第451話 夏合宿を前に
あっという間に前期が終わりを迎える。
当然ながら前期末試験ではエスカが頭から煙を上げてぶっ倒れていた。どれだけ座学が苦手なのかと毎回思う。これで残るは後期試験だが、最後まで心配になる状態だった。
「まったく何をやっているのだ、この小娘は」
「あら、誰かと思えば魔王ではないですか。どうしてこちらにいらしているのですか」
ミズーナ王女が、突如姿を現した魔王に問い掛けている。
「あらかたやる事が済んだのでな、我を倒した小娘の様子を見に来たのだ」
「あらあら、あなたにもそんな感情があるのですね」
「貴様なぁ……。我とて魔族といわれる種族の王ぞ。その伴侶の状態は権威に影響するのだぞ」
魔王は怒っているような口調で話している。
「それは理解できますね」
ミズーナ王女はさらっと答えていた。同じ考えを持っているようだった。
「とはいっても、今この世界にいる魔族は、あなたとメチルだけじゃないですか。何をそんなに気にする必要がありますか?」
「ぐっ……」
痛いところを突かれて、魔王は思わず胸に手を当てる。本当に痛すぎた。
「い、いずれ魔族は復活するのだ。我が居る以上その可能性は否定できまい」
「それはそうですね。悪い魔族が出てきたら、地面に埋め戻してやりますよ」
自信ありげに話す魔王に、ミズーナ王女はさらっと返しておいた。
「貴様らなら本当にやりそうだな」
怒りながら言う魔王の姿に、ついつい笑ってしまうミズーナ王女である。
「ああ、そうだわ。魔王、ちょっといいかしら」
「なんだ」
ミズーナ王女に話し掛けられて、少し不機嫌そうに返す魔王。
「せっかくですから、学園の合宿に参加しません? 今回はバッサーシ辺境伯領のクッケン湖ですからね」
「ああ、あの塩の湖か。懐かしいな」
「あら、ご存じなんですね」
「あそこは我の力が色濃く残る土地だ。それが証拠に魔物がよく出現するだろう?」
「それは興味深いですね。よく聞かせてもらえませんかね」
ミズーナ王女と魔王が話をしていると、入口の方から突然声が聞こえてきた。
「アンマリア。どうしてここに?」
「モモの誕生日の相談に来たのよ。学園の夏合宿の直前ですからね、あの子の誕生日は」
どうやらアンマリアは、王妃教育でなかなか城を抜けられないために、ミズーナ王女に相談を持ちかけようとしたようだった。現在は学生である王女たちなら、ある程度自由が利くからである。
「分かりました。では、アンマリアの代わりに出席させてもらいます」
「ええ、お願いするわ。私の家に引き取られてからというもの、ずっと私と一緒だっただけに寂しがるだろうからお願いするわ」
「任せておいて」
そんなわけで、モモの誕生日の心配がなくなったことで、アンマリアは改めてミズーナ王女と魔王を見ている。
「クッケン湖の辺りは、魔王と関連した地域なのですってね」
さっき魔王が言っていた言葉の意味を問い掛けるアンマリアである。
すると、魔王は真顔でアンマリアを見ている。
「その方、表情を見る限り、何度か魔物氾濫を経験しているようだな」
「ええ、子どもの頃と3年前の合わせて2回ですね」
「ふむ、なるほどな。去年の暮れくらいにも、一度人為的に起こした形跡があるし、思ったよりも魔物の管理権限が我から離れているようだな……」
アンマリアの話を聞いて、考え込む魔王である。
「クッケン湖近辺でなければ、2年前にも南のサングリエ辺境伯領までけしかけたパターンもありましたからね。本当にいろいろ大変でしたよ」
「そうか……」
意外と頻繁に起きていた魔物氾濫に、思わず言葉が出なくなってしまう魔王だった。
「今年も、ミール王国で呪具を原因とした魔物の襲撃がありましたからね。正直、魔王の管理能力を問われても仕方ありませんよ」
「まぁ、それは、そうだな……」
ミズーナ王女に言われ、黙り込む魔王である。
「まぁ、我の復活を願っていろいろやってくれた事だから、我としては強くは言えんのだがな。なにぶん人間の魔力が我の封印を解くカギだったのだからな」
頭を書きながら言い訳を並べる魔王である。
大きくため息をついた魔王は、ミズーナ王女へと視線を向ける。
「合宿といったが、今回は私も特別に同行してやろう。実際に自分で現場を見た方がよさそうだからな。我の眠っている間に、何かおかしなことになっているかも知れん」
「ええ、頼みますよ」
「第一、10年もしない間に魔物氾濫が二度も起きる事自体がおかしいのだ。魔物を管理するものとして見逃せぬ事態なのでな、勘違いするでないぞ」
頭をわしゃわしゃとかいた魔王は、ミズーナ王女を指差してはっきりと言っておく。
「ええ、魔物の専門家の参加は歓迎ですわ。それに、ミスミ教官がとても喜ぶと思いますのよ、魔王と戦えるとなると」
「ああ、あの人ならなりかねないわね」
にこりと微笑むミズーナ王女とは対照的に、嫌そうな表情をするアンマリアだった。
「何者かは知らないが、我に勝負を挑むというのなら歓迎するぞ。正直体を動かしたくて仕方ないからな」
魔王も魔王で前向きだった。
こうして、前期最後のイベントとなる合宿の日が迫ってきたのだった。




