強面傭兵と願いの奏者 1
その切欠を知る事になったのは、何処にでもありそうなよくある展開の後の事。だがそれが普通とは感じられず、どこか違和感がありなかなか馴染めないと思う事が少なくなかった。それは彼が『普通である』なのか、それとも彼が『普通ではない』のか。
それを知るのは、それ以上の存在しかいないのであった・・・
自らが創造し物事全てを創りだす存在。
多くの人達は、その様な存在の事を一言で『神』と良い崇める。
普通の生活とは、どのような目線で言った時を言うのか。
それは誰にも正確な答えを言う事は難しく、誰が普通であり誰が基準なのかによって返答が変わってしまう。それでも人々は『普通』を求め続け、その思考に反する人を『普通ではない』と否定する。
どれが正しく、どれが間違っているのか。
その回答を知る者は、おそらく皆はこういうのだろう。
『神のみぞ知る世界』と・・・
ガチャコン・・・
「・・・」
空が青く昼間の温かい日差しの降り注ぐ、何処にでもあり見かける事は無いかもしれないその風景。とある施設を利用していた1人の青年が、外と施設を仕切る自動扉の前で完全に扉が開くのを待っていた。規定された衣服を身にまとい、隣に立つ大型バイクのハンドルを両手で支えていた。
「お気をつけてお帰りを、ギラムさん。」
「あぁ、ありがとな。」
扉を開ける許可を持っている兵隊からの返事を聞き、名前を呼ばれた青年は返事を返しつつバイクにまたがり、ゴーグルを装着した。その後バイクのエンジンを入れると、グリップを捻りそのまま外へと向かって走り出して行った。
金髪のオールバックヘアーを靡かせながら街道を走り抜け、バイクを操縦しながら進む青年。彼の名前は『ギラム・ギクワ』 とある企業で雇用契約を結び、依頼に応じて仕事をこなす『傭兵』の青年だった。
しかし傭兵と言う名目の仕事はほぼ皆無に等しく、仕事がない時はこうして『自衛隊』の施設と自宅を行き来する日々を送っていた。普段は行き来する施設で指定されている軍服を身にまとい、愛用しているバイクに跨り街道を抜けるのだった。
街道を抜けトンネルを走り抜けると、彼の前に広がったのは見慣れたビル街の広がる1つの都市。そこは『リーヴァリィ』と呼ばれる彼の住み慣れた場所であり、さまざまな企業に努め個性的な職業を持つ人々も数多く住む街であった。中にはその企業に就職するために行動をする人々も少なくなく、家族があり個々で生活する人も零ではなかった。
その都市の中にある、1つの真新しい造りをしたマンションの一室。そこに家を持ち生活をしている彼は、目的地に到着するとバイクのエンジンを止め車体から身体を下ろした。鍵を閉め確実にバイクを停車させると、ゴーグルを外しアパートの中へと向かって歩いて行った。
部屋へと向かうまでに暗号によるキーを入力し、ガラス張りのロビーを抜けた先。その先には吹き抜けのガラス張りで作られた通路があり『東塔・西塔・南塔』の3方向に別れていた。それぞれの通路は3階建ての住居へと繋がっており、間の空間には芝生で構成され人工的に作られた庭園が広がっていた。
吹き抜けの空間には日差しが差し込んでおり、ガラス張りと言う事もあってか通路は電気が無くとも明るいほどの日光が照らされていた。左側の東側の通路を彼は歩き進んでいくと、その内の一室が今の彼の住処だ。
再びそこで部屋へ入る為の番号を入れロックを解除すると、扉は自動で開き彼は中へと通された。
部屋は比較的シンプルな作りで、入口に廊下があり奥の部屋へと一直線に繋がる構造となっている。廊下の先の部屋は3つに仕切られており、彼はリビングとベットルーム、そしてもう1つは別室としてその場を使っていた。自宅へと帰ってきたギラムは手にしていたバイクの鍵を定位置であるカウンター脇の籠の中へと入れ、手にしていたナップサックをその場に下ろした。
「ぅ、うーん・・・ ・・・シャワーでも浴びるか・・・」
その後やって来た疲労感を感じ、彼は呟き混じりにそう言い背中を伸ばしつつシャワールームへと向かって行った。向かう途中にゴーグルを外し上着を脱ぎながら向かっており、服が無くなり肌着姿へと変わった。それと同時に服の下に隠れていた彼の肉体が露わになり、鍛え上げられた逞しい腕や肩、浮き上がった胸筋が姿を見せていた。傭兵と言う仕事の名目もあるが、普段の自衛隊施設での鍛錬の成果もそこに出ており、彼の肉体は常に維持されている形だった。
その後シャワー室へと向かうと、身に着けていた衣服全て脱ぎ近くの服置場に全てをまとめた。身に着けていた衣服が無くなると、彼はそのまま奥の部屋へと向かい浴室へと足を踏み入れ、浴槽の近くに下がっていたカーテンを仕切った。湯浴みをする準備が整うと、彼はカーテン同様浴槽のそばにあったシャワーのバルブを捻り汗を流し出した。
彼がこの街にやって来たのは、数年前の事。
育て親である生みの親を最近亡くし、自立しなければならないと考えていた彼は思い切って都会に出てきたのだ。しかしすぐにやるべき事が見つからず、しばらくは野宿の生活も余儀なくされていた。傭兵になる前は自衛隊の仕事に興味を持ち、志願をしたこともあった。しかし早々になれるものではなくしばしの歳月は無職であり、1年経った頃に彼はその施設へと入隊したのだ。
それからは元々の熱心な性格と正確性のある勇士が功を奏してか、他の隊員達よりも優秀な成績を出す事が多かった。特に目立って優秀だったのが『射撃訓練』であり、短銃長銃種類を問わず狙いすました一撃がほぼ中央を打ち抜く事は稀ではなかった。生身の相手を打ち抜く事は無かったものの、それでも訓練では十分な実績を出しているほどであった。
変わって実地訓練とは別で得意分野も持ち合わせており、知識面では『爆薬機器の取り扱い』が上手だった。イカツイ顔付からは少し意外な面だと隊員達に思われる事は少なくなかったが、現に彼は手先が器用な方だった。無論失敗し誤爆をしたことが無いわけでは無いが、それでもミスは少なく丁寧に取り扱っているためか扱いが上手かった。
体力面でも申し分ないほどであり、施設内で行う事柄全てを万遍なくこなしていた。
傭兵になる決心をしたのはまた少し先の話であり、今ではその切欠もありその仕事を行っていた。初めの内は不慣れな事もあり完全な成功は少ないものの、仕事熱心な所は変わらず回数をこなしていくうちに上達して行ったのだった。最近はそんな依頼が来る事が少ないため、施設に頼み訳有でその施設を使っているのだった。
ガチャッ・・・
「ふぅ・・・ ・・・さっぱりした。」
シャワーを浴び終えタオルで身体を拭き終えると、彼はシャワー室を後にし廊下へと出てきた。濡れて湿っている髪の毛を軽く乾かし、新しい下着と肌着を身に着けた状態の姿で彼は廊下を移動し衣装ケースのあるベットルームへと向かって行った。
細見であり大柄な体系でもある彼が寝られるほどのセミダブルのベットのそばには備え付けのクローゼットがあり、中を開けると羽織る上着から仕事で着る作業着などが綺麗に収まっていた。ゴツイ顔に見合わずマメな性格の彼であり、部屋も基本的には片付いており衣類が散乱する事は少ない。
同時に軽い自炊程度も行うためか、生活感はありつつも男らしい仕事柄がギャップを呼ぶ彼である。
衣装ケースから適当な服装を取り出し着替え終えると、ギラムは使い終えたタオルを肩にかけたままリビングへと移動した。
その後ダイニングキッチンのサイドテーブルに置かれていたお菓子を手にし、袋を開けながらベランダへと向かって行った。ガラス戸を静かに開け外へと出ると、日陰と日の光があるベランダがそこにはあり、サンダルを履きながらギラムはベランダへと出た。日の光が髪の毛に当たり、彼の濡れた髪の毛を自然風と共に乾かし出した。優しい風を身に感じながら菓子を食べ、彼は外を見ていた。
外は少し小高い丘から見下ろした街の風景が広がっており、点々と立っているビルと住宅街が見えた。所々に存在する公園や樹木による緑もあり、自然と技術が融合した現代的な都市が広がっていた。彼の住んでいる部屋はマンションの東塔でも一番端の部屋であり、1階と言う事もありベランダから外へ出ると庭に出る事が出来る位置にあった。もちろん周辺の庭も部屋主である彼の所有地であり、柵が立っている位置までは彼の管理課である。そのため、これと言った手入れはしていないものの芝生の庭園も彼の住処である。
「風が気持ちいいな・・・」
ベランダの柵に身体を預け菓子を口にしながら、ギラムはその光景を見ながら黄昏ていた。口にしているラムネ菓子が何処となく煙草に見え、年相応な風景ではあるが中身はまだまだ若いと思われる彼であった。
そんな彼が、この物語の主人公であり
運命を背負う事となる戦いの『神』となるのだった・・・