第442話 クルスに沈むもの
ミズーナ王女たち転生者だけが不穏な空気を感じたまま、ミール王国の建国祭が始まる。
王都シャオンでのパレードは特に問題なく終わり、港町クルスへと移動する。
ミール王国に入ってからというもの、ずっとメチルによる浄化魔法を展開している。そうでもしないと入国した時から感じる不快感を防げないからだ。
「まったく、一時的に帰った時はなんともなかったのに、どうして今はここまで酷く感じるのかしら……」
エスカが愚痴をこぼしていた。
「城の中はそうでもなかったですよ。多分、その時は城の中に直接転移したので影響がなかったのでしょう」
どうやら、城の外より中は空間の汚染がそうでもないらしい。おそらくは王族の住まう場所として守られているからだろうというのが、メチルによる分析のようだった。
魔族であり聖女であるメチルだからこそ感じ取れるのだろう。
メチルの分析もあって、何かと悶々とした状態で馬車に揺られるミズーナ王女たち。
そして、シャオンから無事にクルスへと移動が完了したのだった。
港町クルス。
そこはミール王国に存在する港町の中でも最大であり、かつてはミール王国の基礎を作った海賊たちが上陸した場所でもある。そのために建国祭のメイン会場となっているのだった。
今ではすっかりお祭り騒ぎの中心地で、建国祭の時期ともなるとものすごい数の屋台と人出で埋まる。
今回、ミズーナ王女たちがやって来た時も、それはもうものすごい人だかりだった。
王族の馬車を通すスペースを確保するのも大変なくらいだった。
どうにかこうにか押さえておいた宿までの道を確保でき、ミズーナ王女たちは宿に泊まることができたのだった。
「まったく、今年もすごい人だかりですね」
「そうなんですね。私は初めてなのでびっくりしましたよ。ただ……ちょっと気になりますね」
ベッドに身を放り出したミズーナ王女が少々愚痴気味にこぼすと、メチルが気になる反応を見せていた。
当然ながら、ミズーナ王女もエスカも気になるというものである。二人揃って視線をメチルへと向けている。
「ふ、二人揃ってなんでそんなに見てくるのですか!」
あまりに凝視されるものだから、メチルは驚き戸惑っている。
「メチルが気になることを言うのが悪いのです」
「そうよ」
「わ、私が悪いんですか?!」
両手を握って叫ぶと、ミズーナ王女もエスカも大きく頷いた。どうやらメチルが悪いということらしい。
「なにが気になるのか、詳しく話してもらわないよね」
「わ、分かりました。分かりましたから、迫ってこないで下さい」
本気でメチルが嫌がるので、二人はすっと離れて椅子に座っていた。
「では、お聞かせ願いましょうか」
ぴしっと背筋を正して、ミズーナ王女は改めてメチルに説明を求めた。
ゆっくりと、メチルは自分の感じたままに話を始める。
それによれば、どうやら海の中に呪具が沈んでいるらしいとの事だった。このクルスの街に来てから、ミール王国に漂う不穏な空気が一層強まったそうだ。
「まったく、なんでそんなところに呪具が……」
「分かりませんね。ただ先日の魔王様の話では、多くをテトロによって運び出されたとの事でしたので、その中のひとつが何らかの原因で海に沈んだのでしょう」
メチルの話す内容に、頭が痛くなるミズーナ王女である。
「また魔王なのね……。まったく、我が国が原因だと思うと頭が痛くてたまらないわ」
頭を抱えてへたり込むミズーナ王女を、エスカが一生懸命慰めていた。
「それで、その呪具というのはどこにあるか分かるのかしら」
「一応聖女ですからね、出所自体は分かります。ですが、深いところにあるらしくて、おそらくは拾い上げることはできないでしょう」
エスカの質問に答えるメチル。現状はお手上げといった感じだった。
「となると、供え物に釣られてやって来る魔物に拾い上げてもらうのが一番ですかね」
頭に手を当てながら、難しい顔をして話すミズーナ王女。
「まあそうなるでしょうね。私の魔族としての力を使えば、もしかしたらうまく事は運ぶかも」
「私を忘れてもらっちゃ困りますね」
提案するメチルにツッコミを入れるようにアルーが姿を見せる。
「アルー?!」
思わず全員が声を上げる。
「ふふん、元はメチル・コール子爵令嬢ですけれど、今は気ままな精霊アルー。そういうことなら私に任せてもらいたいものね」
「どうするつもりなの?」
メチルが頭上に視線を向けながら問い質す。
「その魔物をうまく利用するというのを、私がやってあげようというわけですよ。呪具が相手となると、メチルは浄化するために必須じゃないのよ」
「まぁその通りですね」
アルーの指摘に頷くミズーナ王女。
「何にしても、ミール王国に漂うこの不気味な魔力。しっかりと浄化してやろうじゃないの」
「あなたは浄化の魔法は持ってないじゃないのよ、エスカ」
意気込むエスカだが、しっかりとミズーナ王女からツッコミを食らっていた。
はたしてミズーナ王女たちは無事に呪具を浄化して不穏な空気を払うことができるのだろうか。
問題の建国祭のメインイベントは刻一刻と近付いていた。




