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風待月に君に  作者: ノベラー
第2章
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第20話 交渉

「鍵があれば開ければいいだろうって思ったかもしんないね。それができたんなら、わざわざ新城君にお願いなんてしないよね、ふつー。

 世の中、そううまくいかないモンなんだってこと。シビアだね」


僕は、ふと思った。

あのミミズのような生物に身体を乗っ取られているのに、こいつはきちんと人間の言葉を話している。しかも、妙に調子が良く軽すぎる。


あの生物は人間並みの知能があるのか?

それとも人間の脳を利用しているのか?


鷲尾は、僕の思考を無視して話しを続ける。

「あの扉の向こうには部屋があるんだけど、そこには、マジやばい結界が張られてあって、我らでは一切近付くことができない状態になってるわけ。

 むかーしに一度、勇気ある仲間が行こうとしたんだけどね、あっという間にまっ黒焦げになったんだ……。うまくいけば英雄になれたんだけど、ただの丸焼き。よって彼は勇気ある戦士から無謀な若者に脱落したんだけど」


「そんな所に僕が行けるわけないじゃないか」


「大丈夫大丈夫、それが大丈夫なんだよ、ホント。

 新城君たちの行動はずっと見てたんだけど、うーん、君たちの愛情と信頼は、ほっんとにすばらしいと思う。グレイトだよ。ベストだよ。チョベリグ・パーフェクト・カクベツだぜい。そんなグレイト新城君のラブリィ玲香ちゃんへの献身は我々がずっと求めてきたモンなの。そのすばらしき愛、つまり無償の愛があれば、あの結界も解ける……はず。たぶんはずなんだよね」


どういうことかさっぱり分からなかった。

こいつは何を言ってるんだ?

訳わかんない。


「ま、分からないのも無理はないんだけどね。

 ふっ、……実際、本当の理由は、先ほど述べさせていただいたものとはとんでもなくかけ離れた理由から来ているものではあるんだよ。君なんかに我々が教える理由も必要性もないし、君たちに人類の知的レベルでは理解もできないだろうし想像の遙か彼方にあることなんだよ。そして情報を持つ者がいかなる場合でも優位に立つことができるっていうのは君も知っているだろうし、経験もしたことがあるのではないだろうか? これは世の真理なり。真理を探究する者はすばらしいのだ。それは我らのことであるのだが。それはさておき、我々はそれを優先させたいと考えているのだよ。この事実を君が知るに至った場合、それはかなり危険といえるし、結構マズイともいえる。よってこの件については君に伝えることはできない。君の知能がどの程度かは不明であるが、常に最悪の事態を想定して行動する慎重さが我々には求められているのである。圧倒的優位に立っていようともさらにその優位さを揺るがないものにしてこそ真の勇者であるのだよ。

 ……うひょー!! ひゃひゃひゃ。なんてね。まあ、結局それはどうでもいいの。本当のことをわざわざ新城君に話す必要なんて、全くないんだからね。それがホントの理由。だって君って玲香ちゃんに好かれてるのが見え見えなんだもん。ちょっと前まではおいらに好き好き光線だしてたのに、いまじゃあ君にラブラブって感じだよ、彼女……。ちょっとジェラシー。うんにゃかなりジェラシーだよぉ。ダボハゼが。

 そうそう、お気づきかもしれないけど、君に選択肢など無いんだから。ゴチャゴチャ言ってんじゃねーよ、チンかすが! 言えることは、新城君はあの扉を開け、そして奥にある結界を解いてくればいいだけなんだ。シンプル・イズ・ベスト。簡単でしょ? 」

鷲尾は微笑んだ。その微笑を見て本気で吐きそうになった。


「その部屋の向こうには何があるんだ? 」


「はーい、教えてあげてる~。

 あの奥にはね、我々の敵が閉じこめられているんだ。すっごく強くて、めちゃめちゃ残虐で冷酷で無慈悲で恐ろしく力持ちで光の速さで移動することができるし、目から殺人光線出すし、吐く息は毒ガスで、そいつのツメはメスより良く切れてね、捕まえた人間の腹生きたまま割いて、内蔵引きずりだして楽器にして音楽を奏でたりしちゃって、徐々に弱っていく人間を面白そうに見るのが大好きなんだぜ。それでもあいつに名前を呼ばれたらみんなコロッと操られてしまう、もう夢心地。でもって相当に不気味で淫乱陰険陰湿淫猥卑猥汚穢汚濁排泄で性欲満点、まさに歩く発情期。

 ……ぼくたちの神に敵対する生まれついての邪悪な生物? がね、いるんだ。

 実はここで処分される予定だったんだけど、あったま来る話があるんだけど、下っ端に裏切り者が出ちゃって、そいつがぼくたちがやっとこさ見つけ出して追い込んで、みんなでぐるぐるに囲い込んで攻撃して、かなり弱らせて多くの犠牲を出しながらも捕まえることができたバケモノを幽閉した部屋に、なにやらかすんだろうねえ、処刑の日に逆に結界を張っちゃったわけプー。まあそんな人間を手駒に使ってた我々の落ち度ではあるんだけれど、なんだかなー。まったくもうって感じだけど、それがもう人間達にとっては遙か遙か昔、百年はたぶん昔の話だんよ……」

本当に遙か昔を見るような眼をしながら鷲尾は語った。


「わかった。じゃあ、その結界はどうやって解けばいいんだ? やり方が分からないと僕が行ったところで何もできないんじゃないのか?

 そして、もし仮に結界が解ければ、僕はその後どうすればいいんだ? 」


「あ、……ごめんな。実はよくわかんねーんだ! マジで何もわかってない。分かってたらてめーなんかに頼まねーだろ、ふつー。結界の解き方は、自分で考えてくんないかな。ちゃっちゃっちゃってなんとかしてね。

 解けた後の始末はこっちで行うから、君は封印解除のみに集中しちゃってー。オネガイ。

 それまで玲香ちゃんの身柄は我々が預かるよ。

 失敗すれば、たぶん君の命は助からないと思うけど、彼女の命も無くなっちゃうから注意したまえ。いや、もっとひどいことになるかもしれないし、えへへへ。ああ間違いないかな。やっちゃうよ。かなり酷いこと彼女にしちゃいたいもん。いや、もうタマラン」

 鷲尾はポケットから何かを取り出し、僕の方へひょいと投げてよこした。受け取るとそれは少し錆びた鍵だった。


「さあさあ、あの部屋の扉の鍵だよ。分かったら、さっさと行っちゃいな。

 早くしないと、ほんと彼女がどんなことになるか分からないからさ、まじです。へへへ」

 そう言って嫌らしい目で彼女を見る。


「彼女にもしもの事があったら、お前達を絶対に許さない。どんな手段を使ってでも、お前達を生かしておかない。 それだけは忘れるな! 」

僕は、鷲尾達を睨み付けた。


「ヲー、怖い怖い。

 一応覚えておこうかな、ケラケラ。ププ」


鷲尾は馬鹿にして調子でおどけてみせた。


「……分かった。なんとかしてみる」

僕は行くことを決心した。

奥歯が粉々になりそうなぐらい歯をかみしめた。それ以上何もできない。

彼女を救う為には、奴らの言うとおりにするしかないんだから。


「よしよし、それでこそ男ってもんだね。まさに勇者くん、シャッキーンって感じだ。ぼくの見込んだとおりのタフガイ、ナイスガイだ」

鷲尾は嗤うと、合図を送った。


スタッフの一人が奥に消え、僅かの間があって、ガチンという音とともに鉄格子が上がった。

「さあさあ、れっつごー! 時間は少ないよぅ」


僕は振り返った。


男二人に両腕を捕まれた玲香は、悲しそうにこちらを見ている。


「大丈夫、必ず帰ってくるから」

僕は彼女に微笑みかけ、部屋を後にした。


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