第67話 入学式の日を迎えて
『アンマリア・ファッティ 女性 13歳 120kg』
自分のステータスを見て、ため息を吐く私。結局ゲームの強制力から抜け出せなかった唯一の項目である。
「まったく、姿見を見るのをためらっちゃうだけど……」
私は、学園の制服に身を包み、ひたすら愚痴をこぼしていた。
「アンマリア様は、どんなお姿でもお美しいですよ」
「お世辞はいいのよ、スーラ」
通常13歳の少女なら、50kgあるかどうかかも知れないというのに、私の体重は実に倍以上であった。だけども、これで一応、恩恵を脂肪として溜め込むのは終わりを迎えたはずである。13歳になって身体的にも精神的にも成長した事で、これ以降の恩恵は私自身の魔力として変換される。そうすれば、現状でもチートな私の魔法は、もう誰にも手を付けられないレベルへとさらに昇華すると思われる。それはそれで楽しみなのだけど、やはりこのまん丸と太った体型だけはどうにも受け入れられなかった。
頭を抱える私だったけど、その時、部屋の扉がノックされた。
「お姉様、準備はできましたでしょうか」
聞こえてきたのはモモの声だった。すっかりモモもファッティ伯爵家の人間として馴染んでいる。そんなモモも、今日から学園の生徒である。
「ええ、できたわよ。モモも姿を見せてちょうだい」
私がそう返事をすると、扉が開いてモモが入ってきた。相変わらず可愛くてきれいな、自慢の妹である。
学園の制服はクリーム色をベースとしたブレザータイプで、女子のスカートはひざ下、ふくらはぎくらいまでの長さのあるものである。上のブレザーの下は男子はシャツにクロスタイ、女子はブラウスにリボンである。他にはブレザーの襟や袖口、ズボンやスカートの裾に濃いピンクの二本線が入っているのが特徴となっている。
(それにしても、なんでこういうゲームや小説の女子の足元ってハイヒールなのかしらね……)
私はモモの姿を見ながら正直そう思った。ちなみに私の足元はぺたんこシューズである。さすがに120kgでヒールなんて履こうものなら、すぐにヒールは折れるだろうし、折れなくても地面にはもの凄い穴が開いてしまう。履けと言われても痩せるまでは我慢だわね。
準備が整った事を確認した私たちは、屋敷から出て馬車に乗り込む。モモにもしっかり侍女が付いていて、馬車の中は私たち四人が乗っている。ちなみに入学式には保護者は出れないために、父親はいつもの通り仕事で登城、母親は私の代わりに魔石ペンを作っている。恩恵が波及したのか、私たち一家の魔力が増えてるし伸びてるのよね。だから、母親が魔石ペンを作れるようになっているわけなのよ。不思議だわ。
さて、私たちは学園に到着する。サーロイン王立学園、それが学園の名前である。実に捻りがない安直な名前である。ま、ゲームの中では学園としか出てこなかったし、名称があるだけマシかしら。
私とモモが侍女を伴って馬車を降りる。その時に馬車のステップがミシッと音を立てたのが気になった。壊れてないわよね。ちょっと気にはなったものの、私たちはとりあえず学園に目を向ける。さすがに王都にある貴族の通う学校、立派である。しばらく学園を眺めて感動していると、私たちのところへ見知った人物がやって来た。
「お久しぶりですわ、アンマリア様、モモ様」
「ええ、お久しぶりでございます、ラム様」
「お久しぶりでございます、ラム様」
そう、一番ぽっちゃりしているはずのラムだった。ゲームでは90kgの巨体のはずのラム・マートン公爵令嬢が、もの凄く痩せていたのだ。これは私にとって衝撃だった。痩せたラムは思った以上に美人なのである。その美しさに、私は思わず片膝をついてしまった。
「ちょっと、アンマリア様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですわ。ラム様が美し過ぎて、感動で崩れ落ちてしまいましたの」
正直に言ってしまう私である。しかし、ラムはこれにドン引きする事なく、むしろ頬を赤らめてお礼を言ってきていた。ちょっと可愛いんですけど?!
「ええ、本当にラム様はお美しいです」
モモもそんな事を言っている。
「まったく、何をしてるのですか。そんなところでのんびりしていると、入学式に遅れてしまいますよ」
何か漫才みたいな事をしている私たちに、誰かが声を掛けてきた。
「これは、フィレン殿下。おはようございますですわ」
そう、フィレン王子だった。
だいたいこういうゲームやお話の王子というのは愚かしい事が多いのだけれど、私たちとの交流が多かった王子は、実にまともな人物となっていた。
「おはようございます、フィレン殿下」
私とモモもカーテシーをして挨拶をする。
「やあ、アンマリア、モモ。君たちも制服がよく似合っているよ」
「冗談はおよし下さい、フィレン殿下」
笑顔で言うフィレン王子だけれども、さすがに私はお世辞にしか聞こえなかった。婚約者だから素直に褒めているつもりなのだろうけども、太っている事が嫌な私だからか、どうしてもひん曲がって受け取ってしまうのだった。
「アンマリア。体型の事は確かに不本意かも知れないけれど、もう少し素直になって欲しいな」
悪態をつかれても笑顔で話し掛けてくるフィレン王子。その笑顔が眩し過ぎる。そんな私たちのやり取りを見て、モモとラムが笑っているのだが、フィレン王子の笑顔にやられてしまった私は、それにはまったく気が付かなかった。
こうして、憂鬱で始まるかと思った学園生活は、フィレン王子のせいで甘い始まりを迎えたのだった。




