第83話 ひとまず解決かしら
「それでは、車椅子の実演を始めますわね。リブロ殿下の循環不全がもう少し改善すれば、自分で操作する事もできるようになりますのでね。今日のところは恐れ入りますが、私が操作致します」
私はリブロ王子を乗せた車椅子の背後で、椅子に取り付けられた魔石に魔力を流す。すると、乗せるために魔力を切って床に置いていた車椅子が、ふわりと宙に浮いた。
「すごい、何度見ても不思議なんだが、宙に浮いている」
フィレン王子が再び驚いている。やはり、宙に浮かぶというのはこの世界ではまだまだイメージできないようだ。
「フィレン殿下、ちょっと静かにしていて下さい」
私はフィレン王子を叱る。
「まだ説明を始めたばかりです。いいですかリブロ殿下。手元の肘置きの手の当たる部分に穴があるのが見えると思います」
「……確かにありますね」
リブロ王子はまだあまり動かない手を動かして穴を確認する。
「ご自身で操作される時はその穴に魔石を入れて、ご自身の魔力を魔石に流して下さい。そうすれば同じように動きますから」
「なるほど。分かりました」
リブロ王子の口調がしっかりしている瞬間がある。それなりに回復してきている事がよく分かる。
「そして、魔力を流し続けている状態で、前に進みたい、右に曲がりたいなど思いながら魔力に変化を持たせると、そのように車椅子は動きます」
私は前に動けと思いながら魔力を流すと、ゆっくりとだけど車椅子は前進を始めた。そして、障害物に当たる前に止まれと魔力を流すと、ぴたりと車椅子は止まった。
「細やかな魔力調整が必要になりますので、殿下のように魔力循環不全に陥った方には、魔力の扱いのリハビリ……再訓練にもなると思います。いかがでしょうか」
「すごい……、僕は動けているんだ……」
私が問い掛けるものの、リブロ王子は人の手を借りながらではあるが、動けた事に感動していた。
「とりあえず、手足が動くようになれば、魔力循環も回復してきているでしょうからね。車椅子の降り時は私の方で判断致しますので、その時にはお呼び頂けるとよろしいかと思います。……まあ、癒しの力を持つサキ様に頼んでもよろしいでしょうが、彼女には魔力循環不全が理解できないので無理かと思います。魔法とて万能ではないですからね」
「分かった。助言感謝する」
フィレン王子が私の言葉にそう返してくる。
こう啖呵を切ったはいいけれど、こうなるとサキの魔法も訓練しておく必要があるかしらね。怪我と病気のほとんどに対応してもらえるようにならなきゃいけないもの。
なにせ、リブロ王子の魔力循環不全は予想外過ぎたのだ。こうなってくると前世なんかでもあったウィルス性の病気とかも出てくる可能性があるもの。油断はできなさそうだわねぇ……。
悶々と考える私だけれども、ゲーム内では流行病の事なんて全く出てこなかったわけだし、こればかりは現状どうにもならない話だった。
そうなれば、とりあえずは目の前のリブロ王子に集中するだけだった。
私はリブロ王子の身の回りを世話している人に、車椅子の使い方を教えておく。魔石は残りが少なくなると色が変わってくるようにしておいたので、色が変化したら予備の魔石と入れ替えて、空になりかけた魔石を私の所まで持ってくるようにお願いしておいた。
その後も、リブロ王子の車椅子操作の講習が行われる。この車椅子は魔力で空中に浮かせているので、階段などの段差も移動できる。試しに部屋の中で段差を作って試してみる。すると、魔力操作でその段差もすんなりとクリアしていた。デフォルトの設定で床から10cm程度の高さで浮くようにしておいたのが功を奏した感じだろうか。
結果として、私が作って持ち込んだ車椅子に、リブロ王子はやつれていて分かりにくいとはいえ、満足しているような様子だった。これならば、昔のように歩けるようになるのもそう遠くないかも知れない。魔力をうまく扱えば、自分の体の筋力が衰えていたとしても体を動かす事は可能になるわけだものね。身体強化とは違うけれどね。とにかく、魔力循環不全の完治が最優先といったところね。
「アンマリア嬢、こちらの車椅子、量産のご予定はございますでしょうか」
今まで黙っていたギーモが、私に話し掛けてきた。
「量産とはいかなくても、動けなくなっている人の希望にはなりそうですものね、少々ばかり生産しておいてくれないかしら。それで、足を悪くされている方に売り込んでみてちょうだい」
「承知致しました。そのように手配致します」
とりあえずお試しで作っておいて、目ぼしい人に使ってもらうようにギーモに言っておいた。別に売り物にしたいわけじゃないからね。とはいえど、作るにもいろいろとコストが掛かるので、いずれは費用を回収しなきゃいけないのは世知辛いわね……。特に魔石が高いのよ、魔石が。
そんなわけで、リブロ王子たちに車椅子の使い方を教え終わった私たちは、すっかり暗くなった中、馬車に揺られて帰宅したのであった。最初こそ両親に怒られた私たちだったけれど、事情を説明したら許してもらえた。さすがに王族から呼ばれたんだから、そうなるわよね。
車椅子の納品を無事に終えた私は、心底ほっとした気分でその夜はよく眠る事ができたのだった。




