第498話 年の瀬の衝撃
それはあまりにも唐突だった。それがゆえに、ミズーナ王女は驚きで固まっていた。
アンマリアがやって来たのはもちろん、目の前にはアンマリアのいとこであるタミールがいる。そして、そのタミールからダンスの申し込みがされたのだ。
アンマリアやエスカの使う転移魔法は、誰か一人を同時に連れてくることができる。それによって、アンマリアはタミールをベジタリウス王城まで連れてきたというわけだ。
ミズーナ王女は困惑してアンマリアを見るが、アンマリアはにこりと微笑むだけである。この状況に、ミズーナ王女はどうしたものかと思い悩んでいる。
そのミズーナ王女の動きを見かねたのか、アンマリアがポンとミズーナ王女の肩に手を置く。
「アンマリア?」
「悩む必要があるかしら。このままだと、レッタス殿下のようにベジタリウス王国の殿方に囲まれてしまうわよ」
「はっ!」
アンマリアに言われてミズーナ王女はレッタス王子の方を見る。婚約者が決まっていないレッタス王子の周りには、令嬢を連れた貴族たちが次々と集まってきている。分かりやすい玉の輿狙いである。
その攻勢にたじたじになっているレッタス王子の様子を見て、ミズーナ王女は覚悟を決めた。
「私はどうせ王位が継げませんからね。エスカがこっちにやってくるなら、私は国外でのんびりさせてもらおうかしらね」
少々ため息まじりではあるものの、面倒事から逃げられるのであるならばとアンマリアの提案を受け入れるミズーナ王女である。
ずっと跪いて手を差し出しているタミール。その姿を再確認して、ミズーナ王女はその手を取った。
「お待たせしまして申し訳ございません。その申し出、受け入れさせて頂きます」
手を握られたタミールの表情が、ようやく緊張から解放されて笑顔に変わる。その様子を見たアンマリアは、誇らしげに二人が踊る姿を見守っていた。
「だいぶ強引な事をしたわね、アンマリア」
「エスカじゃないの。魔王は?」
「メチルの両親と話をしているわ。私は邪魔だからって追い払われたわよ」
エスカの言葉を聞いてくすくすと笑ってしまうアンマリア。これにはエスカも表情を歪ませる。
「まったくひどいわね、アンマリアったら」
「そうかしら。エスカがいたらまとまる話もまとまりそうにないから、しょうがないんじゃないの?」
「あのねぇ……」
アンマリアが酷いことを言うものだから、エスカは近くにあったテーブルから料理を手に取ると、大口を開けてかぶりついていた。
「それにしても、アンマリアもミズーナも最初に比べるとすっかりやせ細っちゃったわね」
ミズーナ王女とタミールのダンスを眺めながら、エスカは懐かしそうに呟き始めた。
「うふふ、確かにそうだったわね。学園入学時、体重120kg固定はさすがに絶望したわよ?」
アンマリアは約4年前のことを思い出して、笑いながら話している。よくもまぁ、そこから1年半程度で50kg台まで落とせたものである。それもこれも魔王のおかげというのだろうか。思わずコール子爵たちと話をする魔王の方へと視線を向けてしまう。
「最初からゲームのシナリオは破綻していたけれど、修正力がかなり強引に話を進めてきたものね。わけが分からなくてはげ散らかしそうだったわよ」
「エスカってば何を言ってるのよ」
わけの分からないエスカの言い分に、アンマリアはついつい大笑いをしてしまう。アンマリアの反応にイラッときたエスカは、食べるスピードを上げて黙々としていた。
そうこうしているうちに、ミズーナ王女とタミールのダンスが終わる。
踊りを終えたのであれば、普通ならばそのまま別れて終わるはずだが、タミールはまったくその場を動かなかった。これにはミズーナ王女は笑顔のまま首を傾げている。
「僕では正直頼りないかと存じますが、ミズーナ王女殿下、ぼ、僕と結婚して下さい」
勇気を出して大きな声で言い切ると、タミールは頭を下げて右手を精一杯突き出していた。
これには思わず困惑するミズーナ王女だし、周りからも一気に注目が集まる。
会場にいた貴族たちからはどよめきが起こる。無謀にも王女に対して婚姻の約束を申し出たのだ。注目度は抜群である。
周りからの視線が気になってきたミズーナ王女は、タミールの申し出に対して戸惑ったままだ。単純に恥ずかしいのである。しかし、それは自分に対して求婚をしているタミールも同じだろう。
悩んだミズーナ王女だったが、タミールの覚悟を認めて、真剣な表情でゆっくりとその手を取る。
「承知致しました。その申し出、受け入れましょう」
タミールからの求婚を受け入れると、周りからは拍手が起きていた。どうやら祝福されているようだ。
この状況を見て、アンマリアは嬉し涙を流している。エスカはどういうわけかドヤ顔である。
結局、レッタス王子の婚約者は決まらなかったものの、ミズーナ王女の婚約は無事に決まった。今年のベジタリウス王国の年末パーティーは、その祝賀ムードの中、年が明けても続けられたのだった。




