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転生したった   作者: 空乃無志
第二章 王立学院編
48/98

パワーレベリング

※7月12日改訂

シエラが索敵魔法を展開する。


「前方に敵確認5体。距離15S」


15秒後に5体の敵と遭遇。

私は考える。ここで取るべき、最適の行動は。


「5S進行ののち、先制攻撃を開始する。みんな良いわね?」


「良いッス」


「こちらも了解だ」


火薬銃を構えたシェイドとカリンが頷く。


「カウント、5・4・3・2・1」


「敵捕捉。火薬銃、撃て!!」


「発射!!」


断続的に銃声が響く。

この階層の魔獣の場合、命中しても生命力の半分程度しか奪えないが。


私とシエラ、さらにユフィは頷くと魔銃を構えた。


魔銃キャストガン。スタンバイ」


キャストガンは魔素を仕込んだ特殊な弾丸を撃つ銃だ。

銃身内部に彫られた魔法式を弾丸がすり抜ける間に銃に注入プリントすることで強力な魔法式の制御を銃自体が肩代わりする。


さらに弾丸自体に魔素を仕込んでおけばそれを材料にして魔法が発動する為、結果的に使い手の魔力量を大幅にブーストできるのだ。


ただ、魔力の制御に失敗すると暴発のおそれがある危険な銃でもある。

特に魔素弾丸プリンティングブリットは簡単な魔法にもすぐに反応してしまう為に扱いに十分注意しないといけない。


ユフィから特別訓練を受けたアリシスとシエラだからこそ、この強力な銃にも適合したとも言える。



アリシスの構える魔銃は炎属性の12連魔法式、「ソレイユ・リオン」

シエラの構える魔銃は風属性の10連魔法式、「ラファル・ファーコン」

ユフィの構えた魔銃は光神エミルの準神級魔法式、「リア・ファイル」


の発動体だ。


「「「キャスト」」」


光と風と炎の乱舞が視界を埋め尽くす。

魔獣の部隊に大ダメージを与えたはずだ。


「敵は?」


「殲滅3。瀕死1、1体向かって来ます」


「白兵戦用意!」


「了解。出る!!」


カリンとシェイドが前に出る。

二人の構える剣が怪しい光を帯びる。


斬鉄グラン・アンロック!!!!」


刀身自体に刻まれた魔法式が使い手の魔力を喰って力を発動する。


斬鉄の力を帯びた魔法剣がすでにかなりのダメージを負っていた魔獣を一瞬で切り刻んだ。


「殲滅を完了」


「よし」


無傷で勝利できた。

私たちでも大丈夫。


「うん、上手く行ってるな」


遠巻きに眺めていた彼が笑った。


ただ今の階層は78層。

私たちは今、廃棄エリアを攻略しているのだ。





◇◇◇◇◇






「と言うわけで、パワーレベリングをするぞ」


一ヶ月後の中間試験に向けてが各々が勉強に励む中、彼がそう宣言した。


「パワーレベリング?」


私、アリシスは困惑気味に呟いた。


「そうだ。放課後に高難易度ダンジョンを攻略する。ユフィも参加させるぞ」


彼女が一緒なら力強い、性格はアレだけど。


「面白いわね」


今となってはちょっと安請け合いしすぎたと反省している。


本当は少しだけ嬉しかったのだ。

彼が私たちを気にとめて居てくれたのが。


「うん、分かった。で、どこに行くの?」


「ここのダンジョン深部だ」





◇◇◇◇◇






「装備の具合はどうだ?」


彼の言葉にカリンが苦笑する。


「いままでの苦戦が何だったのかと言う気分だ」


「銃ぶっぱで俺つえーっす。たまんねー」


ちょっとハイになった様子の二人に彼は満足げに頷いた。


「カリン、次はこっちを試して見てくれ」


無骨な別の剣を差し出してくる。


「これは?」


「アルマグランツのスーパーコピーだ」


「・・・」


国宝剣の忠実なコピー品を手に取ったカリンは納得が行かないような顔をしている。


本来なら王様に生まれない限り手に取ることは許されない神遺物級の剣。

それがこんなに簡単に差し出されるとは。


「ねぇ、私たち実験動物?」


「そう言うな。僕はテスターから貴重な戦闘データを得られて、君たちは経験値を得られる。ウィンウィンだろ?」


そうかも知れないが。

友達にテスターってルビ打たれる側の気持ちも少しは考えて欲しい。


「うーん。さすがにキャストガンは運用が難しいな。魔法使い隊を編成するにしてもいろいろ考えないとな」


「にいさま、威力もたぶん5分の1ぐらいです。もっと高純度の魔弾が開発出来れば威力の発現不足は解消できるでしょうけど」


魔素弾は今の仕様がコスト的にはベストらしい。

軍運用の量産品の開発だかららしい。


って、どんな軍を作るつもりなのよ。


「一応、仕様上はオーバーキャストできる様になってるがな」


「オーバーキャスト?」


「魔弾の魔力不足を自前で補う方法ですね。さすがに魔力吸われて死ねるです」


「そうだ。キャスト時に段階的使用を選択できる用にすれば良いんだな!フルオーバーキャストとかハーフオーバーキャストとか」


威力調整が出来るようにすると言うことか。


「もうちょっと威力が欲しい時に便利かも知れませんね」


しかし、このキャストガンは運用自体大変な気がするが。


「魔法使いは集めているんだが不足しがちなんだよなぁ」


領主も色々大変ね。別に同情しないけど。


私たちは一日一時間だけここで彼の新装備実験に付き合っているのだ。

有効に使いさえすれば、78層の敵にすら無傷で勝てる様な超絶装備の数々。


それを使って美味しすぎるレベリングと言うわけだ。

私の今のレベルは25。

たった3日間1時間コースでこれである。


後一週間。

たぶんこの調子だと試験日までに35レベルには到達すると思う。


「これで良いのかしら?」


色々とやっちゃ駄目なことをしている気がする。

まぁ、悪いのは全部こいつだけど。





◇◇◇◇◇






最初の会議からおよそ一ヶ月。


第二回戦略会議が行われた。

今回からは実際に新兵器のテスターをしている騎士団長や上級騎士の代表も参加している。


「火薬銃はどうだ?」


「速射性も精度も問題ない。驚くほどだ」


騎士団長の言葉に火薬銃の開発に携わっているヨークソンが頷いた。


「そうだろう。そうだろう」


「ただ、やはり魔獣相手だと威力面では物足りない」


「まぁ、対人制圧用だからな」


用途とすれば、補助武器としての意味合いが強い。


「新型の狙撃銃を使ったチームも訓練中です。運用次第ではかなり役立ちますよ」


と言っても一つ一つ手作りの現状では一気に量産することはできない。

発足以来、一ヶ月たったが火薬銃の保有数は20以下である。


なお、キャストガンはその半分である。


まぁ、ほいほい量産は無理だわな。


「一方、キャストガンですが運用がなかなか難しいですね」


ユフィたちのテストケースでは暴発は無かったが

低技能者による運用では数度暴発事故を起こしている。


テスターたちも正規採用のプロテクトアーマーがなければ、かなりのダメージを負っていただろう。


「そうだな。作る手間を考えてどうなんだ?」


かなりの人の手が掛かって出来ている。

コスト的には微妙な兵器だろう。


それでも魔法使い隊のような高級部隊を持つよりは安上がりになる可能性は高い。


「私案としては魔弾の転写速度を変えて、今の魔弾を高感度魔素弾、中感度弾、低感度弾に分けて運用するのはどうかと考えている」


「つまり?」


「これを見てくれ、これが転写魔法式と威力発現の幅だ。やはり準神級など強力な魔法式の転写ほど、威力自体は上がっていくものの本来の威力から落ち幅が広くなっている。準神級で5分の1、12連、10連で大体四分の1程度だ。逆に考えれば3、4連魔法式であれば魔法の完全再現が可能だろう」


転写の手間に比べて、成果の効率が落ちている。


「そうか、確かに3~4連式の魔法式を焼き込むだけなら低感度弾でもいけるな。3、4連式を撃つ下位魔銃とそれ以上の上位魔銃を作れば」


「ああ、上位モデルにはオーバーキャストを細かく設ければ良い」


「では、当面は3、4連式を下位、5、6連式を中位、7、8連式を上位、9以上を最上位ハイエンドとして、中位には50%刻みのオーバーキャスト調整を、上位モデルには25%刻み、最上位には10%刻みで調整が出来るようにしてみましょう」


細かい仕様は固まりつつあるな。


「それだけ出来ればかなり有能だな。それで頼む」





◇◇◇◇◇






週末、僕はテスタンティスとは別の国をおっさん姿で疾走していた。

南方の首長国ヴィラール。


ここは中部から南部にかけてかなり長い国土を持った国である。


ここが良い点は中部の生産・情勢が安定していて、税の取り立てが厳しく無い点や比較的貧しい南部で貴重な食物が作れるということだ。


テスタンティスとは中部で隣接しており、友好国であること。


僕はここにいくつかの作物の生産拠点を設けようと思っていた。


すでに一つの集落と契約農家交渉を成功させている。


「ん?」


妙な気配を感じて僕は足を止めた。

魔獣。それも妖魔の群だ。


「この反応はゴブリンの群か??」


どこかの集落が襲われているのか?


「行ってみるか」


オーバーナイトを起動し、僕は加速した。





◇◇◇◇◇






集落の状況は悲惨そのものだった。

襲撃しているゴブリンの数は100を超えるだろう。


一度に20匹近いゴブリンと戦っている冒険者たちの姿が見える。

冒険者の数は5。村の護衛だろうか。

彼らの後ろには重傷、軽傷の村人たちが20人はいる。

みな、疲弊し、表情は優れない。


僕はその戦いに割って入った。


「だ、だれ?」


「流れの冒険者だ。支援しよう」


僕は有無を言わせずに回復魔法を唱える。


「グラン・ルナ・ヒール・セプタプル」


無差別広域回復魔法。

相手のゴブリンも回復してしまうが、ここはまだ生きているかもしれない村人の体力を回復させる方が大事だろう。


「か、回復魔法!?」


瞬時に全回復を果たした冒険者が目を見開いた。


さらに別の魔法を唱える。


停止結界ステイシス・フィールド


減滅系デフュージョンの結界魔法。


範囲内の対象の熱・打撃・行動エネルギーなどを一瞬だけ、すべて奪う魔法だ。

瞬間的に生み出された暗闇に冒険者たちは混乱した顔をした。


「え?」


「手っ取り早く、火消しと行動の無効化をした。君たちはそこの村人の救護を頼む」


傷を癒し、炎を消し、今行われている行動を全キャンセルした。

一瞬の猶予を稼いだに過ぎないが。


「グラン・サーチ」


次に僕は味方と敵の位置情報を取得する。


ゴブリンの総数は121匹。

ここにいない村人の生き残りが5人。


うん、大体把握できたな。


「グラン・フォース・セプタプル・バレット」


100発に及ぶフォースの弾丸が正確無比に相手の急所を穿つ。


一撃でゴブリン45体を撃退した。


僕は生き残りの救出の為に一気に駆け出した。





◇◇◇◇◇







「ありがとうございます!!」


残る5人の村人を救出し、ゴブリンを全滅させたところで村長から感謝の言葉を送られた。


まぁ、こういう状況なら助けるのは当然だしな。

さして手間だったわけでもない。


「村人は何人生き残ったんだ?」


「は、はい、もともと50人程度の集落だったんですんけどねぇ、半分は死んでしまいましたよぉ」


25人の生き残りで半分か。

悲惨なものだ。


「おまえたちはこれからどうするんだ?」


「こういう時に協定を結んでる隣村に一時避難させて貰うさ。そんでいずれはここにもっどってくんさ」


逞しいな。

悲しんいるが諦めている様には見えない。

家族を失い、やせ我慢かも知れないが実に逞しい。


僕は頷いた。


「そうか。しかし、こんな小さな集落だと自衛も大変だろう」


「それは村と契約している冒険者がいるからさぁ」


一人の少女がこっちに歩いてきた。

おそらくさきほどゴブリンと戦っていた冒険者のリーダーだろう。


「私は「東の風」のユニオンギルド、第5班のリーダーのルリカです」


「ユニオンギルド?」


聞いたこと無いな。

いや、以前どっかで目にしたことがあったような。

無かったような。

単純に興味なくて調べなかっただけだろうな。


「えーと、ご存じないですか?冒険者ギルドに所属している冒険者がさらに集まって運営しているチームがユニオンギルドです」


「それで、東の風さんはここと契約しているのか?」


「はい、この国には騎士がいないのでユニオンギルドが各地を守護しているんです」


ギルドが?

そういえば、ヴィラールは冒険者の国と言われていたな。


「詳しく教えてくれないか?」


「グランドギルド、「天つ星の煌き」のギルドマスターが現在のこの地域の首長です。この下に位置する4大ユニオンギルド「北の天嶮の頂」「南の落日の雲」「西の大地の轍」「東の風の祝福」がそれそれの担当する地域を守護しています」


「ほほう」


そういえば、契約農家にも冒険者は居た。

この地域の直接税が安いのは上に立つのが貴族ではなく冒険者だからなのか。


「こういうことは良くあるのか?」


その問いにはルリカは沈痛な顔で首を振った。


「あんな大規模な襲撃を受けたのは初めてです」


そうなのか?

確かに普通では考えられない規模のゴブリンの群だったかも。


「もしかするとゴブリンの国の方で何かあったのかもしれません」


「ゴブリンの国か、たしか、グランデールにも一つあるとか」


「はい、妖魔族たちの中には国を建てているものもいます。ここの北、テスタンティスとの国境に聳える天嶮グランデール山脈にはゴブリンの興した国があるそうです」


それは聞いたことがあるなぁ。

つまり、そこから頭の悪いゴブリンどもが何かしらの意図を持って降りて来ているということか。


「今は畑のちょうど収穫期か」


「はい、もし食料を奪うつもりだったすれば、それほど大量の食料を必要とする何かの作戦を考えているのかも知れません」


「ふーん、ゴブリンって餌がいるんだ」


飼ったことないから知らなかった。


奴ら、ボウフラみたいにダンジョンに自然に湧くから、空気で生きていけると思っていたぞ。


「え、餌って、あのー」


「ああ、済まない。関係ない、気にするな」


しかし、グランデールからゴブリンが湧いてるとなるとテスタンティスも被害を受けるな。


「一応つぶしておくか」


この集落の様な被害を出さない為にも。


「え?潰す?」


「ああ、こっちの話だ。気にするな」


「しかし、今回の件は火急にギルドに伝えないと行けません」


「ん?行ってくれば良いじゃないか」


何か問題があるのか?


「で、ですが彼らを隣町まで護衛しないと行けませんし」


「なるほどなぁ」


隣町か。

良し。もう一件ぐらい契約しておくかな。


「それじゃ、俺がこいつらを隣町まで連れて行ってやるよ」


僕の提案にルリカは顔を上げた。


「本当ですか!ありがとうございます!それなら私たちはギルドの方に報告を」


「いやいや、リーダー。さすがに誰か残さないとユニオン長に怒られますよ?」


なるほど、仕事として請け負っている以上、護衛対象を放っておけないと言うことか。


まぁ、助けられたとはいえ、流れの冒険者に仕事を預けたら怒られるのか。


「あ、そうですね。じゃ、責任者の私がこっちに残りますから、後のみんなでお使いをお願いしますね」


「わかったっす」


うん、簡単なものだな。

悪く言えば、適当なんだろうけど、まぁ、冒険者の統治なんてこんなものなのか。


こうして、ルリカの仲間が4人がギルドへの報告のために抜けることに決まった。


彼らが去ったのを見届けたあとでルリカが行った。


「それでは私たちも隣町まで行きましょう」


「良いがこのまま歩いてどれくらいかかるんだ?」


どのくらいの時間を見越しているのか。


「子供も居ますから、そうですね。3日は掛かります」


聞いて、びっくりした。


うわ、遠すぎ。

となり町だろ。それで隣かよ


いや、そもそも、どんな牛歩で行く気だ。

僕の魔人の感覚が捉えている人間の気配の地点はここから60キロくらいだ。


あそこなら2時間で着くじゃん。


「どっち方向だ?」


「向こうに大体60キロだな」


ドンピシャだな。

僕は魔法を唱えた。


「サモン」


呼び出したのは巨大な移動用の馬車だ。

いや、馬じゃ無いから魔犬車かな。


「これなら25人くらい余裕で乗るだろ」


時速も30キロは出るわ。

こりゃ、名案だな。うん、うん。


僕が頷くとルリカがこっちを見て凍っていた。


「どうした」


「な、なんですか、この化け物は」


「おう、俺のペットだ、かわいいだろ」


「あ、頭が3つありますが」


どうやら、彼女はマイペットのケルベロスのケロちゃんズが珍しいらしい。

ちなみに鎖に3匹ほど繋がっている。


「なかなかイカすだろ」


「は、はぁ」


僕は若干おとなしくなった村人たちを魔犬車に乗せると走り出した。




◇◇◇◇◇





隣の村に着くと真っ青な顔をした冒険者が飛び出してきた。


そりゃそうだろう。


推定でLV100超えの魔獣が3匹も馬車を牽いて現れたのだから。


ゴブリン100体とケルベロス3体、どっちがマシだろうか。

悲壮な顔で武器を構えた冒険者に私、ルリカは声を掛けた。


「待って、カーリス」


「!?ルリカじゃないか!??どうして化け物に乗ってるんだ?」


「到着だ。みんな降りろ」


ぞろぞろと人々が降りてくる。

その数にカーリスたちは面食らった顔をしている。


「これは?一体??」


「カーリス。エール村の村長を呼んできて、シーレ村の村長が話があるの」





◇◇◇◇◇





「なんだと、ゴブリンが?」


私たちの詳しい話を聞いて、隣町の護衛任務に着いていた「東の風の祝福」の同僚カーリスが驚いた顔をした。


「はい、残念ながら村は壊滅被害です」


「そうか」


私たちを助けてくれた彼は村長たちと話をしている。

どんな話をしているのだろうか。


私はこっそりと聞き耳を立てる。


「いや、うちで受け入れられるのは5人だ。それ以上は無理だ。ネルソン」


「そげな事いわんで10人。頼む、ウィリス」


「しかしな、うちもぎりぎりで」


どうやら受け入れ人員で交渉中らしい。

この村も全体で50人程度の小さな規模だ。全員を受け入れは出来ないだろう。


「大変なことになったな」


「そうね、ゴブリンの大軍が動いているとなればグランギルドマスターも討伐クエスト軍を組織するでしょうし」


「違う、シーレ村とお前たちだ」


「え?」


私は驚いた、どういう意味だろう?


「シーレが消滅と言うことになれば、降格だぞ。せっかく土地護衛任務に付けるcランク冒険者になれたのに」


ああ、そういう意味か。


「・・・仕方ないわよ。ゴブリン相手に村を壊滅させちゃったんだもの」


ゴブリンに負けるなんて冒険者の名折れだ。


私が苦笑しているとカーリンが首を振った。


どうやら、彼は心配してくれたらしい。


すると、村長たちがこっちに歩いてきた。


「交渉は終わったのか?」


「ああ、この二人の村と俺が契約した」


魔法使いの彼がそう口を開いた。


「?なんだって?」


「俺は流れの商人兼冒険者でね。ここいらには農家と商品開発の交渉に来ていたんだ。せっかくだし、二つまとめて契約した」


それはつまりどう言うことだろう?

村が存続するということ?


「シーレ村に戻るの?」


「いや、村は移転だ。このエール村の隣を新たに開拓する。その費用や人員はうちで負担する」


気前が良いなぁ。


「それじゃあ、実質的な合併?」


「そうだな。ゴブリン軍の危機があるならその方が良いだろう」


「問題がひとつ。シーレ村が村の体裁を撤回しないなら駐在する冒険者の数も減らないし、税も軽くならない。それでも良いのか?」


「ああ、お前たちへの税金名目の雇用費は俺の商会が出す」


しかし、派遣されている冒険者は50人の村の護衛任務クエストを受けている。

費用が変わらずに人間が半分になると言うことは。


「2倍の税がかかるんだぞ?」


「儲けは出すさ。ついでに人を増やさせる」


彼はそう言って笑った。




◇◇◇◇◇





人員ぐんじんの派遣は後日と言うことになった。

ついでに契約金を少しばかり多めに渡しておいた。

この事もあって、シーレ村の村長はえらく感謝していた。


まぁ、一応、命の恩人だしな。働いて返してもらえれば良いです。


商談がまとまって直ぐに一人の女性から声を掛けられた。


「大魔法使い様、ひとつ、お願いしたいことがあるんです!」


随分と綺麗なお姉さんのシスターに声をかけられた。


黒い修道服ってこの世界にもあるんだ。

何教だろう。フィリア教ではないよな。


しかし、大魔法使い?誰だよ。


僕のことか?


このお嬢さんが誰か知らないが僕が魔法を使うところを見た人間ではなさそうだな。


人伝えで僕の魔法の事を聞いてその話を信用してるのかな?


もしそうなら、美人だけど騙されやすそう。

まぁ、どうでもいいか。


何用だろう。


「話ぐらいは聞くが、受けるかは内容によるな」


「お願いします。お願いします」


うーん、こんなに熱心に頼まれると断りづらい。


僕がついて行くと大きな館に着いた。


「あ、シスターだ」


「シスター」


おお、シスターに子供がわらわら寄ってくる。

お約束っぽい光景だな。


しかし、子供が多いな。

まさか。


「孤児院?」


「そうです。ここにはモンスターの襲撃で親を亡くした子供を運ばれて来るんです」


「そうか」


へーたいへんなんだな。


正直、こういう場所は苦手だ。

ああ、早く帰りたい。


「お願いしたいのはあの子なんです」


幼子。女の子だ。

年は本来の僕と同じか下ぐらいかな。

いや、見た目はもっと小さく見えるけど、衰弱している分を除いて同じくらいだろうと予想する。

栄養が足りていない。


いや、それだけではない。この子供は。


目が死んでいる。


「彼女がここに運び込まれたのはもう3日前です」


「衰弱しているな」


「何を食べても吐き出してしまうのです」


拒食症か。

目も虚ろで生きる気力を完全に失っているようだ。


死にたいと言うことか。


「この子を助けてください!お願いします!!」


シスターの懇願に僕は眉を歪めた。


助けるって何?どうしろと?


まぁ、おそらく、心的外傷を克服させれば良いんだよな。

出来なくもないが。


しかし。


「どうしても助けたい?」


「はい!」


「僕としては、このままシスターが心を開かせるべきだと思うけど」


僕の意見にシスターは驚いた顔で言った。


「た、助けてくれないんですか」


「いや、うーんというかね」


なんと言ったものかねぇ。


「俺は今、この状態のこの子供を生きたいと思わせる方法は無い。幸せにする方法もない。方法はだたひとつ、こいつの記憶をいじって、別のこいつに差し変える。要するに今のこいつを俺に殺させる様なものだな。それなら可能だ」


「それは・・・」


「どうする?たぶん、そんなことの責任は誰も取れんぞ。最悪、この子が、ますます苦しむだけかもしれんし」


要は記憶をいじってすり替えるだけだ。


そして、シスターの依頼とは言え、結局、それをするなら責任を持つのは僕なんだよな。


為した者には為した者の責任がある。


人の記憶を弄くるというのは決して良いものではない。


それをやるのは僕のエゴだ。


僕がやりたいから、僕はやる。

そのツケも払うときが来るなら、まぁ、相手になってやる。


でも、他人に押しつけられてやるのはちょっと違うだろ。


この事はタブーとしては最大級なわけだし。


ほいほいと、頼まれて気軽に人格改造に応じるわけには行かない。

いくらシスターの頼みでも、だ。


まぁ、自分でやりたいと思ったら、僕はやるだろうけど。


「貴方は助けたいと思わないのですか?」


「そこなんだよな。俺だって悪党相手には好きなだけエゴイストでいようと思える。けれど、たとえば、好きな人が居て、その人は別の人が好きだとする。その気持ちを自分に魔法で無理矢理向けさせることが可能だとして、それは是か?」


「それは・・・いけないことです」


「だろ?俺は、いま、ここでこうして死にたがってるこの子を憎むことはない。嫌いじゃないから否定もできない」


「だから記憶操作はできないと?」


「本人が希望するならありだろうけど」


シスターが言った。


「助けたいと思うのは私のエゴです。それを私が押し通したら駄目ですか」


うーん、そうだよなぁ。駄目ではないよな。

強いなぁ。


「でも、だったらあんたがするのが本来の筋だろ?」


「私には無理です。だから貴方にお願いしたいのです。そのためだったら私、私・・・」


わたし?


「脱ぎます!!」


・・・。

そんな要求してないぞ。


「・・・え、あ、うん。そういうのは別に要らないんだけど」


「え?」


・・・。まぁ、そこまで言うなら仕方ないか。

今回はシスターのぬぎっぷり(脱いでない)に免じて嫌々、動くか。


ひとまず、十分、釘は刺せただろ。


正直、このまま見捨てるのも夢見悪すぎだし。


こんなサービス、もう二度としないんだから!


「わかった、魔法処置でこの子の記憶をある程度消去する。良いな」


「は、はい」


僕はその子供の頭に手を置く。

ひとまず記憶を探って、原因を調べれば・・・・・・。


・・・。


「どうしました?」


「え、ああ・・・」


僕は眉をすこし歪めた。

うーん、見るんじゃなかったな。


なるほど、ゴブリンは人も喰うのか。


「この子供は両親を目の前で生きたまま、喰われてる」


「え?そ、そんな」


ほぅ、こりゃ随分と悲惨な現場だな。

飯が食えなくなって当然かもな。


「患部を消去する」


メモリーリセット。


魔法が発動して子供の記憶の一部が消去される。

これで多少は違うだろう。


子供の目に光が灯る。


「あ、あれ?ここどこ?」


「君のお家だよ。名前は?」


「ん、ミルカ。ミルカ・ヨークだよ」


「おう、そうか。良い名前じゃねぇか、大事にしろよな」


そういって俺は頭を撫でる。


「うん」





◇◇◇◇◇






「シスター、さっきはあんなことを言ったが・・・」


「はい」


「結局、俺には誰かを幸せにする自信がないんだ。する気もないしね。だから、今回の件の対価として、シスターがこの子を幸せにしてやってくれ」


結局、こっちのエゴで生かした相手がもっと不幸になることだってあるんだ。


僕がそこまで責任を持ちたくないと思ってしまうのは卑怯だろうか。


やれやれ、自分勝手に生きるというのも中々難しいものだな。


「は、はい」


はぁ、結局、僕は責任逃れしたいだけだな。

まぁ、良いか。


無責任最高。と言うわけで。

あとはシスターにお任せで良いよね?


「ところでシスターは聖職者なんだよな?」


「はい、この村で本部からの支援を受けてこの村で小さな教会と孤児院を経営しています」


「ちなみに何教」


「はい!万人を愛するフィリア教です!」


・・・アホな子教じゃねぇか。

僕、絶対フィリア教と相性悪いよねー。


「どうされました?」


「いや、良いんだ。気にするな」





◇◇◇◇◇







次の日。

軍人を大量導入しての開拓中に事件は起こった。

僕の元に昨日の愛の聖職者シスター(そういえば名前聞いていない)がやってきた。


「あの実はちょっと困ったことになってまして・・・」


知らんがな。


「なんだよ。お前たちは苦手なんだ。帰れ」


「え、なんか扱い悪くなってないですか?」


お前たちの最高司祭が悪い。

お前たちに関わると僕は良い迷惑なんだ。

カエレ!!


「実は昨日のあの子が」


「あ、パパだ」


ん?誰だ?


「パパ!パパ!!」


そう言って昨日の子、確か、名前はミルカだったっけ?が僕に抱きついて来た。


軍人たちがぎょっとした顔でこっちを見ている。

こいつらは俺が9歳児だって知ってるからな。


「(おい、領主さま、そう言う趣味なのか??)」


ちげーよ。


「(いや、あの領主さまなら自分と同い年の実子ぐらい居てもおかしくないだろう)」


居るわけないだろ!?


「(さすがだ。さすが、おれらのボス)」


ふざけんな。こいつら。


「監房にいれっぞ!!黙って!働け!!!」


「「「「「サー」」」」」


「パパ」


・・・、おかしい。なんだこの状況は?


「誰が?」


「え?パパはパパだよ?」


まじかよ。いきなり抱きついて来るとはな。

一応、イニシエーションに併せてフォースの力場で体の質感を作っといて良かったわ。


って問題はそこじゃない!!


誰がパパやねん!!


「俺はパパじゃないぞ?」


「でも、あそこが私のおうちでしょ?」


あそこって、昨日いた孤児院か。


「そうだな」


「じゃ、パパはパパだよね?」


可笑しいだろ、論理飛躍だ。

珍しく子供らしい子供だな。


「俺は君のパパじゃないぞ」


「そうなの?」


子供は不思議そうな顔をした。


「大体、パパの顔と全然違うだろ?こんな顔だったか?」


「んー、でも、前のパパの顔わかんない」


まじかよ。

心が壊れた時に自分で自分の父親の顔を壊してしまったのかもしれない。


データが破損したHDのエラー状態か。


いや、白紙状態からの刷り込みか?


「あー、つまり、記憶消去じゃ、壊れた心まで回復しなかったのか?」


どうすんだ。これ?


「パパ、一緒にあそぼ」


「俺はパパじゃない」


「パパ♪パパ♪」


話を聞きなさい。

・・・。


「おい、シスター」


「す、すみません」


あー、うー。

え、まじ??


「パパ、どうしたの?頭痛い?大丈夫??」


はぁ、こうなったのは僕の責任だよな。


僕が記憶を消去したからこうなった訳だし。



・・・・・・。



・・・仕方がないか。




「・・・、なんでもないよ。ミルカ」


はぁ、結局、これもツケなのかねぇ。

まぁ、良いか。


僕がミルカの頭を撫でると彼女は嬉しそうに笑った。


こいつが気づいてやめるまで。

しばらく、家族ごっこ遊びに付き合ってやるか。


こうして、僕に子供が出来ましたとさ。

あああ、めでたくない。

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