強面傭兵と願いの奏者 11
『・・・あれ、グリスン・・・?』
彼の姿を目撃し反応に困っていたギラムは、不意に何処かへ向けて走り去って行ってしまった彼の姿を目撃していた。何を思ってそんな事をしたのだろうと思っていた彼であったが、走り去る際に見えた真剣な表情をギラムは目撃していた。
その後何か良からぬ事が起こるのだろうと思い、静かに席を立ちつつ残っていたコーヒーを飲み干した。
「悪いサインナ、ちょっと急用が出来ちまった。 あの時の礼、また後日返させてもらっていいか。」
「? ええ、良いわよ。 気を付けてね。」
「ああ、ありがとな。」
飲み終えたコーヒーのカップをソーサーに戻すと、彼は目の前に居た彼女に理由は告げずその場を離れると言った。それに対し彼女は特に散策はせず、不意とはいえ何かあったのだろうと思いそのまま彼を見送るのだった。離れても良いと告げられた彼は、その場を後にし店内の扉を開きあわただしくも外へと向かって出て行ったのだった。
「・・・」
そんな彼の様子をしばらく見送っていた彼女は、不意に窓辺に映った1人の存在を目にし平気を装いつつ目を向けた。そこには先ほどまでグリスンと会話をしていたラクトが立っており、彼女の顔を見て軽く頷いていた。
「・・・そう。 敵、なのね。 ・・・1人で行かせたくは無かったのだけれど、私が出しゃばる幕ではなさそうね。」
周囲に聞こえない様呟いた後、彼女は残ったカップを手にし店内備え付けの返却口へと戻した。その後店を後にし、外で合流した彼と共に敵が居るであろう場所へ向けて走って行くのだった。
「・・・居た! グリスン!」
「! ギラム!?」
カフェを一足先に出たギラムは、先に走り去って行ったグリスンの元へと到着していた。目の前には1人の存在が立っており、どうやら対峙する相手は奴なのだろうと思いつつ彼の隣に移動した。
その様子を見たグリスンは静かに頷き、彼の考えている事が違わない事を告げた。
「奴が創憎士・・・ ・・・でも、普通の人じゃないのか。」
目の前に立つ存在が敵だと認識するも、彼はその場に立っている存在が敵なのか少しだけ疑問に思っていた。その場に立っている相手は普通の成人男性であり、少し顔を俯かせているが何処にでも良そうな井出達をしていた。だが近くにはグリスンの様な存在は立っておらず、どうやら1人なのだろうと認識していた。
彼はそう思っていると、不意に敵は動きを見せ右手を空へと向けた。まるで何かを始めるかのような仕草を取っており、これから何が始まるのだろうとギラムは目線を空へと向けた。そこには百貨店や大型店舗によく見られる大きな『アドバルーン』が浮いており、広告は特についておらずただ単に浮いていた。周囲には小型の風船が浮かんでおり、まるでテーマパークで良くみられる風船の束の様にも見えた。
そんな光景をしばし見つめていると、次の瞬間、
バァーンッ!!
「!?」
上空に浮かんでいた風船は大きな破裂音と共にはじけ飛び、周囲に火の粉を振りまき出したのだ。その音と共に風船からは何やら鉄の破片と思われる飛散物も飛び交い、周囲に巻き散らした。飛散物は彼等の元にも飛来し、地面へと突き刺さった。空で見た影よりもあからさまに大きい鉄の塊が彼等の近くに落ちてくる光景を目の当たりにし、ギラムはとっさに腕を顔元へと移動させ直撃しない様配慮した。
その動きを見たグリスンは右手を前へと出し、何かを描く仕草を取った。すると彼の周囲には透明感のある壁が生成され、彼等を護る障壁となり飛散物からの襲来を防いだ。急な事に動揺しつつも、ギラムはやってくる危機から解放された事を悟り腕を元の位置へと戻した。
その後周囲を見渡してみると、先ほどまであった人影が無くなり周囲は静けさに包まれていた。危機感を感じ逃げたと見るのが正しい光景であり、自分達を見ている存在は誰も居ない状態となっていた。
「創憎士は皆『人』なんだよ。 人としての考える許容範囲を超えて、リヴァナラスそのものの在り方を変えてしまう力を得た存在。」
「それが、今目の前に居るアイツなのか・・・」
飛んでくる物体が無くなったと同時に、グリスンは先ほど彼が問いかけてきた疑問に答え、両手で何かを召喚するかのような仕草を取った。すると今度は、彼の目の前には一台のギターが光の粒子と共に現れ、彼の手元に収まるかのように移動し手にしていた。普通のエレキギターとは違い特殊なデザインが施された物で、どうやら彼の普段手にする武器の様だ。何処となく衣装から見ても『演奏家』に近く、それでどう戦うのだろうとギラムは不思議そうに見ていた。
「・・・そういえば、ギラムにはまだ戦い方を教えてなかったね。 って言っても、コレは誰にでも出来るんだよ。 僕達のアシストがあれば。」
「出来るって言われても、こんな超常現象は初めてだからイマイチ解らないんだが・・・ どうすればいいんだ。」
軽く身構えてはいたもののどう戦えば良いのかを知らずにいる事を、グリスンは思いだしながらそう言った。魔法そのものが一般的な人々から見たら普通だが、実際にはそんな存在はこの世界には居ないと言っても間違いではない。
彼もその内の1人であり、どういった事をすればいいのかわからないでいた。
「ギラムが思い描く『魔法』を、頭の中でイメージしてみて。 それがどうやって出てくるとか、どんな効果があるとか。 そう言うのも含めて考えると、コレみたいな武器を出す事が出来るんだよ。」
そんな彼に助言を出しながら、グリスンは今自分が手にしている武器であり楽器でもある代物を見せた。よくよく見るとそれは楽器としての性能があるのかわからない見た目であり、数本の弦はあるが音を調整する部分がキーボードの様になっていた。
これが武器なのかと感心するギラムではあったが、先ほどの召喚の仕方を想いだしそれに準じた事を考えれば良いのかと思っていた。
「武器・・・」
「大丈夫、心配しないで。 頼りない僕でも、敵を打ち負かすぐらいなら出来るから。 コツを掴めば、誰にでも出来る。 不可能なんて、この世界には元々存在しないんだよ。」
とはいえ不安は付き物であり、最初に戦う相手がどんな相手であろうと恐れはある。
そう思ったグリスンは安心させるかのように言葉を口にし、ギラムがコツを掴むまでは1人で対峙すると宣言した。そんな彼の言葉に一層不安になる彼であったが、その後にグリスンが口にした言葉を聞き軽く驚きながら彼を見ていた。何時の間にか頼りないと思っていた相手の表情が凛々しく見え、本当に戦うべき世界に住んでいる存在なのだと言う事。自分達とは別の世界に住み、平和を望んでいる存在なのだと言う事をギラムは悟った。
そんな彼の様子を見終えると、グリスンは笑顔を見せた後その場から走りだし敵へと向かって特攻を仕掛けた。彼の行動を見た創憎士と思われる敵も動きだし、軽く横へと身体を傾けながら跳躍した。しかしその動きは普通の人であればありえないほどの跳び方であり、まるで弾丸の様に飛び近くのビルの壁へと向かい、そのまま再びビルを蹴った。跳んだ先にはグリスンがおり、手元にギターを構えた状態で相手がやってくるのを待ち構えていた。
「ぁっ!」
「スゥー・・・ メイル・グラシール!」
やってくる敵を待ち構えている彼を見たギラムは声を上げると、グリスンは慌てず武器を構えたまま深呼吸した。その後魔法を発動させるかの様に言葉を口にし、武器を敵に向かって振りかざした。すると彼の足元から氷が生成され、武器を振りかざした風を辿るかのように波を描きながら彼の全面を覆った。 氷が生成されたと同時に敵は氷壁に激突し、跳んだ際に発生した運動エネルギーの威力を氷に放った。薄くも固い氷は徐々に砕け散り、グリスンを視界に収めるほどにまで接近した。
敵の動きを見たグリスンは再び武器を構え受け身に入ると、そのままやって来た敵の攻撃を受け止めながらその場で回転し、右足で後ろ回し蹴りを放ち敵を右前方のビル街に向けて蹴り飛ばした。攻撃は普通であれば短距離で落ちる物であるにも拘らず吹き飛び、敵はそのままビルの壁へと激突した。その際にガラス張りであった窓にヒビが入り、どれだけの威力が込められていたのか解る瞬間であった。
敵を蹴り飛ばし隙を作ると、再びグリスンは行動を開始しその場から跳躍し上空へと跳んだ。先ほどの敵ほどではないが高く跳び上がり、宙で楽器を奏でる仕草をした。すると周辺には色鮮やかな五線譜と共にヘ音記号が飛び交い、敵の倒れている場所目がけて光速で襲撃を仕掛け出した。その動きを見た敵も止まってはおらず、その場から避ける様に移動し両手に剣を生成しグリスン目がけて投げ放った。
同じく敵の動きを見ていたグリスンは空中で空気を踏みながら留まり、飛んで来た剣を持っていた武器で振り払った。そんな彼の行動を見た敵は再び剣を召喚し何度も投げるも、グリスンの身体には届かず宙で撃ち落とされ地面に突き刺さっていた。