第472話 華やかさに忍ぶ白い影
「ふぅ、さすがに涼しくなってきたな」
「まっ、学園祭でにぎわってるから、まだまだ暑いんだけどな」
「ははっ、違いねえ」
学園祭の二日目が終わった夜、夜の王都を警備する兵士たちはいつも通りの仕事を行っていた。
聖女であるサキや王太子の婚約者であるアンマリアたちによって、王都には緩いながらも結界が張られている。そのおかげもあってか、王都トーミの治安というものはなかなかいい状態になっている。
とはいえ、いつ何があるか分からないのでこういった警備兵たちによる巡回が行われているのである。
「まったく、真っ暗で少し不気味ではあるものの、特に事件がないから楽な仕事だよな」
「そうだな。聖女様たちのおかげだな」
警備兵たちは、つい笑い出してしまう。
しばらく巡回を続けていた兵士たちだが、ふと何かを感じて足を止める。
「なあ」
「うん、どうした?」
急に相方に話し掛けられて、困惑した様子で反応する兵士。
「ちょっとこの辺寒くねえか?」
「あん? 何を言って……、いや、確かに少し寒いな」
疑り深く反応しようとするが、その言葉と同時に自身も寒気を感じてしまう。
「なんだこれは……。どこから感じるんだ?」
兵士は原因を探ろうとするが、相方は歯をがたがたと言わせながら必死に止めようとしている。
「やめろやめろ。俺はお化けが怖いんだ」
相方が背中に隠れようとするので、兵士は必死に自分が前にならないように争っている。
「俺だって怖えよ。仕事だけど、これ以上進みたくないぜ」
「だからって、俺の後ろに隠れて震えてんじゃないぞ。俺も嫌だぜ」
進みたくはないとは言う隠れている兵士だが、相方を盾にしてじりじりと前進している。押し出されていく兵士だが、必死に踏ん張っているのにまったく意味をなしていなかった。
「なんて力で押すんだよ。おい、やめろ」
「嫌だ、お前が確認してくれ」
漫才のようなやり取りをしながら、寒気の最も強く感じられる場所へとやって来た二人。
「ここは……」
「先日何か爆発があったとかで崩れた家じゃないか。手つかずで放置されていたのか」
そう、そこは先日魔王が呪具の回収にやってきた際に出現した大ネズミとエスカの手によって崩壊した家があった場所だった。その後、すっかり忘れられていたのか、誰も手をつけずにそのまま放置されていたのである。
「でも、なんなんだ、この寒気はよ……」
じっと眺めていた兵士たちだが、その空気の冷たさに体を震わせている。
「い、一体どうなってるんだろうな。ちょっと見てきてくれないか?」
「おい、お前が行け。なんか嫌な予感がするから近付きたくねえよ」
ごちゃごちゃとうるさい兵士たちである。
「ちょっと待て、何か聞こえないか?」
「お前、話を逸らそうとするな」
「いや、マジだ。何か聞こえてくるぞ」
「んん?」
盾にされていた兵士が詰め寄っていたが、相方が必死に訴えてくるので仕方なく耳を澄ませる。
”恨めしい……。この私をこんな目に遭わせおって……”
ぼそぼそとした小さい声だが、二人の耳にははっきりとそう聞こえてきた。
「な、な、なんだ。何かいるのか?」
二人は警戒のあまり、持っている武器を構える。ただ、恐怖のせいで腰が思いっきり引けていた。
”恨めしい、恨めしい……。まだだ、まだ足りない。時が来るまで私に誰も近付けさせるものか……”
その瞬間、二人の目に何かが映る。
「おい、なんだあれは……」
「白い……影?」
そう、真っ白な影だった。だが、それを確認したのも束の間だった。
突如として白い影から巻き起こった吹雪に、兵士たちは気を失ってしまった。
やがて、気を失った兵士たちが意識を取り戻す。
「ふにゃ……。なんで俺はこんなところで寝てるんだ?」
目を覚ました兵士は、目をこすりながら辺りを見回している。真っ暗な王都の中に一陣の風が吹き抜ける。
「うう、寒ぃな。おい、起きろ。こんなところで寝てたら風邪をひくぞ」
隣で眠っている相方に気が付いた兵士は、一生懸命その体を揺さぶっている。
「うう……ん、もう食えねえよ……」
「おおい、なにを寝ぼけてるんだ、さっさと起きろ!」
頬をバチバチとビンタする兵士。すると、ようやくもう一人の兵士も目を覚ましたようだ。
「あれ……、飯は?」
「お前な、食い意地張りすぎなんだ。今は仕事中だぞ、寝ぼけてると隊長にどやされる。さっさと巡回に戻るぞ」
「げげっ、それはやばい」
立ち上がって体の埃を叩き落とす兵士たち。
「しかし、なんだって俺たちはこんなところで寝てたんだ?」
「分からねえ。とりあえず異常なしだな。さっさと行くとしようぜ」
「お、おう」
兵士たちは起き上がってその場を立ち去っていく。その近くには崩れ去った家が、気付かれる事なく放置され続けている。
どうやらあの一件以降気付かれずに放置されているのは、そこにいる何者かの力によるもののようだ。
誰にも気づかれる事なく、崩れた小屋でくすぶり続ける白い影。その正体は一体何なのだろうか。人知れず、目覚めの時を待ち続けているのだった。




