知力は腹筋で鍛えられる
※7月12日改訂
僕がゴブリン育成に精を出していたころ。
いよいよ、王立学院の学生たちは中間試験を迎えていた。
「今度こそ、アンタに絶対に勝つわ!」
「姫、その設定まだひっぱってたの?」
僕が呆れてつっこんだ。
「ねぇ、姫さま、もういい加減あきらめた方が楽だよ?」
「シエラまで!そりゃ、勝てないかもしれないけど、で、でもぉ!」
「そりゃ、姫さまはそう言ってユノウスさんの関心を引きたいのだろうけど・・・」
その言葉にアリシスは顔を真っ赤にさせた。
「ち、違うわよ!違うから!!」
「へー、そうなのか、姫?」
ごめん。
正直、9歳児に好かれても微妙というか。
何というか、全体的にマセ餓鬼が多すぎる。
ラブコメするなら、せめて、後+6才は欲しいよなぁ。
「違うから!!」
「まぁ、良いけど」
それこそ藪蛇だろうし。
「とにかく絶対に負けないから!」
「お、おう」
うーん、強情だなぁ。
◇◇◇◇◇
「今回はなんと、全教科全問正解者が二人います」
おー、えー?
「まじ?」
驚きが思わず口を出た。
そりゃ、この世界の9才がやる試験の難易度なんてたかが知れてるけどさぁ。
「やったー!!」
アリシスが大喜びした。
まじかよ。いやー、やるもんだな。
うんうん。
「はい、ユノウスくんとその妹のユフィさんが満点でした」
・・・。
あ、アリシスじゃないのかよ。
僕の隣でアリシスが顔を真っ赤にしてフリーズしている。
無念。
つか、先生ワザとやってるのか。
「それじゃ、答案を返しますね」
◇◇◇◇◇
「やべぇ、めっちゃ成績あがったし!」
シェイドの喜びように僕は彼の答案を見た。
「赤点ぎりぎりじゃん」
褒められねぇ。
「師匠!俺の場合、これでも凄いの!」
だって、算数レベルで赤点ぎりぎりだぞ。
酷いわ。
「私も成績上がったよー」
「私もだ」
みんな、入学時より上がってるらしい。
成績なんて相対評価だから、周りが上がってないだけかも知れないが。
「で、学年首席の姫は?」
「上がったに決まってるでしょ!」
アリシスはパーフェクトこそ逃したもののほとんどの教科でトップクラスの成績を修めた。
その結果、ついに単独首席になったのだった。
ちなみに僕は家を離れて男爵になったため、貴族加点が大幅減点され、3位にまで落ちていた。
なんで現役男爵が加点下がるんだ?
まぁ、良いけど。
「なんで問題にペケがある私が全部正解しているあんたら兄弟より上の成績な訳?」
こっちも釈然としていない様子だな。
「そういう物だからだろ。いちいち拘るなよ」
「でもなんで成績が上がったんだろう?」
「そりゃ、君が勉強したんだろ?」
「え?」
え、・・・ってこいつ。
試験の準備期間中、何してたんだ?
「いやいや、師匠。俺が勉強する訳ないじゃん!」
「まぁ、僕も勉強してないから(ゴブリン育成してました)人の事は言えないけどな!このバカが!勉強しろ!!」
なんで僕が親みたいなこと言わなきゃいけないんだ!
「言えないって!言ってるじゃん!言ってるよ!!」
しかし、なんでこのバカの成績が上がった?
「あ、もしかしてレベルアップの影響で知力のステータスが向上したから?」
それだ。
「そうか!!!ふつうに勉強するよりダンジョンに潜ってレベルを上げる方が頭が良くなるんだ!!」
「脳筋の発想だな、おい」
いいのかそれで?
LVアップで知力の数値が上がるのは事実だが。
単語一個覚えるよりゴブリンやオーク一匹首切りしてた方が賢くなれる世界って設定ミスすぎる。
そういえば、軍隊ズもダンジョン籠もりでLV上げ出してからやたら忠誠度と知力上がったんだよな。
まぁ、連中は教導隊(憲兵を兼ねる)の鬼しごきで性格変わっただけだろうけど。
◇◇◇◇◇
「ダンジョン試験を開始します」
いよいよ、ダンジョン試験日。
アリシスたちは緊張の面もちである。
べオルグ軍の正規装備はさすがにチート過ぎるので封印している。
つか、人に見せられません。
それでもみんな、僕の用意した「程良い感じに強い」武器(普通に考えると十分反則)を装備しているし、問題ないだろう。
ダンジョン試験は足切り付きのタイムアタックだ。
各階30分の持ち時間が与えられ、一階降りる毎に制限時間は常に30分。
通常の敵一体につき、階層と同じだけの点数が与えられる。
「マッピングは9階まであるんだっけ?」
僕の暇つぶしマッピングか。
「ああ、そうだな」
先週までの攻略階が9階だった。
「ひとまず、そこまでは順調に進めるわね」
「そうですね」
「そうだな」
・・・?何言ってるんだこいつら。
「時間は問題ないぞ」
「え?」
◇◇◇◇◇
試験開始から1時間。
現在。25階。
「グラン・サーチ・スキャン。よし、こっちだな」
「わ、分かったわ」
僕が指す方向にみんな、進んでいく。
「ねぇ、ユノウスくん、先生思うにダンジョン攻略で階層を降りる度にマップを一瞬で作っちゃうのは最悪のズルだよね?」
「先生。ルール上、認められます」
進路上に敵は15。
「次、右ルートから迂回して行くぞ」
この階、戦闘回数2回ぐらいかぁ。
「次、左で敵3体。敵名ゴブリンリーダー1、ゴブリンシーフにゴブリンソード。LV28、弱点火、シーフが弓持ちな」
「り、了解」
このぐらいなら手出し無用だな。
◇◇◇◇◇
さらに一時間後。
「そろそろ、疲れたか?」
「うん、ちょっと」
「グラン・ヒール」
疲労回復だな。
「よし、行くぞ」
「あ、あんた、少しは手を抜きなさいよ」
「え?」
なんで?
「も、もう50階ですよね」
「ああ」
一階、3分ぐらいで降りてるよな?
良いペースだな。うん。
「さすがに帰ろうぜ。師匠」
「えー」
でも、まだ攻略開始からたった2時間だぞ。
せっかくだし、もっと暴れようぜ。
「あんた、何階まで降りる気よ!」
「おう、もちろん100階だけど」
「「「「無理」」」」
全員がハモった。中々のチームワークだな。
「いや、僕が居るんだから余裕じゃん」
「師匠、さすがにつき合えないよ」
「ユノウス、これは一応チーム試験だからな」
シェイドやカリンまで。
そりゃ、そうだが。
努力より結果が、過程より成果が大事なんですよ。
ええ。
「先生もさすがに許可しかねます」
くっ、なんでだ。
ルール上はオーケーのはずだよね??
僕が間違ってるのか?
ユーチューブにタイムアタック動画を上げるぐらいのノリノリな気分で挑んでいたのにぃ。
「お前らのやる気はその程度なのか!!」
「あんたのやる気が異常なのよ!やる気ないふりばっかして、やると全力じゃない!」
まぁ、それが僕ですし。
そういう面倒な性格なんです。
アリシスたちがその場に座り込んだ。
「とにかく、こういうのは嫌」
「くく、全力でやってやろうか!」
「やめて!」
「良いか!僕はなぁ!」
「ところで、この前、なんだけど」
「おい、何の話だよ!?」
・
・
・
僕は頭を抱えた。意味不明な雑談を始めたパーティー。
何やってるんだ、こいつら。
すると暫くして。
「やりました!30分です!」
先生が歓声を上げた。
あ?
え?
なるほど。
「攻略終了!!」
「お前ら」
そういう事か。
はぁ・・・。
まぁ、ルールはルールだしな。
「じゃ、帰るか」
「うん」
「まったく、こういう時はずいぶんと連携が良いんだな」
僕がそうジト目で告げるとシェイドが可笑しそうに笑った。
「師匠のチームですし」
どういう意味だよ。
こいつらにも僕のアレな性格が伝播してるってこと?
ああ、可哀想に。
「あのね。せっかくだし、100階攻略は全員の力でやりたいの」
アリシスの言葉に僕は笑った。
いや、それ、僕の力は含まずってことだろ?
まぁ、こいつらにも「自分たちもがんばりたい」って気持ちがあるってことかな。うーん。
まぁ、こいつらもこいつらでやりたいようにやれば良いさ。
「分かったよ」
こうして、僕らのグダグダなダンジョン攻略試験(ストライキ含む)は50階で終わりを告げたのだった。
はぁ、100階までいこうと思ったのになぁ・・・。
◇◇◇◇◇
次の日。
「にいさま!やりました!!丸1日かかりましたが100階まで行ってきました!」
「お、おう」
朝帰りした妹がそう告げた。
そういや姿が見えなかったが今までダンジョン試験を受けてたのかよ。
「いや、最後はほぼ戦力一人で、まともに戦うとデスゲーム状態だったですけど。デス鬼ごっこ、おもしろかったですよ」
話によると40階あたりでユフィたちのパーティーでは敵に勝てなくなり、そこから先は、サーチやら回避魔法を駆使して下の階を目指すサバイバルゲーム化したようだった。
制限時間30分で下の階までたどり着く遊びを延々と繰り返して100階を拝んで帰ってきたらしい。
帰りは僕が設置した99層のテレポートポイントを使用したらしい。
まぁ、一応、ユフィは使えるんだよな。
アレ。
恐ろしい魔法の才能だ。
場所だけは教えて置いたけど、役に立って何よりです。
なお、付き添いはエスト先輩だったらしい。
後日談だが先輩は苦笑いしながら、「中々良い経験になったよ」と言っていた。
・・・いや、止めろよ。死人が出るぞ。
まぁ、実際に同じ様な感じで100階まで行こうとしていた僕が言って良いことじゃないか・・・。うん。
ちなみにトリックスター、ユフィのチームは個別撃破に特化した索敵、誘き出し、ヘイトコントロール重視のチームだ。
一匹を全員でぼこるのが戦術の基本だ、と割り切ったチームだし、そういうことは得意中の得意なのだろうけど・・・。
ほぼ初見のチームメンバーで100階突破とか、サバイバル能力、高過ぎだろ。
いくら普段から僕の乱獲のせいで76階以降の敵の出が微妙に少ないにしてもだな・・・。
「そうかぁ」
こりゃ、総合成績だと妹に完全に負けたな。
うーん。
「点数はにいさまのチームの方が上だったみたいですよ」
「え?なんで?」
「だって、ユフィのチーム、半日ぐらいは鬼ごっこしてただけですし」
「む、無駄な労力過ぎる!!」
おかしいよ。この妹!!