第496話 最後(エンディング)の舞台へ
年末を迎える。
ベジタリウス王国でも、年越しを迎えるにあたって年越しのパーティーが行われる。
国に帰っての年越しパーティーは、ミズーナ王女編におけるノーマルエンドである。攻略対象の誰とも結ばれなかったので、それは当然という結果だった。
とはいえ、ノーマルエンドではあっても無事にゲームの時間軸をやり過ごせたので、まずはそのことにほっと胸を撫で下ろすミズーナ王女である。
「お兄様と結婚するミズーナというのも悪くはなかったわね」
年末のパーティーを前に、エスカはそんな事を呟いている。
「嫌よ、王妃だなんて。私のガラじゃないわね」
ところが、ミズーナ王女はそれは断固拒否といった感じだった。前世が幼少時に厳しい環境だったし、今回だって王女という立場だ。大人になったらその締め付けから脱却したくなるのは当然のことだろう。ミズーナ王女には、最初から王族との結婚は選択肢になかったようだった。
そういう状況に加えて、他の攻略対象もことごとく婚約者と無事に結ばれそうなために、こうやってミズーナ王女はあぶれてしまった。これだけならよかったものの、まさか双子の兄であるレッタス王子まで相手がいないまま終わるとは思ってもみなかった。大体エスカのせいである。
「私としては、お兄様の相手をどうにかしたいわね。王妃を任せられる相手を、私も見極めてみたいものだわ」
ミズーナ王女はテーブルに肘をつきながらぶつぶつと呟いていた。
「そういうんだったら、まずは自分の相手を見つけなさいよ。それこそ、アンマリアの提案を受け入れれば楽よ?」
「うーん、タミールくんはあんまり面識がなぁ……。アンマリアのいとこっていうのはまぁ、そこそこ魅力ではあるんだけど」
エスカの指摘に、ミズーナ王女は本気で頭を悩ませている。
というのも、タミールであれば知らない相手ではないし、王妃となるアンマリアのいとこだ。彼がいるファッティ領もそれなりに安定した収入のある領地だ。ベジタリウス王国と国境を接するバッサーシ辺境伯領の南にあるし、サーロイン王国の王都トーミともそこそこ近い。立地も悪くなかった。
ところが、ミズーナ王女は安易にその条件に飛びついていいのかという点で躊躇していた。
「別にいいんじゃないのかしらね。何らかの形でサーロインとのつながりを持っておくのは重要だと思うわよ」
「うーん、それもそうかしらね」
エスカの指摘に、ミズーナ王女はちょっとなびきそうになる。
「私だって魔王様の下に嫁ぐのよ? やりたいようにやればいいのよ。世間が丸く収まればそれでいいんだから」
「それはまぁそうかしらね」
「そうよ。メチルをお兄様の元に嫁がせておいて今さらってものよ」
「あっ、やっぱりすんなり決まったのね、アーサリー殿下のお相手の件は」
ミズーナ王女が確認をすると、エスカはドヤ顔を決めながら何度も頷いた。どうしてそんなに威張るのか、ミズーナ王女は不思議でならなかった。
エスカの反応にため息をつきながら、ミズーナ王女は年末パーティーのドレス選びを始めることにしたのだった。
長かったような短かったような、実に濃密なゲーム時間軸の三年間。
この年末のパーティーでもって、ミズーナ編もいよいよ終わりを迎える。
エンディングとしてはノーマルエンドではあるものの、決して悪いエンディングではない。バッドエンドをすべて回避できたなら、それはそれで成果は上々だからだ。
やせ薬ドーピングに加え、魔王との対決という最大級の死亡フラグを回避できたのはよかった。しかも、魔王とはほとんど対決することなく決着してしまった。大体はエスカのせいではあるが。
その魔王はというと、ベジタリウス王国の一臣下となっただけではなく、ほぼ強引ながらもエスカと結婚することになったのだから、本当に何が起こるか分かったものではない。
年末のパーティーを迎えるその日、ベジタリウス王国には例年のごとく雪が舞っている。
元々山と森の多い寒い地域だ。雪がちになるのは仕方のない事だった。そのせいで、王都に居るか居ないかという状況次第で、この王城で行われる年末パーティーの賑やかさは変わってくる。なにせ、雪深いために領地と王都との間の行き来はほぼ不可能なのだから。
しかし、今年の年末パーティーはほぼすべての貴族が城に集結していた。
理由としては、サーロイン王国に留学していた王子と王女が戻ってくるためである。無事に学園を卒業して戻ってきた二人をひと目見ようとして、王城に集まってきていたのだ。
もちろん、それだけが理由ではない。あわよくば自分のところの子どもと結婚させようという目論見があってのことだ。
こうして、長かったゲーム時間軸の最後を締めくくるイベント、ベジタリウス王城の年末パーティーが始まろうとしていた。
はてさて、レッタス王子とミズーナ王女のお相手は、ここで決まることになるのだろうか。
トラブルメーカーエスカも参加しているため、ミズーナ王女の緊張はいつも以上のものとなっていた。




