いかけても良いんだ。
そうだよね?
「いいの?」
きみのこと、おいかけても。
いいの?
「ああ」
わたしは。
きめた。
「わたし、かわる」
「おう」
「ユノウスに好きになってもらえる、おんなのこになる!」
「え?いや、べつにそういうのはそこまでがんばらなくても・・・」
彼は焦った様な顔でわたしを見ていた。
私は決めたんだ。
変わるから。
ユノウスのこと、だいすきだから。
ユノウスにだいすきになってもらえるようにいっしょうけんめい
がんばるっ!
「わたし、がんばるから!!」
いまは届かなくてもいい。
追いつくから。
届かせるから。
わたしを。
わたしのだいすきを。
ぜったい。
ぜったいだもん。
わたしの必死の言葉に彼は微笑んだ。
「ああ、期待しているよ。アリシス」
◇◇◇◇◇
次の日。
一日中、放心状態で机に屈服するユノウスの姿があった。
そんなユノウス、つか、僕の姿にエヴァンは呆れ顔で言った。
「今度はどうしたんですか?」
「壮大ナ自己嫌悪中デース」
「なんですか、それは」
エヴァンが眉を歪めた。
彼が説明を求めている様なので僕は言った。
「いや、あんまり子供相手に意地悪すると可哀想かなって、大人の余裕ぶった態度でちょっと格好つけて来たんだけど」
正直、泣いてる女の子の前でもいつもの僕を出来るほど強い人間でもないので。
軽く八方美人的な態度を取ったわけですが。
「はぁ、ずいぶんと慣れないことをしましたね」
「その、軽くフラグ立てミスって、光☆源氏ルートやっちゃいまして」
「なんですか、それ?」
「なんか、幼女に貴方の為の良い女に育ちます的な、その宣言を、ですね、受けまして・・・ええ・・・」
「それは超絶に気持ち悪いですね、そうしむけた貴方が」
「ですよねー。幼女相手にフラグ管理とかあり得ませんよねー」
まぁ、やったのは僕ですが。
なにか?
・・・。
・・・・・・。
ああああ、また地雷踏んだ。
なんか一番ヤバい系じゃん、これー!!!
幼女こわい、助けて!
この世界の幼女、頭おかしい!
たかが、9歳の子供があんなこと言うなんておかしいよ!!
ちょっと優しく諭したらこれだよ!!
コロっとチョロインですよ!?
意味わかんねぇ!!
恋愛脳こえぇええええええええええ。
「リセットボタンはどこ!?」
「死ねばいいんじゃないんですか、もう一度」