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風待月に君に  作者: ノベラー
第2章
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第14話 地下の探索

僕は、ライトの光を頼りに、扉を開いた。

ドアを開けると、そこは何故か明かりが灯っていた。

ここには、電気が引かれているようだ?

何故か? ……分からない。


一本の通路が伸びて、行き止まっている。

左右対称に扉が二つずつ、計6つの部屋があるようだ。

1つずつ調べていかないといけないだろう。


この部屋と左側の一番手前の部屋は、閂のようなもので、外から施錠するタイプのようだ。


僕は、手前から順番に調べていく覚悟を決め、まずは右側の扉のその閂を外した。

取っ手を掴み、ドアを開ける。


ドアを開けた瞬間、異臭を感じた。

今まで嗅いだことがないような、嫌な臭いがする。

「君はここで待っているんだ」

部屋の臭気、雰囲気、全てがあまり好ましいものではなかったから、彼女は部屋に入らないほうがいいと直感した。

彼女も何か感じるところがあったのか、頷くだけで何も言わなかった。


この部屋には、明かりが無いようで、全くの暗闇だ。


僕は、ライトで中を照らし、周囲を伺う。

部屋は縦長で、ずいぶんと広い。


そこには、何人もの人間が、奥の壁に向かって並んで倒れていた。

彼らは仰向けに横たえられている。どうみても何者かによって並べられたようだ。

……僕は、慎重に彼らを調べた。


倒れていたのは、男3人女2人だった。

医学的な知識のない僕でも、全員が死亡しているのが分かった。


それぞれが苦悶の表情を浮かべ、見開いた目は、何かを訴えかけるように、僕を睨んでいる。

あまり気持ちのいいものではない。


そして、部屋の奥の方に目をやると、なんと、無数の人骨らしき残骸が転がっていた。

まるで邪魔だでもいうように、部屋の隅に掃き集められたかのようだった。

それらは、もうずいぶんと前に死んだ者のようだ。


僕は、人骨の事は置いておいて、死んでいる人々の方へと注意を向けた。

不思議なことに彼らの耳は、その穴からは血が垂れ流れ、それぞれの頭の側で、血だまりができていた。


そういえば、僕たちを襲った岸の耳の穴は、瘡蓋で塞がられていた。

目の前にある死体達は、そうではない。

……この違いは何だろうか?


死体には耳の傷以外、これといった外傷がない。致命傷を与えたのは、この耳の傷なのだろうか?


背後で呻くような声がした。

振り返ると、入り口で震えながら見ていた彼女が部屋に入って来た。

「どうして……スタッフの人ばかりじゃない。藤井さん、豊崎さん、英水さん。中野さんに木内さん。……みんなどうしてこんなことに」

彼女は、消え入るような声で話した。


予想していた事とはいえ、実際に死体となっている仲間を見たら、それがどれほどの悲しみなのか、部会者の僕でも少しは理解できる。

ほんの昨日まで一緒にドラマ撮影という1つの目的を持ってがんばっていたのだから。


「どうして、みんながこんな目に遭わなければならないの」

僕は、彼女の問いに何も答えられなかった。

瞳からは大粒の涙がこぼれ落ち、蹌踉めくように僕にしがみついてきた。

嗚咽する彼女の肩を抱くくらいしかできなかった。


彼女を促し、部屋を後にする。

僕は部屋から出ると、今度は左側の部屋に入った。


この部屋にも明かりは無く、真っ暗だ。


覚悟を決めたのか、彼女も僕の後を着いてくる。


先ほどの部屋と同じように、そこには、何人もの人間が倒れていた。

彼らも仰向けに横たえられている。僕は、慎重に彼らを調べた。


こちらも反対側の部屋と同じく、男3人女2人だった。

すべて死んでいるのが分かった。


遺体の数も、そして部屋の隅に押しやるようにうち捨てられている多数の人骨も向かい側の部屋と同じだ。

一体どうなっているんだろう?


「玲香、この人達は? 」


僕の問いかけに、

「同じよ……。スタッフの人ばかりだわ。男の人は藤井さん、豊崎さん、英水さん。女の人は中野さんに木内さん。……みんなどうしてこんなことに」


彼女は、もはや泣いたりはしなかった。


あまりの異常な事態の連続で感覚が麻痺してきているのだろうか。

そういう僕だって、死体に恐怖したり、気持ち悪がったり感じなくなっていた。


それほど死人が多すぎるの……。


「向かいの部屋には5人、ここには5人の遺体。

玲香、スタッフの人は実際には何人いたんだい?」


僕の問いかけに、彼女は考え込んだ。

「スタッフの人の数は昨日と同じはずだから。……10人のはずだわ。あと出演者が今日は7人だったと思うわ」

すると、合計17人。

それだけの人数が行方不明及び死亡しているのか?


17人-10人=7人。 岸は死んでいるので、残りは6人。


 それだけが行方不明となっているのか?


「あと6人の所在が不明というわけか? 残りは誰なんだろう? 」


「スタッフは下柳さん、箕田さん、三田さん、林さんの四人。共演者は鷲尾さん……」

鷲尾と言った後、彼女は言葉を詰まらせた。


鷲尾と聞いて、僕は思い出した。


鷲尾明久……。

人気アイドルグループの一員で、最近は役者とかもやり始めた、今一番人気の俳優だ。

たしか玲香ちゃんと熱愛関係発覚! ってワイドショーでしつこいくらいやっていた。

そのことを知って、少しショックを受けたっけ。

でも双方ともに人気があり、美男美女のお似合いだということは否定できない。


そうか、それでこのドラマは、そういった方面でも話題になっていたのだ。


恋人が行方不明なら、彼女も心配しているだろう。

できることなら生きていて欲しいと、心から願っているはず。

「大丈夫だよ、みんなきっと無事だよ」

僕は、彼女をなんとか励まそうとした。


僕は、考えを巡らせる。

恐らくスタッフのみんなは、ここに連れてこられ、睡眠薬か何かで眠らされたのだろう。


そうでないと、この大人数を殺害することなど不可能だ。

さらに、彼らに抵抗した形跡は見られなかったから。


また、一階の玄関で眠らせて運んで来るのは無理だ。

人を担いで、あの梯子を何往復もするのは、あの梯子の脆さを考えると難しいだろう。


なんにせよ、未だに僕たちは危険な状態であることは間違いない。


僕たちはこの部屋を後にした。


どうやら部屋を片っ端から調べていかないといけないようだ。


覚悟を決めると、廊下左側の中央の部屋を調べることにした。


壁を囲むような感じで棚が据え付けられており、雑然と様々な物が置かれてあった。何か役に立ちそうな物はないかと物色する。


布袋、工具箱、ロープ、ハンマー、誰かが使っていたであろう防寒具、毛布、鎌、斧、山刀(これを岸は持ち出したのだろうか? )、その他に針金、釘、鋸、南京錠などがあった。


「この箱は、何かしら? 」

彼女が棚の下の隅に置いてある箱を指さした。

錆だらけの金属製の箱を僕は棚から引っ張り出す。

かなりの重さがあった

 

何か重量のある物が入っていそうだ。

僕は、フタを開けようとしたが、鍵が掛かっている。

金属製の箱は、それほど頑丈な物ではない。なんとか壊せそうだ。


僕は工具箱からドライバーとハンマーを取り出し、こじ開けることにした。

少々時間がかかったが、なんとか鍵を壊し、箱を開けた。


中には布に包まれたものが三つ。

そして、小さな木箱が1つあった。

僕は、布に包まれた物を慎重に取り出し、布を剥ぎ取る。

そこには、銀色の鈍い光を放つ金属の固まりがあった。


「拳銃だ……」


僕は、残り二つの固まりも開けてみた。

……どれも拳銃だった。


リボルバータイプの銃。

どこ製のなんという拳銃かは、知識がないので分からない。

テレビとか映画では、見たこともない型だ。


僕は、小さな箱も開けてみた。

そこには、弾丸が入っている。


「どうしてこんな所に拳銃があるのかしら? 新城さん、それって本物なの? 」

「……たぶんね」

僕は、全ての拳銃に弾丸を装填し、一丁と残りの弾丸をリュックに押し込み、もう一丁をズボンの後ろに突っ込んだ。


実際に使えるかどうかは分からないが、気休めにはなるだろう。


そして最後の一丁を彼女の手に渡した。

「君も持っていた方がいい」

「え、……私、そんなのいらない」

彼女は拒否をしたが

「いいから持っておくんだ。まだここが安全になったとは限らないから」

と、無理矢理握らせた。


「まだここは危険なの? 他に誰かいるって言うの」


僕は、「わからない」と言うしかなかった。


しばらく銃を見つめていたがやがて決心したらしく、玲香ちゃんは怖々とした手つきで拳銃をハンドバックにしまい込んだ。


部屋を出ると、今度は向かい側の部屋の扉を注意しながら開ける。


そこは大きな書棚が三つ並んでいた。

1つ1つが三段の書棚で、古ぼけた本が棚いっぱいに並べられている。

何かの資料なのだろうか? 僕は、何冊か取り出して読もうとした。


しかし、棚の本のほとんどが洋書、しかも英語じゃない他の国の言語だ。

ドイツ語かオランダ語? よくわからないが、そんな感じの文字だ。


何かありそうな気はするけど、書庫の本を調べるには、かなり時間がかかりそうだ……。

とりあえず、今は後回しだ。


まずは脱出口を見つけないことになどうにもならないのだから。


「新城さん、これを見て」

玲香が一冊の本を持ってきた。


本というより大学ノートだった。

書棚に並べられた本と比べ、かなり新しい。


「これが? 」

「とにかく見てみて」


僕は彼女に促され、ノートをめくった。


ボールペンで書かれている文字は、かなり走り書きをしたためか時折乱れ、一部読めない部分もあった。

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