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風待月に君に  作者: ノベラー
第2章
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第21話 過去

廊下を歩き、通路の施錠された部屋の前に立った。


鷲尾から受け取った鍵を差し込む。

カチリと音がし、鍵が開いた。


――この先はどうなっているんだろう?


奴らの仲間が侵入した際に黒焦げになったというが、一体、どんな結界が張られているというのか?

……そもそも結界って何なんだろう。

考えたってどうにもならない。

しかし、どうすればいいんだろう。


なんとしても結界を解き、彼女を救い出さなければならない。

それだけ。


僕は思い切って扉を開けた。 


何かが起こる予感がして、目を閉じていたが、何も起こらなかった。


扉の向こう側は4m四方の部屋だった。


部屋は火事でもあったのだろうか?

石造りの部屋の天井にまでまっ黒い焦げ後が残っている。


大規模な火災があったんだろうと推測はできる。


部屋の中央には、古ぼけた日本刀が、床に突き立てられていた。 

それもかなり深く突き刺さっていた。


「一体、これは何だ? 」

思わず独り言を呟いた。 


石造りの床に刀身の半分ほどまでを突き立てた刀は錆び付き、ここより先へは行かせないと主張するうかのように刃の部分を部屋の扉の方に向けていた。

 

刀の側には、朽ち果てた人骨が転がっている。 


黒く焼けこげ、風化のためかボロボロになっている。 

これは、刀の持ち主だったのだろうか? 


どうやら、この人骨を中心に焦げ後が広がっているようだ。 


何があったのだろうか? 


僕は人骨を避けて、刀に近づいた。 


両手での柄を掴んで、その刀を抜こうとしたが、全くピクリともしなかった。 


「やっぱりそう簡単にはいかないよなあ……」

僕は大きくため息をつく。


刹那、何かの意識が僕の頭を突き抜けていくような衝撃があった。

雷鳴を感じたくらい。

音もしたような、衝撃も感じたような。

 

何か分からない!

意識が混濁する。 


唐突に目の前が暗くなったかと思うと、激しい悪寒と目眩が襲ってくる。

倒れまいと必死に体勢を立て直そうとする。

 

唐突に映像が現れる。


今、僕がいる部屋と同じ……いや、そうじゃないみたいだ。

床も天井もシミ一つないほどに綺麗だ。


何だ、これは?

それに、僕は変な服装をしている。 


これは、……軍服なのかな? 


僕の思考を無視して、身体は動いている。 


これは、夢なんだろうか? 


階段を下り、立ち止まった。 

下りたすぐのところに、鉄格子があった。 


――牢獄のようだ。 


気配を察知したように誰かが牢の暗闇の奥から歩み寄ってくる。 


薄明かりに照らされた人物……。

僕は、驚愕に似たものを感じた。 


そこに現れたのは、白人の女だった。


透き通るように白い肌。 

光り輝く長いブロンドの髪。

妖艶さをたたえた蒼い大きな瞳。


今までに見たこともない、美しい人だった。 

これほどまでに美しい女性は、見たことも無かった。

その美しさは、人間的では無いとさえ思う。 

僕の語彙力ではこのくらいが精一杯。


「仁史様……」

女は、名前を呼んだ。 

彼女は日本語を流ちょうに話す。

 

僕の意識のある人物とは「仁史」という名前だと初めて分かった。 


「セシリア……」

男は、鉄格子に近付いた。 

女も近付き、互いに手を握った。 


「彼らが来たのですね。……これでお別れなのですね」

そう言って、セシリアと呼ばれた女は黙り込んだ。 


「いや、そんなことはさせない。お前は、私が護る」 


「いけません。何を考えているかは分かりませんが、彼らには、勝てません。あなたが命を落とすだけです。それはあなたもわかっているでしょう?私は、あなたにだけは死んでほしくない。 

 私は、もうダメでしょう。戦う力も、気力さえすでに尽きています。でも、貴方には未来がある」 


「嫌だ!!

 お前のいない世界など、何の価値があるのだ? 頼む、お願いだから二人でここから逃げるんだ」 


「無理なことは、あなたも分かっているでしょう。彼らの包囲から逃げることなど、不可能なのです。そして仮にここから逃げられたところで、どうするというのです? 永遠に彼らに追い回されることになるのです。そんな生活にあなたは耐えられるというのですか」

セシリアは、子供をなだめるような声で言った。

「それに、……それに私は、あなたのご両親の仇なのですよ! 」 


「そんな怨みごとなど興味は無い。

 あれは、お前が生きるためにやむなくやったことだ。誰がそれを責められるというのだ。仮にそれが罪というのなら、私はその罪をお前と一緒に背負いたい。お前を支え続けたい。……もうダメだなんてそんな悲しいことを言わないでくれ。私は、お前を愛しているんだ」

男は絶叫した。 


 詳細は分からないが、このセシリアという女に、この男は、両親を殺されたというのだろうか? 

 それでも、男は彼女を命懸けで護るというのか? 


セシリアの頬を涙が伝う。 

そして悲しみに満ちた瞳で見つめる。 

「ありがとう……。貴方のその言葉だけで、私は幸せです。この異境の地で、あなたのような人に最後に出会えたというだけで。 

 ……さあ、もう時間です。あなたは、あなたの職務に戻りなさい」 


「何故、何故なんだ?……一体、お前がどんな罪を犯したというんだ。お前は、ただ……」 


男が言葉を続けようとした時、背後から複数の足音がした。 


「正木、そこまでだ! 彼らがお出ましだ」 


高圧的な声。

僕の意識のある男は、

正木仁史という名前だと分かった。 


軍服を着た男達が現れ、正木を押しのけようとする。 


男は抵抗し、彼らを押し戻した。 


「おい!何をする。貴様、上官に刃向かうのか!!」


正木は、男達を睨み付けた。 


「貴様は、どういう神経をしているのだ。こんな化け物に惚れたというのか?

 こいつの見てくれに惑わされたとでもいうのか、愚か者め!!

 ……ハッハーン。フフフ、ふん、……やっぱり化け物は化け物同士くっつくのか? そうらしいぞ、貴様ら! ぐわはっはっは」 

上官の言葉に、一緒にいる部下達が一斉に嗤う。 


唐突に体の中から何かが切れる音がした。 


「セシリアを化け物呼ばわりするな!! 」

正木が言葉を発すると同時に、光が走った。 


シュキーン!! スババンッ。


悲鳴を上げる間もなく、上官の首がくるくるくるくる宙を舞った。

真っ赤な噴水が吹き上がる。 


正木の持つ日本刀の一閃によって彼の上官が斬られたのだ。

僕には、その一閃は全く見えなかった。

当然、斬られた上官もその部下達も同じだろう。 


「正木少尉が狂った!! 」

兵士達が叫び、銃を構えようとする。 


「うおおお!! 」

正木は、日本刀を構えて、兵士達に向かって駆ける。

数メートルあった距離は正木の一歩の踏み込みで一瞬にしてゼロとなる。 

 

恐怖と絶望の悲鳴が響き渡る。

兵士達は、銃を撃つ間も与えられず、次々と肉塊になっていく。 


兵士達が沈黙するまでは時間はかからなかった。 


彼は振り返りざま、二人を分かつ牢獄の鍵部分を斬りつける。


カキン。


金属音が響くだけで何の変化もない。

刀では鍵を砕くことは叶わない。


「セシリア、さがってくれ」

彼女が牢獄の奥に下がったのを確認すると、気合いとともに鉄格子を一銭する。


ビシシン! 

金属音と閃光と衝撃波。


正木は派手に吹っ飛ばされるて壁に叩き付けられる。

うめき声を上げながらも立ち上がった。

足下は少しふらついている。


「く。これが奴らの結界の強さというのか」

渾身の一撃があっさりと弾かれたことに若干のショックを受けているよう。


どうやらこの結界はその破壊しようという力が強ければ強いほどそれをいなし、そのまま相手に返すという特性を持つもののようだ。

つまり力押しでは全くダメだということ。


すぐに彼もそれに気づいたようで、二回目の斬撃を打ち込むような愚行はしなかった。


「セシリア、待っていろ。奴らからこの鍵を奪ってくる。必ず助けるから、待っててくれ」

彼は、そう言うと、階段を駆け上がっていく。 


「行かないで! 行ってはだめ。あなたの力では彼らには勝てない」

背後でセシリアの声を聞いた。 


そんなのやってみないとわからない。

勝算なんて考えたくない。

しかし行動しなければセシリアが処刑される。

そんなのは嫌だ。耐えられない。

ならば行動するしかない。


正木の強い思いが僕の心にも響いてくる。

がんばれ! 思わず叫んでいた。


彼が階段を登り詰め、さらに歩みを進めようとした時、そこには、何人もの銃を構えた兵士達が待っていた。

怯むことなく正木は刀を振り上げる。


それより速く複数の銃声が響いた……。

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