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風待月に君に  作者: ノベラー
第2章
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第2話 道

ナビ画面に大きく迂回してはいるが、どうやら最短距離で行けそうな経路が表示されていた。


そう決めた僕は、車をナビの指示通りに車を進めた。

市街地を通過し、どんどんと山へ向かって進んでいく。


道は次第に細くなり、ビルや家がまばらになっていく。

そして長閑な田園風景が広がってきたかと思うと、やがて山が迫って来る。

いつの間にか中央線もない、狭い道へと変わっていた。

右側は山、左側は錆び付いたガードレールがあるが、おそらく切り立った崖じゃないだろうか。山側からは木の枝が覆い被さってこようとしているし、崖側からも名前もしらない雑草のが道路にはみ出してきている。


路面も凸凹が目立つようになり、対向車が来たら、結構厄介な事になりそうだ。

そんな不安がよぎったりしたが、一向に対向車は現れなかった。


それほど通行量の少ない道。

何かとんでもない道に行かされているのではないのか?

ふと、そんな事を考えた。


ドンっと大きな音と同時に車体が揺れる。

何かの段差にタイヤを取られたようだ。


「まったくひどい舗装状態だな」

本当にこんな道で帰り着けるのだろうか?

何だか嫌な予感がする……。


引き返すのなら今なのだが、待避場は、見当たらない。

道幅は、車一台が通るのがやっとなので、Uターンなんてできそうもない。

どうしようかと悩んでいるうちに道はさらに狭くなっていく。

ガードレールもなくなり、道の両脇は木々が密生し、その枝が道路部分にまではみ出し、時折、車のドアミラーや窓ガラスに当たって音を立てる。

ずっと坂道のタイトなコーナーが続いているため、


このナビソフトのメーカーは、きちんと現地を調べたのだろうか?


車の車高はノーマルに比べてかなり低いんだから、こんな道困るよな。

車の底からガリガリと音がする度、ドキドキする。


道が若干広くなってきた。


そして、少し向こうに、停車している四駆が見えた。

男が手を振っている。


どうやら故障車らしい。

ぼくは四駆の後ろに車を停めた。

すぐに手を振っていた男がこちらに走って来た。


「すみません、車が故障したんですよ」

高そうな、黒のスーツの男が窓越しに話しかけてきた。

外は真夏並みの暑さのはずだけど。

……暑くはないのかな?


整髪料で髪をびっちりと決め、サングラスをかけている。

その奥から見える瞳はなんだか高圧的で、知らず知らずに気圧されている。

背丈も僕より10センチは高く、見下ろされている感じだ。

そして外見から受ける印象は、気障な奴ってところか。


「JAFを呼ぼうと思ってもこの辺、圏外なんですよ。助けを求めようにも全然車も通らないし、

どうしようかって困り果てていたんです。 いやあ!ホントに助かったです。……すみませんが、乗せていただけますか?」


どうやら、この先にある洋館へ行く予定だったのだが、車が故障してしまい、困っているらしい。


どうせこの山道を越えていくのだから、乗せて行ってやることにするか。

野郎を乗せるのは、本当は嫌だけど。


もし、自分がこんな山奥で取り残されたら、シャレにならないだろう。

困った時はお互い様ということだ。

それに最後に人助けをするのも悪くはないと思った。


「ああ、いいですよ。僕もこの山を越えて行く予定なんで」


「ありがとう。助かりますよ。かれこれ二時間近くここでボーっと待ってたんで。ホントに助かります。あ、それから連れがいるんですが、一緒に乗せてもらって構いませんか?」


乗せるのは一人も二人も同じだ。

ぼくは、軽く頷いた。


「じゃあ、呼んで来ます。申し訳ないけど、少し待っててください」


男は、意味ありげな笑顔を見せて、彼の四駆へと走っていった。


ふっ。


彼女でも連れてきているのだろうか?

こんな山奥までドライブに来て、車が故障するなんて災難というか、何というか。


一体どんな子が乗っているんだろうか?

あんな奴が可愛い子を連れていたらムカつくなあ。女の子だけ乗せてあげて、野郎は捨てていこうかな?

そして、連れの女の子には、あんな男とつき合うとロクな事がない、とかいって更正?させてあげようか。

もっとも、知らない女の子と会話するのは苦手だけど。

そんなことを考えながらぼんやりとしていた。


男がなにやら話しかけ、後部座席のドアが開いた

ヒールを履いた白く細い足が見えた。


車から現れた少女を見て、僕はかつて無いほどの驚きを感じた。

口をあんぐりと開け、馬鹿面をしていたのではないだろうか?


なんと少女は、今をときめく、速水玲香だったのだから!!


こんな偶然があるのだろうか?

ああ!!迂回路を選んで良かった。本気でそう思った。


ぼくは、飛び降りるように車から降りた。

アスファルトの照り返しでむわっとした熱気が全身を包む。突き刺すような日差しが痛い。同時に蝉の鳴き声が山中に響き渡っているのを知った。もう夏と言ってもいいくらいだ。


まさかこんなところで彼女に会えるとは。この運命を、なんと表現すればいいのだろうか?


彼女は、男と一緒にこちらへと歩いてきた。

「自己紹介が遅れたね。こちら速水玲香さん。まあ、紹介しなくたって知っているだろうけど。

そして私は、彼女のマネージャーの栗津だ」


なるほど、彼は速水玲香マネージャーだったのか?どうりで業界人っぽい感じを受けたわけだ。

しかし、現場に行く途中でで止まるようなポンコツ車を使うなんて、僕のイメージしているタレントのマネージャーとはかけ離れているように思ってしまった。

まあ、そのお陰で彼女と話す機会を与えられたのだから、感謝すべきか。


「すみません。無理言っちゃって」

ノースリーブの黒のワンピースを着た彼女が笑顔でお辞儀した。

テレビで見るよりも、実物は、なお綺麗だ。体は驚くほど華奢で小さい。

そしてスカートの裾からのぞく足は細くて白い。


「こんにちは。新城です」

その時、彼女の表情が一瞬変わったように見えた。ぼくの名字を聞いた途端、何か驚いたような顔をし、マジマジと見つめてきたように感じた。


「新城さん……。お名前は何て言うの?」


「修司っていうんだけど。それが?」

憧れの速水玲香に話しかけられ、ぼくは緊張と興奮の中にあった。

その鼓動が聞こえて来るようだ。


「う、ううん、何でもないの。……ごめんなさい、変なこと聞いちゃって」

彼女は、何故か慌てたような感じで話を打ち切る。

何事もなかったかのように、テレビで見慣れた笑顔を見せる。


何か疑問を感じたが、途中で話を打ち切られてしまい、消化不良気味だ。



「新城君、申し訳ないが、そろそろ車を発進させてくれないかな? ここで通る車を待っていたので、撮影の予定時間にだいぶ遅れているんだ。このままじゃ私が叱られてしまう」

全く無視されていたのが頭に来たのか、栗津と名乗ったマネージャーが二人の会話に割って入ってきた。

腕時計を指さし、アピールしている。


今日の午後から、目的地である洋館で、ドラマの撮影があるらしい。だいぶ遅刻しているので急げ、とのことらしい。

乗車の交渉が完了したことで安心したのか、本来の性格が出てきたかのようだ。いきなり態度がでかくなってきた。


あ、わかりました。さあ乗ってください」

ぼくは、車のハッチを開け、 巨大な荷物をトランクルームに積み、マネージャーを狭い後部座席に押し込んだ。

狭い車内に潜り込む時、車の天井で頭を強く打ちそのままシートに倒れ込んで頭を押さえて唸り声を上げていた。

更に、僕の車はスポーツカー故に、当然、後部座席は驚くほど狭い。ロールバーも入っていてそれが余計に車内を圧迫し、天井も殺人的に低いから、狭い後部座席に座る事は、長身の栗津には大変だろう。


倒したシートを元に戻し、少女に声をかけた。

「速水さん、どうぞ」


「ありがとう」

彼女は笑顔を見せて、車に乗り込んだ。


車を発進させると、後部座席の栗津がぼくたちが話をするのを邪魔するかのように、目的地の場所についてナビゲーションをはじめた。

一本道だから、案内なんか必要ないんだけど。

おまけに断りもなく煙草を吸い始めた。

この車は禁煙なのだが……。


室内に充満してきた彼女の香水のいい香りが、栗津が吸う、高級タバコの臭いにかき消される。

車内の空気が汚くなるのに少し腹を立てながら、ぼくは車を走らせた。

栗津が無意味なナビゲートをし続けるので、僕は彼女と、ほとんど話せなかった。


コイツだけ置いてくれば良かった、と本気で思った。


そうこうしているうちに、道は再び狭くなり、対向車が来たら、数百メートルはバックしないと離合できない状態になっていた。


まったく酷い道だ。

こんな道を指示してくるナビに少し腹が立った。本気でこんな道を迂回路に指示してくるとは。本当に最新型なのか?


しばらく行くと、この狭い道を遮るようにマイクロバスが2台、縦列に駐車してあった。


なんという非常識さだろうか?

バスの停めてある所は、 車一台がやっと通れる幅しかない。

こんなところにマイクロバスを停めたままだと、他の車が通れないじゃないか。


「くそっ、誰だこんな所に停めたのは」

 ぼくがムッとして呟くと、

「あー、ここだここだ。ここが目的地だ。新城君、ここでいいよ」

と、栗津が言って来た。


確かに、バスが停まっているあたりで山を登って行く細い道が木々の陰から見える。

ドラマの撮影現場は、この道を登った所にあるのだろうか?

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