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風待月に君に  作者: ノベラー
第2章
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第34話 不可避な再会、切ない運命

「誰が封印を解くのかなぁ? 」

背後の声に、僕は振り返った。なんと階段の途中に、鷲尾達が立っていた。

彼らの背後に、ロープで縛られた玲香ちゃんが立っているのが見える。


「へいへいへい。新城君、君が封印を解いて、どうするっていうんだい?

まさか、あいつを解放するつもりだったりして? 」

鷲尾がニヘラニヘラとニヤつきながら、拳銃をこちらに向けた。


僕はは、動けなくなった。

何てタイミングが悪いのだろうか?

行動を起こすのがあまりに遅すぎたんだ。もう少し早く判断できてたら。


悔やんでも、どうにもならないのは分かり切ってる。

僕は、危機的絶望的状況に立たされている。


鷲尾は、銃口をこちらに向けている。

僕の裏切り行為はすでに感づかれてしまったか。


そして奴らに隙など無い。戦うにも、数が多すぎる……。


ズボンの後ろに差し込んだ拳銃を確認する。

しかし、……僕は銃にかけた手を離した。

ここで戦ったところで、勝ち目は無い。ただ、死が待つだけ。

それに、こんな場所で銃撃戦になったら、玲香ちゃんを守りきれない。

やけを起こすには早すぎる。


鷲尾達は、階段を下りきり、この地下牢の前の広場にやって来た。

僕は、男達に取り囲まれ、あっという間に、手錠をかけられた。


「ハロー、久しぶりだね、セシリアちゃーん。

 やっとキミを処刑できる日がやって来たんだよね。ふーふー、きゃきゃ。キミとの再会を気絶しそうになるくらい、すげえぇ待ち望んでたんだよ……」

鷲尾が嬉しそうな、そして愛しそうな目で彼女を舐め回すように視る。


セシリアは、目を伏せて答えない。

「な~んだ、答えなてくれないのかい?……ちぇっ、相変わらず冷たいなあ。でも、まあ、いいかぁ~。……そんな感じで語る俺」

そう言うと、鷲尾は、ニンマリと笑った。

仲間に目配せをすると、玲香の腕を掴んだ男が動き、彼女を鷲尾の前に引っ立てた。

彼女は抵抗するけど、女の力ではどうにもならない。


鷲尾は、語り始めた。

「ほんと、ボクたち、ずいぶんここで待たされちゃったよね。

 セシリアちゃんにはわかんないかもしれないけど、そりゃーそりゃあ凄く大変だったんだよ。なんつったって、ほんと、人間の体っていう奴は、俺たちが入り込むと、そんなに長くは保たないんだ。

 10年もしないうちに腐りだして、動きが悪くなるし、ちょっとしたことで骨が折れやすくなったり傷が治らなくなるんだよ。やがては嫌な臭いをまき散らすわ、ほったらかしにしておくと、目や鼻や耳が外れるし、腕も取れたりするんだよ。それにへんな虫が卵を産み付けたりしたらもう大変。孵化したら皮膚と肉の間を徒競走なんだよ。……赤勝て白勝てじゃねーんだぞ、てめぇ、ゴラァッ! 結局体は使い物にならなくなっちゃうじゃねーかyo。

 その度に馬鹿な人間を騙して、ここに連れ込みとっ捕まえ、乗り換えの儀式をしなくちゃなんねーんだ。プンスカプンスカ。

 まったく、あまり神々しく冷たく美しいキミの存在の為に、どれだけの人間たちの尊い命が失われたかってーの。ほんとまったく可哀相でし」


鷲尾、いや彼の中に巣くった生命体は、人間に寄生することで、行動するんだ。

そして、彼らに乗っ取られた人間は、その段階で死を迎えるということ?


死を迎えた人間は、当然ながら自然現象により腐敗が進行する。彼らの能力で、腐敗の進行を

遅らせる事ができるがようだが、それも10年程度が限界ということか。


腐敗し、使い物にならなくなった人間は、用済みとばかりに、捨てられる。

そして、新たな体に寄生する為に、罪もない人々が集められる……。

地下の倉庫にあった骸骨は、その犠牲者だったのか? そして、あの地下のメモを書いた

林明彦という男も、その犠牲者だったのか。

セシリアが幽閉されてから今まで、一体どれだけの人が犠牲になったのだろう?


僕が考え込むのをよそに、鷲尾は、話し続けている。

「セシリアちゃん、いや失礼、本来的にはセシリア様と呼ばないといけないよね。だってキミ達一族は僕らのマスターなんだからね。戦ったら絶対に勝てない存在だったもんね。こんなに圧倒的に有利な立場にあるのに、ホントは俺たち怖くて怖くてションベンちびりそう、ウンコ漏れそうなくらいびびってるんだよなあ」


「くだらないことを。もはや私になんの恐れも持っていないでしょう。それにその気持ち悪いふざけたしゃべり方はやめなさい」

冷たくセシリアが言い放つ。


「えへっごめんね、馬鹿っぽいしゃべり方でごめんなさいマイマスター。でもねこのしゃべり方は宿主のせいだから気にしないで。

 ま、マジ話するとね、俺たちがこの星に来た時にセシリアちゃんの一族に出会わなかったら、俺たちの数千年の汚辱にまみれた歴史もなかったかもねえ。キミ達は圧倒的な力で俺たちを蹂躙しなぶりものにし、支配したもん。ほんとひでーよ。君たちの血、眷属達の血。こわいよ~死んじゃうよ~殺されちゃう、うえーん」


セシリアは言葉を発さない。


「ふっ、……それでも俺たちずっと耐えながら機会を待ったんだもんね。キミ達の種が衰退するチャンスを。なにせ俺たちだって君たちに負けず劣らずの長い長い寿命があったからね。時間は冗談抜きで腐るほどある。そして君たちの餌である人間達を密かに組織し共同の敵であるキミたちに反旗を翻す機会をうかがっていた。やがて機会が到来したんだ。キミのお陰でね」


「……」


「キミ達の種族間闘争。ありゃ酷かったな。人間もめちゃめちゃ理不尽なまでにぶっ殺されたし、歩兵役の俺たちも結構の数が殺されちまった。

 馬鹿みたいに殺し合う混沌を解消するために、一方の勢力が戒律者としてキミを造りだし、どういうわけか暴走したキミが全ての仲間を葬り去るまで150年。おかげでキミ達の種はほとんど途絶え、キミ以外の奴らが作っちゃった吸血鬼が多数。それからキミ達種族の慰み者にされた人間の女から生まれたダンピールが数十体が残ったんだよ、ぷん」

鷲尾は続ける。

「ダンピールは俺たちに懐柔された。なんせ彼らは自分の母親を慰み者にして捨てた存在だからね。恨みは凄かったんだろう。キミの大好きな正木君のようにね。

 俺たち苦手な吸血鬼たちはダンピールに処分を任せればよかった。あいつらは畜生以上に鼻が利くからねえ。そのお陰で俺たちが誤って吸血鬼を宿主とせずにすんだもんね。間違って血なんか浴びたら、とろけるチーズになっちゃうからな。

 そっから何百年。追跡ゲームの始まりさ。ダンピールの正木君たちと懐柔した人間達のお陰でキミを追い込み追い詰め捕らえる事ができた。

 圧倒的支配者たる一族最後で最強の存在をね。

 ふぇいふぇい、お前にはその報いを受けてもらう。お前の為に死んでいった者の怨念を慰めてやらないとな。彼らが苦しみ、悲しんだように、お前も苦しんでもらうよ」


鷲尾は、手を挙げた。

すると、一人の男が駆け寄り、手にした日本刀を、彼に手渡した。


それには、見覚えがあった。

あの日本刀は、封印の間にあったものだ。

奴らが拾って持って来たんだろうか?

日本刀を右手に持ち、鷲尾は、玲香ちゃんを見つめて、邪悪な笑みを浮かべる。


「な、何をする気だ!! 」

僕は、咄嗟に鷲尾の意図を知り、それを止めさせる為に動こうとした。

しかし、両脇にいた男達に止められる。

「離せ!離すんだ!!」


「お? 新城君、俺が何をしようと思っているかわかるんだ。さすがだね」

鷲尾がとぼけた調子で問いかける。


鷲尾の前に立たされている玲香ちゃんが泣きそうな顔で、僕を見ている。

その顔は、恐怖に満ち溢れていた。

「フフフ、そうなんだなあ。レシピを教えちゃおうか。

 まず、玲香ちゃんの服を全部ひんむいてすっぽんぽん。そんでからまずは俺が彼女を三回ほど犯します。その後はみんなでまわします。次はおしりもいただいちゃいます。一通り作業を終えたら、続いて手のツメをはぎ取ります。一本一本ゆっくりとね。次は足にいっちゃいます。全部のツメを剥がしたら、次は速やかに指を切り落とします。手の指から一本づつ丁寧に切り落とします。その次は足の指です。彼女の悲鳴をたっぷりと堪能します。

 その次は耳を右側からそぎ落とします。そんで鼻を落とします。歯を一本づつへしおります。

髪の毛を全部引き抜きます。次は頭の皮を剥がしちゃうんだ。でも目は残します。なんでかっていうと醜くなった彼女の顔を自分で見てもらい、精神的にも絶望してもらいます。でも死なしたりはしませんよ」


こいつ、本気でやるつもりだ。僕は奴の話を聞いてるだけで気分が悪くなってきた。

鷲尾はどこからか取り出した、テラテラと光を放つ日本刀の刀身で玲香ちゃんの体をもてあそぶように這わしている。

玲香ちゃんは恐怖で声も出せない。


「それで、悲しみにもだえ苦しむキミをこれまたもっと酷い殺し方をするんだよ。これはある人のリクエストなんだけれどもね。そうそう、キミを嬲っちゃうのは俺じゃなく、別の者が担当なんだけどね。

 それが終わったらやっとメインディッシュのセシリアの処刑になるんだ」


僕は、鷲尾の意図が分からなかった。


「お、来たようだよ」

 鷲尾は、そう言うと階段の方を見た。


びちゃ、びちゃ……。ミシッ、ミシシ……。

何かぬれたものを引きずるような音と何かが軋む音が階段から聞こえてくる。


くぐもった呼吸音と肉を引きずるような足音が聞こえる。


誰かが歩いて、階段を下りてきている。その足どりは、かなり不安定だ。


階段を下りてきた何かが、地下牢の灯りに照らし出される。


「なんだ、こいつは! 」

僕は、思わず声を上げた。

玲香の顔が強ばる。

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