第45話 貴族って思ったよりだらしない
ボンジール商会は父親の脅しにあっさりと陥落した。
あの短時間で、テトリバー男爵への脅しが国家反逆に当たる事を紙に認めていたのだら、改めて父親の能力のすごさを目の当たりにした。
ボンジール商会、およびテトリバー男爵家に残るわずかな使用人から聞き出したところ、伯爵と子爵と男爵が数名関わっている事が判明した。すぐさま父親はその貴族たちを城に呼び出して事情を聞き出した。否認したり、証言をごねたりする貴族も居たのだが、ボンジール商会と同じように反逆罪の影をちらつかせると顔を真っ青にしながら全部ゲロったようだった。そして、一様に命乞いをしてくる始末。だが、私の自慢の父親にはそんなものは通用しなかった。沙汰が出るまで自宅謹慎を申し付けていた。まったく、その程度の覚悟と認識でやらかすなんて、肝っ玉が小さすぎるわよ。
で、肝心のボンジール商会は、とにかく二度とこういう事をしでかさないという誓約書を書かされた上で、魔石ペンの販売の許可を出しておいた。ただ、最初のうちは反省を促すという事で売り上げの8割を王家とファッティ伯爵家が貰う事になった。反省したところで売り上げの半分までにしか増えないけれどね。それでも、画期的な道具なのだから、おそらくは売れるはずである。国王や王子、それと大臣が愛用しているともなれば、宣伝文句としては十分なはずだからだ。
ただ、現状ではこれを作れるのは私ただ一人。その生産量はたかが知れているのである。完全な流通を確保するのなら、これを作れる人物を増やした方がいいのだが、果たして私以外の人間がこれを作れるのかはよく分からないのだ。イメージがしづらいというのが一番の問題だろう。それこそ転生者でもない限り、イメージを簡単につかむ事はできないと思われる。まあ、それはおいおい頑張って製法を広めていきましょう。
「本当にありがとうございました、アンマリア様」
後日、テトリバー男爵邸を訪れると、サキから深々と頭を下げてお礼を言われた。どうやら、新たな使用人を融通してもらえた上に、金銭的な心配も解決したようである。本当に、嫉妬に駆られて何やってるんだかねぇ。
「いえいえ。知り合いとして、とても見逃せなかっただけですから。男爵ももう少し強気になって頂きませんと、この先が思いやられますわ」
「いやはや、面目ない限りです……」
私が強く諫めると、男爵も私に対して頭を深く下げて感謝の意を示していた。
さて、なぜ私がまた男爵邸に来ているのかというと、テトリバー男爵領の小麦は王家が認めるくらいの小麦だという話を聞いたから。だから、余剰となる小麦を、直接男爵から買い付ける事にしたのだ。こうなれば、私が前世知識で作る料理の味が格段に変わるはずである。つまりはただの食い意地なのだ。
そんなわけで、私はスーラを伴った状態だけれども、サキや男爵とそれは楽しいひと時を過ごさせてもらった。
しばらくすると、テトリバー男爵家に嫌がらせをしていた貴族たちに懲罰の内容が言い渡された。
その内容は全員二階級降爵というものだった。つまり、伯爵家は男爵家となり、子爵と男爵は平民落ちである。この世界には騎士爵と準男爵はないからそうなるらしい。まあ、自業自得よね。表立っては発表していないとはいえ、テトリバー男爵令嬢は正式に婚約者に昇格しているわけだから、王家の決定に対する不服うんぬんで重罪だものね。
ちなみに、これで子爵と男爵の地位を追われた家は領地も没収となり、一時的な措置だけれども王家の直轄地になる。つまり、領民にとってしてみれば栄転となったわけだ。でも、生活が劇的に変わるわけではないので、正直あまり嬉しくはないってところかしら。
その後しばらくして、慌てた様子で平民街へと引っ越していく元子爵と元男爵の家族の姿を見た。うん、あんなみじめな目には遭いたくはないわね。私は一応ゲームのヒロインとはいえど、選択肢を間違えれば悪役令嬢のような目に遭う可能性があるもの。油断はできないわ。
というわけで、私は次の作戦を練る事にした。懲罰を受けた貴族や元貴族たちの逆恨みの刃がこっちに向かないとも限らないもの。不安要素は極力取り除くべきよね。となると、私が起こす何かしらの事業みたいなのに組み入れるのがいいかしらね。だってね、婚約者候補になった事を妬んで嫌がらせをするような人たちですもの、逆恨みの線だって十分あり得ません?
心配の種は芽吹く前に潰しておくものよ。
とにかく心配性な私は、再び父親に相談を持ち掛ける事にしたのだった。




