表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

強面傭兵と願いの奏者 10

 次の日の朝、ギラムは施設へと行く際に使用するバイクに跨り出かけようとしていた。天気は良く快晴のその日、以前まで独り身だった彼に同居人が加わった。自らを荷物と呼んでも良いと言う、不思議な黄色い虎獣人を。


「留守番?」

アパート前の駐輪場にて、目を丸くしながらグリスンはギラムに言った。

「ああ。 まだ確かに聞きたい事とかあるんだけどさ、仕事は仕事でなるべく考えないようにしたいんだ。 すまないが、今日はそうしてもらえるか?」

「うん、良いよ。 気を付けてねっ」

 普段の彼の仕事は依頼による行動であるが、施設に行く際は全て自主的な鍛錬ばかり。その際にグリスンが居たら気が散る事もあるが、なるべく仕事では他の事を考えないようにしたいとギラムは言った。契約を交わし一晩経ったが、それでも整理出来ない点は彼にもある。グリスンはそれを悟った様子で、笑顔でそう言い彼の事を見送った。

 無邪気な笑顔を見せる虎獣人に見送られ、ギラムはバイクを走らせ公道へと出て行った。その後姿を見送った後、グリスンは彼の自室へと向かい大人しく部屋で待機する事にしたようだった。




『・・・それにしても、アイツって結構小食だったな・・・』

バイクを走らせ街中を移動しながら、ギラムは視界に気を配りつつそんな事を考えていた。

 契約を済ませた後、グリスンにこの後どうするのかを質問し生活を開始した。急遽できた同居人と言う事になるのだが、如何せん彼は住んでる環境の違う異世界人。自分の常識が彼に通用するのかがわからず、彼はシツコイ事を承知の上で質問をする事が多かった。昨晩したやり取りは生活面の話であり、睡眠場所や食事に対する質問だ。

 基本的な日常生活での行いは彼等にもある事をグリスンは話し、昨晩は即席の寝床でのやり取りでいろいろと感動する点も多かった。軽く寝不足なのか、運転をしながら欠伸をするギラムなのであった。


 新たに今朝分かった事は、食事は一日何回とは決まっておらず、基本はパートナーであるリアナスに合わせるとも説明を受けた。そのため、ギラムの普段の食事回数である3回を目途にするそうだ。

 しかし昼食は大抵施設で済ませてしまうため、グリスンは一日二食になる。それでも、彼はあまり食べる事は無く食は細かった。

『獣人つっても、普通の動物と違って暴食とかじゃねぇんだろうな。人もだが、獣人もいろいろか。・・・かえって暴食する獣人って、どんな奴なんだろう。』

そんな事を想いつつ、ギラムは赤信号を目にしゆっくり減速しながら待機した。

すると、


「・・・あれ。」

 不意に彼の視界に何かを感じ、ギラムは何となく道路の左側を見た。そこには1人の獣人の姿があり、グリスン同様獣の顔をし簡素ではあるが服を纏っていた。しかしそこに居た獣人は『狼』であり、異世界と言うよりはギラムの居るこの街の世界観に似合う服装をしていた。上は黒い服を纏い、下は文字の入ったジーンズを履いており、左サイドには銀のチェーンを付けていた。

 目は赤く、視線はギラムに向けられており無表情ではあるもののじっと彼を見つめていた。

『・・・ぁ、そっか。 グリスンと契約をしたから、あんな感じの奴らをこれからも目にするのか。 日常日常っと。』

 そんな彼の眼差しを見ていたギラムは、不意にこれが日常となった事を想いだし自然な風景なのだと言う事を改めて認識していた。例え彼等と目があっても何かがあると言うわけでは無く、これからも増えるわけであり接触をする事は無い。ひとまずグリスンに何をすべきなのかを聞いてからでも遅くは無いと思い、彼は信号が変わったと同時に再びバイクを走らせて行った。


 その様子を見ていた狼獣人は、走り去っていくギラムの姿をしばらく見ていた。

「・・・新たなリアナス、か・・・ ・・・魅力は有りそうだな。」

 何処かへ向けて走って行くバイクと彼を見た狼獣人はそう呟き、立っていた位置から移動し人並みに紛れるように移動して行った。背後で揺れるフサフサの尻尾が、何処からともなく吹いて行く風と自らの動きに合わせて揺れている姿。

 鋭い目つきが印象的な、不思議な獣人であった。





「・・・悪かったな、昨日のスケジュール狂わせちまって。」

都市での獣人を見かけ、その後施設へとやって来たギラム。先日急遽予定の研修を後日にするようにしてもらったサインナと共に、昼食後のコーヒーを堪能していた。その日は施設から離れた場所に位置するカフェで飲んでおり、普段着の彼女が目の前に居た。

「平気よ、管理は全てこっちに任されてるし。 貴方なら、新たなスケジュールに機敏に行動してくれるって解ってるもの。」

申し訳なさそうに話す彼の言葉を聞き、彼女は冷静に返答を返しつつ彼とは別で頼んだカフェラテを飲んでいた。その日の彼女はミニスカートにスパッツと言う施設内とは逆の井出達をしており、上着は軽く羽織りつつも気候による暑さもあってか崩して着ていた。普段纏め髪にしている髪は下ろしており、濃い緑色のセミショートヘアーが印象的な女性だった。

 喫茶店でお茶を楽しむ光景を見ていると、普通のオフィスに勤める女性にしか見えない。仕事柄のハードな性格とは裏腹の服装の趣味は、やはり乙女である。

「無理言ったのはこっちみたいなもんだからな。 それくらいしか、俺には出来ない。」

「あら、意外な言葉ね。 貴方にはもっと魅力があるって言うのに。」

「魅力?」

 いつも通りであり行動出来るからこそしたと告げられ、ギラムは自分に出来る事はそれくらいだと言った。それに対し彼女は意外そうな表情を向け、それくらいの枠に収まらないのが貴方だと言わんばかりの台詞を口にした。その言葉を聞いた彼も驚いた表情をし、そんな魅力が何時自分に出来たのだろうと違和感を覚えていた。

「人ってね、自分じゃ気づかない魅力が何処かにあるものなのよ。 絶対的な馬鹿にだって、何かしらの長所は絶対にあるわ。」

「長所か・・・ ・・・俺の長所は、そう言った行動がこなせるくらいだと思ってたんだが・・・ 他にもあるのか?」

彼の疑問に答える様に彼女は告げ、手にしていたカップを一度ソーサーへ戻しつつ話し出した。人には少なくとも1つ以上の魅力を持ち合わせており、長所の無い存在など居ない。むしろそんな存在が居たとしたら、真っ先に心から叩きなおさなければならないのだろう。彼女はそう言いながら彼を見ており、ギラムはそうでないと思っている事を話すのだった。

「貴方は普通の凡人とは違った魅力があるわ。 そうでなければ、私は貴方に過度な期待はしないし放置するのが基本よ。 こうやってちょっとした事で外へ出るのも、ずいぶん久しぶりだもの。」

「そうなのか・・・」

 現に彼は周りの存在達とは違った魅力を持っており、彼女自身も外へ出る事は久しぶりの為か気分は良い様だ。どうでもいい相手であれば過度な期待はしないし、こんな誘いを受けても速攻で断ると彼女は念を押して言っていた。そんな彼女にギラムは愛想笑いを返しながらコーヒーを飲み、ふと視線を外へと向けた。

 店内窓辺付近の席でお茶をしている彼等の元には日差しが差し込んでおり、夕方になる前の明るい日差しが降り注いでいた。外にはちらほらと学生服を纏った人々が目立ちだし、登下校による人々なのだろうと彼は思っていた。昼下がりの落ち着いた光景が彼の目の前に広がり、いつもの平和がそこにあると思っていた。

しかし、

「・・・ ・・・ぁっ」

「?」

 不意に何かを見つけたかのようにギラムは声をあげ、とっさに口元を手で押さえた。その様子を見た彼女はコーヒーを見ていた眼を彼に向け、何を見つけたのだろうと彼の表情を見ていた。慌てた彼は周囲の人々が自分を見ていないか確認をした後、彼女に「何でもない」と告げ平気を装いつつコーヒーを口にしていた。そんな彼の言葉を信じ彼女は目線をコーヒーに戻した後、彼の見ていた方向を軽く見つめしばらくして店内の方へと視線を向けていた。

『・・・何でアイツがこんな所に居るんだ・・・!?』

 目の前で気にしないそぶりを見せている彼女を見た彼は、ホッとしつつも心の中では目視した相手が居る事に驚いていた。




「・・・ぁ、やっと見つけた。 もう、僕をほったらかしでいつも楽しそうに話をしてるよなぁ・・・ギラムって。」

 彼が見た物、それは外に居る1人の青年の事だった。カフェ周辺の木々に隠れ様子を見ていたのはグリスンであり、彼が待機する様言ったアパートから離れた場所にある喫茶店に何故か居たのだ。どうやら彼を探してここまで来た様子で、出会い当初同様身体を隠しながら彼の様子を見守っていた。

 元々何か用があってきた様子ではなく、ただ単に暇だったため来たようだ。周りが目視できない事もあってか、気にせず彼は見ていた。

すると、


「・・・あれ?」

 不意にギラムとサインナを見ていたグリスンは、何かを見つけた様子で声を上げた。彼が見た先には喫茶店の扉があり、周辺にスペースを取った入口付近に居る存在の事だった。そこには彼と同じく『人ではない存在』が壁に背を預けた状態で立っており、誰かを待ちながら店内の様子を見ている様子だった。グリスンの様な哺乳類の動物とは違い、そこに居た存在は鮫であり『魚人(ぎょじん)』に該当する存在だった。

 尻尾は太くも尾鰭は細く、長く伸びる尻尾は地面を付いており赤いバンダナを鰭に巻いていた。浮き上がった胸筋には彫られたと思われる珊瑚の刺青が入っており、腰には緑色の水着と白い布地が巻かれていた。左頬には切り傷と思われる3つの線が入っており、鋭くも少し大きい目が印象的な存在だった。

 自分と同じ存在がこんなに近くに居るとは思っていなかった様子で、グリスンはその場から移動し鮫魚人の元へと向かって行った。その様子に気付いた相手も、静かに顔を向けた後体制を戻し真正面から向き合う体制を取っていた。

「何か用か、虎獣人。」

 自分に用がある様子で近づいてくる相手に対し、鮫魚人はトーンの低い声色で彼に問いかけた。警戒はしているが対峙する様子は無く、目立った武器等は持ち合わせていなかった。

「・・・もしかして君は、僕と同じエリナスの人?」

 そんな彼に対しグリスンは頷いた後、鮫魚人に質問をした。質問に対し鮫獣人は軽く頷き、視線を再び店内へと向け様子を見ている存在が居る事を彼に話した。自分同様契約するべき相手のウォッチングかと聞くと、それは違うと言いつつ鮫獣人は顔を横に振った。

「俺はもう契約を済ませ、共に居るべきパートナーの様子を見守っているだけだ。 心から燃える彼女の心を、壊さないためにな。」

 何かを悟らせるかのように鮫魚人は呟き、契約を済ませ相手が必要だと感じる時以外は行動しないようにしているとグリスンに説明した。そんな彼の話にグリスンは尊敬の眼差しを向け、とても頼りがいのあるエリナスなのだろうと思い彼同様に店内を覗いていた。

 グリスンの行動を再び目撃したギラムが慌てている様子を見て、ちょっとだけ嬉しそうにグリスンは笑顔を見せていた。

「ぁ、じゃあ君のパートナーは女の子なんだね。」

「・・・その様子だと、お前は違うみたいだな。 相方は男か。」

「うん。 僕よりもカッコよくて、とっても優しい人なんだ。」

 その後鮫魚人契約した相手が女性である事を想いだし、どんな人なのだろうかと話題を持ちかけた。彼の様子を見た鮫魚人も何かを悟ったかの様にそう告げ、彼の相方は男なのだろうと思い質問を返した。

 鮫魚人からの問いかけに対しグリスンは頷き、自分よりも頼りがいがある勇ましい人だと笑顔で話していた。その様子を見ていた鮫魚人は静かに話を聞いており、軽く相槌を打つかの様に頷きつつも視線だけは変えないのだった。


「・・・ねぇ、鮫魚人さん。」

「何だ。」

「お名前、聞いても良い? 僕、あんまり頼りがいが無いっていうのもあるんだけど・・・ お話が出来る人が居ると、嬉しいんだ。 君は、忙しいとは思うんだけど・・・」

そんな彼の様子を見ていたグリスンは、不意に彼の名前が知りたくなり聞いても良いかと問いかけた。不意な提案に意外そうな顔をする鮫魚人ではあったが、彼なりに考えていた事を聞き悪い意味で聞いたのではない事を悟った。

 その後しばらく考えたのち、彼の目を見てこう言った。

「・・・コンストラクト。 長ければ、ラクトと呼んでくれていい。 仲違いは出来るか解らないが、話くらいなら付き合おう。」

「うんっ ・・・ぁ、僕はグリスン。 よろしくねラクト。」

 鋭い目つきは少しだけ緩み、彼同様大きい目を向けながら鮫魚人は名前を名乗った。ラクトからの名前を聞いたグリスンは返事を返しつつ、自分の名前を名乗り笑顔でそう言うのだった。そんな彼の笑顔を見て少しだけ表情を緩ます彼ではあったが、しばらくした後再び店内に視線を戻すのだった。

冷静さを失わない様配慮するラクトを見て、グリスンも真似をしようと少しだけ移動しギラムの様子を見守るのだった。

しかし、


「・・・あれ、この感覚・・・」

「! まさか・・・!!」

 不意に何かを感じた2人は身構え、何かが近づいていると感じ周囲を警戒し出した。いち早く何かを察したグリスンは行動を開始し、ラクトに先に行くと告げその場を離れていくのだった。その様子を見たラクトは彼の後姿を見た後、違和感を覚えた先に目を向けているのだった。

 彼等の先にあったのは、巨大なアドバルーンの姿だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ