強面傭兵と願いの奏者 13
そんな彼の様子を見た敵は、身体をフラつかせながら彼の方向へと向き直り、一言呟いた。戦う前の2人のやり取りを敵も聞いており、わざと彼に手をつけずにグリスンと対峙していた。故に出てくる時まで手をつけず、戦える相手を潰してからでも遅くはないと思っていたのだ。軽く負傷させた相方を無視し、一対一で戦うつもりのようだった。
「ギ、ギラム・・・ お願い、まだ・・・戦わないで!」
そんな敵の目論見を察したグリスンは、慌てて彼の行動を止めさせようと言葉を口にした。自らと契約してくれた相手は魔法に適応しているかどうかすら確認しておらず、敵と初めて出会ったときの対応からして現実世界に依存していると思っていた。だからこそ敵には触れさせず、自分の力だけでなんとか使用としていたのだ。
「・・・悪いな、グリスン。 俺の代わりに戦ってくれてたのに、でしゃばる真似をしちまってさ。」
「ギラム・・・」
「でもさ、無理に俺の代わりになろうとはしなくて良いんだぜ。 俺達は互いを支えあって、行動するために契約したんだろ? だったら、少しくらい俺にも戦わせてくれ。」
心配そうに見つめる彼の視線を感じながらギラムは告げ、静かに顔を見ながら自分の考えを述べた。彼が無理をしていることもだが、元々戦闘向きの性格では無いことも分かった。しかし自分の代わりになろうとしていた彼の心行きを無駄にはしない様に、優しい言葉遣いで彼は言った。
「お前を見殺しにするくらいなら、俺は武器がなくてもお前を助けにいくさ。 この先は、俺にやらせてくれ。」
傷ついたグリスンに軽く笑みを見せた後、彼はそう告げながら視線を敵へと向け、銃を握り直した。
例え戦えなくても良い、自分が決めたことを貫きたい。
彼の思いはその場にあり、絶対に彼を死なせない雰囲気を漂わせていた。
「随分と面白い事を言うリアナスもいたもんだなぁ。 常人からしたら、馬鹿げたことを言ってるようなもんだぜ? それは。」
そんな戦闘前のやる気に満ち溢れたギラムを見ながら、敵は静かにそう呟いた。敵の目線から見ても彼の言っている事は普通に変であり、何故他者のために自分を犠牲にしなければならないのか。ましてや対峙している敵は常人では勝ち目のない相手には変わりは無く、そんな相手を敵に回してまでも貫く考えなのか。軽く両手を上げ、退屈そうに敵はギラムの事を見ていた。
「お前はちょっと対立している敵の力を甘く見てないか? お前よりもこの戦闘に慣れているはずの虎っ子が、ボロボロになり命が奪わせそうになった瞬間だ。 そんな相手に、お前は勝算があるとか思っちゃってるわけか。」
「いや、俺はそんな事は考えていない。 勝ち目のある戦いだから行くとか、そういうのは後から付いてくる事に過ぎない。 俺はそこまえ計算高くないし、俺の代わりに戦ってくれていたグリスンにそんな事で死なれても嫌だからな。 ただの俺のワガママだ。」
そんな敵の意見を聞き、ギラムは自らの考えて静かに敵に述べた。 今から戦おうとしている敵は確かに普通ではなく、そんな敵を相手にして自分が生きていられる保証など何処にもない。 ましてや未経験に等しい魔法を使った戦いに、初心者であり初参戦の彼が勝てるなど誰が予想するだろうか。
その考えの先には自分の考えだけが存在し、それに対しての行動を取っているだけだと彼は言うのだった。 そんな彼の考えを聞き、グリスンはゆっくりと両手を引きその場に座り込む形の体制へと変えた。
「ギラム・・・ 君も、僕みたいになっちゃうんだよ・・・ 戦って勝てなかった真憧士は、ただの屍になるしかない。 憧れになれない光は、消失して何事もなかったかのように周囲に溶け込むだけなんだ。」
自らの考えを貫こうとしている彼に対し、グリスンは顔を俯かせたまま言葉を口にした。 契約をした相手は勝つ事が求められ、負けてしまえば何事もなかったかのようにその辛さを見せずに死んでいく。 それがどれだけ辛い事なのか、エリナスである彼等には身に感じる痛みになるほどわかりきった事だ。
周囲に何も求められず、ただありきたりであり決まった行動しかこなせない存在が、周りに影響を及ぼすほどの事を成し遂げる事が出来るか。 影響力の高い人であれば可能だが、凡人であり普通の人でしかない存在達には一時的な影響力しか生む事は出来ない。 ゆえに彼等はその『孤独感』を知っており、リアナスである彼等をそんな悲しみに浸からせないためにも行動をしている。 契約を交わした相手だからこそ、彼はギラムにそうなって欲しくないのだと思われる言動であった。
「お前は何時から、そんなに暗い存在になったんだ。」
「え・・・?」
そんな彼の言葉を聞いてか、ギラムは不意に彼に対し意見を述べた。出会い当初から彼は常に笑顔を彼に見せており、お節介や鬱陶しい面もあったもののそれでも彼は一生懸命な目を自分に向けてくれていた。 それが何時からそうなってしまったのか、彼は少し残念であり指摘する様に強く言うのだった。
「お前はそんなに、弱い存在じゃないだろ。 俺に鬱陶しいと思われても、お前は常に俺に対し何かしらの希望を求めて行動していた。 でも今のお前は、俺に対する配慮ばかりで戦いにも身が入ってないように見えるぜ。」
「・・・」
「それが悪いとは、言わないぜ。 お前の優しさがあるからこそ、俺に止めてもらいたいとか思ってるんだって事は解る。 ・・・でもな、1人でやろうなんて。 力量に見合わない事はしない方が良い。 無茶なんてしても、良い事は少ないからな。」
落ち着かせる様に言葉をかけた後、彼はグリスンに向けて軽く笑顔を見せた。十分に戦ってくれた、その後を一度俺に任せて欲しい。幾多の想いと願いを秘めたその表情を見て、グリスンはただ見つめる事しか出来ないでいた。
その後ギラムは敵を見た後、持っていた銃を前に向けて発砲した。動きを見た敵はグリスンから離れる様に横へと避け、その場から退避する様に距離を開けた。
「クックックッ・・・ 面白い、やってみろ! ビギナー真憧士!!」
「遠慮なく行かせてもらうぜ! 創憎士とやら!!」
彼の意気込みを聞いた上で退避したのち、彼等は戦闘を開始するかのように気合を入れた発言をした。その後大地を蹴り、対峙した相手を倒すべく行動するのだった。
新たな戦いが始まったと同時に、ギラムは走りながら敵に向けて手にしていた銃による射撃攻撃を開始した。ただの短銃にも関わらず連射性の聞く代物の様子で、普段通りでありなるべくターゲットを撃てる場所を狙っていた。しかし相手は普段とは違い動く的であり、中々良い一撃を打ち込むことが出来なかった。
『ただの銃じゃ、やっぱり限界があるな・・・』
「どうした! 簡単な攻撃しか出来ないなら、こっちから行くぞ!!」
そんな彼の攻撃方法が簡単である事を目の当たりにし、弾丸を避けていた敵は一言告げた後に両手に剣を持ち、大地を蹴り瞬時に間合いを詰めてきた。大地と水平に跳んだ様子で、弾丸の様にやって来たのだ。
「チッ!」
敵の動きを見たギラムは持っていた銃を敵に投げ、近くにあった瓦礫の裏へと飛び込みながら避難した。すると、彼が避けたと同時に彼の居た地面に剣が突き刺さり、周囲の大地を浮かせるかの様に地面が割れた。避けなければ確実に殺されていたであろう一撃を目の当たりにし、本当に自分達とは違う敵がそこに居る事を彼は悟った。
『まさに・・・神に匹敵する力の持ち主か・・・ やる事がいちいち要領を超えてやがる・・・!』
しかしその攻撃1つ1つに驚いている場合では無いと思い、再びギラムは手元に銃を生成し敵目掛けて発砲した。すると今度は敵は避けずに持っていた剣で弾丸を弾き、敵の近くに落ちていた瓦礫へと弾丸を逸らした。剣に当たった際には金属音が軽く響き、素材は普通の物体である事を彼は知った。
『魔法でも、創り出す素材は現物・・・ なら、銃以外にもいけるはず!』
敵の防御を目の当たりにした彼は、銃を別の物体へと変換させるように慣れた手つきで銃を軽く手の中で振った。すると、短銃は銃口を伸ばし『拡散銃』の様な弾丸を数発同時発射出来る拳銃へと変化させた。その後照準を敵の足もとへと合わせ、一気にトリガーを引いた。
「ショットガンか・・・ だが、そんなものは全て避けてしまえば!」
バシュンッ!
「それはどうかな!」
「何っ!!!」
相手の動きを見た敵は、短銃の時同様に弾丸に当たりさえしなければ何も恐れる事は無いと思っていた。しかし発砲音と同時に告げられた彼の言葉を耳にし、撃ち込まれた大地を見て表情を変えた。弾丸の撃ち込まれた大地は淡く光っており、まるでそこに何かを埋め込んだかのような状態へと変化していたのだ。先ほどまでとは違う攻撃を見た敵は、裂ける際に退かしていた足を速く戻しその場から退避しようと試みた。
「遅い!」
そんな敵の動きを見たギラムは、逃すまいと一言告げ持っていた銃を先ほど打ち込んだ大地目がけて投げた。すると、地面と銃がぶつかるその衝撃を利用して大地が発光しだし、打ち上げ花火と思われる弾丸が敵に襲い掛かった。
ただの弾丸から花火が上がる『仕掛け』になるとは誰も予想出来ず、ましてや本当の魔法でなければ出来ない行動だ。それをまさに彼はやってのけ、不意の思い付きではあったがフェイントを仕掛ける事もこの戦いでは有利に立てる事なのだと知った。
たとえ初心者でも、負けるわけには行かない
それが形になった、魔法であった。
「ぐぁあっ!!」
打ち上げ花火による強力な一撃を食らい、敵は上空へと打ち上げられた。身体に火傷と思われる痛みもあるが、先ほどまでの話の流れではありえない空想に驚きを隠せずにいた。相手は初心者であり、この戦いのコツすらも知らない一般人。それが何故、ここまでの動きを出せるのか、敵には理解出来ないでいた。
『奴はどう見ても、外仕事をしている奴・・・ なのに、何でここまで即席の魔法の威力が高いんだ!』
打ち上げられた身体が地面に着地し、身体の痛みを払うかのように手で撫でながら敵は考えていた。目の前で対峙する相手は外仕事を行っていそうな身体付きをしており、空想物語とは縁のない仕事だと思われた。銃に対する意識が強く本物と同じデザインである事を見ても、ゲーム好きと考えるには少し違うようにも思われた。
「・・・だが、銃は至近距離に弱い。 懐に入ってしまえば、撃てない!」
手で撫でていた箇所の痛みが消え去ると、敵は再び足を動かしギラムの元へと向かって行った。移動の際になるべく銃を撃たせないために剣を投げ、相手に狙いを定めさせる隙をも減らす事を試みた。
「くっ、またか!!」
その動きを見たギラムは再び回避行動へと身体を移し、銃では払えない剣を瓦礫を使い壁にしながら避けていた。受け身を取るには威力の高すぎる相手だと判断し、これが懸命の策だと思われた。
『思った通り、威力を見せ付ければ奴は剣に触れはしない!』
バッ!
「なっ!」
「入ったぁああ!!」
剣に意識を向けられていた隙をついて、敵はギラムとの間合いを詰め至近距離で挑める位置にまで到達した。不意に現れた敵に驚く彼を見て、敵は叫びながら彼のボディに拳を向けた。
しかし
パシッ!
「・・・ぇっ!」
「ッ・・・ 意外と、お前は確実に入ると思った攻撃の威力は素の威力になるのか。」
打ち込んだはずの拳は身体に触れる手前で止められてしまい、敵は再び驚く事しか出来ずにいた。今の距離で相手が瞬時に受け身に入り攻撃を止めるとは思っていない様子で、入った瞬間に拳の威力を上げても遅くは無いと思っていた。
だが現に敵の手は彼の両手に止められており、拳と手首両方を抑えられていた。
「くそっ!」
攻撃に失敗したと思い、敵は諦めず開いていた手を使い相手の顎に目がけて一撃を放とうとした。だが急に決めた攻撃さえもギラムは読み、顔に触れる前に手首で相手の腕を退かし、そのまま相手の手を抑えその場から背負い投げる形で相手を上空へと投げ飛ばした。そして再び手にした銃を相手に向け、ギラムは数発発砲した。
『また爆弾かっ!』
周囲に響き渡った発砲音を耳にし、敵は宙に盾を生成しその後来るであろう攻撃を防ぐ手立てを用意した。弾丸が漂っているであろう頭、顔の全面を中心に展開された盾は分厚く、先ほどの花火が周囲に打ち巻かれても火の粉すら寄れない状況となっていた。
しかし、
パンッ! パンッ!
「・・・ク、クラッカー・・・!?」
「囮、弱いみたいだな。 お前。」
「!!」
空中に漂っていた弾丸から出てきたのは、花火ではなく紙製の帯だった。焦げた火薬の香りと共に出てきたカラフルな色紙は盾に触れ、表面を撫でる様に敵の横を滑り落ちて行った。それと共に彼の耳に声が聞こえ、彼の防御していなかった背後に立つギラムの姿を目の当たりにし、表情を変えた。
「小心者、って訳じゃなさそうだけどな。 剣士とか好きみたいだな、お前。」
軽く話しかける様にギラムは言うと、落下してきた敵の足を掴み振り回す形で瓦礫の落ちている広間へと投げ放った。威力を底上げする方法は解らず自らが持つ腕力だけで投げ放ったとはいえ、数回回転した後に放つ投げ技の飛距離は大きかった。
「ッ・・・ ・・・予想以上だな、お前の強さ。」
「・・・」
地面にぶつかり身体が擦れながら移動し、背中の痛みに耐えながらも敵はゆっくりとその場に起き上がった。話の割に素質がある事を確信した様子で、至近距離でも瞬時に対応出来る所も彼の職柄の特権なのだろうと思った。おそらく相手は外仕事をメインに行う人であり、銃を扱う事から見ても『傭兵』と見るのが妥当だろうと敵は認識した。
ゆえに、投げるだけで飛ばされる自分の身体の軽さもさることながらコントロールも得意なのだと悟るのだった。殺す志は少々低いが、それでも立派な強者に間違いはなかった。
「だがな・・・ 不意に弱いのは、俺だけじゃねぇんだよ!!!」
ジャキンッ!!
「!!!」
その場に立ちすくむ相手を見て、敵はそう叫び出した。するとギラムの足もと周辺の大地から剣の剣先が姿を現し、自分目掛けて突き出す光景を目の当たりにした。さすがにこれには対応しきれずギラムはとっさに両手でガードを取るも、剣先の触れた皮膚からは血が飛び交い、剣刃と腕を血で染め出した。
だがそれ以上の動きは無い事を確認すると、ギラムは周囲に生えた剣を蹴り根元を折りながら安全を確保した。