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風待月に君に  作者: ノベラー
第2章
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第17話 異常生命体

ぼくは立ち上がろうとする。

背後で玲香ちゃんの悲鳴が響いた。


「新城さん! 後ろ!! 」


彼女の声に呼応して、振り返る。

 

そこにはありえない光景が、ありえないモノが展開されていた。


すでに息絶えている岸さんの瘡蓋で塞がれた耳の穴が裂け、そこから黒く細長い生き物がウネウネと這いだして来ている最中だったのだ。


「なんだ!」

ぼくは咄嗟に身構えた。

 

それは嫌な音をたてながら這い出してきた。

そしてぽとり、と床に落ちる。

岸さんの耳からはネットリとした赤黒い液体が「てろり」と垂れ流れる。


何なんだ?この生き物は!!

 

こいつはミミズのような動きで実にゆっくりと這っている。


見た目はミミズそっくりで長さは20センチくらいある。

目は無いようだ。

ただ、大きな口が見える。

体は真っ黒で、親指くらいの太さがある。


そんな生き物が岸さんの頭の中に巣くっていたというのだろうか。


信じられないし、気持ち悪い。


ぼくは、魅入られたようにそいつに顔を近づけた。


その瞬間、そいつは先ほどまでの緩慢な動きからは、信じられないくらいのスピードで飛んだ。


まっすぐにぼくに向かって。


ミミズが飛んだ?


「わっ!」

ぼくは思わず声を上げ、避けた。


こいつは明らかにぼくを襲ってきた。しかも位置的に耳を狙ったように見えた。


目も無いような生き物なのに、どうして??


そいつは体勢を立て直し、再びぼくに向かって飛ぶ。


一度目は度肝を抜かれたが、二度目はそうはいかない。

ぼくは素早くマグライトを握り直し、狙いを定めてそいつを叩き落とした。


手応えあり。


ミミズ態様の生き物はくの字になって床にたたき付けられ、ピチャリと音を立てて内蔵物を飛び散らせた。

そして激しくはね回り出す。



ぼくは駆け寄り、注意しながらそいつを靴底で踏み潰す。

タバコをもみ消すように踏みつぶした。


そいつはしばらく転がるように動いていたが、やがて動かなくなった。


……何だったんだ、これは。

興奮で息が乱れている。

落ち着くまで2分程度必要だった。


ぼくは足下で潰れた黒い生き物を再度じっくりと見つめた。


長さは20cm程度。

ミミズのような形態、そしてヌルヌルした皮膚。

ヒレとかはなく、のっぺらぼうな身体だ。

手も足もない。


口は大きく、異常なほど鋭い歯が円形に並んで生えていた。

……こんなミミズなんて存在しないはず。

こいつがぼくを襲ってきた。

なんという生き物なのだろうか?

こんな生き物など見たことが無かった。


岸さんの耳の中から出てきたところをみると、もしかして彼に寄生していたのか?

彼の左耳の穴にあった傷は、コイツが食い込んで行った傷跡なのだろうか?


考えただけでムカムカと吐き気がしてきた。


昔テレビで見た、アマゾン川に生息するカンジルーとかいう魚が動物の身体に食い込んでいく姿が蘇った。


あの牢屋のような部屋で死んでいたスタッフ達の耳の部分にあったドリルで開けたような穴、

あれはこの生物が出入りした痕跡というわけなんだろうか?


つまり、あそこで死んでいた人達は、眠らされたまま、この生物に耳の穴から入り込まれ、そして死に至った……?

そして運良く死ななかった人間は、この生物に身体を乗っ取られ、操られるというのだろうか?


どっちも選びたくない選択肢だけど。

 

「一体なんなの?これは」

玲香ちゃんが気持ち悪そうな顔をしている。


「分からないよ。もしかしたら、こいつのせいで岸さんがおかしくなったのかもしれない」


「……そんなことってあるの」


「映画や小説では見たことあるけど、実際にそんなことがあるとは思っていなかったけどね」

寄生体によって脳に巣くわれ、操られるとかいう話は、フィクションの世界ではよくあるが、

現実の世界で遭遇するとは思っていなかった。

寄生体が宿主を操って自らの益となる行動をさせる?

虫レベルではあると聞いたことあるけど、人間ほどの知的生命体を操ることができるなんて、ありえないと思うけどね。


「みんなこの生き物に殺されたっていうの?」


「少なくともそれに関しては、そう考えるのが正しいと思うよ。二つの部屋で倒れていた人達の耳の穴は大きくこじ開けられ、血が流れ出していた。

 それに対して、岸さんのは瘡蓋で塞がれていた。疵は治癒していたんだよね。

 この違いはなんだろう? 」


「この生き物に寄生された者は生き残り、寄生できなかった者は死に至ったというの?……まさかそんなこと」


「たぶん。この生物と寄生される人間の間には相性とでも呼ぶべきものがあるんじゃないかな。

 この生物がうまく寄生できた者だけが生き残る」


「そ、そんな。だったら見つかっていない人達はこの生き物に寄生され、操られているというの?」


「全く分からないけど、その可能性は否定できない。

 まだ監禁されているのかもしれないし、もう手遅れかもしれない。

 でもそれは今の僕たちでは知ることなんてできやしないと思うんだ。想像はできてもそれが正解かどうかなんて誰も教えてくれない。ただ最悪のことは考えておかないといけないかもしれないけど。

 とにかく、僕たちは今できることをするしかないと思うんだ。そして、ぼくたちにできることは、あの閉ざされた扉を開くことだ」


あんな物がこの世に存在するなんて信じられない。

しかし、目の当たりにしたからには信じるしかない。

 

スタッフ達は閂で閉ざされていた部屋に監禁され、あの生き物の餌食にされたのだろう。

そうして寄生できた人間だけがあの部屋から出、どこかを彷徨っているのだろうか?


すると、あそこにいなかった者は全て、操られていると考えざるを得ないのだろうか?

その事は、正に常軌を逸しているとしか思えない……。

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