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風待月に君に  作者: ノベラー
第2章
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第7話 探索を終えて

……やはり、誰もいない。


僕は、廊下にある窓から外を見た。

いつの間にか、空は雨雲に覆われていて、今にも雨が降りそうだった。

時折空に閃光が広がり、しばらくして遠くから雷鳴も聞こえてくる。


「どこにもいないね」

僕と同じように空を見ていた速水さんが呟く。


腕時計を見ると、すでに5時を過ぎていた。

僕たちはこの洋館で、無意味な時間を費やしているのだ。


「速水さん、これからどうする?

 今日の撮影の予定は、どうなってたんだい」

「午後から撮影を始めて、終わりは深夜だったはずよ。

 明日は、また東京に帰って、そっちで撮影の予定だったわ。

 あくまでも予定だから、何時に終わるかは分からないのだけれど」


「いくらドッキリと言ったって、 これじゃあドラマ撮影に影響が出るんじゃないのかな?

 一体、連中は何をしているんだろう?」


このままここで彼らが出てくるのを待つのか。

それとも帰るか?

帰るといっても、あの邪魔なマイクロバスをどけない限り、僕は向こう側に行けないのだけれど。


結局、スタッフの連中が「ドッキリでしたあ」って出てくるのを待つしかないのだろうか。

「新城さん……、これじゃあ帰るのが遅くなっちゃうね、

 ごめんなさい、こんな事につき合わせてしまって。

 なんて言ったらいいか……」


「いや、気にしなくていいよ。これはこれで楽しいから。

 速水玲香ちゃんと一緒に同じ時間を過ごせるなんて、普通では考えられない事だからね。

 むしろ嬉しいくらいだよ」

これは本音だった。


「そう言ってもらえると嬉しいけど……。でも、いつになったら出て来てくれるのかしら」


「わからない。彼らが満足する映像が撮れるまでなのかな」


僕たちは仕方なく、時間を潰すことにした。


一階の食堂だった場所に行き、長椅子に並んで腰掛けた。


話す事といっても共通の話題もわからないし、そもそも女の子と話すのが得意じゃないから何を話ていいかよくわからなかった。

彼女の方が逆に僕に気を遣っていろいろと話してくれた。

自然と話題はドラマになっていく。


このドラマはミステリー仕立てで、出演者にも結末は教えられていないそうだ。

その放送の回の台本が渡されるらしく、役作りが難しい、と共演者がぼやいているらしい。


速水玲香が演じる主人公をずっと陰から護り続ける少年との叶わぬ恋と主人公の出生の秘密がドラマのメインになっているらしい。

「この少年が、小さい頃にヒロインを命がけで護っていることを彼女は知らないの。事件のショックで記憶をなくしてしまってるの。少年は事実を話さない。二人は当時のまま、ただの幼なじみでしかないわけで、ヒロインはそのことに気づいていない。それどころか別の男性をかつて自分を護った人だと思いこみ、ずっと想い続けている。やがて、再会したその人に惹かれていくの……」

現段階で知っていることを彼女は話す。


「少年はたぶん、ずっとそのことを秘密にしておくと思うよ」

僕は呟いた。

「どうして? 本当の事を言わないと彼女は勘違いをしたままだというのに。少年はヒロインのことをずっと好きなのよ」


「重荷になるのが嫌だからだと思う」

「どうして? 」

彼女は僕の言ったことがよくわからないようだ。

「だって、ヒロインを護ったことで少年は大けがをし、それで障害が残ってしまっているんだよね。もし本当の事を言ったらヒロインは彼の事を好きになるかもしれない。でもそれは自分を護るために犠牲になった彼への同情からだと少年は感じるんじゃないかな。決して自分を愛してくれているんじゃないと」


「でも、彼女はずっと自分を助けてくれた人を思い焦がれているんだよ。同情なんかじゃないと思う。わたしだったらそう思う」

どういうわけか必死な瞳をする彼女に僕は気圧される気がした。


「ごめん。そんなに深い意味があって言った訳じゃないんで、気にしないで。そうだよね、命をかけて護ろうとする想いは愛だろう。それに答えるのも当然だよね」


「でしょ? いわゆる白馬の王子さまなんだから。きっと好きになるよ。そしてハッピーエンドを迎えるはずなの」

彼女は満足したようにほほえんだ。


そう。同情なんかじゃないだろう。

お互いよく知っているんだから。

少年はヒロインのことを大好きだったのだろう。だから命を賭けてまで彼女を護ろうとした。


だが、二人がまったく面識がなかったらどうなんだろう。

障害をもった男が自分が君を護った男だ。だから好きになってくれ。

そう言って現れたらヒロインはどうするのだろうか?

僕はふとそんなことを思った。


外からは、木々のざわめきの音がする。

窓に目をやると、雨が降り出したようだ。


こんな雨が降りそうな湿気の多い日には右腕や背中が軋むような時がある。今もそんな痛みがあった。


「雨が降ってきたみたいだ」


そう言った瞬間、空が光った。

ほとんど差が無く、轟音が屋敷中にとどろいた。


「きゃっ」

 激しい閃光と雷鳴に驚いた彼女が僕にしがみついてきた。


かなり近い位置に、雷が落ちたようだ。

空気の振動で窓ガラスが激しい音をたてた。同時に雨足が激しくなってきた。


「ものすごい雨になってきたな」

僕は、しがみついた彼女の感触にドギマギしながら呟いた。

香水の香りが僕を包み込む。


窓の外の風景は一変し、雨の為に、ほとんど何も見えなくなっていた。

これではとてもじゃないが、車まで辿り着けそうもない。

雨が止むまで待たざるをえないだろう。


彼女は、気付いたのか、ぼくから離れた。


「ごめんなさい。……雷でびっくりしちゃった」

恥ずかしそうに僕を見る。


その潤んだ瞳に、ぼくは鼓動が高鳴るのを感じた。

嵐の山荘に二人っきり。

そして、一緒にいるのは憧れの女性……。


僕は雑念を振り払うかのように、頭を振った。

「そういえば、お腹空かないかい?」


「あ、そういえばもうこんな時間なのね。どうりでお腹空いているわけだわ」


時計はすでに8時を回っている。

空腹を感じていた。


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