第445話 聖女の魔族
「これが呪具です」
見つけるなり叫ぶメチル。
それを聞いたエスカはすぐさま闇魔法を発動させる。
だが、通常の闇魔法であれば同属性であるがために吸収されてしまうところだ。
しかし、エスカにはサンカリーどころか魔王すらも圧倒した特殊な闇属性がある。
「その禍々しいまでの瘴気、押し潰させてもらうわよ」
次の瞬間、めごっという変な音が響き渡る。呪具周りの空気が押し潰されたのだ。
そう、重力魔法である。すべてを吸い込み押し潰すブラックホールの要領である。それによって、呪具から吹き出す瘴気を押し潰してしまったのである。
「ええ……」
思わず言葉を失うメチルである。
するとどうだろうか。少しずつ夜の闇が弱まっていく。
どうやらこの夜の漆黒は、呪具から吹き出す邪気によって強められていたようだった。エスカの反則的な魔法で、その効果が弱まってしまっているというわけだ。
「嘘でしょ……」
転生者とはいえ、魔族としての知識も持ち合わせるメチルだが、あまりの光景に信じられないといった感じだった。
魔族とはいえども、テトロを除けば魔王にしかまともに制御のできないというのが呪具に対する認識だった。
それだというのに、エスカは重力魔法によって呪具の力を抑え込んでしまったのだ。おそらくテトロがこの場面を見たら顔を真っ青にしていただろう。
「さあ、根比べよ。とっとと潰れてしまいなさい」
「わあ、やめて。私が浄化しますから、潰さないで!」
エスカの目が血走っている。呪具に対する重力魔法の発動で、相当に制止的に負担がかかっていることはよく分かる状態だった。
「いつ魔物がこっちに襲い掛かってくるか分からないから、さっさと浄化してしまいます!」
エスカによって抑え込まれた呪具に対して、メチルは浄化魔法を発動させる。
魔物たちの注意が上空でど派手な魔法を使っているミズーナ王女たちに向いている今こそが、メチルたちにとって最大のチャンスなのである。ここで逸してしまえば、注意の逸れた魔物たちが襲い掛かってくる可能性がある。実に危険な賭けだった。
「悪しき力に満たされし存在よ。我が内に眠る聖なる魔力の導きによって、その力を清めん」
詠唱を始めたメチル。その体が眩いばかりの白い光に包まれていく。実に魔族とは思えない光景である。
白い光に魔物が集まり始めるものの、近付いた魔物は次々とあふれ出る光に焼かれていっていた。
「邪よ去れ、ディヴァインスフィア!」
メチルが魔法を発動させると、辺り一帯が眩いばかりの光に包まれる。ミズーナ王女が光を遮る魔法を展開していなければ、ものすごく目立っていたことは間違いない。これはミズーナ王女のファインプレイだろう。
呪具を浄化するための魔法ではあるものの、同時に集まってきていた魔物たちも次々と光に焼かれていく。
ようやく光が収まったかと思うと、エスカの使っていた重力魔法も消えて、地面にころんと落っこちていた。
「ふぅ……」
大魔法を使ったために、メチルは気が抜けてその場に座り込んでしまう。しかし、いつまでもじっとしていられない。
「呪具を回収して陸に戻りませんとね」
メチルは地面に転がった浄化された呪具を拾い上げると、エスカと一緒に陸地へと急いだのだった。
一方のミズーナ王女たち。
「な、何なのよ、あの光は」
突如としてあふれた白い光に驚いていた。
「あれは、メチルの魔法だわ。浄化魔法を発動させたのね」
「あの光が……。聖女っていうのは嘘じゃなかったのね」
「失礼ですね。私は聖女ですよ」
ミズーナ王女の反応に怒るアルーである。アルーとメチルは元々一人で、ベジタリウス王国の聖女だったのだ。怒って当然だろう。
「それはともかくとして、あの魔法を使ったということは、呪具の浄化が行われたとみていいわね。それなら、おそらくもう魔物の追加はなくなるでしょう」
「そっか。じゃあ、思い切り魔法をぶっ放してせん滅してしまえばいいのね」
アルーの言葉を聞いて、にやりと笑うミズーナ王女である。
「だから、言葉! それとその表情もやめてちょうだい。王妃様に報告しますよ?」
「それはやめてちょうだい」
アルーが呆れたようにツッコミを入れていると、ミズーナ王女は必死にお願いしていた。
「まあ、どのみちこればかりは報告しなければいけないけどね。とっとと魔物の群れを倒してしまいましょう」
「了解よ。絶対陸地に到達なんてさせないんだからね」
両手を叩いたミズーナ王女は、再びその両手に魔力を溜め始める。
「さあ、いい子たちだから、海の藻屑となりなさい」
「前世の影響かしらね、これは……」
頭が痛くなりながらも、アルーはミズーナ王女と一緒に魔物をばっさばっさと倒していったのだった。
そして、建国祭に集まった人たちは、儀式が終わるまでまったく何も気が付かなかったのだった。
こうして、何事もなかったかのように、今年の建国祭も無事に終わることができたのだった。その陰に王女たちの苦労があった事など、誰も知る由もなかったのである。




