第493話 去り行く者
アンマリアによって特大の爆弾を投げ込まれたミズーナ王女は、パーティーから戻ってからというものずっと悩んでいた。
「はあ……。なんてものをぶち込んでくるのよ、アンマリアは」
一応パーティー用のドレスから普段着に着替えてベッドに横たわるミズーナ王女。適当に寝返りを打ちながら、布団に顔を半分うずめたままの状態を続けている。
「まったく、本当に不意打ちでしたね、アンマリアは」
飲み物を用意して、部屋に戻ってきたメチルも愚痴を漏らしている。
ベッドの上で伏したまま顔だけをくるりと振り向かせるミズーナ王女。
「いいわね、メチルは」
「なんでですか」
ぼそっと文句を言うミズーナ王女に対して、少し不機嫌そうに反応するメチルである。
「だってそうでしょ。エスカと一緒にミール王国に行って、アーサリー殿下と結婚するのよ?」
ミズーナ王女の愚痴のような言葉に、メチルはつい口を尖らせている。
「それって口約束じゃないですか。アーサリー殿下が婚約者を見つけていたら、その約束はなかったことになるんですよ?」
なんとも険悪な雰囲気である。
ところが、ミズーナ王女には謎の自信があった。
「大丈夫、もう決定事項だから。安心してミール王国に嫁ぎなさいって」
「むむっ?」
腰に手を当てて誇らしげにするミズーナ王女の態度に、メチルは疑いの目しか向けられなかった。どうしてそこまで自信たっぷりに言い切れるのか分からないからだ。
「とりあえず、アンマリアのせいで私はもう数日間サーロイン王国に残らなくてはなりませんからね。メチルは気にせずにミール王国に向かってちょうだい」
「むぅ……仕方ありませんね」
納得のいかないメチルではあるものの、ミズーナ王女の言葉には立場上逆らえない。なので、やむなくその言葉に従うことにした。
ひとまず無事に卒業式を終えたことで、今日のところは安心して床に就くミズーナ王女とメチルなのであった。
翌朝、朝食を済ませると、エスカがミズーナ王女の部屋へとやって来た。
「メチル、準備はできていますか?」
「もうちょっと待って下さい」
そう、メチルをミール王国に連れていくために迎えに来たのだ。
昨夜は遅くまでミズーナ王女と言い争いをしていたので、メチルはその準備が整っていなかった。今も必死に荷物を鞄に詰め込んでいるのだ。
メチルは転生者たちの中では唯一の収納魔法が使えない人物だから仕方がない。
ようやく準備が整い、メチルはエスカと一緒に城門へと向かう。ミール王国行きの馬車に乗るためだ。
二人を見送るために、サーロイン国王夫妻、フィレン王子、リブロ王子、アンマリア、サキ、ベジタリウス王妃、ミズーナ王女と王族とその婚約者が勢ぞろいして見送りである。
「それでは、娘が三年間お世話になりました。ずいぶんと迷惑をお掛けしたようで、その点は心より深くお詫び申し上げますわ」
ミール王妃が小さく頭を下げていた。
「いやいや、なかなかの大活躍で助かったくらいです。迷惑とはいっても些細なこと、そこまで気になさらなくてもよいですぞ」
サーロイン国王はそのように言葉を返していた。
実際、エスカはその闇の魔力で大活躍だったので嘘はない。実質的な迷惑はアンマリアが受けたくらいなので、そちらもまた嘘ではなかった。王族自体に迷惑はほぼかけていないのだから。
「そういって頂けるとこちらとしても気持ちが軽くなりますわ。お気遣い、誠にありがとうございます」
母親にまでこう言われるあたり、エスカは自国でもかなりフリーダムだったのだろう。実際問題、幼少時から妙な魔道具を開発していたのだから。
「ミール王妃殿下」
「なんでしょうか、ミズーナ王女殿下」
サーロイン国王との話が終わったところで、ミズーナ王女がミール王妃に声を掛ける。
「あの、メチルの事をよろしくお願い致します」
真剣な表情で緊張した風にミズーナ王女が発言すると、ミール王妃は優しく微笑み返す。
「もちろんです。アーサリーが婚約者を見つけられているとは思いませんから、娘と思って大事にさせてもらいます」
ミール王妃はしっかりとミズーナ王女に対して約束していた。
すべての挨拶が終わると、エスカとメチルはミール王妃とともにミール王国へと旅立っていった。
城門ではミズーナ王女とアンマリアが呆然とした表情でその後ろ姿を眺めていた。
「全部終わりましたね」
「そうですね。終わりましたわね」
「これで、ミズーナ王女殿下とレッタス殿下の婚約者が見つかれば、無事にハッピーエンドですね」
「見つかればいいですわね」
エスカとメチルを見送った後なので、呆けているせいかミズーナ王女もまるで他人事である。
しかし、いつまでも外にいては冷えてしまうと、二人は慌てて城の中へと戻っていく。
本当はエスカたちと同時に城を発ってベジタリウス王国に戻る予定だったミズーナ王女。アンマリアのごり押しでもうしばらくサーロイン王国に残ることとなってしまった。
わずかな滞在の延長期間ではあるものの、状況に変化は訪れるのだろうか。
ミズーナ王女の憂鬱は続くのである。




