第79話 さぼっちゃいますか!
父親たちと家に戻った私だけれども、城であった事は一切話をしなかった。父親は大丈夫だろうけれど、ずっとモモが側に居るあの状況で、フィレン王子とリブロ王子の話をするわけにはいかなかったのだ。リブロ王子のあんな状態の事を話してしまえば、あっという間に広まってしまう事は明らかだったからだ。だから、私は沈黙を守り通したのである。
夕食を済ませると、私はすぐさま車椅子のデザインに取り掛かる。前世では足に怪我をするなどして歩けない人用に作り出された道具だ。さすがに城の階段の昇り降りは不可能ではあるが、同じ階層の中であれば移動は可能となる。前世の世界なら本当に階層の移動は大変だろうけれど、この世界には魔法がある。それに、これまで魔石を使った道具をいくつも作ってきているのだ。魔石を使って浮かせる事ができれば、車椅子に乗ったまま階段の昇り降りも可能になるはずである。私は持てる限りの美的センスでもって車椅子のデザインを行う。
続いて、車椅子を浮かせる手法を考える。魔石を使うので魔力を流せば操縦できるようにもしておく。浮かせる事はもちろん、前進後退、右折左折、自分の足のように扱える事が前提である。
この制御として候補にしたのは、風魔法と土魔法と闇魔法である。風で浮かせるというのは単純に思いつく方法ではあるものの、実はその制御が難しいのだ。そこで補助的になるのが、重力などに作用する土魔法と闇魔法というわけである。まあ、この世界に重力なんて概念はないだろうが、地面に繋ぎ止めるという意味で、土魔法と闇魔法を使うのである。他人に説明するならこの方が分かりやすい。
私は自分で保管している魔石を取り出す。この世界に存在する8属性を全部使える私だからこそ、この複雑な魔法を一人で行使できるのだ。
まず、魔石を空中に固定する事に成功した。それに手を当てて魔力を流す事で、前進後退、右折左折、それと停止もちゃんと行えた。
ただ、これにはまだ問題がある。なにせリブロ王子の症状は、手足の魔力循環がまだ止まったままなのだから。これでは手の先に魔力を流して操作なんて無理なのだった。だからこそ、手押し部分がどうしても必要になってしまう。
魔法を使うので、どうしても前世の車椅子とは、最終的にデザインが異なってしまった。手押しに足置きの付いた普通の椅子のようなデザインである。車輪を付けるのは諦めた。魔法で浮かした上で動かすなら、車輪なんて無用の長物だからである。だが、魔石を使う以上は魔力切れという心配はあるので、そこを補うようなデザインにはしておく。予備の魔石もしまっておけるようにしておけば安心だろう。
こうして、ちょっと夜が遅くなってしまったものの、車椅子のデザインができ上がった。一応貴族用と平民用とでデザインを分けておいた。こうでもしておかないと貴族たちがうるさいからだ。本当にこういう身分制度というのは面倒である。
翌朝、なんとか起きられた私は、モモに今日の授業はお休みするという事の伝言を頼んでおいた。車椅子は一刻も早く作った方がいいからだ。
登校途中にボンジール商会へと寄ってもらい、私はそこで馬車から降りた。そして、心配そうな顔をして私を眺めているモモに笑顔で手を振って見送ると、私はボンジール商会へと突撃したのだった。
「たーのもーっ!」
朝っぱらからうるさく扉を開ける私。中では開業準備をしている従業員たちが、動きを止めて一斉に私を見ている。
「ギーモさんはいらっしゃいますかしら?」
私はそれに臆する事なく、商会長であるギーモを呼びつける。従業員がバタバタと奥へと走っていき、しばらくするとギーモを連れて戻ってきた。
「こ、これはアンマリアお嬢様。一体朝からどういったご用件でしょうか」
突然の私の訪問に、かなり戸惑っている事が分かる。まあ、私は学生だしね。今日は学園は休みじゃないから、戸惑われても仕方ないわ。
でもまぁ、今の私にそんな事は関係ない。持ってきた案をギーモにぶつけるしかあるまいて。
「ギーモ商会長、折り入ってお話がございますので、会長の部屋へと移動しませんか?」
私の笑顔に戦慄するギーモ。私の後ろにはスーラが立っているけれど、そんなに驚く要素はさぼり以外にあったかしらね。私は不思議そうに見ているけれど、ファッティ家の介入以来ボンジール商会は業績を右肩上がりで推移させてきたので、ファッティ家の長女であるアンマリアに対して怯えているのである。
とりあえず、ギーモの執務室へと移動する。さすがにきっちりと整理整頓されており、見た目にものすごくすっきりした部屋である。
部屋の中には、私とスーラ、それとギーモの三人だけが居る状態になる。
「改めまして、一体どのようなご用件でしょうか、アンマリアお嬢様……」
ギーモが震えている。失礼ね。
でも、今は急ぐから、そんな失礼な態度はとりあえずスルーしておく。そして、夜遅くまで考えていた車椅子のデザインを描いた紙を取り出して、ギーモの前に広げる。
「これを、ボンジール商会で作って欲しいのよ」
私の言葉に、ギーモはただただ驚いて目を丸くしていた。




