第427話 拡張版最終年、開始
年が明け、ついにミズーナ王女も学園の最上級である3年生となった。
まるっと2年も生活してくれば、サーロインの生活にもすっかり慣れてしまっていて、城の中ですれ違う兵士や使用人たちの顔は大体覚えてしまっていた。
始業式の朝は、久しぶりに王族が全員揃って食事を取っている。ちなみにエスカだけはファッティ邸に滞在中なのでいなかった。
「ふふっ、まさかアンマリアと一緒に食事をする時が来るとは思いませんでしたね」
「それはどうも」
にこやかに笑うミズーナ王女に対して、アンマリアは淡々とした態度を取っている。
本当は異世界転生者として仲良くしたいものだが、王妃教育が本格化するために緊張してしまっていたのだ。時々城に出向いて受けていた時とは違い、これからは毎日なので気合いの入り方が違うのである。
「そういえば、1年間の教育期間を経て正式に結婚という話でしたかね」
「ええ、左様でございます」
ミズーナ王女が確認するように話し掛けると、アンマリアは簡単に答えていた。
「それにしても、なんだか様子が変ですね、アンマリア」
ミズーナ王女の指摘の通り、どこかアンマリアはそわそわとして落ち着かない感じだった。何があったというのだろうか。
「何か気がかりなことでもあるのかしらね」
ミズーナ王女が続けて言うと、アンマリアは観念したように首を垂れていた。
「はあ、大ありよ。私が居ないと魔道具の生産が少し鈍っちゃうからね」
「ああ、なるほどね。ボンジール商会の話なのね」
そう、アンマリアが気にしていたのは、サキの実家との取引があるボンジール商会の事だった。ファッティ伯爵家としても、アンマリアが主体となって魔道具の提供をしているのだ。
主たる生産は魔石を加工した魔石ペンで、サーロイン王国では平民にまで行き渡るほどの普及を見せている魔道具である。
それとは別に最近一気に業績を伸ばしているのが、エスカが闇魔法を使って作っているアロマキャンドルである。これも細かい加工にはアンマリアが関わっているのだ。
「それでしたら、心配ないかと思います。ね、フィレン殿下」
話を聞いたミズーナ王女は、唐突にフィレン王子に話を振っていた。
「そうですね。アンマリアが手掛けていたものとなれば、継続させる必要があります。そのための人材の派遣でしたら、王家の力を使ってなんとかしてしまいましょう」
とんでもない事をさらっと笑顔で言いのけるフィレン王子である。その笑顔が怖いというものだった。
「殿下にそこまでして頂くのは、おそれ多いと思います」
「私としては、婚約者の不安を少しでも払拭したいのだけれどね」
アンマリアがやめて下さいみたいなことを言うと、フィレン王子もすかさず言葉を返している。
まったくこんなやり取りができるあたり、この二人はなかなかにお似合いなのではないだろうか。そう思うミズーナ王女だった。
「王女殿下、そろそろ出ませんと遅刻してしまいますよ」
食事を食べている最中だというのに、メチルがミズーナ王女を呼んでいる。どうやら喋っている間にかなり時間が経ってしまっていたようだ。
「ふぅ、仕方ありませんね。最後の1年だといいますのに、いきなり遅刻してしまったのでは話になりません。それでは、私は行ってまいりますね」
「ああ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、ミズーナ王女殿下」
フィレン王子とアンマリアに声を掛けられ、王族たちが見守る中、ミズーナ王女は学園へと登校するのだった。
ミズーナ王女とレッタス王子、リブロ王子が学園に到着すると、ちょうどタイミングよくエスカとタミールも学園に到着する。
「おはようございます、エスカ王女殿下、タミールさん」
「おはようございます、リブロ殿下、レッタス殿下、ミズーナ王女殿下」
一人を除いて王族たちが挨拶を交わす光景は、なんともいえない圧力がある。そのため、周りの学生たちはその周囲を避けながら学園の中へと入っていく。恐れ多くて近寄れないのだ。
「あと一年ですか。学園の卒業となると、婚約者の問題をどうにかしませんとね」
「そういえば、ベジタリウスの二人は決まってないんだっけか」
ミズーナ王女が腕を組んで唸り始めると、エスカが軽い調子で指摘する。
「そうですよ。まったく、こちらの面倒な方を射止めたからといって、ずいぶんと余裕面してくれますね、エスカ」
「そりゃ、勝ち組ですもの」
胸に右手を当てながら、むふーっと勝ち誇った表情をするエスカである。いちいち癪に障るものである。
「ですけれど、学園は勉強をするところですよ。ぜひとも学園でしっかり学んでいかれて、自国に活かして下さい」
それとは対照的に、リブロ王子はいたって優等生のような意見を述べていた。
「そうですね。とりあえず今年をきちんと乗り切るところから始めましょうか。特にエスカ王女、あなたの成績は危なっかしいと聞いていますのでね」
「れ、レッタス殿下。どこからその話を……」
「内緒です」
慌てるエスカに、意地悪そうに笑うレッタス王子だった。
はたして、本当に何事もなく一年を過ごすことになるのだろうか。まだ最後の一年は始まったばかりだ。




