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強面傭兵と願いの奏者 16

「・・・ ・・・これでも良いのか、倒すっていうのは。」

 その場に崩れてしまった敵の顔を見た後、ギラムは死んでいない事を確認した後その場に立ち上がった。呼吸をし気を失っているだけだと悟ると、手にしていた銃が不要になった事を悟り宙へと投げ武器を消した。その後グリスンにこれで良かったのかと問いかけ、殺さなくても倒す事に該当するかを気にしていた。

「うん・・・ ・・・思った通り、君は敵でも死なせないんだね。」

「自衛隊の施設でもそうだったんだが。 俺は相手を護る行動には同意しても、他人の命を奪う使い方はしたくないんだ。 ・・・たとえ銃で相手の額を打ち抜いても、空想であればその意識だけを頭の中から撃ち抜けるような気がしてな。 ・・・イメージ通りで助かったぜ。」

問いかけに対し彼はそう答え、無事に終わった事を告げながら殺さなかった事を笑顔で喜んでいた。元々彼の考え方が温厚な事もあるが、他人を護るために他人を殺すという事はしたくないのだ。

 以前志願していた『自衛隊』を止め、依頼内容に応じて行動をする『傭兵』になったのもそのためであり、その考えがこの魔法に繋がったのだと説明した。先ほどから弾丸を放っていた銃は元から空砲に近く、自分の考えと想いに近い威力を出せる。弾丸の数を気にしていた時にふと思いついた行動であり、それが彼の魔法に繋がったのだ。



「・・・それで、これからコイツはどうするんだ。」

自分の考えを伝え終えると、不意にギラムは気絶している相手はこれからどうなるのかと問いかけた。彼の質問に対しグリスンはそう答え、辺りを見るよう彼に言った。その言葉を聞いた彼は当たりを見渡すと、知らぬ間にビル街には損傷が出ており所々の窓ガラスが割れていた。場所によってはビルの柱に被害も出ており、倒れる危険性は無いものの騒動を起こした事は事実であった。

 軽く気まずい状況になっており、警察に見つかればお縄確定の状態であった。ある意味彼の行っていた行動は『テロリスト』に近い。

「多分普通の人達から見たら、コレは大騒動だから。 記憶は無くても、その罪を継ぐわなわないといけない。 ・・・でもその前に、ギラムはこの行動の対価を貰う資格があるんだよ。」

「対価?」

そんな彼にグリスンは続けて言い、敵を食い止め創憎士を消した報酬があるのだと言った。意外な言葉にギラムは驚くも、グリスンはそんな彼をその場に置き倒れた敵の元へと向かいある物を探していた。倒れた敵の身体をチェックし衣服をくまなく調べると、不意にグリスンは何かを見つけたかの様に服の襟元を弄り何かを取り外した。

 それは学校の学ランなどで時折付いていそうな『襟ボタン』であり、半透明の濃い紫色の奇妙な物体だった。彼のゴーグルに着けているクローバー同様、装着するための部分は勝手に生成されたのだろうとギラムは思った。物体を手にしたグリスンは彼の元へ戻り、それを手渡した。

「コレは、あの人が持ってた真憧士(まどうし)になるためのクローバー 今は汚れて邪気を放つ物体になってるけど、浄化して持ち歩いてれば幸せを招いてくれるんだ。」

「浄化か。 いかにも異世界っぽい行動だな。」

汚れて透明感の失われた物体は敵の持っていたクローバーであり、穢れを抜けば幸せを招いてくれる物体になると言った。浄化をする行動そのものも異世界に等しいとギラムは良い、軽くその世界間に馴染んできた様子を見せていた。そんな彼の手元に乗せたクローバーにグリスンは指を乗せ、静かに言葉を良い浄化を開始した。

 汚れた物体は淡い光を放ちだし、中に溜め込んだ黒い靄をゆっくりと周囲に発散し出した。その靄は外気に触れ煌めきに変わると、上空に向かって飛び出し空へと向かって行ってしまった。

「クローバーって呼ばれてる由縁も、浄化してやってくる幸運の兆しから言われてるんだ。 素材の水晶もね、幸せや幸運を吸収して所有者に与えてくれるんだよ。」

「へぇー それは知らなかったな。」

浄化作業を行いながらグリスンは口を動かし、物体が『クローバー』と呼ばれている由縁を説明した。ただの魔法を扱うための思考変換用の素材ではなく、その後や行動をした後にもその意味合いが含まれている。四葉という幸運の象徴の名前が付けられている理由は『浄化した後』にあり、素材として使用されている『水晶』も力を秘める石なのだと告げた。ちょっとした雑学を学んだギラムは相槌を打ちつつ、綺麗になって行く物体を見つめていた。




「・・・よしっ、出来たよ。」

 その後浄化を完全に終えた様子でグリスンは良い、手を退かし彼が見やすいようにした。浄化を終えたクローバーをギラムは見つめ天高くかざすと、クローバーは透き通った白色の素材へと変わっておりとても綺麗な石となっていた。もう魔法を使うための機能は失われているが、代わりに周りから幸せを引き寄せる効果だけを発揮する事グリスンは説明し持ちあるいていると良いと言った。それを聞いたギラムは軽く頷き、上着のポケットに閉まった。


「ギラム。」

「ん?」

「僕達の行う行動は、創憎士を倒す事。 敵もどんなことをしてくる解らないし、僕達よりも高度な魔法を使うのは確かなんだけど・・・ ・・・ギラムは、平気・・・?」

 そんな彼の行動を見た後、グリスンは改めて契約したリアナスの行う行動がこれである事を説明し、本当に行いたいかを再度問いかけた。契約の破棄は出来ないものの、本人が望まない限りグリスンも率先して行動はしたくない様子で彼の顔色を伺っていた。

「今更って言うのを、俺何度も言った気がしたんだが・・・もう一回言うぜ。 俺はお前の手助けがしたい、俺がそれをやって何かを変えられるのなら。 それがしたい、ただそれだけだ。」

「・・・」

「お前が1人で出来ない事は、俺が代わりに受け持ってやるよ。 良いじゃねぇか、こんなやり方もさ。」

そんな彼に対しギラムはそう告げ、何度も言っているようだがと念を押しながら再度自分の考えを述べた。自分がやるべきことが不明確であるよりは、わかりやすく自分を頼ってくれる存在の力になりたい。彼はただそれだけでこの行動を行っており、なんだかんだで平和な解決策を見つける事が出来た。

 そんな方法が嫌いじゃなければ良いと、ギラムは苦笑しながらグリスンに言った。

「お前は嫌いか、こんな方法は。」

「う、ううんっ・・・ ・・・僕、こういう方法の方が好きだよ。 誰かが死ぬとか、誰かを殺さないといけないとか・・・ そういうの、もう嫌だからさ。 僕、早くこの制度を変えられるようになりたいって思ってるんだ。 契約して周りが悪いのに、殺される対象になっちゃう人達を・・・ 救ってあげたいんだ。」

その後改めてそんな考えを持つ自分は嫌いかと問いかけると、グリスンは一生懸命に顔を左右に振り嫌いではないと言った。むしろその考え方の方が自分も好きであり、平和に終息する事は無いがそれでも優しい結末で終わる事が出来たのなら。彼はずっとそれだけを叶えたいと思っており、制度そのものも変えたいと思っている事を告げた。

「立派な考えだと思うぜ。 自力でやるには確かに大き過ぎる夢だが、叶わないとまでは俺も思わないぜ。」

「ぇっ、本当・・・?」

「あぁ。 第一、お前みたいな奴が抱く夢にしては大き過ぎるほどだと、俺は思うくらいだぜ。」

彼の考えを聞きギラムは褒めながらそう言い、大きな夢ではあるが叶わない事は無いだろうと思う夢だと言った。その言葉を聞いたグリスンは驚きながら質問を返すと、ギラムは頷き再度同じことを言った。

「そっちの世界の事とかわかんねえけど、考えがハッキリしてるなら行動もしやすいだろ。 気楽な方が、良いしな。」

「う、うんっ! ・・・僕、ギラムと契約出来て良かったよ。 僕の考える事って、皆認めてくれなかったから・・・ ・・・凄い嬉しいっ」

その上考えと行動が決まっているのならば、動きやすい事も事実であり気楽な方が良いとギラムは付け加える様に言った。パートナーである彼にそう言われ、グリスンは嬉しそうに何度も頷きながらそう言い、パートナーになってくれた事を再び嬉しそうに言うのだった。年に見合わない可愛い笑顔からは涙が静かに流れ、嬉しいのに泣いてしまうと焦っていた。

 そんな彼を見て、ギラムは苦笑しながらも彼の頭を撫でだし、解っていると告げ気にしなくても良いと言うのだった。優しい彼の手の温もりを感じ、グリスンは両手で涙を拭い満面の笑みを彼に見せるのだった。




 そんな彼等の居る瓦礫の多い光景を、とあるビルの上から伺う人物が居た。

「・・・やっぱり、ただの傭兵じゃないっていう私の見方に狂いは無かったわね。 さすがギラム、順応性が早いし魅力的だわ。」

 普段とは違う柔らかい服装に身を包んだサインナがそこには立っており、彼等の戦う様子をその場で拝見していたのだ。危険ならば手を貸そうかと考えていたが、それは計画で終わり実行に移す事は無かった。

「そっちはどう。貴方と話していた彼、思った以上だったかしら?」

「それなりに想定内だな。初めてと言ってた割には、良いと思う。」

「フフッ、お互いご満悦って所ね。さ、引き揚げましょう。私達の現実が待ってるわ。」

 そんな彼女の隣にはラクトが立っており、彼も同様にその戦いを拝見していた。容姿と口調からわかる幼さがグリスンの特徴だったのにも関わらず、それでもこの戦いを制し1人の創憎士を終わらせる事に成功した。異常なほどの力を見せつけられたと言うわけでは無い様子で、彼もそれなりに満足している様だった。

 その後、長居は無用と言い引き上げようとした。

「あぁ。 ・・・」

 彼女の言葉に従いその場を離れようとした時、不意にラクトは何かを感じその場にとどまった。その後ギラム達の居る空間とは別方向に顔を向け、何かを感じている様子だった。

「・・・ラクト、どうしたの。」

「・・・いや。 行こうか、お嬢。」

「えぇ、行きましょ。」

 そんな彼に声をかけるサインナであったが、彼の言動を聞き気にせずその場を後にする事にした様だ。気になる感覚を無理に払いつつ、ラクトもその場を後にして行った。




 ビルの屋上に居た2人が消えると、とある場に居た1人の獣人はギラムを見つめていた。気づかれない視線を送りつつも、戦いを終えその場を後にした彼の居た空間をただじっと見つめていた。

「憧れになりうる、真の道士(どうし)達・・・ ・・・奴もまた、そのうちの1人か。 はたまた、世界を朽ちさせる憎しみを持つ造形士か・・・ 見ものだな。」

 灰色の毛に黒髪の獣人がそこに立っており、何処からともなく吹いてくる風に衣服をなびかせていた。




グリスンの優しい笑顔を見て、ギラムは改めて現実だと思っていた世界に違う文化が混じった事を悟るのだった。可愛くも志を持って行動し、認められない考えを認めさせようと行動する存在が居る事。その行動の矛先が向けられたやり方が間違いであれば、自分達がそれを正してあげるために戦う事。



現実世界に映し出された、鏡の世界の様な非現実的な行い。



彼はその後も、ずっと続けていくと決心するのであった・・・



 強面傭兵と願いの奏者 終わり

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