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強面傭兵と願いの奏者 5

「・・・それで、お前は本来なら見えない存在なのか?」

 その後ギラムは、仕方なく彼を自宅である部屋へと上がらせ適当な場所へと座らせた。 長話かはさておき趣味であるコーヒーを挽き2人分作り終えると、部屋に置いてある座布団の上に正座している虎獣人の元へと向かって行った。 目の前にコーヒーの入ったカップを置き、ギラムは玄関先で聞いた内容を問いかけた。、

「う、うん・・・ ・・・だから、ちょっとでも僕を見て反応を示してくれた人にコンタクトを取りたくて来たんだ。」

「だからってちょくちょく俺に付きまとうなって・・・ それじゃ『ストーカー』だぞ。」

「うぅ・・・ ごめんなさい・・・」

 経緯はどうであれ、彼等は元々視界に映る存在ではない事だけはギラムもなんとなく察しはついていた。 普通ならば人しか存在しない街中で、普通の虎とはまた違い自分達と似た体形を持ち二足歩行で歩く獣。 どう考えてもこの世の生き物ではないに等しく、依頼で彼が出かけた場所で彼等の様な存在を見かける事もなかった。 だからこそ訳ありの存在だと言う事を、理解するしかなかったのだ。

 しかし彼を初めて見かけてから数日経った今、彼の行動はギラム達の世界で見たら『ストーカー行為』でしかない。 好意を持っているかはさておき、自宅までくっ付いて来たりちょくちょく視界に映っては何かしらの反応を求めてくる存在。 正直言って、どうでもいいと思っている存在からしたら鬱陶しい限りである。

 軽くお説教をされてしまい、虎獣人は申し訳なさそうに俯き謝っていた。 背後で時々揺れていた尻尾も今では地面についており、元気がないようにも見えた。

「・・・まぁ、そうするしかないって言うお前の理由が分かったからこれ以上は言わないけどな。 それで、俺に何の用で来たんだ?」

 怒られる行為をしたと思い落ち込んでいる彼を見て、ギラムはそれ以上は何も言わず自分の元へやってきた理由を問いかけた。 元々自分に用があってきた事には変わりは無く、話はそれからでも良いと判断したようだ。

「ぁの・・・そのぅ・・・ ・・・」

 とはいえ先ほど怒られた事もあり、これ以上自分の要件を言っては再び怒られるのではないだろうか。 虎獣人は自然とそれを察したかのように言葉に迷っており、容姿と違いちょっと子供っぽい言い方をしていた。 視線は宙を泳ぎながら上下左右に動いており、顔も何処か不安げに言おうか言うまいか迷っている様だった。


 そんな彼を見て、ギラムはしばらく寡黙を貫き彼を見ていたが、ふとある事が浮かんだ。 それは普段彼が気にしている『顔』についてであり、自分の左目付近にある赤い痣がその原因ではないかと思った。 年齢もあるがその傷のせいで小さい子にはよく怯えられており、アリンと初めて会った際も傷で恐怖を抱かれていた。

 その事を彼は思いだし、きっとそれが目の前に居る彼を迷わせる要因の1つとなっているのではないか。彼はそう思い、静かに口を開いた。

「なぁ、1つだけ言っておいても良いか。」

「ふぁっ・・・ ・・・な、何・・・?」

 気を使い声量も抑えて彼は言ったが、あまり効果は無かった様子で虎獣人は怯えつつそう言った。 その様子を見て、ギラムは自分が考えている事が大体あっているだろうと確信し、何を言われるのだろうと不安げな彼にこう言った。

「人ってさ、顔付きとか表情で第一印象が決まるって良く言うだろ。 お前も、そういうのってあるのか?」

 不安感を取り除こうと思いギラムはそう言い、自分の印象が悪く思われているのではないかと問いかけた。 彼が自分と同じ世界に住んでいる存在ではないと言う事もあるが、もしそれで決まっているのならば変えたい。間違った解釈はずっとさせないようにと、彼なりの配慮でもあった。

「ぇっ・・・ ・・・ちょっとはあるけど、印象までは行くのかな・・・」

「そっか。 まぁ、そんなにビクビクしながら言う事に迷わなくても良いぜ。 さっきは怒ったけど、今はそんなに怒ってないからさ。 とりあえず言いたい事、言ってみな。」

「・・・う、うん。」

 問いかけに対し彼はそう言い、今度は前を向き小声ではあるもののそう言った。 返答を聞いたギラムは納得し、これ以上迷う必要は無いとあらかじめ伝え再び言いたい事を言って欲しいと告げた。 すると彼は、迷っていた時とは違い体制を変え、再び前を向き彼の目を見て言おうとしていた。そんな虎獣人を目にし、ギラムは少し嬉しそうに優しい笑顔を向けた。

 優しい眼差しを向けてくれている彼を目にし、虎獣人は深呼吸をし落ち着いたと同時にこう言った。



「あのね・・・ 僕に、君を守らせてくれないかな。」



 落ち着いたと同時に言われた言葉に、ギラムは少し耳を疑った。 何かを頼み込みに来たのかと思った彼にとってみれば、虎獣人の台詞は異常だった。



  傭兵である自分を、守りたい。



どう考えても違和感のある言葉である。

「ぇっと・・・ 守りたい・・・?」

 とはいえ自分の聞き間違いかもしれないと思い、ギラムは疑心暗鬼に問い直した。 それを聞いた虎獣人は顔を大きく動かしながら頷き、言った言葉が間違いでない事を再度ギラムに告げた。

「う、うんっ 僕はエヴィナラスから来た『グリスン』です。 自分と契約して、君を守らせてほしいんだ。」

 言った言葉に反感が来なかった事を判断し、虎獣人は自分の名前を名乗った。 グリスンと名乗り自己紹介をした後、続けて彼はそう言い契約を行い『貴方を守らせてほしい』と言ってきた。 しかし普通に考えてみれば、そう言うのは大抵かよわそうな女の子に言う台詞である。 服の上からでも発達した筋肉が解り、いかにも外仕事を行っていそうな青年に、告げる言葉ではない。

「・・・ぁ、あいにくだがグリスンとやら。 俺は傭兵で、どっちかっていうとお前と似たような立ち位置に居る人だ。 ちょっと相手を間違えてないか・・・?」

 ひとまず断っておくべき事であろう事実をギラムは告げ、頼み込む相手を間違えていないかと問いかけた。 顔は分かっても体系で仕事は解らなかったのかもしれないと彼は思い、自分の職業を告げグリスンと似たような位置に居る存在だと言った。

「ぁ、そうなんだ・・・ じゃあ、戦い方には慣れてるんだねっ。」

「は?」

 すると今度はグリスンは再び妙な事を言いだし、あからさまに会話が成り立っていない雰囲気が漂い出した。 これには思わずギラムは呆れ混じりの声でそう言い、別の解釈をしたのではないかと不安になってきた。

 純粋な眼差しで自分を見ている虎獣人は、目は普通の人よりも大きく愛くるしい顔である。 耳は普通の虎よりも少し大きく、イヤーマフの様なオーディオ機器と思われる物をつけていた。 首にはチョーカーに近い道具もついており、服装はどちらかと言うと春や秋に着そうな服。


 青年と言うよりは少し幼い彼が、どんな解釈をしたのだろうか。


ギラムは不思議に思いつつ、ふとある事が思い浮かんだ。

「・・・ なぁ、グリスン。」

「何?」

 会話が成り立っていない事に気づいていない彼を見つつ、ギラムは声をかけた。 それを見た彼は少し嬉しそうにギラムを見ており、どんな返答が来るのだろうと楽しみに待っている様子だった。 心なしか餌を待つ虎にも見えなくない光景であり、目が輝いている。

「お前・・・ まさかとは思うが、何か隠してないか・・・?」

「えっ・・・!?」

 そんな彼に向かってギラムは一言いうと、グリスンは表情を変え驚愕した。 そしてあからさまに戸惑っている様子で再び落ち着きがなくなり、忙しなく顔と手を動かし耳がピコピコと動いていた。 本当に青年なのだろうか、不安になる可愛さである。

「・・・」

「ぁ・・・で、でもねっ 僕みたいに頼りない相方が増えても、契約したらすっごい力が手に入るんだよっ!」

 あからさまに何かを疑っている眼差しを向けられ、グリスンは苦し紛れに利点を告げた。 それは契約を交わした対価に得られる物であり、常人ではありえない力を使う事ができる。 見ず知らずの存在と契約した際に得られそうな力であり、普通の人ならば魅力を感じるであろう他に無い利点である。

「力・・・なぁ・・・ ・・・」

 しかし今の状況と相手が悪い事もあってか、グリスンの言った利点で誤魔化される様な彼では無かった。 むしろ余計に怪しまれている眼差しを向けられてしまい、再び怪しい雰囲気が漂っていた。

「そ、そんな『悪徳商法を受けてます』みたいな顔しないで・・・ うぅ・・・」

 疑いの眼差しを向けられ、グリスンは先に白旗を上げつつまたしても妙な台詞を吐きつつ困り果ててしまった。 本当に自分の住んでいる世界に住んでいるのか、そうでないのかと時々わからなくなってしまう言葉である。 何処にそんな商法を持ちかける別世界の住人が居るのか、ある意味そっちが気になる困りっぷりである。



「・・・ハァ。 なぁ、本当にそれが事実なのか・・・? 俺はそんなに、信用が無いような顔をしてるか・・・?」

 そんな彼を見て、ギラムは溜息を付きながら再度それが事実なのかと問いかけた。 顔で疑われているのならば仕方がないが、ここまで配慮をしても意味がなかったかのように誤魔化す存在は好きではないのだろう。 怒りを通り越し、ギラムは呆れながら残念そうに彼を見た。

「ぅ、ううんっ!! 君みたいな人と一緒に慣れたら、僕も嬉しいの! 本当に何か変えられるんじゃないかって、思えるくらいに!!」




「・・・」

「ぁっ・・・ ・・・」

 すると、そんなギラムを見て悪いと思ったのか。 グリスンは不意に落ち込んだ顔から豹変し、一生懸命に告げるかの様に真面目な顔をして彼に訴えた。 しかしその努力によって今まで言ってきた事が嘘に変わった瞬間を知り、グリスンはしまったと思い再び口を閉じてしまった。

「・・・ゴ、ゴメンなさい・・・ ・・・僕、そろそろ帰るね・・・」

「・・・」

 その後しばしの沈黙の後、グリスンは一言詫びを告げその場を立った。 そんな彼を見ていたギラムは、立ち去ろうとする彼を目で追わず前を向いたまましばらく黙っていた。自分を目で見送ってくれないギラムを見たグリスンは、残念そうに背中を向けその場を後にして行った。




ガチャンッ・・・


「・・・ハァ・・・ アイツ、何か解ってて俺にそう言ったな・・・ 馬鹿な奴だよ、本当に・・・」

 相手を傷つけてしまった事に対し、グリスンが申し訳なさそうに一言告げて去った後。 ギラムは再び溜息を付き、相手が何を思ってそこまで言葉に迷っていたのかを悟るのだった。

 その後目の前のテーブルに置かれ、手を付けていなかったため冷めてしまったコーヒーを一口飲みつつ、ギラムは窓辺に視線を移動させた。

『契約・・・な。』

 そして彼がここへ来た理由を再度振り返り、アイツがこれからどうするのだろうと少しだけ心配するのだった。

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