強面傭兵と願いの奏者 12
「おいおい・・・嘘だろ・・・」
そんな超常現象の元、ギラムは非科学的なマジカルワールドが展開されている戦いを目の当たりにし言葉を失っていた。例え同じ人であってもこんな行動が出来る超人は居るとは思わず、ましてや軽く体制を取った後の跳躍だけであそこまで高度の高い場所にまで届くのか。普通に考えてもあり得ない力学を目の当たりにし、本当に彼等は普通の存在ではないのだろうと彼はあっけにとられていた。
その上敵を倒そうと行動しているグリスンも容姿に似合わず力のある行動を取っており、宙に留まっていたかと思いきや空を駆けるかのようにその場で行動を取り続けていた。武器として使用している物が楽器である事を悟らせるかのような攻撃方法は美しく、本当に旋律を奏でているかのような戦法であった。とはいえ接近戦は苦手の様子で、なるべく距離を取り遠距離の魔法と思われる攻撃を取り続けていた。
『異世界人って言うのは解ってたが、ここまで凄いとかえって尊敬しちまうだろ・・・グリスン。 ・・・俺にも出来るのか、こんなことが。』
改めて虎獣人の凄さを実感したギラムは、自分にもその行動が取れる事を想いだし右掌を見つめていた。何の変哲もないゴツゴツとした青年の手に、超常現象を起こす程の秘められた力が自分の手にある。そんな事を考えた事もなかった彼にとってみると、とても違和感があり疑い深い点だ。だが事実『人』と思われる敵が平気でこなしているところを見ると、それは嘘ではないのだろうと彼は悟るのだった。
その後一度頭を左右に振り、余計な事は考えないようにしようと彼は気持ちを入れ替えだした。何かが出来るかどうかはさておき、彼の対峙している敵を早急に止めなければならない。それだけは解っている事実であり、その裏にどんなことが隠れているのかなどは彼は考えず、ただグリスンの言われた通り頭にイメージを浮かべていた。
どんな武器を創り出すか、などは考えず普段自分が体験している戦法をそのまま生かせる物を創り出そう。彼はそう考え、目を瞑り自分の右手に武器が現れる瞬間を思い描いた。
しばらくしその考えに答えるかのような軽い爆発音が聞こえ、彼の手元には一丁の拳銃が握られていた。黒光りするその銃は『オートマチックタイプ』のダブルアクションが可能な銃であり、片手ではあるが弾丸を装填する時間を省くことが出来る代物だった。威力はさておき普段彼が使っている銃をイメージした結果が手の中にあり、本当にイメージするだけで出てくるのだと言う事を知り彼は驚いていた。
「ま、マジで出ちまうのか・・・ ・・・だがまぁ、初心者には遠距離が一番楽だよな。 さぁーて、俺も参戦させてもらおうか!」
自分の空想がそのまま実態化した事に驚くも、あくまで自分はこの戦いではビギナーである事を忘れないように彼は意識していた。ヘマをしてグリスンの迷惑になりたくない事もあるが、頼って来てくれた相手に対しその期待に応えられる行動を取りたい。彼はそう考えており、弾丸の数を気にしつつも銃を構えその場を走りだした。
そんな彼の行動が始まるまでの間、グリスンは常に敵と対峙し続け応戦を繰り返していた。都市内の中央に位置するビル街の中での戦闘は人目にも目立ち、彼等を目視出来ない存在達からしたら異様な光景でしかない。しかし周囲には先ほど起こった爆発と共に人々は周囲から消え、今では敵を含め3人しかその場にはいない状態となっていた。ビル街のガラス窓に激突した際の衝撃がビルの中にまで到達するも、被害者は出ないためかグリスンも気楽に闘っていた。
しかしこの戦いに相方であるギラムを巻き込んでいる事も事実であり、タイミングも悪く戦い方を教えていない状態で彼等の前に敵が立ちはだかってしまった。その事をグリスンは一番気にしており、安心感は与えたものの教え方が悪ければ彼の様な存在はすぐに『魔法』が使えない事もグリスンは知っていた。
彼等の言う『魔法』とは空想そのものを現実世界とリンクさせる手段の事を言い、その作業の支援をするのが彼等『エリナス』の契約した際に託す対価なのだ。ギラムはその事を左程気に留めず彼と契約した事もあるが、この戦い方を会得する人物も向き不向きが存在する。『現実世界』という暮らしの場で確定した『固定概念』を強く持つ者が、特にこの作業を不得意とする傾向がみられる。
実際にこんなことが出来るはずがない、そんな事はありえないと考えるのがリアナスの大きな特徴であり、そう言う人物ほど彼等の様な『本来ならば存在し得ず黙視できない』人々を見る事すらできない。もし見る事が出来たとしても、契約し速攻で戦う事は出来ないのだ。
変わってそんな概念の薄く『空想・妄想』をする事を得意とする人物はこの戦いでは順応性が高くすぐさま敵と対峙しても戦う事が可能とされている。しかしその分彼等の敵である『創憎士』になる危険性も高く、むやみやたらとその傾向の高い存在と契約してしまうと、敵を生み出したと言う『罰』を彼等は背負わなくてはならない。1つの事柄を行うにしてもエリナスは慎重に行わなくてはならず、戦う事もだが自分と相性の良い存在と契約をしなくてはならない。
その点ではギラムとグリスンは相性が良いのかと言うと、グリスン自身も正直どうなのかはわからずにいた。契約自体も接触し話をした際に生じた『訳』をギラムは考え、彼の優しさに免じて契約したに過ぎない。そのため彼自身も『相性診断』の行動を行っておらず、自身が直感的に感じた事を告げたうえで契約をしていた。戦いに関しても彼の様な役職は順応性が早いとも思われない上、自身の戦闘力の低さもあるがゆえに危機感と共にこの場にやって来た事を後悔していた。『敵がすぐに出てこなければ良かった』とも彼は考えており、相手を払う事は出来ても退治する事は難しい様だ。
『僕だけの力で、創憎士はきっと倒せない・・・ でも今の状況じゃ、ギラムに丁寧に教えてる時間もない。 早く止めないといけないのに、どうして僕には時間の余裕さえないのかな。』
戦っている相手に集中しなければならない状況であっても、彼の心中は落ち着かず目の前に立つ敵ではなく少し離れた位置に居るであろうギラムの事が気になってしょうがなかった。自身だけの力で倒せないと思っている事もだが、彼は彼なりに相方にしてあげなければならない事が山ほどあり、それすらもこなせずこのような状況になってしまった事が何より落ち着かない理由であった。
考え事をしながらも敵からの攻撃を払った後、グリスンは距離を取り旋律を奏でながら周囲を見渡した。しかし目につく位置には相方であるギラムの姿は無く、しばしの捜索時間が無ければ瞬時に見つける事は出来ない。ましてや呼びかけながら返事を待ってしまうと敵にもギラムの位置を知られてしまい、自分達にとって倒されては困る相手を狙われる事だけは何としても避けたい事。この戦いが未経験の彼を、まだ戦場に来させまいと必死に彼は考えていた。
しかし、
「隙ありじゃああああ!!!」
「ぁっ!!」
不意な攻撃を目の当たりにしたグリスンは、瞬時に受け身を取ろうと身構えた。しかしその行動は相手からしたら遅いことにはかわりなく、敵の攻撃はそのまま彼の懐に直撃した。鈍い痛覚を感じ表情を歪ませるも、グリスンは必死に相手を遠ざけようと何度も攻撃を仕掛けた。だがその行動さえもパターンと化してしまった様子で、敵は余裕の表情を見せながら冷静に攻撃を見切っていた。
「甘いんだよ!」
そんな彼の攻撃の隙を付き、敵は右手を強く握り拳を彼の顎目掛けて殴りかかった。何度も攻撃を仕掛けた反動もあり集中力が欠けていた様子で、その攻撃に反応しきれず彼はそのまま敵の攻撃を受けてしまった。
「くぁあっ!」
魔法によって威力が高められた一撃は図りしれず、骨は砕かれなかったものの彼の身体は宙を舞った。しばしの滞空時間の後、彼は地面に落下し背中から感じる痛みを感じていた。
「・・・くぅぅ・・・やっぱり自分だけの力じゃ、倒す事が出来ないのかな・・・」
そんな彼の参戦意欲が沸いていた頃、グリスンは気にしていた敵との距離感が縮まって居る事に焦りを覚えていた。彼の得意とする戦法は『援護』であり、心配をかけないようにと言った言葉が返って裏目に出ていた。元々接近戦をこなす事が出来ない彼にとってみると、一度や二度程度の接近であれば対処出来るがそれ以上はとてもじゃないが行いたくない様だ。防御する際のパターンが回数をこなすごとに相手に見破られ、何時しか逆手に取られて殺られてしまう可能性も十分にあった。そんな危険性もあるため、彼はなるべく判別させないようにと遠距離で攻めていたのだ。
しかし相手をしている敵はどうやら接近戦を好む傾向があり、飛ばしてくる武器は直線にしか飛ばないものの切れ味のある武器ばかりであった。飛ばしていた武器は何時しか剣から槍に変わっており、速度も出しやすく直撃した際のダメージが大きい物に変わりつつあった。
幾多の武器を何度も払うに従い、その隙をついて敵の距離が縮まっていたのだ。
『ギラム・・・ ・・・駄目だよ、僕は彼に頼られる行動が取れるようになりたいのに・・・! これ以上僕が行動出来ない時間なんて、創りたくない!!』
半ば諦めてしまいそうな気持ちに苛まれるも、彼は何としても逃げたくない事だけは忘れないようにしていた。自分の事を認めてくれた相手がそばにおり、その相手が戦いに慣れていない事を考慮しての行動や言動。それをしたのにも関わらず頼れない自分が言った台詞になってしまえば、その言葉が無意味になってしまう。
心境そのものは彼等の行動にも影響する言葉であり、だからこそ負けたくないと考えていた。
「おらぁ、エリナスの虎っ子。最初の威勢はどうした。」
「っ・・・」
痛む背中を抑えながら起き上がると、彼の耳に挑発してくる敵の声が聞こえてきた。そこ声を聞いた彼が顔を上げると、そこには想憎士となった敵が目を光らせながら彼を見ていた。
その眼差しは相手を怯えさせるには充分すぎるほどの威厳があり、戦いに慣れているはずのグリスンさえも軽く怯えさせる程のものだった。何とか身体を起こし再び対峙しなければならないのにも関わらず、彼の足には力が入らず手だけ動くだけであった。
『どうしよう・・・ このままじゃ、ギラムも・・・!』
「待ちなっ!」
「!!」
敵の眼差しに囚われ動けなくなっていると、不意に彼らの耳元にその行動を止めさせようとする声が響き渡った。声を耳にした両者が顔を動かすと、そこには軽く構えを取り彼等を見ているギラムの姿があった。その手には一丁の拳銃が握られており、生成したものなのだろうかとグリスンは驚きと疑問の表情を見せていた。
「ほぉ、とうとうリアナスが的になりに来たか。 待ちわびたぞ。」