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風待月に君に  作者: ノベラー
第2章
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第18話 俳優、鷲尾

「とにかく、鍵は入手したからここから出よう」

ぼくは奇怪な生命体を再度踏みつぶしてから、部屋を後にした。

もちろん、しっかりとドアを閉めて。


一番奥の鍵のかかった部屋のうち、右側の方の扉を開けようとしたけど、こちらでは無かったようだ。

すぐに向かい合った隣の部屋の前に立つ。


今度は鍵は鍵穴にしっかりと入った。

カチリと音がし、鍵が開いたようだ。

ドアノブを回すと、鈍い音を立てて扉が開く。


部屋を開けると、天井には電灯が灯っていて中の様子ははっきりと見える。


扉の向こうには廊下があり、数メートル向こうの部屋らしき場所に繋がっていた。


どうやら奥にある部屋にはロッカーのようなものがあるようだ。

その部屋には扉もなく繋がっている。


「よし、行こう」

僕たちは廊下を歩き、部屋へとたどり着いた。


二人がそろってその空間に入った途端、背後で何かが落ちるような激しい音がした。

思わず玲香ちゃんが悲鳴を上げる。


咄嗟に振り返ると、部屋の入り口に鉄格子が填っていた。


「どうしたっていうの!」


どうやらぼくたちがこの部屋に入ったことを感知し、この部屋の入り口にあった鉄格子が

落ちてきたようだ。


まるでネズミ取りのようなものだ。まったく仕掛けの多い館だ。


「罠か。それにしてもまた閉じこめられてしまった……」

ぼくは努めて冷静に言った。

ここで騒いで怖がらせるわけにはいかない。


「また閉じこめられたの! 一体どうなっているの!!」

 興奮気味に彼女が叫ぶ。


「玲香ちゃん、大丈夫だよ。

 多分、床に仕掛けがあって、ぼくらがそこに乗ったから仕掛けが稼働しただけだよ」


「でも……」


「どこかにあの鉄格子を動かすスイッチか何かがあるに違いないよ。

 どう見たってこの部屋は何かを捕らえる為の罠じゃないよ」


ぼくの余裕たっぷりの態度が功を奏したのか、彼女はそれ以上騒がなかった。


ふう、ぼくは溜息をついた。


この部屋は10畳くらいの広さの空間に、ロッカーが置かれてあるだけだ。

よく更衣室に置かれているロッカーだ。


6つの扉のあるロッカー。

それ以外には何もない。なんとも殺風景な部屋だ。

それだけにこの殺風景さが何か意味があるように感じる。


このロッカーのどれかに、あの鉄格子を開ける装置が入っているのだろうか?


扉の幅から人が潜めるくらいのサイズなので開けていくにも注意が必要だ。

僕は慎重に、手前の扉から開けていく。


ひとつめ……空。


ふたつめ……空。


みっつめ……空。


よっつめ……空。


いつつめ……空。


むっつめ……。

ドアを開けた瞬間、銀色の光がキラリと閃き、黒い物体が飛び出してきた。


飛び出すというより、飛んできたといった方が正解か。

ぼくはとっさに飛び退いた。

ほとんど間一髪というところだった。


ロッカーから飛び出してきた黒い物体は、勢い余って転び、壁に激しく激突した。


「鷲尾さん!」

玲香ちゃんが叫ぶ。


黒い物体は人間だった。

それもサバイバルナイフを握りしめた男だった。


「鷲尾さん!どうしたの」

叫ぶ玲香ちゃんには答えず、


鷲尾明久……。


彼を生で見るのは初めてだった。

ジーンズに黒いパーカーを羽織っている。

手にしたナイフは刃渡り20センチはありそうな、凶悪なものだった。

ラフな格好でナイフを持っていても、なんだか芸能人オーラが出ているように感じられ、少し引け目を感じてしまう。


鷲尾はゆっくりと立ち上がった。

呼応するように彼女は鷲尾に近づこうとする。


「玲香ちゃん、そっちへ行くんじゃない!」

大声で彼女を制止する。

そして、僕はゆっくりと動いた。

 

鷲尾と玲香ちゃんの間に入るように動く。


相手は武器を持っている。

彼女をを守らなければならない。


右手を背中に回し、隠した拳銃のグリップを握る。


鷲尾はナイフを構え、隙あらば襲いかかる体勢だ。


僕は鷲尾を睨み付ける。


よく見ると、伸ばした髪に隠されてはいるが、隙間から覗く彼の右側の耳の穴は、そう古くない瘡蓋で覆われていた。

間違いなくあの生き物に寄生され、操られている。

岸さんと同じく、彼は殺そうと襲ってくるに違いない。

躊躇は即、死に結びつくんだ。


ぼくは手探りで拳銃の安全装置を外した。

拳銃を掴んだ右手をゆっくりと前へと突き出し、拳銃を構える。


倉庫で空撃ちしてみて確かめたが、この銃はダブルアクションの拳銃だ。

引き金を引くだけで弾は出る。


そしてこの距離なら外すことはない。


鷲尾は銃を構えたぼくを見て、躊躇したかのように動きを止めた。

何かを考えているのだろうか?


「れ、い、か、……助けてくれ」


驚いたことに、鷲尾だった男は人の言葉を発した。

あの生き物に寄生されているから、すでにその人間の意識はないものと思っていたけど、そうではなかった。


「新城さん、お願い。……撃たないで」

玲香が叫んだ。

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