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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
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第0話  捧げられた娘の祈り

昔話をしよう。


ずっーと昔、まだ創世記が始まる前の話だ。

神々が醜い争いをして頃の話。


時代は聖魔暦250年。


その年、250年にも及ぶ聖魔戦争、最後の戦いがあった。


これは、その最後を綴る物語である。





◇◇◇◇◇






夢現ゆめうつつ

私はまどれみに包まれながら、うたた寝をしていた。


のどかな昼下がり。何もない午後。


「ユキア。ユキア」


私は自分を呼び声で目を開いた。


うーん。今、何時だ?


「なんだよ。アルマ」


「もぅ、女の子がこんなところで寝てたら駄目だよ」


こんなところ、か。


私は人気の少なそうな原っぱでただ寝そべっていただけなんだけど、ね。


アルマから咎められるほどの事じゃないと思う。


しっかし、女の子かぁ。

そんな気遣い私には要らないのに。


私と同じ、戦人の祝福者であるアルマがむくれた顔をしている。


「良いんだよ。ほら、私たちなんてただの使い捨ての武器だろ」


私の言葉にアルマは怒った口調で言った。


「そんな事無いよ!そんなこと言っちゃ駄目だよ」


「あーあ、アルマは真面目だなー」


やれやれ。

私は立ち上がった。


「ほら、顔汚れてる」


「もう、いいてば」


そんなこと気にしても意味なんてないんだよ。

チビな私を女に見る奴なんていない。


私はアルマとは違うんだ。


それに今、私たちは戦争をしているんだ。


人を殺して生きているんだ。

そんなものに、そんなものは必要ない。


「アルマ、ユキア。ここにいたのね」


「あ、アンネリーゼさん」


「どうしたの?」


「どうもこうも、見てください。ユキアがこんなところで寝てたんですよ!」


「あら、気持ちよさそうね」


だろー。


「むー、確かに」


「で、何か用か?アンネ」


「ええ、例の件が聖団会議で決まりました」


れいのけん。

私の心臓が大きく鳴った。


うそだろ。

あんな案が採用されるわけが。


「よかった。これでこの戦争も終わるね」


「・・・つ」


笑顔で笑うアルマを見て、私は顔を逸らした。

ふざけんな。

どうして笑えるんだよ。


バカなんじゃないか。


「覚悟は出来てるのね。アルマ」


「はい」


どうしてそんな風に受け入れられるんだ。アルマ。


「アルマ」


だって。

これは。

つまり。


アルマは頷いた。


「大丈夫だよ。私が世界を守るから」


その言葉に。


私は一気に嫌な気分になって目を閉じた。

私はこの世界が嫌いだ。


大嫌いだ。


この世界は私から何もかも奪ってしまう。

私の大切な物を全て。


大嫌いだ。





◇◇◇◇◇






私は。


私たちは孤児だった。


今となっては何の意味もないけれど、私は東にあった光の神国オーヴァンの第三皇女だった。


らしい。


子供のうちに、魔王神の軍勢に国が滅ぼされ、身内全てを殺されている。

それが本当の話なのかなんて私には分からない。


私は戦神の孤児院で育った。

いや、孤児院ではない。


あそこは、私の育った場所は、戦争孤児を集めて殺戮兵器をつくる為の施設だった。


そこで私は、小さい頃から、ただひたすらに魔神を殺す為の訓練を受けてきた。


道具として。


人を、魔獣を、そして最後には神を殺すために、私は育てられ、今まで生きてきた。


私はその施設の最高傑作と呼ばれている。


なぜなら、私は神を殺す力、ラグナを世界で唯一修得したからだ。


まだ技術として確立していないそれを操ることが出来るのは私だけなのだ。


「ユキア!ユキア!!どこなの?」


「なんだよ、うっせえなぁ。アルマ」


アルマの声に私は漸く声を返した。

アルマが驚いた顔で上を見た。


私は木の枝の上に寝っ転がっていたのだ。


「もぅ、そんなところに居たの?最後の作戦をみんなで決めていたのに」


アルマの不満げな顔から私は目を逸らした。


最後の作戦。

そんな胸くそ悪いものに参加する気分じゃない。


「今回の作戦は貴方が鍵よ。ラグナを使えるのは世界に貴方だけなのだから」


神滅神級魔法、ラグナ。


聖団で、いや、おそらく世界で、それを疑似的にとは言え、発動させることが出来るのは私だけなのだ。


このくそ永い戦争が、永く続き過ぎたのは。


誰にも神を殺す事が出来なかったからだ。


それも、もう終わる。


ピリオドが打たれる。


魔王神を倒すことによって。


「・・・ち、分かってるよ!くそ!!」


それが必要だってことぐらい。

もうどうにもならないことぐらい。


分かってる。


この戦いが終われば、世界はすこしだけ平和になるだろう。


最低最悪が。

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけマシになるだろう。


或いは。

最低最悪が。

ほんのもうちょっとだけ最悪になるのかもしれない。


どちらにせよ。


世界の寿命は延長される。


いずれ、竜に滅ぼされるにしても、今では無くなる。


ほんの少しだけ夢を見るようないとまが、世界に生まれる。


それを誰もが望んでいるのだ。


そんな儚いものですら。

この世界は戦わなければ、勝ち取れないのだ。


そして。


その結果。


失うモノが何であろうと、世界は進むのだろう。


何かを選択し、何かを奪い、何かを切り捨てて。

それでも世界は続いていく。


「予定通り。決戦は明日」


「ああ」


そうか。ちくしょう。


明日が永遠に来なければ良いのに。

寝れないな。


ああ、くそ。

せめて、あいつのそばに居てやるべきじゃないのか?

この時間が最後かもしれないのに。

せめて一緒に居てやれば。


それで私はどんな顔をすれば、良いんだよ。


わかんねぇよ。くそ。


「おい、ユキアが居るって聞いたぞ?居るのか?」


私はその声の主に覚えがあった。


戦人バルヴァルグ。

このパーティじゃ、私に次ぐ実力を持つ戦士だ。


「なんだよ」


「おう、せっかくだから話しておこうと思ってな」


「折角?話す?なにを?」


私はこいつと話す事なんて何も無いんだけどな。


「俺はお前の事が好きだ」


バルヴァルグの突然の告白に私は顔を真っ赤にした。

え?

い、意味がわからん。


つか、


「ああ!?ふざけんな!このロリコン変態!!」


ふざけんなよ。

どういうつもりだよ!

こんな容姿の私にこいつは欲情してやがるのか!?


「俺はお前の中にある闇を愛してるんだ。どこまでも深い闇を」


「・・・っ!!」


なんだよ、それ。

くそ。そんなものを求められても嬉しくないに決まってるだろ。


「俺のものになれ、ユキア」


その言葉に私は首を振った。


「いやだ。バルヴァルグ。私はお前の事が嫌いだ」


こいつは欲しいモノは力ずくで奪うならず者だ。


私は何人もの女官たちがこいつに泣かされているのを知っている。


どんなつもりにせよ。私はこいつが嫌いだし、こんな告白受けるつもりは無かった。

私の拒絶にバルヴァルグは笑った。


「く、くく、はは!!いいさ。今はまだ良い。お前が、自ら俺の元に来る日はきっと来るだろう。その日を楽しみに待っているさ」


「そんなわけないだろ」


馬鹿か。この自惚れ野郎。

この野蛮人はただ実力があれば、こそ認められているだけだ。


まぁ、そういう意味で考えれば、こいつは私と似ている。


そうだな。


ナルシシストのバルヴァルグは自分に似た私を求めて。


自己嫌悪の強い私は自分に似ているバルヴァルグに同族嫌悪を感じている。


それだけだ。その違いがこの温度差だ。


「お前とは相容れないよ。バルヴァルグ」


私は小さくため息を吐いた。


運命の夜が明けていく。


明日がやってくる。


もうすぐ。一つの時代が終わるのだ。





◇◇◇◇◇






聖魔戦争。

それは二柱の神の対立によって起こったとされている。


魔王神ディブロフ。

運命神アルファズス。


魔王神とその配下の魔神たちは世界への消滅回帰を主張した。

この世界は間違いだった。


竜に滅ぼされ、また、一からやり直せば良いと。


対して、運命神であるアルファズスは世界の継続と更新を望んだ。

竜と戦い、その運命に打ち勝つのだと。


両者は対立し、ついには戦争が始まった。


聖団。アルファズスを中心とする世界を守る事を主張する人間たちの集団。


魔団。ディブロフを中心とする世界を滅ぼす事を主張する人間たちの集団。


聖魔戦争。

その始まりと共に聖魔暦は始まった。


それは戦争の歴史だ。

この、いつ竜に滅ぼされてもおかしくない世界はもう250年もの間、無駄な戦争をしているのだ。


それもついに終わるのだ。

聖団最強のパーティ。

世界最強の戦人ユキア、戦人バルヴァルグ、聖人エリエラ・アンネリーゼ、戦人アルマ、聖人ヴィヴィアンからなる部隊がついに魔王の軍勢を追いつめたのだ。


彼らはついに、魔王ネザードとの最後の戦いに挑もうとしていた。





◇◇◇◇◇





ユキアの鋼糸が舞う。

LV500を超える半神魔獣たちがまるで紙切れの様に粉々に寸断されて絶命する。


「大物来たわよ」


アンネリーゼの言葉に私は前を向いた。


LV1005 神魔獣ガルマ


「雑魚だろ」


私は不満気に呟くと、手の中の剣を構えた。


戦人や聖人と言った存在は特別なパスで神と繋がっている。

普段は祝福と言う形で力を受け取り。

時には神級魔法と言う形で力を引き出す。


だから。


「力を貸せ。戦神グリーヴァよ」


私の手の中の双剣が鳴く。


神遺物とは。神と人とをつなぐモノ。

祝福の力を何十倍にも膨れ上がらせる。


接続器アダプターにして増幅器レセプターであるのだ。


轟力の戦神のグリーヴァ。


その力がその両手に宿った。


「轟刃絶閃」


筋力10000超の筋力増加パワーブースト


私の剣が神獣を切断した。





◇◇◇◇◇





「貴様ら。くっ」


ネザードが苦しそうな顔で崩れ落ちた。

彼の神遺物である杖は私の足下に転がっていた。


彼の手首ごと。


「魔王神さまの神級魔法すら打ち消すのか。勇者ユキア」


「誰が勇者だ。魔王ネザード」


私は魔法使いを殺す為にデザインされた殺戮兵器だ。

私は息をするより易く魔法を殺す。


そういう生き物なのだ。


「はぁ、はぁ。お前が台頭して以来、我らが軍はお前に一度も勝てなかった」


「別に私が強い訳じゃないさ。ハジャの技術が生まれたのが、たまたま私が戦場に出る時期と合っただけだろ」


「ハジャか。その力。貴様等が竜の力に頼るとはな。くくっ、はぁははははは!!」


彼は高笑いをあげた。


「今は勝利をくれてやる!!しかし、私は諦めんぞ!この過ちに満ちた世界を必ず滅ぼしてみせる!!」


そう言って魔法式を発動する。


だから、魔法は!!

私には効かない!!


――― 魔式斬り


私が編み出した技。

魔法式の直接破壊の技が魔法そのものの発動を阻害する。


しかし、ネザードは私に向けた魔法とは別の魔法を同時に発動させた。


これは。


「転移魔法か」


その様子を見ていたアンネリーゼはため息を吐いた。


「ネザードは逃げたのね」


その言葉に、バルヴァルグが頷いた。


「ああ、だが、予定通り、奴の体の一部と神遺物を手に入れたぞ」


その事実に私はいらだった。


くそ。ネザードの間抜けめ!


こっちの魂胆に気づかず、まんまと失敗したな!


どうせなら、もっとちゃんと逃げろよ。


仕方無いと言えば、仕方ないが。

あいつらはまだ、私たちが究極の魔法破壊式、ラグナにたどり着いたことを知らない。


だからここまで無防備にこれを残してしまったのだ。


「ユキア」


「わかってる!!ああ、千載一遇のチャンスなんだろ!分かっているさ!!やるしかない!!」


「ほんとうに出来るのか?」


バルヴァルグの言葉に私は吠えた。


「やってやる!!くそ!!」


荒れる私をパーティメンバーが気遣っている。

やめてくれ。


いま、気遣うべきは別のやつだろ。


アルマ。


彼女が口を開いた。


「祝福者であるネザードの肉体と魔王神の肉体の一部を使って作られた神遺物。これがあれば、本来、資格を持たない私でもこの身に魔王神を喚び落とせます」


「結界魔法と緊縛魔法による封印で力を奪い」


そして。


「ユキアのラグナで、アルマの中のディブロフを破壊する」


私は唇を噛んだ。


そうだ。

世界はたった一人の少女の犠牲を以て、この戦争に幕を引くつもりなのだ。


アルマは死ぬ。



私が。



殺すのだ。





◇◇◇◇◇






アルマは竜に滅ぼされた王国テンツラントの王女だった。


彼の国の王家の血には古き神デールとの契約によって発動する特別な魔法があった。


その神級魔法。


対象の命を対価にして、


降臨とは違い、神そのものを神唱ごと完全顕現させる魔法。



――――  ホーリーグレイル



竜に滅ぼされたデール神の力は今でもその亡骸で作られた神遺物。

聖杯によって残されている。

発動体である王家の血さえあれば。


神を世界に呼び出すことができるのだ。

自らの命を対価に。





◇◇◇◇◇






最後の作戦は今夜になった。


「まずは体力と魔力を回復させて、それに準備が必要だわ」


絶対に勝てる状況を作って魔王神と対峙する。

卑怯だが、魔王神のLVは5800。


普通にやっては絶対に勝てない。


アルマの体に無数の鎖が架けられた。


「えへへ、なんか。緊張」


「緊張どころじゃねぇだろ」


こいつはもうすぐ死ぬんだぞ。

私が殺すんだぞ。


「神遺物の呪鎖かぁ。これなら絶対に魔王神は動けないね」


「そうだな」


「あはは、緊迫プレイだね」


「なに、いってんだよ」


くそ。


「私はお前を殺すんだぞ!分かってるのか!!」


「何度も言ったでしょ。殺されるならユキアが良いよ」


なんでだよ!


「ゴメンね。ユキア」


「なんで私にアルマが謝るんだよ!」


「だってユキアは私のこと大好きでしょ?」


な。

そ、そんなこと。


アルマが私を抱き寄せた。


「ごめんね。でも、私嬉しいんだ。ユキアで。だってユキアが良かったもん」


「アルマ」


「ユキアが苦しむのにゴメンね。大変な役を任せちゃって」


「違う。苦しいのはアルマだ」


「そんな事無いよ。私はちょっとだけ痛いけどほんの一瞬だもん。でもユキアはきっとすごく苦しむよね。ずっと」


「そんなこと」


関係ない。私がどうなろうと。

関係ないんだ。


「うん、そうだよね。苦しかったら、忘れて良いから」


「無理だよ」


アルマのことを忘れられる訳がない。

幼い頃からずっと一緒だったのに。


「でも、ユキアが苦しむくらいなら。忘れて欲しいんだ。これは私のわがまま」


そんなことはできない。

そんなことはしたくない。


「ねぇ、ユキア。こんなにたくさんわがままを言ったけど。もっと言って良い」


「ああ」


どれだけだって聞いてやるよ。

もうこれで終わりなんだから。


「私も分まで生きて。私の分まで幸せになって。私の分まで世界を愛して」


「そんなの無理だよ」


「うん、だから、無理でも良いから頑張って!あのね、私、たぶん100才は生きると思うの。それで素敵な旦那さんがいて、子供は3人は居るかな。白い大きなおうちに住んでて。そしてね。世界の全部が大好きなの」


「無理だ。私には絶対に無理だ」


そんな普通。


ありえない。


なんて遠いんだ。当たり前なんて私たちには無い。

普通なんてすばらしい世界はどこにもないんだ。


「ユキア。この世界を愛して。この世界を守って」


「アルマ」


「もう私には守れないから、ユキアが代わりに守ってよ」


「約束して」


「私は」


「約束してくれたら、私、ユキアの事、絶対に恨まないから。化けて出たりしないから。むしろ感謝するから。だから、何も気にしなくて良いんだよ」


「アルマ」


「私の事なんて忘れて良いから。この世界でいっぱい、いーっぱい幸せになってね!」


私は。


私には無理だ。


それでも。未来の無い彼女の前でそんなこと言えない。

分かってて、アルマは私に言っている。


「ね、約束」


「ああ、約束だ」


むなしい約束だ。そらぞら々しい約束だ。


私は世界を愛せない。

私は世界なんて大嫌いだ。


「ねぇ、ユキア」


「なに、アルマ」


「想いを託せるなら死ぬなんて全然怖くないんだよね」


そんなことを言って。

彼女は震えている。


死ぬのが怖くない人間なんていない。


それでも彼女は残していくのだ。

想いを。私を。


ああ、私はなんてオモいモノを背負ってしまうのだろうか。


ああ、私はなんて大切なモノをこの手にかけるのだろうか。






◇◇◇◇◇






「アルマ良いな」


「はい。覚悟はできています」


「そうか」


「さよなら」


「うん、ばいばい。みんな」






「ばいばい、ゆきあ」







◇◇◇◇◇







そんな言葉と共にアルマの魂が砕けた。

代わりに生み出されたモノは。



魔王神。



「おのれぇええええ!!きさまらぁあああああああ!!!」


怒りに震える神。

神縛の力に体と力を奪われている。


こんなものの。

こんな事の為にアルマは死ななきゃいけなかったのかよ。


「やれ!ユキア!」


「ユキア!戦いを終わらせて!!」


私は、私たちは。


なんて愚かなんだ。


「大破邪結界共鳴陣」


ハジャを共鳴させて増幅させる。


この増幅によって限界に突破することで私はハジャを超える真なる否定式「ラグナ」の力を解放できる。


私の双剣に神滅の力が宿る。


「きさまぁああああ!!!人間ごときがぁあああ」


「滅びよ。魔王神!!」


そして、放たれた私の剣が。

アルマの心臓を貫いた。


ああ、ゴメン。アルマ。


さよなら、アルマ。


「あるま・・・」


「ば、ばかな。わたしのそ、んざいがきえ・て・・・」


魔王神の神核が砕けていく。


終わった。


私たちの勝ちだ。


ああ、私は。


わたしは。


やっちまった。


こんなことって。


「まって!おかしい!!」


え?

私を包むように光が生まれた。


私は目を見開いた。

神核は破壊したはずだ。


しかし。なんだ。


これは。






◇◇◇◇◇






「ユキアのラグナは不完全でした」


「そのようですね。まさか神核の一部を残してしまうとは」


「しかし、ほかの神では完全に消滅させていた」


「今回は創世神級。神唱結晶が大きすぎたのでしょうね」


「正確には神核を破壊することには成功したものの、出力不足から神唱結晶の器を残してしまいました」


「しかし、まさか、神核を失った神唱体がユキアの魂を取り込むなんて」


「だが、魔王神は死んだ。それでいいだろう」


「今は真っ白の無唱状態とは言え、あの娘は魔王神の魂の力を継承してしまったのだぞ!?危険すぎる」


「神唱はいくら無唱化しても願望のろいの本質部分は残りますからね」


「ではどうするのです?」


「決まっている」


「そうですね。では、つまり」


「ああ」





◇◇◇◇◇






私はベッドで寝返りを打った。


「ああ、つまんねぇ」


私は薄暗い部屋の中に一人でいた。

両手両足を拘束されていた。


「はー、まさか、しくるとはねぇ」


これじゃあ、死んだ後、アルマに顔向け出来ねぇじゃん


それでも、まぁ、魔王神は死に。

彼の魔法も使徒も消えた。


それなりに、最低限でも、私の役目は果たしたはずだ。

それでいいや。


べつに。

もう世界なんてどうでも良い。


アルマの居ないこの世界なんて。


こんなくそったれな世界なんて。


すると、唯一の扉の外施錠が外れた。

誰かが来る。


「出なさい。場所を移動します」


「ふーん。解放される訳じゃ無いんだな。アンネリーゼ」


旧友の顔に私は笑った。


「そうよ。残念ながら」


私は笑った。

ああ、そうだな。


やっぱりこれがこの世界なんだ。


「行こうか。どこだ」


「封印領域よ」


つぅ。


くそ。


覚悟していたとは言え。

意外にがっかりしてるもんだな。


「良いぜ。はやくいこう」


アンネリーゼとその配下の騎士10人に連れられて、私は長い廊下を歩いた。


封印領域か。


竜と一緒に時間停止の中で封印されるのかねぇ。


「やれやれ」


私はそいつらと同じ扱いかよ。


セカイのテキって奴だな。


笑えるわ。ほんと。





◇◇◇◇◇






私が封印の間に連れて行かれようとしていたその時。


一人の男が私たちの前に立ち塞がった。


「どういうつもりだ!!アンネリーゼ!!!」


バルヴァルグ。


「どうもこうもありません」


「それは俺のだ」


バルヴァルグが私の腕を掴もうと近づいてくる。


私とバルヴァルグの間にアンネリーゼが立ち塞がった。


「聖団の決定ですよ。バル」


「聖団が俺を止められるのか!?」


「良いでしょう」


アンネリーゼが呪文を唱える。

この魔法式は。




――――   聖戦ジハード




「て、てめぇ」


「私の神級魔法と貴方。どちらが強いか試して見ますか」


聖戦。その魔法の効果はステータス共有化。

聖戦に繋がれた10人の騎士たちが剣を構えた。


「雑魚が!!」


バルヴァルグが剣を構えた。


「ええ、彼ら一人当たりのLV100程度。力の共有で私も併せて、今はたったLV1200程度の雑魚が10人ですよ」


苦々しい顔で彼が叫んだ。


「その魔法は消耗が大きい!!」


そうだ。共有する力の量が多いほど消耗が倍加していく。

この魔法の使用が原因で命を落としたアンネリーゼは数多い。


命を削る禁呪。


「えぇ、ですから早く終わらせましょう」


もう良い。私は彼に向かって言った。


「もういいんだ。私のことは。頼む、下がってくれ」


「つ、ユキア。俺は!!」


「頼む」


彼は私の言葉に後ろに下がった。

勝てないことを悟ったのか。


「・・・。確かに今の俺には実力が足りねぇ」


アンネリーゼが意外そうな顔をした。


確かに意外だ。

頼んでおいてアレだが私もこいつを説得できるなんて思っていなかった。


「諦めてくれましたか」


「誰がだ!!いつかお前等、全員を俺が従えてやる」


なに?どういうつもりだ?


「どういうつもりですか。闇に落ちる気ですか?」


「闇だと!?バカにしてくれる」


バルヴァルグは吠えた。


「俺がこの世界の王になってやる。覚えておけ!!アンネリーゼ!!!」


そういって彼は後ろを向くと歩き出した。


どういう意味だ。

今の、あいつの、宣言は一体。


「アンネさま」


「いえ、こちらも犠牲を出したくありません」


アンネリーゼが私に顔を向けた。


「世界を救った英雄にこんな事をしたくは無いのですが」


ああ。で、私はどうなるんだ?


「もう分かっているんでしょ。ユキア」


私は虚ろな瞳でアンネリーゼを見つめる。


「数日後、貴方を封印処置します」


ああ、すきにしてくれ。





◇◇◇◇◇






どれほどの時間が過ぎたのだろう。


数日間か、数週間か。

分からない。


私は深い闇の中に幽閉されていた。


私はこんなところで何をしているのだろう。

私は。


深い闇の中でアルマの事を思い出していた。

アルマ。

呪われた血の娘。


どうして、彼女はああだったのだろう。


テンツラント。


かつて、七大竜たちがこの世界に目覚めた時。


彼女の一族が犠牲になり、神をこの世界に召喚し、多大な犠牲を払いながらも、竜たちを封印したのだ。


結果的に世界は僅かばかりの間、生き残る事ができた。

彼女は世界を何度も救ってきた血族の末裔なのだ。


この人々は感謝しているのだろうか。


彼女たちを。捧げられたものたちを。


犠牲を。


分かって平和を享受するのだろうか。

そんなわけがない。


人は、人間は、勝手に幸せになった気でいる。

どんな犠牲があって今の自分が在るのかなんて気にしない。


そういう勝手な生き物だ。


どうして。


どうしてそんな世界を救えるんだ。アルマ。

どうしてそんな世界を愛せるんだ。アルマ。



分からない。

理解できない。


私には無理だ。


ああ。

何も考えられなくなればいいのに。






◇◇◇◇◇






幼い頃の夢を見た。

私とアルマの夢だ。


「へへ、院長から林檎をもらったんだよ」


「へー、良かったじゃん」


アルマは院長から気に入られている。

跳ね返りっ子で悪ガキの私は頭痛の種みたいだけど。


「半分こ、しよう」


「いいよー。アルマが全部食べなよ」


「ううん、嬉しいから半分こ」


そんなの勿体ないじゃん。


「アルマが全部食べた方が良いよ」


「そんなことないよ。ユキアと一緒に食べた方が美味しいもん」


そうかなぁ。


「そうだよ。おいしいとみんなに食べて欲しくなるでしょ?」


「そんなの無理だよ」


「そうかな。でも、例えば、種を植えたら木が生えて、実がなって、みんなが食べたらまた種を植えれるでしょ」


なにそれ。


「そしたら、森ができて木陰でみんなで休むんだよ」


そんなにうまくいくわけない。


「でも、そうやってすこしずつ世界は大きくなっていくだよ」


「世界なんて広くなくていいよ」


「世界が広いとみんながいっぱい幸せになれるよ?」


「みんなが幸せなんて無理だから」


「無理じゃないよ!絶対無理じゃない」


無理だよ。

そんな夢物語、きっと誰にも実現できない。


「そんなの無理」


「もしかすると、そのうち世界中を幸せにできる人が出てくるかもよ?世界を颯爽と救ってみんなを幸せにしてくれるの」


無いから。夢見すぎだよ。


私の言葉にアルマは笑顔で言った。


「私は信じるよ。きっとね。いるの」


いないって。

そんなへんなやつ。意味わかんないもん。


「いるよー」


「根拠はあるの?」


え、って意外そうな顔をした後で彼女は笑った。




「だって、ほら、世界はこんなに素晴らしいんだもん!」





◇◇◇◇◇






どれくらいの時間が過ぎたのか。

わからない。


しかし、時間の感覚があると言うことはまだ封印処置を受けて居ないと言うことだ。


どういうことだ。


「出なさい」


その言葉に私は目を開いた。


「どう言うことだ?アンネリーゼ」


「話があります」


その日。私は暗い部屋から出た。




◇◇◇◇◇





太陽が嫌いだ。

光が嫌いだ。


ここは眩しすぎる。


「どう?」


アンネリーゼの言葉に眉を歪めた。


「なにが?」


「外の世界は?貴方が救った世界よ」


「は、反吐がでるな」


「そう」


なんでこんなところに連れ出した。

私がいるところは公園だ。


人がいる。


人々の顔に笑顔が見える。


だからなんだよ。


あの人混みの中にアルマはいない。


私の世界は。



死んだんだ。



「世界は平和になったのよ」


「へー、それは良かったな」


おめでとう。


ち。

アルマが救った世界か。

だから、なんだよ。


「なぁ、用済みなら早く私を殺してくれ。それが無理なら封印でも良い」


「用件があるのよ」


もう良いだろ。

私はもういらないだろ。

そういってくれ。


「一体、なんだよ」


「貴方に頼みたいことがあります」


「頼み?」


なにをいまさら。


「私が説明しましょう」


一人の男が近づいてくる。


「誰だ、あんた」


「賢人ヴィートフィード・ヴィズルムングとでもお呼びください」


彼は気障な仕草で髪を上げながら言った。


「貴方の魂は初期化された魔王神の神唱結晶になっています」


私は首をひねった。


「それがどうした」


「推定5000オーバー。運命神級の無唱結晶。これを使えば、もしかすると世界を救えるかもしれない」


なに?

つかえる?


なにに?


「どういうことだ」


「魔王神の結晶、今は貴方の魂になっているそれを使って、新たな魔法を創造するのです。世界を救う最後の希望。竜を殺す魔法。「アルティネ」を」


それを聞いて、私は、目を閉じた。



・・・。



・・・ちっ。またか。


また、世界は私を利用するのか。



人を殺して。



魔を殺して。



神を殺して。




そして。




友を殺して。





今度は世界を殺す道具になれってかよ。




くそったれ。


ああ。


ちくしょう。



さいあくだ。



「ああ、良いだろうさ。丁度、世界を滅ぼしたい気分だったんだ」


やれよ。


どうなってもしらんがな。


しかし、私を見て、アンネリーゼは笑った。


「あら、アルマの願いを忘れたの?」


「・・・つっ」


アルマの願い。こいつ聞いてやがったのか、あの会話を。


あの約束を。


私は震えた。


あの約束。世界を守る約束。


世界を守れだと?

私が世界を守るだと。


確かに約束した。けど、あれは。


「貴方はアルマを裏切るの?無理でしょ。貴方には」


「ぅ。く・・・」


それは。

そんなことは。


できない。


「わすれて、ねぇよ・・・」


ちくしょう。


「期待しているわ。ユキア」


「くそ、くそ」


悔しがる私にアンネリーゼは最後に言った。


「ここは似てるわね」


「なにがだよ」



「貴方が好きって言った、あの日溜まりに」



そんな心。とっくに死んだわ。




そして。


こうやって。


私は。






世界を滅ぼす為の魔法のろいになった。







◇◇◇◇◇







光が嫌いだ。


私は光があるなら目を閉じた方が良い。

誰の姿も目に映らなくなる方が良い。


闇が全てを包み込むのが良い。


誰かを憎むのはつらい。


それでも、私は。

目を開けば、全てを憎らしいと思ってしまう。


全てを壊したいと願ってしまう。


だから、闇が好きだ。


夜の闇にすべてがきえてしまうのがいい。


誰も恨まない、憎らしくない、そんな静寂が好きだ。






◇◇◇◇◇







竜とは世界だ。


根源だ。


それじゃ、それを破壊する魔法式、願いって何だろうな。


私は知っている。


それは憎悪だ。


世界に対する狂おしいほどの憎悪。


竜滅魔法「アルティネ」とは

私の自身の内にある世界への憎悪そのものだ。


私は世界が嫌いだ。

滅ぼしたほどに。


憎い。


この憎しみが尽きる事なんてきっと無い。


世界の全てを壊したい。

私の大切なモノを奪っていくだけの世界なんて。


大嫌いだ。


この世界は、アルマを見捨てて、わたしを残した。

そういう世界だ。


最悪の世界だ。


憎い。全てが憎い。


「あぁ、こわしてぇ」


くるしい。すべてをこわして楽になりたい。


アルマ。


どうして、私に呪いをかけた。


どうして、このせかいをまもれなんて。


わたしにはむりだ。


わたしはいやだ。


それでも私は。


アルマを裏切れない。裏切りたくない。

私の、私にとっての、たったひとつの。 


愛する親友ひかり


アルマ。


私はお前との約束だけは守りたいんだ。


だから、私は。

絶望を抱えて生きていくしかないのだ。


「ユキアさま」


私を呼ぶ声がする。

私はいらいらしながら応じた。


「どこの神の使いだ?私に気安く話しかけるなよ」


「新たな竜が出現しました」


「ちっ」


私は立ち上がった。


竜をつぶすため。


このままでは、私はいつか狂ってしまうだろう。

たぶん。もうそう永くは持たない。


あと何回、世界を守れるのだろう。

あと何回、世界を守ったらアルマは許してくれるかな。


私の裏切りを。


嗚呼、私が世界を滅ぼしてしまう前に。




誰か、私を殺してくれ・・・。








◇◇◇◇◇







「何だよ、アルマ!おかしい奴」


「うるさいな。絶対、絶対だから!」


私は意地になって叫んだ。


「あーあ、運命の人なんて居るわけ無いだろ」


「居るんだもん。絶対に居るんだもん」


きっといるから。


誰にだって、一番大切な人が出来るんだから。



私には大好きな人がいる。


私には大好きな料理がある。


私には大好きなモノがたくさんある。



ご飯はおいしくて、


ユキアは可愛くて、


犬のしっぽはもふもふで、


お馬さんの背中はあんなに大きくて、


熟れた林檎は甘くて、



日溜まりはこんなにも暖かいのだ。




だって、世界はこんなにも素晴らしいのだから。



私は大切な人やモノが多すぎてあふれちゃう位だ。

みんな、愛おしくて美しい。


だから、世界を守りたい。


世界の為に頑張りたい。


誰かの為じゃなくて、私の為に。


私が大切に思う全てのために私は生きていたい。



私はユキアの心が抱えている闇を知っている。



彼女がそれに苦しんでいることも、知っている。



だから、かみさま。



ユキアにたいせつなひとをください。



あの子の闇を消し飛ばしてくれるぐらいの強烈な光を。



どうか、希望の光をください。



私は願うのだ。



ユキアが大好きになってくれる運命の人を。


ユキアを大好きになってくれる運命の人を。



私は望むのだ。



ユキアが大好きな世界を。


ユキアを大好きな世界を。




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