強面傭兵と願いの奏者 15
「俺は・・・俺の世界を創り上げる・・・ 決まりなんぞに従って、偉そうにする上司なんか・・・!! 全員消えちまえばいいんだ!!」
「・・・」
「お前等も一緒だ。 いつか低能で部下を使いぱしりにする、どうでもいい重役になっちまうんだ! お前らなんかいらない!! 俺が創造者になってやるんだ!!」
どうやら正気は薄れ、ただ願望の為に行動している事を悟らせる様な台詞を敵は口にしていた。その言葉を聞いたギラムは軽く驚くも、彼は人であり元は普通の存在であったことを改めて思った。考える矛先は何時しかずれ、世界を敵に回してしまうほどの考えに至り力を行使する存在になってしまった。エリナスと契約した際の志は何処へ行ったのか、その他の事を想うもギラムは静かに敵の言葉を聞いていた。
「消えちまえば良い・・・! 俺を捨てたアイツと同じく、お前等も死ねば良いんだ!!」
その後敵は落ちていた剣を手にし、傷ついた足を懸命に動かし彼等の元へと駆け寄り襲い掛かってきた。そんな行動を目にしたグリスンは慌てて彼を守ろうと武器を構えるが、その行動の前に再び空を切る弾丸の音が響き渡った。
バキューンッ!!
「・・・あぁっ・・・!!」
その音と共に再び剣は砕け散り、周囲に粉々になって落ちてしまった。壊れた剣を目にし再び敵は涙目になるも、弾丸を放った主であろうギラムを睨んだ。その行動を見たグリスンは、隣で銃を構えているギラムを見た。
彼はまっすぐ前を向いて敵を見ており、右手だけは前に出し銃口を剣だけに向けていた。あくまで人は打たず、壊れてしまった考えの元凶となっている剣だけを打ち抜いたのだ。
奴は悪くない、悪いのはその考えに至らせた現状だ。
それだけを思わせる、静かな行動だった。
「もう止めな、そんな考えを叫ぶのは。」
「ッ・・・」
敵の動きが止まった事を確認すると、ギラムは静かに銃を降ろし敵に向かってそう言い放った。行動を否定されてしまった敵は苛立っているかのような表情を見せ、軽く力を行使している彼を睨んでいた。
「自分の世界なんて創り出しても。 お前、きっと満足しないと思うぞ。」
「お前なんかに・・・何が分かる・・・!! 俺は立派に働いてきた、その上でこの力を使っていた!! あからさまにおかしい周りの状況を、何で放置するんだ!!」
静かに言い放たれた言葉を耳にし、敵は歯を食いしばりつつギラムに言い放った。企業で良くある上下関係の中で行動し、彼なりに立派に行動してきた事。何か不憫があれば力を使い、偉そうにするも尊敬できない上司などを放置しなければならない現状。それを何故変えようとしないのか、敵はそう叫んでいた。
「不要であっても、その場に居なければならない奴なんだろうな。 お前の言う上司って言うのは。 ・・・でもな。 代用が聞くとか聞かないとか、そういうのは意味合いでしかねぇだろ。」
「・・・」
「周りは皆同じだと思うぞ。 部下が上司を尊敬出来ないっていう気持ちを持っているのは、お前等だけじゃない。 上司だって責任者が気に入らない事なんて、世の中あり得る事じゃねぇか。」
そんな敵に対しギラムは喋る事を止めず、世の中でそう考えているのは自分だけではないと言った。誰だって考える事であり、辛いのを言っている風景を目の当たりにしないだけ。何処か暴走する前に止まれる配慮があり、苛立ちながら突き進んでいないだけなのだと言うのだった。
「解ってるかのように・・・言うな・・・ ・・・お前なんて!!」
「ああ。 役に立ってるなんて、思っちゃいねえよ。 代わりは居るだろうし、偶に意見が食い違って上司が気に入らない時だってある。 ・・・そんな気持ち、何時までも抱えてて良い事あるのか。」
「・・・」
意見が正しいかの様に思うも、解っているかのように言う口ぶりが気に入らない様子で敵は意見を言おうとした。しかしそんな相手の言葉を遮りギラムはそう告げ、自分もいらないと思われていても不思議ではないと言った。常に必要とされ続ける存在など居ない、誰かが必要とするが一部はいらないと感じても無理はない。
それで世界は回っており、バランスと取っているのだと。
彼は静かに告げると、銃を持ったまま敵の元へと近づいた。
その行動を見た敵は再び剣を召喚し構えるが、ギラムは再び冷静に剣だけを打ち抜き、手にしていた柄を蹴り飛ばした。その後痛む手を抑える敵を目の前に、彼は一言告げた。
「一回止まりな。 ・・・無理し過ぎなんだよ、お前みたいな奴等は。 皆さ。」
「・・・」
「止まれる様に、手助けしてやる。 ・・・その心境は、夢だと思えばいい。」
言葉を告げるも敵が静かにしているのを見た後、ギラムは静かに銃口を相手の額に付けた。その様子を見た敵は驚き彼の顔を見るも、ギラムは軽く笑顔を見せ心配しなくても良いと言った。相手の涙で崩れた表情を見た後、彼はゆっくり引き金を引きながら言った。
「・・・ゆっくり、休みな。」
パシュンッ・・・!
言葉を告げたと同時に、彼は静かに引き金を引いた。それと同時に敵は撃たれた拍子に身体が後方へと反れ、ゆっくりと仰向けになりながら地面に崩れた。見開いていた眼はゆっくりと光を失い、静かに敵は目を瞑ってしまった。だが額からは血は流れておらず、ビー玉の様な球体が額に強く当たったかの様に赤くなっていた。