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転生したった   作者: 空乃無志
第一章 幼年期編
4/98

幼児、怪しまれる

※7月12日改訂

風邪は治ったようだ。


僕はほっとする。


しかし、言葉をしゃべってしまった。


昔どこかで見た僕のうろ覚え知識だと子供がお話しをしだすのは1才くらいらしい。

僕はまだ半年経っていない。


奇異に思われたかも知れない。

しかし、ちょっとぐらいしゃべれる風に思われないとこちらは何も意志を表現できないし。


それにしても怪我の功名と言ったところだろうか。


僕はサーチを使って頷いた。


生命力 10/20

精神力 19/22  


促成魔法・・・ヒール1

消去魔法・・・リフレッシュ1


回復魔法を得る事が出来た。

それぞれをより詳しく確認する。


ヒール・・・主に体調を回復させる目的で使用される魔法。時繰りの神ネールの加護。対象部分のみを時間加速させて再生効果を引き出す。範囲と規模に応じて消耗が増える。


リフレッシュ・・・主に病原菌を破壊する目的に使用される魔法。破壊の神ノエルの加護。指定対象のみを選別し消去を行う。消去の規模は小さい。


え、破壊?時繰り?


想像してたのと、ちょっと違うような。

ヒールは時間回復、それも再生能力の促成で、リフレッシュは病原菌を直接消去する滅菌魔法のようだ。


時間加速かぁ。

これって使いすぎると体が老化するのだろうか?

なんともカロリー消耗が激しそうな魔法だな。


まぁ、良いか。

差し当たって体が出来るのが早まるのは悪いことでもない。

…はず。


「ヒール」


僕は体調が完全に回復していない体にヒールを唱える。

光に包まれ、体力が回復していく。


すぐに確認する。


「サーチ」


生命力 15/20

精神力 13/22


うん、どうやら予想通りヒールによる精神力の消耗は5程度なようだ。

あのとき、失敗したリフレッシュは今は使用する必要がないし、それにちょっと危険なので封印しておこう。


よし、筋トレしてみるか。


トレーニングして時間再生。

これは効率が良さそうだ。

栄養の補給がいまいちな現状ではトレーニングのしすぎは禁物だけど。


僕は早速立ち上がった。




◇◇◇◇◇




「ママ」


可愛い。可愛いのユノ。


「はーい、ままでちゅよー」


ユノは手を広げて、私に手を伸ばす。


私はデレデレしながら抱き上げると頭を撫でた。


最初の頃はスキンシップを嫌がっていたようなユノも今では平気になったみたい。


ユノウスは私の脇に挟んであった本をぺちぺちと小さい手で叩いた。

あらあら、お目当てはこっちでしたか。


ユノは大の本好きだ。


私はユノをベッドで横にすると御本を広げた。


「今日はこの本にしましょうねー」


「ほん」


ユノウスが嬉しそうに笑顔で本を握っている。


うんうん。よかった。

借りてきて。


実は、この本は私の物ではなく借り物なのだ。


私には絵本の手持ちなど無かった。

というか、絵本なんて高級な嗜好品、中々持っていないものだ。

そんな様子を見て、リージュさんが気を利かせてくれた。


「本館になら子供用の絵本がたくさんあります」


「ほんとう?借りてきて貰えるの?」


リージュは小さく頷くと言った。


「構いませんが、メーリンさまとちゃんとお話になってはどうでしょう?」


「う」


メーリンさん。ルーフェスの正妻だ。


優しい方だと伺っているのだが私は会うこと自体を躊躇っている。

だって、一方的にご迷惑をお掛けしているわけですし。


彼女にはもう2歳になるお子さんとユノウスと数ヶ月違いのお子さんが二人もいる。

つまり、私が彼に抱かれた時にはもう子供を産んでいたわけで私を抱いた後、何食わぬ顔でもう一人こさえた訳だ。


あいつ、最低だわ。

今となっては本当に嫌い。


本邸のメイドから経験豊富なリージュを私の為に手配してくれたのも彼女らしい。


まったく頭が上がらない。


「わ、分かったわ」


「はい、では本宅に向かいましょう」


うう、緊張する。

私は別邸から本邸に向かった。


この屋敷は本邸と別邸が庭園を境に繋がっている。

さすがに公爵家。やたらと広いものである。


本邸に付くと屋敷の奥の方の部屋に通された。


そこには一人の女性が座っていた。


身長は150センチメートルくらい。

亜麻色の髪の柔和な印象の綺麗な女性だ。


「メーリンよ」


そう告げられて、私は萎縮しながら呟いた。


「ミリアです」


メーリンは立ち上がると私に近づく。


「ほんとうに可愛いわ」


「え?」


「私、兄や弟しか居なかったから、ずっと妹が欲しかったの!」


そう言って私に抱きつく。

メーリンの私は思わぬ行動に目を回してしまった。


「あ、あの、」


「仲良くしましょう。ミリア!」


「は、はい」


「本はいくらで借りて行って良いからね」


「は、はい、助かります」


「レオのお下がりで良ければ洋服も持って行っていいのよ」


「はい、助かります」


「本当、エルフって妖精なのね!」


「え、と、あのー」


「あら、ごめんなさい。ふふ、年だと貴方の方が上なのにね」


「はぁ」


やっと離してくれたよ。

私がほっとしているとメーリンが人の良さそうな笑顔で言った。


「頼って貰って良いからね」


本当に助かります。

私はお礼を述べると頭を下げた。




◇◇◇◇◇





あれから1ヶ月が過ぎた。


生命力 22/22

精神力 30/30

筋力  9

速力  8

知力  997

魔力  21


サーチ 20、ヒール 5、リフレッシュ 1


うん、筋トレの効果もかなりあったようだ。


一つの成果として歩ける様になった。


最初はベッドの縁に掴まり歩きだったが今は掴まずにぐるぐる歩き回れるぐらいにはなった。


これは大きい。何より歩けるということがこんなにすばらしいとは。


ちょっとした変化もあった。

ミリアが時々、教育用の絵本を持ってくるようになったのだ。


所謂、読み聞かせと言う奴なのだろうか。


「この子は天才よ♪」


と、浮かれながら色々教えてくれるようになった。

僕は相変わらず「ママ」と「ほん」しか呟いていないのだが。


この浮かれよう。

正直、ちょっと不安になる娘である。


読み聞かせが始まったお陰でかなり勉強になった。

この世界の言葉もかなり分かるようになってきた。


当初の不安も随分と改善されつつあるな。

自分の現在地についてもある程度は分かってきた。


一応整理しておこうかな。


僕の名前はユノウス・ルベット。ハーフエルフらしい。


母はミリア・ルベット。エルフらしい。


父はルーフェス・ルベット。貴族。階級は公爵位らしい。

正室、不明。兄弟、不明。ただ兄が一人いるらしいようなことをメイドが呟いていた。


家族構成に関してはこんなところかな。

全然情報が足りないな。


結局、この身の上では何も出来ないなぁ。

魔法と筋トレとこの世界の言語の習得ぐらいしかする事がない。


この世界の言語を学んで意外だったことが一つある。

様々な単位が僕の知る世界と驚くほど似ているのだ。


まったく一緒では無い様だが驚くほど似通っている。

距離の単語は「※※※」となる。


上手く発音できない。


僕が認識している言葉で翻訳するならもうメートル表記ということで理解して良いだろう。


秒・分・時の使い方、年の数え方も一緒だ。

単語こそ違うが中身は一緒だ。

理解しやすくて非常に助かる。


しかし、どうにかして、もっと多くの情報を得る方法は無いだろうか?

悩んでいると人が入ってくる音がした。


「はーい、ユイくーん」


呑気なエルフ母のミリアだ。


「まま」


我ながらどうかと思う愛らしい子供の声でそう答える。

にこにこしながら持ってきた絵本を広げる。


「じゃーん、新しい絵本を持ってきたわよ」


僕はきゃきゃっと喜んでみせる。


実際、嬉しいのだ。

教材としては多少物足りないけど、文字とイラストと読みを勉強できる。


文字ばかりはこの本で無いと勉強できないし。

さっそく僕の前に広げた絵本をミリアは読み聞かせ始めた。


「奥様、離乳食の準備が出来ました」


「ほんと?ユノ、ご飯よー」


「まま」


うーん、僕のことながら、ちょっと気持ち悪いな。

この媚びてる感。


まぁ、母親が喜んでいるし良いか。

この頃、ようやく待望の離乳食が出され始めた。


「よく食べますね」


「もぐもぐしてて可愛いわ♪」


うーん、何でも誉めてくれる母である。

ただ食事しているだけなんだが。


母のスプーンが止まっている。


「もっとー」


僕は簡単な言葉でおかわりを催促する。

これぐらい良いよね?


「わぁ、そんな言葉まで」


ミリアが嬉しそうな顔で離乳食を差し出す。


うめぇ。


いや、単純に美味いというより本当に新鮮な味がする。

脳が刺激を覚えていない感じ。

味蕾の発達がいまいちなのだろうなぁ。


でも、味は薄いが僅かに感じられる。これが嬉しい。


そして、メイドさんには申し訳ないがあの変な味のミルクよりずっと美味しい。


離乳食最高。


ご飯が終わり、ミリアがこちょこちょしながらじゃれてくる。

こちょこちょは苦手だ。


うー、くすぐったい。


別のことに気を逸らそう。

よし、そろそろ立っても良い頃だろう。

僕はコチョコチョから逃げながら、ミリアの目の前で立ってみた。


驚いた様子でミリアが僕を見る。


「立った!!」


「まま、えほん」


「きゃー立った!たったわ!」


僕はひとまず絵本を要求そぶりを見せつつ、母親の狂乱ぶりを眺めた。

こんなに喜ぶとは。


そして、何気に2語文も初めて使ってみたのだが。

こっちも圧倒的に早いのだが、まったく気づいてないぽいなぁ。


つか、テンション高いなぁ。


僕が立ったときより母親の方が喜んでる。

こういうのって、なんだか恐縮するなぁ。


このミリアの喜びようは半日ほど続いた。





◇◇◇◇◇





次の日のことだ。

人の気配を感じて僕はトレーニングを終えた。

最近分かった事なのだがサーチを扉に向けておくと人が近づいた時に表示されるらしい。


「赤ん坊は苦手なんだよ」


「もう!せっかく、ユノが立ったのに!」


何だが文句を言いながら女の人が入ってきた。


誰だろう。初めてみた人間。

どうやらミリアの知り合いみたいだけど。


長い髪でどこか野性味のある顔立ちの美人。

中世の戦士のような格好をしており、剣のようなものを腰に下げている。


父や母やメイドとはまた違った人間の様だ。

興味深いなぁ。


僕はこっそりサーチを唱えて見ることにした。

情報収集。情報収集。


幸い、ミリアも謎の女性もお互い話しで夢中だ。

僕はわざと人見知りな様子で顔を毛布にくるんで聞こえないぐらい小声で魔法を唱える。


「(サーチ)」


すると何故か光が彼女を包んだ。

同時に僕が向けたサーチが消えた。


え、何で?失敗した??


「む」


女戦士は険しい顔で周りを見渡した。


「誰だ?何かの魔法を受けたぞ??」


「え?何言ってるの?」


友人の突然の行動にミリアが顔を歪める。


「いや、何かの魔法があったのでハジャで弾いた」


はじゃ?


「え?えぇ??私じゃないわよ!?」


「ミリアとは言ってないだろ」


そう言って腰の剣を抜き周囲を見渡す。

その表情は一層険しい。


「敵がいるかもな」


「誰よ、敵って?」


不安げにミリアが呟く。


「大体、魔法式が見えないのに勘で魔式を斬るなんて物騒なのよ」


「魔法式が素で見える奴なんて居ない。祝福持ちか、レア天恵持ちじゃなきゃ、見れないんだからしょうがないだろ」


え、魔法ってどうにかすれば、何か見えるの?


魔法式?


良く分からない単語のオンパレードだ。


「しかしなぁ、公爵の妻に息子だ。色々事が考えられるだろ」


「もう、ここで剣なんか抜かないでよ。ほら、ユノもびっくりしちゃってるじゃない!!」


そう言われた僕の顔を見る。


は、はんにんはぼ、ぼくじゃないよ。


思わず緊張で顔が強ばる。


「む」


ちなみにミリアが言っているのとはまったく別の理由でびっくり中です。

ええ。

ところが僕の様子を誤解してくれたらしい女戦士はやれやれと首を振ると言った。


「周囲に何かいるかもしれん。ちょっと回ってくる」


「もう!台無しじゃない!!」


すみません。

僕のせいです。

しかし、何が起こったんだ?

あの女戦士はハジャとか言ってたけど・・・。


魔法を打ち消した?


うーん、とにかく人にむやみにサーチを向けるのはやめよう。

少なくともハジャの正体が分かるまでは。




◇◇◇◇◇




さらに一ヶ月が過ぎた。


僕は今、生後七ヶ月ということだ。


同じ様な感じで僕が歩いているところを母親に見せたら同じ様な騒ぎになった。

それで今は誰が来ようとお構いなく歩いている。


一度堰を破ったように情報開示をし出すと次の開示の気が楽になる。

というか、ついつい気がゆるむ。


「凄いでしょ!ね?ね?」


今はまたミリアとあの女戦士が来ている。

女戦士の名前はエレスというらしい。


そのエレスは相変わらず微妙な顔でいる。


「いや、凄いというより異常だろ」


え。

僕はまた困惑して動きを止める。


ドウイウコトデショウカ。


ちょっとやりすぎたかな?

かなり緊張して次の言葉を待つ。


「発育の遅いハーフエルフのしかも男子がどうして一年経たずに2語文で話し、自由に立ち歩くんだよ?」


おお、そこは確かに普通、疑問に思うよね。うん。

ん?ハーフエルフの発育が遅い?

そうなの?


「それはうちのユノが天才だからよ!」


「そうかぁ?まぁ、わたしも子供を生んだ経験は無いが。しかし、もう一人の妹は全然なんだろ?」


いもうと?

僕に妹がいたのか。


知らなかった。

新しい情報に僕は興味津々である。

その様子が態度に出たのかまた女戦士が難しい顔で言った。


「この坊や、聞き耳立ててないか?」


うお、女戦士怖い!


「もう!変よエレス!」


「うーん、変な子供だなぁ」


あー、完全に疑われてる。

まぁ、良いけど。


「もう!大体優秀な事は喜ばしいじゃことじゃない。メーリンさんのところのユフィリアちゃんは関係ないでしょ」


メーリンは確か正妻の名前だよなぁ。

ということは、妹はメーリンの子供で名前はユフィリアで確定かな。


へー。

まさか、兄に続いて妹の存在まで確認されるとは。

興味深い。


「それより、ユノ、じゃーん。おやつ貰ってきたわよ」


「わーい」


「やっぱり、もう言葉分かってるだろ。その子供!」


無視しよう。

僕はミリアに頂戴アピールをする。


最近、僕に対してミリアがおやつを持ってくる様になった。

と言ってもメイドのリージュが用意する簡単なものだが。


さて、今日は何かな?


「果実か。お前、そういうの子供に与えると飯食わなくなるぞ」


エレスがミリアの掲げたガラスの容器を一瞥して言った。


「平気よ。ユノ、食いしん坊だし」


「たべる」


おお、どうやらすり下ろしたリンゴらしい。

いや、リンゴみたいな果実だろう。


完全にリンゴだな。


ちょっと薄味だけど甘くて美味しい。

たぶん、水で希釈してるのだろうなぁ。


「うまー」


「あはは、かわいい」


「・・・・・・はぁ、まぁいいか」


どうやら、エレスはミリアが幸せそうなのでほって置く事にしたらしい。

おお、この調子、この調子。




◇◇◇◇◇





私、リージュが手早く離乳食のオートミールを作っていると同僚のルネに声をかけられた。


「それ、ユノさまの食事?」


「そうよ」


「量多いわね」


ルネはリージュの手元にある鍋の中身の量を見て、なんとなく感心して呟いた。


「よく食べるのよ」


あればあるだけ食べてしまう。

いくらオートミールでもあれだけ食べれば、ちょっとは太りそうなものだが。


「ユフィリアさまはまた体調を崩されているそうよ」


その言葉にリージュは顔をしかめた。

メーリン様も気苦労が多い。


「まぁ、それじゃ、お付きのメイドも大変ね」


「そうよね。夜泣きも多いらしいし、乳離れも遅くて」


ユフィリアとユノウス。

この二人は随分と対照的に育っているようだった。


夜泣きどころかほとんど泣かず最初は心配されたが、乳離れも早く発育も良い健康優良児のユノにどこか病気がちなユフィ。


「どちらも元気に育ってほしいけど」


リージュはぽつりと呟くとオートミールを冷ます為に鍋を竈から外した。

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