第10話 幕間
「玲香ちゃん、疲れて眠いんだったら寝てもいいよ」
「え?……眠くなんかないわ」
彼女は否定した。
「さっきから欠伸をしていたのは知っているよ。
仕事で疲れてるんだから、無理しないで。大丈夫、何もしないから」
言った瞬間、僕はとんでもないことを言ったような気がした。
「あ、……いや、その、そんなつもりじゃ……」
何故か必死で言い訳をしようとするけど、気の利いた言葉は出てこない。
馬鹿みたいにあたふたするだけだ。
「ふふ、新城さんは、そんなことしないのは知ってるわ」
彼女はにっこり微笑んだ。
何故、僕がそんなことをしないと思うんだろうか?
そんな疑問が過ぎったが、彼女が僕の肩に頭を乗せて来た瞬間、完全に思考が止まってしまった。
なんだか、シアワセ。
場違いな考えが僕の頭の中を駆けめぐっていた。
いかん、いかん。
慌てて思考を切り替え、今の現状について考えることにした。
マネージャーの栗津氏が洋館から消失したこと。
撮影スタッフの人々がこれまでずっと現れないこと。
これらすべては、彼らの単なる冗談かもしれない。
しかし、トイレに残されたあの栗津氏のものであると思われる血痕、そして、館内を調査したことによる結論。
この洋館内に隠れる場所は、存在しえない。
しかし、ここに来たはずの二十数名の人間が消えている。
彼らは、外に隠れているのだろうか? しかし、そんな場所は無かったように思うし、それなら、栗津氏はどこへ行ったのだ?
僕の頭じゃ何もかもが分からない。悶々とした気分になった。
ふと彼女を見ると、既に眠りの世界に行ったらしく、幽かな寝息を立てていた。
完全に僕のことを信じ切っているようだ。
思わず彼女の寝顔に見とれてしまう。
……なんて可愛いのだろうか。
彼女の寝顔を見たら、スタッフが行方不明だろうが、謎が多かろうが、そんなこと、どうでもよくなった。
こうして、憧れの女の子と一緒にいられるというこの幸運に感謝する想いの方が大きかった。
ずっとこのままでいられないのだろうか。
そんな事を考えている内に、意識が遠のいていくのを感じた。
ここのところあまり寝ていなかったせいだろうか……。
僕はこんな状況にありながら睡魔にあらがうことができなかった。
彼女の香水の香りがほのかに漂っているのを感じる。