表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目撃者2  作者: 爽夏=sayaka=
2/3

大晦日の中継☆王子稲荷

 年末、年の暮れ、大晦日。特別編成が組まれる番組に合わせて、都内にある王子稲荷神社にも中継車が出ていた。

「なんで王子稲荷なのさ?」

 都内には有名どころの神社仏閣やパワースポットがあるだろうに、何故にこんな下町からライブ中継しなきゃならないんだと、光希がブツクサ呟くと、マネージャーは苦笑する。

「ご機嫌斜めだねぇ。そんな光希君に朗報だよ。今日の相手は、なんと、あの、アイドルグループ妖精姫(フェアリープリンセス)のアイスドール! 千住ちゃんがお出ましだからな」

「アイスドール千住って、あの無表情美人が?」

 光希は驚いたようにマネージャーの顔を見た。

 妖精姫(フェアリープリセンス)は、数年前から人気の出て来たアイドルグループだ。個性豊かなメンバーが多数所属している事や、メンバーの中で数人のユニットを作り出し曲を出したり、人気投票で小妖精(プチフェアリー)と呼ばれる下部組織からの下剋上があったりと様々な手法でファンを獲得してきた。

 そのグループの中でも人気のあるメンバーには二つ名が贈られ、くだんの『アイスドール』というと、今年の秋ごろから雑誌やCMに起用され始めた千住という名の美少女の事だった。

 いつもは表情の崩れぬ人形の様な印象を受ける彼女だが、たまに見せる微笑みが愛らしく、まるで氷が溶けたようだと言うことからつけられたあだ名だった。

「どっかのお偉いさんの隠し子だとか、愛人だとか噂のある子だろ。こないだも北欧の方の有名ブランドのキャンペーンガールに抜擢されてたみたいじゃん」

 なんでこんなクソ寒い中、中継なんて下っ端の仕事をするんだと文句を言い始めた光希に、マネージャーは「今のアイドルはバラエティもできないとねぇ」と楽しそうに告げた。

「光希だって俳優業の傍ら、こうしてバラエティにも出て顔を売ってるだろ? あっちだって、同じことだよ」

「それって嫌み? 最近は本業よりバラエティの方が多いって言いたいんだろ?」

「何をおっしゃいます、光希君。来年は大河にドラマに映画にとスケジュールが詰まってますよん」

「それ、全部チョイ役だろ……」

 呆れたように溜息をついてロケバスの外を眺めた。

「二年前は期待の新人だって持て囃されても、今じゃ三流も三流。底辺もイイとこ。来年は高三だし、大学受験でもして、海外留学でもしてくるかな」

 残念ながら、受験勉強する暇なら大量にある。スカスカのスケジュールをチラリと見ると溜息しか出て来ない。

「バラエティの仕事があるだけでもマシなんだけどねぇ」

 小さく呟かれたマネージャーの言葉に、光希は不貞腐れて返事もしなかった。

「光希さん! そろそろ準備ヨロシクお願いしまーす」

 ロケバスの扉が開き、ADの声が響くとマネージャーは応えを返し、光希をせきたてる。

「ほらほら、仕事仕事。今日のお仕事がんばって行きましょぉ~」

「わぁったよ……」

 ロケバスを出た光希はスタッフに連れられて最終の段取り確認を始めた。

 そんな中、「千住さん入りまーす」というADの軽やかな声が現場に響き、周囲に集まった人々から、「キャァ」「かわいぃっ!」という黄色い声や「千住たーん」という野太い声が放たれ、騒然となる。

 光希が騒ぎの中心に目を向けると、静謐とした空気を纏った一人の美少女がADに先導されて静々と歩いていた。

 日頃、茶色に脱色した髪は、現在着ている巫女装束に合わせ黒く戻され、ストレートの黒髪が背中のあたりで一本に結われている。真っ白な着物に黒髪が映え、朱色の袴を留める帯が腰の細さを強調していた。

 ツリ目がキツイ印象を醸し出すが、濡れたように潤んだ瞳がどうしようもなく庇護欲を誘う。チラリとでも彼女の視界に映れた行幸を喜ぶ観衆だったが、彼女が唇を開くと、ピタリと行動を停止させた。

「お静かに願います」

 自分を呼ぶ声にニコリともせず、折り目正しく頭を下げて、静かに告げる。その声を聞きもらすまいと、観衆がシンと静まりかえり、光希は急激な変化に目を丸くした。

「アレが……」

 アイスドールの名に相応しい人形の様な佇まい。本当に生きている人間なのかと光希が思った時、少女の涼やかな声が辺りに響いた。

「ご協力感謝致します」

 周囲の人間がゴクリと唾を飲み込んだ。光希も周囲の人々と同じように、瞬きを忘れ、目の前の光景を脳裏に焼きつけていた。

 自分が注目されていると気が付いただろうアイスドールが、何処か照れたように目を細め、微かに微笑んだのだ。

 慌ただしく準備を進めるスタッフの目をも奪ったアイスドールの微笑みは、ほんの一瞬の事で、すぐに無表情に戻った彼女は、光希の前に歩を進めると、「本日はよろしくお願い致します」と美しく一礼した。

「あ、あぁ……よろしく、おねがいしま、す」

 彼女の常人離れしたオーラを前に、光希がギクシャクとした返事しか返せなかったとしても責められはしないだろう。

 やがて、正気に戻ったスタッフたちは、スタンバイを始め、スタジオからの呼び掛けに、レポーター役の光希と千住は王子稲荷神社からのライブ映像と共にレポートをするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ